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15章 這いよるもの
戦ではない
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オユキを送り出し、残ったトモエがなにをするのかというと常と変わる事など無い。これがオユキであれば、神事扱いにもなるため、身を整えてなどということもあるが、トモエはそうではない。
ただ常と変わらぬままに過ごし、そして、町の正面に群れるもはやひと塊とそうとも見える魔物に対峙する。
成程、こうして目にするまでトモエは全く気にも留めていなかったが、人が操る術があるというのは事実であるらしい。以前に領都で見た顔が、ちらほらと。前に出ているのは、それこそ祭りの場で襲い掛かってきた顔だが、その奥には別の顔があるのかもしれない。その誰もが、実にわかりやすい。彼の神に敵だと、そう示された印が押されている。体全体が薄く赤い光を帯び、衣服を着ているのにその上にはっきりと、烙印が。彼の神の意匠として聞いた物では無く、初めて見る物ではあるが、この印があるものが敵だと実にはっきりと分る。
「不思議な物ですね。」
何やら他では緊張感なども湛えているものだが。
「あんちゃんは、やっぱいつも通りなのな。」
「ええ。戦いにあっては、常のように。それが一番大事です。いつも言っているでしょう。」
「訓練の方が大変だからって事か。」
「だが、現実の方が過酷な場合は。」
「その時は逃げの一手ですね。」
トモエはメイを背後に、お馴染みの顔と共に。
あまりにも普段通りのその有り様に、周囲からは何処か気の抜けた様な、そんな視線を感じるものであるし、メイの方からも彼女は創造神から与えられた役目でもあるため、もう少しどうにかと、そういった視線も寄せられている。
「というか、お前らも嬢ちゃんから聞いたんじゃないのか。」
「あー、あれか。まぁ、聞いたけどさ。」
持祭の少女たちは、どちらの役割を選ぶのかと問われ、今朝まで悩んでいたらしいが。少年たちが待つ者達の分までと言い切れば、見送ることに決めたらしい。人為的な物であれ、今から起こるのは魔物の溢れ。壁の中には、魔物と戦う事が出来ぬものなどいくらでもいる。その者達の暮らす場を守るため、最悪己の体を立てにして。そうであるからこそ、町の中の者達が安息を、癒しを与えなければならない。そちらもまた、大切な戦場だ。どちらにしろ、大きな失敗が、小さな逡巡が、結果を変える。
「あんちゃんもオユキも、俺が一回でも勝てば、絶対にこっちに残るだろ。」
「ああ。勝たなくても、一太刀当てるだけでも残るだろうな。」
そして、少年たちの方は実にわかりやすい。
そもそも、子供というのは身の回りの大人の振る舞いというのを、何処までもよく見ている。下手をすれば、その年ごろの子供たちにとってはそれが世界の大半なのだ。千差万別、違う集団だと、そう簡単に飲み込む者達とは違い、だからこそ映す鏡のように。
「お前らは、大物になるな。」
そんなあまりにもいつもと変わらない少年たちに、話を始めたアベルが実にまぶしそうに。
「俺の見る目なんてのも、大したもんじゃなかったのかもな。」
「ま、手を引いてくれてるのがおっさんから見ても、すごいんだろ。ならそのおかげだ。」
「ああ。二人とも、別にそうしたいわけでは無いというのはわかるからな。」
「間に合うのか。」
「間に合わせるさ。あんちゃん、アンに楽しみだって言ったんだろ。」
少年達の間でも、実に良く話し合っているらしい。折に触れて、教会でも。それこそオユキが無造作に語った神の様子であったり、トモエの求める武の道、こちらで言えば戦と武技の神、それが示す道であったり。
なかなか時間が取れはしないが、トモエとオユキにしても、出来る時には教会に訪れたと、子供たちに乞われるままに、話して聞かせるくらいはするのだ。その折には、勿論日々の収穫を携えてとなるが。
「たくさん貰ったからな。返せるものは返すさ。俺でも分かる神様の教えって、それだしな。」
「そうか、そうだな。イマノルの時にも思ったが、シグルド、お前は本当に。」
シグルドという少年は、何処までもまっすぐだ。始まりにしても、ただそうしてがむしゃらに。結果としてぶつかって。しかしそれを砕くだけの力があれば、超えるだけの力があればというものだ。
