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15章 這いよるもの
ご挨拶も兼ねて
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川沿いの町までの移動は、実に仰々しいものになった。勿論、道中騎士達や始まりの町から移す戦力が十分以上にいる為、道中は大いに急ぐが目的地の直前ではしっかりと速度を落とし、オユキも馬上の人となった上で。
そして、本来であれば始まりの町に、そのまま来るはずだったマリーア伯爵に迎えられてとなる。オユキとしては、子供を預かっている相手。きちんと時間を取ってと考えはするのだが。
当然のことながら、運んできた物を安全に守るために、神域の種にしても。色々と守らねばならぬものであるし、オユキにしても、壁の外にあるそれを守れと頼んだ相手に向けて声をかけ。連れてきた者達の配置を確認してと。お互いにどうした所で仕事が立て込んでいる。今朝がた急に決まったことでもあり、移動の最中では手紙の用意も出来る訳もない。社交としての言葉を交わしてしまえば、後はそれぞれに仕事をとなる。
マリーア伯爵にしても、メイの代わりに教会までを壁で覆い、更には魔国からの客人を迎える場所の選定であったりと、際限なく仕事を抱えていることもある。急な事には、やはり対応が難しいのだ。では翌日と、そう話して別れたは良いものの、なかなか相手はせっかちでもあるらしい。
「巫女様が、戦場に立たれなくとも。」
「戦と武技の神より頂いた位です。まさに本望というものでしょう。」
では今日改めて挨拶を等と考えていたのだが、町を魔物が囲めば当然そんな事ができるはずもない。
「それにしても。」
カミトキと連れ立って、オユキとしても馬上戦の心得が無い為、不満げにする相手を宥めながらになるが、騎士たちに囲まれながらも改めて敵を眺めてみれば。そこには、何とも言えない顔というのも存在している。領都でトモエにすげなくあしらわれた相手。彼我の力量差、ただ与えられることを当然として、それ以上を積み重ねなかった、胡坐をかいていた者達の顔が。それ以降、その研鑽を感じさせる身のこなしも無いというのに、やけに自信があるとそういった風情でオユキに目を向けている。
「他の力を頼むことを、私とて良しとはしますが。」
だが、それはあくまで力を頼んでいる。その前提があればこそだ。
「失礼しました。ご挨拶が遅れましたが、ご子息を預からせて頂きながら、ご挨拶が遅れ。」
「何、もとより公爵家に預けると決めていたこともあります。」
「そこから先、見も知らぬ相手となれば不安もあるでしょう。」
「正直に申し上げれば、私たちで持て余していたこともあり。」
分家としての伯爵家。その二人にしても見るからに文官とわかる相手だ。そこに現れたファルコ、騎士、戦う事を望む相手というのは持て余していたらしい。
それもあって、どことなく浮ついていたのだろう。立場も、本人も。現状、己の目的を果たすために必要だと、何処まで行っても事務は付いて回ると否でも理解して、それを任せる相手が出来たこともあり、ようやく色々と落ち着き腰を据えて向き合っているものだ。今にしても、ローレンツを副官に、どうにかあれこれと差配を行っている。それにしても経験が足りず、前例通りが基本であるため、オユキが自分の前を空けるようにと、それこそ異例となる配置を頼んだため、実に見事な混乱ぶりである。オユキや、それこそアベルやローレンツにしても。自分の場となるところを決め、それ以外は早々に切り分けてそれぞれに任せるのだが。そう言った融通はやはりまだまだ効くような物では無い。
「先が楽しみな子ですよ。統治者として、その資質にはリヒャルト様程恵まれる事は無さそうですが。」
「新しい枠組みがあればこそ、ですか。」
「距離が近い事を望む子でもあるようですから。」
