憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

掃いて捨てる

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「それでは、皆さま。後はよろしくお願いします。」

トモエとしても、想像以上の疲労がただの一太刀で自身に返ってきたことに、戸惑いを覚えながら。
それこそ身の丈に合わぬ、制御を手放し、ただ力任せにとしたときよりも酷い反動が、体を苛んでいる。加護があろうと、武技という形で与えられようと、まだ早いというかの如き痛みがトモエを苛む。偶然に上手く動けた時、新しい動きを体得したときに感じる疲労とも違う、ただ体を過剰に使った結果として。

「流石に、無理をしましたね。」

遠間から切ったのだ。当然刀に汚れはない。だというのに、しっかりと刃毀れがある辺りなど、何とも厳しさを感じさせてくれるものだ。トモエが気に入った武器を用意したから、こちらの世界を考えればほぼ強制。そう言った流れで居を移してもらったウーヴェには、実に申し訳ない事だが、また移動の前に簡単にでもいいからと無理を頼まねばならないだろう。
あのらしい鍛冶師にしても、神の名の下に行われた大会の優勝者。それが好む武器を作ったのだと。実に多くの人間が、仕事を持ち込んでいるのだ。それを面倒と言わず、己の腕を認める者達が増えるきっかけとなったと喜んでくれていることには感謝しかない。

「おー、今のが狐のねーちゃんのか。」
「ええ、そうですよ。」

そして、実に派手な結果となり、見方の動きも僅かに止まっていたがシグルドがいつもの調子でそう話せば、ようやく動き出す。

「力技ではないようにも見えたが。」
「その辺りは物理学なのでオユキさんの方が詳しいのですが。」

瞬間に力をという制御は勿論そこに存在している。その辺りは理合いの範疇ではあるのだが。

「力をもって何をするかということもありますし、速さというのも力になるのですが。」

単純化された公式もある。日常においても、硬い皮を持つ野菜を切ろうと思ったときに、太い骨を割ろうと思うときに。実感できる場面も確かにあるだろうが、トモエはそもそもそちらは得意ではない。現実を、そこにあるものを他の形に置き換えて、何かしているとは感じるのだが、そのあまりに簡略化か抽象化かされた姿に、眩暈を覚える人種であったのだから。

「速さを力としたときに、一つの極致ではあるのです。流石に他流派ですので真似事ですが。」
「これで、真似事か。」

トモエの一太刀は森迄の間に存在する一切を綺麗に切り取った。
では、それが他の者より優れているのかと言えば、また話が違う。

「これまで求めてきた物の差、でしょうね。」

何処まで行ってもトモエが求めるのは斬るという行為。対してこちらに居る者達は武器を叩きつけ、その結果として斬れる。その差だ。トモエが切れぬものが存在すれば、このような結果にはなっていない。切ったところで意味がない類の魔物の存在も、オユキから過去聞いている。そう言った相手に対し、トモエの収めた技術は何処までも無力だ。今のか結果にしても、だいたい高さが揃っていたからの結果でしかなく、それこそ地を這うような蛇であったりが主体となっていれば。

「なんか、あっちで話聞きたそうにしてるけど。」
「流石に戦場を放置して鍛錬というのは、私もどうかと思いますから。」

トモエも勿論、アイリスから向けられる視線というのは感じている。そもそも流れが違うからと断ってもいる相手だ。その相手に対し一の太刀を何処までも突き詰める様な物を振るったのだ。それは勿論色々と言いたいこともあるだろう。トモエが流派を前に出すときにそれは出来ぬと、他を伝える真似が出来ぬと。そういった事を言外に示しはしたし、くみ取って貰えたようにも思うのだが。

「それに、私自身の技術によるものという訳でもありませんから。」
「まぁ、武技だよな。」
「はい。流石にどれほど技を極めても、あそこまで遠くは斬れませんよ。」

この戦場にしても、あまりに不足が多い。これだけの物量が用意できるなら、町を囲めば良い物を。前回遭遇したそれと変わらず、今の所は一方向から。トモエとしては甚だ疑問に思ったものだが、アベルから、そう言った知識を散々身に着けた相手からもいが無ければ隠れる事が出来ない。夜だろうが周囲の警戒があるためそもそも奇襲が成立しないと言われて納得は出来た。
だからこそ、本来の溢れが危険なのだろう。何処からともなく湧く魔物。それが町を取り囲むように一斉に。

「俺らは流石に見学かな。」
「追いつけそうにないしな。」

今となっては、まさに鎧袖一側といった有様で、実に派手な様子で一体どちらが襲撃しているのかもわからぬ状態だ。後は騎士を始めとした、この町で戦えるものに任せるとして。

「で、あんちゃん大丈夫なのか。」
「無理をしたので、痛めていますね。」

早々に刀を鞘に納めたからだろう。シグルドからそうは尋ねられる。

「町でリーアも待機しているが。」
「流石に、この程度であれば今戻るわけにもいきませんからね。一応はオユキさんの代わりでもあります。」
「それって、あっちの狐のねーちゃんじゃねーの。」
「どういえばいいのか。役割と本人と、そう言う分担という感じですね。」

後は、トモエの気分的な物が非常に大きい。
そして、そうこうしている間に、言い含められていたものたちなのだろう。トモエが薙ぎ払った一角、ぽっかりと空いたそこから、まだ生きている、少なくとも体が二つに分かれていない相手を引きずって連れ出す者達もいる。
そういった風景に改めて意識を向ければ、トモエも改めて気が付く事が有る。
前に立っていた顔、それもまとめて切り捨てた。しかし、少し意識を逸らした間に、転がっていたはずの姿が消えている。