そして、それをまっすぐに望むことができる少年がいれば、それのできない大人、これまでがあるものがいる。少年たちが望む舞台は、簡単だ。年に一度、その場になる。しかしアベルは加護があることが当然となっている。それを抑える指輪は既に持っているが、オユキと変わらずそれに避ける時間が何処までも少ない。だから、こうして話をされてもそれに一図に向かえる相手をただまぶしそうに見るだけだ。
「メイ様に対して、何か言い返すかとも思いましたが。」
相手にしても、一応は言葉が通じるだろう、少なくとも言語の理解ができる相手が表に出ているのだ、それに対して何かを言い返すのかと思いきや、ただ言われるがままだ。だとすれば、何か策があるのかとも思えば、周囲へ向けている警戒にかかるものもない。
ただ、話をただ聞いている相手、それに示された敵と示す輝き、それに重なるように別の物が混ざる。教会ではロザリアと一人の助祭とであれば問題なく会話が成立する少女。申し訳ない事に、アベルが引き取るのだと、処遇が一度決まってしまったため、これから非常に苛酷な旅に同行することが本人に知らされずに決まってしまった相手。それが他から姿を隠すためにと覆っていた、ただただ不快感を感じる独特な色がにじむ。
「そういや、領都の時もあんな感じだったな。」
「おや、シグルド君も見えますか。」
「後で聞くからな。頼むから、そういった事は報告してくれ。」
「いや、他の人が見えてないみたいだし、なら見間違えかもしれねーし。」
シグルドの言葉に、アベルが実に味わい深い顔で頭を抱える。
少年たちにしてみれば、自分達よりも優れた、そう認識する相手が多いのだ。トモエたちと行動するようになってから。では、そう言った相手が何もないと、当然のようにしているのなら、気が付いている、何でも無い事だと、そう認識するというものだ。
「あれだな、見落とし、切り捨ててきたもの。俺は今更になってそれに気が付かされるよ。」
魔物を相手に、これまでには起こり得なかった人が、少なくとも同じ形を持つものが、敵を従えて対峙する。この状況に常ならざる緊張をしているものは実に多い。こうして暢気にいつもの顔が揃って話しても、それが耳に届いてもいない。此処にアイリスがいれば混ざっているのだろうが、残念ながらオユキがいないため、今はメイの隣で神敵に向けての振る舞いをしなければならない。
彼女にしても、先の席で己の祖霊の場を整えているときに、しっかりと言い含められているのだから。
「そういや、あんちゃん、なんでこの位置なんだ。」
「私としても、思うところはありますから。」
メイとアイリスは馬の上。周囲よりも一段高い所にいる。そして、その正面にアベルとトモエたちが立っている。だからこそ、かつての顔と向かい合っていると、それも良く見えるのだ。
「領都から、此処迄。オユキさんは己の両親がと言いますが、そもそも筋違いな思想を持った相手です。」
トモエとオユキは何処まで行っても違う人間である。
互いに思いやる事は忘れない。互いの大事を、大切にする。だが、今目の前にいる者達は、オユキを徒に傷つけるだけの相手だ。では、そう言った相手にトモエがなにを行うか。そんな事は決まっている。
「オユキさんには、内緒ですよ。」
メイが、結局何も言わず、ただ黙して今か今かと待つ相手に向けて言葉を終える。それで引き返すことも無ければ、庇護を求める事もない。アイリスが、祖霊の父の力で敵と定められた相手に最後通牒を与える。
その直後に、ようやくトモエは敵の姿を捉える。悪意を煮詰めた相手だと聞いていた。姿形があるなどと想像もしていなかった。今、目の前に立つ者達の背後、人と魔物の間に、その姿がかすかに見える。どうしようもなくオユキを煩わせる相手が。決断の時まで、神がその存在を保証している存在が。さっさと切り捨ててしまえば、今後の道行きにしても、オユキの内に降る物を減らせるというのに。
「俺らは、いいのか。」
「ええ。いよいよこちらで考えている物ですから。」
カナリアの下で、己の属性というものを調べたときに。トモエの中ではその時には要領を得なかった。しかし考える時間など、町から町の間でいくらでもあった。そうしてみれば、腑に落ちる物があった。