上に立つものは、何処まで行っても孤独が生まれる。メイにしても、それに直面して彼女の父に甘えるそぶりを見せた事。周囲の長い付き合いがある相手、マリーア公爵、伯爵、そのどちらも持っているだろう相手がいない者達は、何処まで行っても決断は個として行わなければならない。そう言った相手にとっては、オユキがそうであったように。己の持つものと、必要とされるものその差で大いに苦しみを得る事になる。助けを求められる相手が存在すれば、他の場所でそれ以外が得られるのなら、それでもといえるだろう。
「さて、てっきり私がとも考えていましたが。」
そして、こうして改めてオユキが己の良しと出来ない物、それに対して向き合う場を得られたのであれば、それに対して口火を切るものだと考えていたのだが。それが叶わないとしても、伯爵その人がいるのだから、そちらになると思っていた。しかし、この場では、ファルコが檄を飛ばすらしい。
「私たちが手を引き、あの子たちが支え。ええ、手のかかると言えばそうでしょうが、そうしてくれるだけの素地があり、そして随分とあの子も成長していますとも。」
後から来るもの、その歩みを見るのは楽しい。それは何処までも老境にあるものの、楽しみだ。それで易々抜かれはしまいと、そう言った矜持と過去としての重さを見せはするが。そこにある、既にオユキには無い勢いと評するしかない物、激流の如く他を飲み込もうとするその熱は、失って久しい。
「運のいい子なのでしょう。我らの下に、それが不運であったのでしょう。」
「どうでしょうか。その立場なくば、結局は今の出会いは無かったものでしょうから。」
父兄参観、実にそういった様子で眺めていれば。
「やはり、何かが違う気がするのだ。」
口上を述べるにあたり、覚えられぬのなら仕方あるまい。ファルコがメイから預かった言葉もあるだろう。そう言った物が書かれていたはずの紙を、そう言いながらファルコはとりあえずとばかりに破り捨て、ただそれをそこらに投げず側に立つマリーア伯爵家で勤める騎士に渡す。
「神々の定めた戦があると、確かに聞いた。しかし、本当にこれはそうなのだろうか。」
ファルコの言葉に、メイの振る舞いを疑うかの様な、メイに預けられた言葉を打ち捨てるかのような所業に動こうとした相手を、オユキが仕草で止める。この少年にしても、何かを受けて思う事が有るらしいからと。
「確かに、眼前には烙印を持つ者達がいる。それがこうして人々の脅威となる物を従えている。私にしても、目にしたことも無ければ、耳にしたこともない。まさに未曽有の事態なのだろう。」
ファルコ、彼の資質として最も大きいものを上げるとすれば。トモエに懐いている少年たちと同じように、今回の出来事に対して全く緊張を見せなかった事であろう。寧ろ、周囲の狼狽を、何故そこまでとばかりに眺めている視線が印象を残すほどに。
「だが、どうなのだろうか。溢れは恐ろしい。魔物が、戦う術を持たぬ相手であれば、問答無用の存在がこうしてそこから離れた場所を取り囲む。その様子は実に恐ろしい。」
オユキとしては、こうして長々と喋っている間に、とりあえず魔物をけしかける事くらいはすれば良いと。相手の行動に対して、しっかりと減点をした上でファルコの言葉。口の端に乗せるものと待とう雰囲気と、まったく一致しないそれに耳を傾ける。
「だが、それが何だというのだ。それはこれまで何度も繰り返され、確かに失敗もあった。失われた物もあった。しかし、そのどれにしても、この場とは全く異なる場所に置いてだ。私は終ぞ王都で、父の領地で、魔物の溢れが脅威などと聞いた覚えもない。寧ろそこで得られた資源、そのやりくりについて頭を悩ませる姿を見るばかり。」
そういった場所にしても、動員された戦力。騎士ほどではない者達がいただろう。立場があり、それが耳に届かなかっただけだろうと、そう言った想像が及んでいない事は、後程それぞれから言われもするだろう。
「つまり常の事だ。魔物以外にしても、取るに足らぬと私でも一目でわかる程度だ。では常の事、常々神に感謝を、それは私も理解している。しかし、これをその名の下の戦いなどと言われたところで。」
ファルコが、挑発するつもりもなく。ただ目の前に立つそれらを見て、特別とするには不足だと断ずる。
オユキの思い付きで巻き起こった狩猟祭、それにしても中型種がちらほらとその影を見せたのだ。変異種もいる、王種もいる。戦力はその時と比べてむしろ上とは言え。