「少し気になる事が出来ましたね。」
「なんかあったか。」
「シグルド君たちは、少し危ないですから。そうですね。」

事前に説明を受けている手振りで、トモエが人を呼ぶ。

「何かあったか。」
「アベルさんは、持ち場を離れてもいいのですか。」
「ま、こうなったらな。」
「であれば、そうですね。切り捨てた相手の姿が、確かに転がっていたはずなのですが。」

トモエが簡単に疑問を伝えれば、アベルも途端に表情を変える。

「場所は、まぁ聞くまでもないか。」
「ええ。」
「数は。」
「把握しているのは3名ですか。」

正面に立っていたのは8人ばかり。未だにそのまま転がっているのは5人。消えたのは領都の教会でも顔を見た3人。そう言った情報をアベルに伝えれば、直ぐにトモエがまだ習っていない手振りを簡単に行う。そして、それを何処から見ていたのか、直ぐにその場にイマノルを先頭に6名ほどが向かい場の安全を確保したうえで、他の者がさらにそこに向かい大量に転がる収集品も含めて検分を始める。
元凶だけでなく、それらが連れていた魔物も纏めてとしたため随分と面倒をかけている物であるらしい。

「逃がしたという事は無いと思いますが。」
「まぁ、オユキはともかくお前なら斬ったはずの相手が動けば、もう一度とするだろうしな。」
「オユキさんは、手心は加えるでしょうが、それでも容赦はありませんよ。」

何となれば、トモエよりも残酷と見る事も出来る。まず動きを奪い、改善がみられるのか。その観察を行ったうえでとするだろう。動きを奪われる相手というのが、どういう状態を意味するのか。そこで常の通りに尋ねる姿というのは、それこそ見方によればというものだ。

「お前らは、本当に。」
「って言うか、あれじゃね。オユキ雑だし、なんかその辺りは取り繕ってとか。」
「そう言う事も、まぁ、あるでしょうね。」

必殺を期したはずが見誤って。その結果内心首をかしげながら、然も思惑通りと、そう取り繕う事もまぁあるだろう。そうして作業をのんびりと見守っていると、差し向けた者達から声が上がる。何が起こったかは辛うじて遠目にも見える。消えたのだ、二つに分かれた死体が。
そして、イマノルが直ぐにそこに剣を突き立て、万が一の対処をした上で他の者が何かを拾い上げる。
それは、遠目にも実にわかりやすい。今この場にいる者達、壁の外に出る事を常とする者達にとっては、実にわかりやすいものだ。

「アベルさん。」
「すまんが、今は分からんとしか言えない。」
「つまり、初めてではあると。」
「記録は調べなければ分からない。しかし、私は聞いた覚えがない。」

拾い上げた一人以外が、周辺の警戒をより一層強くする。彼らにしても、埒外の事態という事だろう。
消えた死体。それこそそこら中にいる魔物と同じように。そして、その後から拾い上げたもの。陽光を確かに返すそれは、いよいよ何と呼ぶべきか。常の事として馴染んだ、多様な色を示す半透明の結晶。それを一人の騎士がアベルに見せる為だろう。実に目につきやすいように掲げてくれる。

「神々の定めから外れ、人にただ害をなすのであれば、成程。」
「やってることは変異種だっけ、それと変わんないしな。」
「シグルド、だが、それはあまりにも。」
「良く暮らす人を害する、それを討ち糧に変えよ、木々と狩猟の神の言葉がそうであったはずだ。」

パウの言葉に、トモエは納得ができるものだ。
この世界では、存在というものに確かな介在が存在している。そして、神々が敵だと定めた相手。人の敵でもある相手。試練として、そう考えたなら魔物よりもよほどたちが悪い相手でもある。ではそこに認めるべきものがないのかと言えば、当然そのはずもない。つまり、あまりに外れ、神の敵とそう見なされ取り返しのつかぬ者達は。魔物という奇跡を汚染し、介入しようとするほどの物たちは、用はそれと変わらぬと。

「でも、今回はあんちゃんがあのへんなのも斬ったわけだしなぁ。」
「それも関係ありそうですね。」

シグルドの呟きにも、確かにとそう思えるところがある。これまでは討ったところで意味のない相手であったはずが、醜い断末魔を上げる事をトモエはさせたのだ。ならば人に向けてではなく、そちらに向けてということもある。

「ただ、そうであるならまずは教会でしょうか。不安がないわけでもありませんが。」

この町の教会、ロザリアという存在があるここであれば、万が一も早々ないようには思うものだが。

「また、判断が難しいな。メイの嬢ちゃんにまずは、とするしかないか。」
「一応、分かりやすい加護もありますしね。」

さて、こちらにしてもいよいよ大きく動き始めるようではある。
そもそも、世界を切り離した後、独立した後。それについて神々も、そこで計画を捩じ込んだであろうミズキリも、未だに揃って言及するそぶりを見せはしない。聞いても間違いなく無駄だろうことは分かりやすい。では、それぞれが確かに願う事、神々とて願いを、欲を持っている姿を見た。結末は、この遠大な計画の目的は、何なのだろうか。トモエとしてはそれが少し気にかかる。
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