トモエ自身、己は何処まで行っても一振りの太刀、武でしかないととらえている。マナ、魔術、憧れはするが遠いものだろうと、そう考えている。では、己の属性とやらが示すものは何か。
「別の流派の話になりますが、雷を切ったという逸話があります。そして雲耀の如くといった話も。」
アイリスに見せるには、実に良い物だろう。
どうした所で、オユキがいる場では、トモエは皆伝としての振る舞いを優先しなければならない。それが、トモエとオユキだから。では、そうでないときは、トモエは他も存分に行えるというものだ。他流派の研究等当然している。交流試合もあり、そこで実に多くの他の流れに触れている。
神の良き信徒、この世界を作った相手に、返せるものを返すのだと。そこで生きる事を良しとし、あまつさえあらゆる苦難から守る奇跡を与えてくれた者達への感謝と共に、刃を振り下ろすのだと宣言した後に。それを与えられた印を掲げて終えた者達が踵を返す。それに対する返答は、獣の如き方向でしかない。
「既に言葉も、他者と手を取るための、不足が多いからこそ思いやるための手段すら捨てましたか。」
森を背に、魔物が蠢く。既に常と異なり、安息の加護を食い破ろうと。ただ己と同じとなれと、足を引き沼に沈める為だけにある醜悪な存在が動き出す。ならば、暴ではない武とは。別れた先でも語られるそれがある。全てを切り捨てる為ではなく、守るべきものを守り、切り捨てるべきものを切り捨てる。確かに、一太刀は身を守るだろう。己の背後にある多くの。
「閃光の如き稲妻ですら切り裂くのだと。」
出来る事を、疑う必要すらない。この世界における、神々の奇跡。人の枠を超える力の振るい方の仕組み、それは既に散々話したのだ。トモエの前には、ただ見渡す限りに敵がいる。それらの動き出しに合わせて、ただトモエが叶えられる最速をもって。森に迄は届かないよう。切るべき物だけを切るように。
誰よりも、何よりも早い一太刀が、トモエの見える範囲の敵、その一切を切り捨てる。
「悲鳴にしても、醜悪ですね。」
流石に己が全てを、それはトモエも行ってはいけないと分かっているからこそ。未だ両翼に敵は残っている。眼前、姿を消し、これまでと同じように何かを残す魔物たち。その背後に数人生きたままの相手はいる。後は、魔物を狩るついでに、誰かがそれらを捉えて来るだろう。
ただ常と変わらぬままに過ごし、そして、町の正面に群れるもはやひと塊とそうとも見える魔物に対峙する。
成程、こうして目にするまでトモエは全く気にも留めていなかったが、人が操る術があるというのは事実であるらしい。以前に領都で見た顔が、ちらほらと。前に出ているのは、それこそ祭りの場で襲い掛かってきた顔だが、その奥には別の顔があるのかもしれない。その誰もが、実にわかりやすい。彼の神に敵だと、そう示された印が押されている。体全体が薄く赤い光を帯び、衣服を着ているのにその上にはっきりと、烙印が。彼の神の意匠として聞いた物では無く、初めて見る物ではあるが、この印があるものが敵だと実にはっきりと分る。
「不思議な物ですね。」
何やら他では緊張感なども湛えているものだが。
「あんちゃんは、やっぱいつも通りなのな。」
「ええ。戦いにあっては、常のように。それが一番大事です。いつも言っているでしょう。」
「訓練の方が大変だからって事か。」
「だが、現実の方が過酷な場合は。」
「その時は逃げの一手ですね。」
トモエはメイを背後に、お馴染みの顔と共に。
あまりにも普段通りのその有り様に、周囲からは何処か気の抜けた様な、そんな視線を感じるものであるし、メイの方からも彼女は創造神から与えられた役目でもあるため、もう少しどうにかと、そういった視線も寄せられている。
「というか、お前らも嬢ちゃんから聞いたんじゃないのか。」
「あー、あれか。まぁ、聞いたけどさ。」
持祭の少女たちは、どちらの役割を選ぶのかと問われ、今朝まで悩んでいたらしいが。少年たちが待つ者達の分までと言い切れば、見送ることに決めたらしい。人為的な物であれ、今から起こるのは魔物の溢れ。壁の中には、魔物と戦う事が出来ぬものなどいくらでもいる。その者達の暮らす場を守るため、最悪己の体を立てにして。そうであるからこそ、町の中の者達が安息を、癒しを与えなければならない。そちらもまた、大切な戦場だ。どちらにしろ、大きな失敗が、小さな逡巡が、結果を変える。