「まぁ、それが私が色々な相手に手伝いを願った物を捨てた理由だ。どうにも、手を借りてみたのは良いものの、そのような物では無かったと。改めてこうして思うのだ。そして、だからこそ。」
ファルコにしてみれば、王都で乱獲という前段階があったにせよ。初めての事に意気込み、彼なりに用意をしてきたという事だ。しかし現実はそれ以下であったと。
「ここ暫くの流れ、それを見てきた。過去を生きた者達が惜しみなく与えるそれを、受け取った。」
他の騎士達は未だに武器を鞘に納めたまま。習い性としてオユキだけがすっかり鞘から武器を抜いている場で、ファルコが己の武器を鞘から抜き放つ。
「私は未だ何者でもない。家督も継いではいない。騎士を目指して居ただけ。そんな未だ何もなしていない人間だ。だからこそ、既にそれを持っている者達に、恥ずかしげもなく問いかけよう。」
オユキは、周りにいる異邦人たちは尽くが己を過去だと、既に終わったとそう語る。しかし、どうだろう。今を生きる者達として、本当に終わった者たちなのかと。過去、一線を退くとしたときに、その議論が巻き起こったように。
「私が憧れた者達は、目指す先だとそう信じた者達は、与えるだけだと、本当にそう思われるべき存在なのだろうか。」
今ある者達、先を進み道を作り、では後に残そうとした者達は。本当にそこで終わりとそうなってもいいのかと。
「誓いは過去なのか。輝きは失せたのか。」
まだ何者でもないと、後が決まっている者が言うべきかと問われれば、大いに資質を問われるかもしれない言葉を当然と放ち。だからこそ、改めて己の周囲に問いかける。
「未だに私はやはり何者でもなく、それを押し付けるものだ。だからこそ、どうか違うというのなら示してほしい。先の出来事のように。やはり、騎士が先に示し、民がそれを讃えるのだと。」
咲く花を美しいと讃えるのが、彼の求めた姿なのだと。美しく咲くように手を入れて、それを愛でるだけであってほしくはないと。
「今一度、示そう。示してほしい。我らは、少なくとも我らは場を整える、それだけの物であるのだと。」
そして、その場が目の前にあると、ファルコが示す。これは先に有ったそれと変わる事など何もないのだと。討つべき存在が目の前に。そして、それを存分に示した後に、そこで見せた輝きこそ称えられるべき華であれと。
そして、本来であれば始まりの町に、そのまま来るはずだったマリーア伯爵に迎えられてとなる。オユキとしては、子供を預かっている相手。きちんと時間を取ってと考えはするのだが。
当然のことながら、運んできた物を安全に守るために、神域の種にしても。色々と守らねばならぬものであるし、オユキにしても、壁の外にあるそれを守れと頼んだ相手に向けて声をかけ。連れてきた者達の配置を確認してと。お互いにどうした所で仕事が立て込んでいる。今朝がた急に決まったことでもあり、移動の最中では手紙の用意も出来る訳もない。社交としての言葉を交わしてしまえば、後はそれぞれに仕事をとなる。
マリーア伯爵にしても、メイの代わりに教会までを壁で覆い、更には魔国からの客人を迎える場所の選定であったりと、際限なく仕事を抱えていることもある。急な事には、やはり対応が難しいのだ。では翌日と、そう話して別れたは良いものの、なかなか相手はせっかちでもあるらしい。
「巫女様が、戦場に立たれなくとも。」
「戦と武技の神より頂いた位です。まさに本望というものでしょう。」
では今日改めて挨拶を等と考えていたのだが、町を魔物が囲めば当然そんな事ができるはずもない。
「それにしても。」
カミトキと連れ立って、オユキとしても馬上戦の心得が無い為、不満げにする相手を宥めながらになるが、騎士たちに囲まれながらも改めて敵を眺めてみれば。そこには、何とも言えない顔というのも存在している。領都でトモエにすげなくあしらわれた相手。彼我の力量差、ただ与えられることを当然として、それ以上を積み重ねなかった、胡坐をかいていた者達の顔が。それ以降、その研鑽を感じさせる身のこなしも無いというのに、やけに自信があるとそういった風情でオユキに目を向けている。
「他の力を頼むことを、私とて良しとはしますが。」
だが、それはあくまで力を頼んでいる。その前提があればこそだ。