「あんちゃんもオユキも、俺が一回でも勝てば、絶対にこっちに残るだろ。」
「ああ。勝たなくても、一太刀当てるだけでも残るだろうな。」
そして、少年たちの方は実にわかりやすい。
そもそも、子供というのは身の回りの大人の振る舞いというのを、何処までもよく見ている。下手をすれば、その年ごろの子供たちにとってはそれが世界の大半なのだ。千差万別、違う集団だと、そう簡単に飲み込む者達とは違い、だからこそ映す鏡のように。
「お前らは、大物になるな。」
そんなあまりにもいつもと変わらない少年たちに、話を始めたアベルが実にまぶしそうに。
「俺の見る目なんてのも、大したもんじゃなかったのかもな。」
「ま、手を引いてくれてるのがおっさんから見ても、すごいんだろ。ならそのおかげだ。」
「ああ。二人とも、別にそうしたいわけでは無いというのはわかるからな。」
「間に合うのか。」
「間に合わせるさ。あんちゃん、アンに楽しみだって言ったんだろ。」
少年達の間でも、実に良く話し合っているらしい。折に触れて、教会でも。それこそオユキが無造作に語った神の様子であったり、トモエの求める武の道、こちらで言えば戦と武技の神、それが示す道であったり。
なかなか時間が取れはしないが、トモエとオユキにしても、出来る時には教会に訪れたと、子供たちに乞われるままに、話して聞かせるくらいはするのだ。その折には、勿論日々の収穫を携えてとなるが。
「たくさん貰ったからな。返せるものは返すさ。俺でも分かる神様の教えって、それだしな。」
「そうか、そうだな。イマノルの時にも思ったが、シグルド、お前は本当に。」
シグルドという少年は、何処までもまっすぐだ。始まりにしても、ただそうしてがむしゃらに。結果としてぶつかって。しかしそれを砕くだけの力があれば、超えるだけの力があればというものだ。
そして、それをまっすぐに望むことができる少年がいれば、それのできない大人、これまでがあるものがいる。少年たちが望む舞台は、簡単だ。年に一度、その場になる。しかしアベルは加護があることが当然となっている。それを抑える指輪は既に持っているが、オユキと変わらずそれに避ける時間が何処までも少ない。だから、こうして話をされてもそれに一図に向かえる相手をただまぶしそうに見るだけだ。
「メイ様に対して、何か言い返すかとも思いましたが。」
相手にしても、一応は言葉が通じるだろう、少なくとも言語の理解ができる相手が表に出ているのだ、それに対して何かを言い返すのかと思いきや、ただ言われるがままだ。だとすれば、何か策があるのかとも思えば、周囲へ向けている警戒にかかるものもない。
ただ、話をただ聞いている相手、それに示された敵と示す輝き、それに重なるように別の物が混ざる。教会ではロザリアと一人の助祭とであれば問題なく会話が成立する少女。申し訳ない事に、アベルが引き取るのだと、処遇が一度決まってしまったため、これから非常に苛酷な旅に同行することが本人に知らされずに決まってしまった相手。それが他から姿を隠すためにと覆っていた、ただただ不快感を感じる独特な色がにじむ。
「そういや、領都の時もあんな感じだったな。」
「おや、シグルド君も見えますか。」
「後で聞くからな。頼むから、そういった事は報告してくれ。」
「いや、他の人が見えてないみたいだし、なら見間違えかもしれねーし。」
シグルドの言葉に、アベルが実に味わい深い顔で頭を抱える。
少年たちにしてみれば、自分達よりも優れた、そう認識する相手が多いのだ。トモエたちと行動するようになってから。では、そう言った相手が何もないと、当然のようにしているのなら、気が付いている、何でも無い事だと、そう認識するというものだ。
「あれだな、見落とし、切り捨ててきたもの。俺は今更になってそれに気が付かされるよ。」
魔物を相手に、これまでには起こり得なかった人が、少なくとも同じ形を持つものが、敵を従えて対峙する。この状況に常ならざる緊張をしているものは実に多い。こうして暢気にいつもの顔が揃って話しても、それが耳に届いてもいない。此処にアイリスがいれば混ざっているのだろうが、残念ながらオユキがいないため、今はメイの隣で神敵に向けての振る舞いをしなければならない。