「失礼しました。ご挨拶が遅れましたが、ご子息を預からせて頂きながら、ご挨拶が遅れ。」
「何、もとより公爵家に預けると決めていたこともあります。」
「そこから先、見も知らぬ相手となれば不安もあるでしょう。」
「正直に申し上げれば、私たちで持て余していたこともあり。」
分家としての伯爵家。その二人にしても見るからに文官とわかる相手だ。そこに現れたファルコ、騎士、戦う事を望む相手というのは持て余していたらしい。
それもあって、どことなく浮ついていたのだろう。立場も、本人も。現状、己の目的を果たすために必要だと、何処まで行っても事務は付いて回ると否でも理解して、それを任せる相手が出来たこともあり、ようやく色々と落ち着き腰を据えて向き合っているものだ。今にしても、ローレンツを副官に、どうにかあれこれと差配を行っている。それにしても経験が足りず、前例通りが基本であるため、オユキが自分の前を空けるようにと、それこそ異例となる配置を頼んだため、実に見事な混乱ぶりである。オユキや、それこそアベルやローレンツにしても。自分の場となるところを決め、それ以外は早々に切り分けてそれぞれに任せるのだが。そう言った融通はやはりまだまだ効くような物では無い。
「先が楽しみな子ですよ。統治者として、その資質にはリヒャルト様程恵まれる事は無さそうですが。」
「新しい枠組みがあればこそ、ですか。」
「距離が近い事を望む子でもあるようですから。」
上に立つものは、何処まで行っても孤独が生まれる。メイにしても、それに直面して彼女の父に甘えるそぶりを見せた事。周囲の長い付き合いがある相手、マリーア公爵、伯爵、そのどちらも持っているだろう相手がいない者達は、何処まで行っても決断は個として行わなければならない。そう言った相手にとっては、オユキがそうであったように。己の持つものと、必要とされるものその差で大いに苦しみを得る事になる。助けを求められる相手が存在すれば、他の場所でそれ以外が得られるのなら、それでもといえるだろう。
「さて、てっきり私がとも考えていましたが。」
そして、こうして改めてオユキが己の良しと出来ない物、それに対して向き合う場を得られたのであれば、それに対して口火を切るものだと考えていたのだが。それが叶わないとしても、伯爵その人がいるのだから、そちらになると思っていた。しかし、この場では、ファルコが檄を飛ばすらしい。
「私たちが手を引き、あの子たちが支え。ええ、手のかかると言えばそうでしょうが、そうしてくれるだけの素地があり、そして随分とあの子も成長していますとも。」
後から来るもの、その歩みを見るのは楽しい。それは何処までも老境にあるものの、楽しみだ。それで易々抜かれはしまいと、そう言った矜持と過去としての重さを見せはするが。そこにある、既にオユキには無い勢いと評するしかない物、激流の如く他を飲み込もうとするその熱は、失って久しい。
「運のいい子なのでしょう。我らの下に、それが不運であったのでしょう。」
「どうでしょうか。その立場なくば、結局は今の出会いは無かったものでしょうから。」
父兄参観、実にそういった様子で眺めていれば。
「やはり、何かが違う気がするのだ。」
口上を述べるにあたり、覚えられぬのなら仕方あるまい。ファルコがメイから預かった言葉もあるだろう。そう言った物が書かれていたはずの紙を、そう言いながらファルコはとりあえずとばかりに破り捨て、ただそれをそこらに投げず側に立つマリーア伯爵家で勤める騎士に渡す。
「神々の定めた戦があると、確かに聞いた。しかし、本当にこれはそうなのだろうか。」
ファルコの言葉に、メイの振る舞いを疑うかの様な、メイに預けられた言葉を打ち捨てるかのような所業に動こうとした相手を、オユキが仕草で止める。この少年にしても、何かを受けて思う事が有るらしいからと。
「確かに、眼前には烙印を持つ者達がいる。それがこうして人々の脅威となる物を従えている。私にしても、目にしたことも無ければ、耳にしたこともない。まさに未曽有の事態なのだろう。」
ファルコ、彼の資質として最も大きいものを上げるとすれば。トモエに懐いている少年たちと同じように、今回の出来事に対して全く緊張を見せなかった事であろう。寧ろ、周囲の狼狽を、何故そこまでとばかりに眺めている視線が印象を残すほどに。
「だが、どうなのだろうか。溢れは恐ろしい。魔物が、戦う術を持たぬ相手であれば、問答無用の存在がこうしてそこから離れた場所を取り囲む。その様子は実に恐ろしい。」
オユキとしては、こうして長々と喋っている間に、とりあえず魔物をけしかける事くらいはすれば良いと。相手の行動に対して、しっかりと減点をした上でファルコの言葉。口の端に乗せるものと待とう雰囲気と、まったく一致しないそれに耳を傾ける。
「だが、それが何だというのだ。それはこれまで何度も繰り返され、確かに失敗もあった。失われた物もあった。しかし、そのどれにしても、この場とは全く異なる場所に置いてだ。私は終ぞ王都で、父の領地で、魔物の溢れが脅威などと聞いた覚えもない。寧ろそこで得られた資源、そのやりくりについて頭を悩ませる姿を見るばかり。」
そういった場所にしても、動員された戦力。騎士ほどではない者達がいただろう。立場があり、それが耳に届かなかっただけだろうと、そう言った想像が及んでいない事は、後程それぞれから言われもするだろう。
「つまり常の事だ。魔物以外にしても、取るに足らぬと私でも一目でわかる程度だ。では常の事、常々神に感謝を、それは私も理解している。しかし、これをその名の下の戦いなどと言われたところで。」
ファルコが、挑発するつもりもなく。ただ目の前に立つそれらを見て、特別とするには不足だと断ずる。
オユキの思い付きで巻き起こった狩猟祭、それにしても中型種がちらほらとその影を見せたのだ。変異種もいる、王種もいる。戦力はその時と比べてむしろ上とは言え。
「まぁ、それが私が色々な相手に手伝いを願った物を捨てた理由だ。どうにも、手を借りてみたのは良いものの、そのような物では無かったと。改めてこうして思うのだ。そして、だからこそ。」
ファルコにしてみれば、王都で乱獲という前段階があったにせよ。初めての事に意気込み、彼なりに用意をしてきたという事だ。しかし現実はそれ以下であったと。
「ここ暫くの流れ、それを見てきた。過去を生きた者達が惜しみなく与えるそれを、受け取った。」
他の騎士達は未だに武器を鞘に納めたまま。習い性としてオユキだけがすっかり鞘から武器を抜いている場で、ファルコが己の武器を鞘から抜き放つ。
「私は未だ何者でもない。家督も継いではいない。騎士を目指して居ただけ。そんな未だ何もなしていない人間だ。だからこそ、既にそれを持っている者達に、恥ずかしげもなく問いかけよう。」
オユキは、周りにいる異邦人たちは尽くが己を過去だと、既に終わったとそう語る。しかし、どうだろう。今を生きる者達として、本当に終わった者たちなのかと。過去、一線を退くとしたときに、その議論が巻き起こったように。
「私が憧れた者達は、目指す先だとそう信じた者達は、与えるだけだと、本当にそう思われるべき存在なのだろうか。」
今ある者達、先を進み道を作り、では後に残そうとした者達は。本当にそこで終わりとそうなってもいいのかと。
「誓いは過去なのか。輝きは失せたのか。」
まだ何者でもないと、後が決まっている者が言うべきかと問われれば、大いに資質を問われるかもしれない言葉を当然と放ち。だからこそ、改めて己の周囲に問いかける。
「未だに私はやはり何者でもなく、それを押し付けるものだ。だからこそ、どうか違うというのなら示してほしい。先の出来事のように。やはり、騎士が先に示し、民がそれを讃えるのだと。」
咲く花を美しいと讃えるのが、彼の求めた姿なのだと。美しく咲くように手を入れて、それを愛でるだけであってほしくはないと。
「今一度、示そう。示してほしい。我らは、少なくとも我らは場を整える、それだけの物であるのだと。」
そして、その場が目の前にあると、ファルコが示す。これは先に有ったそれと変わる事など何もないのだと。討つべき存在が目の前に。そして、それを存分に示した後に、そこで見せた輝きこそ称えられるべき華であれと。
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