彼女にしても、先の席で己の祖霊の場を整えているときに、しっかりと言い含められているのだから。
「そういや、あんちゃん、なんでこの位置なんだ。」
「私としても、思うところはありますから。」
メイとアイリスは馬の上。周囲よりも一段高い所にいる。そして、その正面にアベルとトモエたちが立っている。だからこそ、かつての顔と向かい合っていると、それも良く見えるのだ。
「領都から、此処迄。オユキさんは己の両親がと言いますが、そもそも筋違いな思想を持った相手です。」
トモエとオユキは何処まで行っても違う人間である。
互いに思いやる事は忘れない。互いの大事を、大切にする。だが、今目の前にいる者達は、オユキを徒に傷つけるだけの相手だ。では、そう言った相手にトモエがなにを行うか。そんな事は決まっている。
「オユキさんには、内緒ですよ。」
メイが、結局何も言わず、ただ黙して今か今かと待つ相手に向けて言葉を終える。それで引き返すことも無ければ、庇護を求める事もない。アイリスが、祖霊の父の力で敵と定められた相手に最後通牒を与える。
その直後に、ようやくトモエは敵の姿を捉える。悪意を煮詰めた相手だと聞いていた。姿形があるなどと想像もしていなかった。今、目の前に立つ者達の背後、人と魔物の間に、その姿がかすかに見える。どうしようもなくオユキを煩わせる相手が。決断の時まで、神がその存在を保証している存在が。さっさと切り捨ててしまえば、今後の道行きにしても、オユキの内に降る物を減らせるというのに。
「俺らは、いいのか。」
「ええ。いよいよこちらで考えている物ですから。」
カナリアの下で、己の属性というものを調べたときに。トモエの中ではその時には要領を得なかった。しかし考える時間など、町から町の間でいくらでもあった。そうしてみれば、腑に落ちる物があった。
トモエ自身、己は何処まで行っても一振りの太刀、武でしかないととらえている。マナ、魔術、憧れはするが遠いものだろうと、そう考えている。では、己の属性とやらが示すものは何か。
「別の流派の話になりますが、雷を切ったという逸話があります。そして雲耀の如くといった話も。」
アイリスに見せるには、実に良い物だろう。
どうした所で、オユキがいる場では、トモエは皆伝としての振る舞いを優先しなければならない。それが、トモエとオユキだから。では、そうでないときは、トモエは他も存分に行えるというものだ。他流派の研究等当然している。交流試合もあり、そこで実に多くの他の流れに触れている。
神の良き信徒、この世界を作った相手に、返せるものを返すのだと。そこで生きる事を良しとし、あまつさえあらゆる苦難から守る奇跡を与えてくれた者達への感謝と共に、刃を振り下ろすのだと宣言した後に。それを与えられた印を掲げて終えた者達が踵を返す。それに対する返答は、獣の如き方向でしかない。
「既に言葉も、他者と手を取るための、不足が多いからこそ思いやるための手段すら捨てましたか。」
森を背に、魔物が蠢く。既に常と異なり、安息の加護を食い破ろうと。ただ己と同じとなれと、足を引き沼に沈める為だけにある醜悪な存在が動き出す。ならば、暴ではない武とは。別れた先でも語られるそれがある。全てを切り捨てる為ではなく、守るべきものを守り、切り捨てるべきものを切り捨てる。確かに、一太刀は身を守るだろう。己の背後にある多くの。
「閃光の如き稲妻ですら切り裂くのだと。」
出来る事を、疑う必要すらない。この世界における、神々の奇跡。人の枠を超える力の振るい方の仕組み、それは既に散々話したのだ。トモエの前には、ただ見渡す限りに敵がいる。それらの動き出しに合わせて、ただトモエが叶えられる最速をもって。森に迄は届かないよう。切るべき物だけを切るように。
誰よりも、何よりも早い一太刀が、トモエの見える範囲の敵、その一切を切り捨てる。
「悲鳴にしても、醜悪ですね。」
流石に己が全てを、それはトモエも行ってはいけないと分かっているからこそ。未だ両翼に敵は残っている。眼前、姿を消し、これまでと同じように何かを残す魔物たち。その背後に数人生きたままの相手はいる。後は、魔物を狩るついでに、誰かがそれらを捉えて来るだろう。
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