憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

事情聴取

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「見た目から予測できること、それ以外はやはり分かりませんね。」
「え。」

痛みを堪え、あまりに理不尽と呼んでも良い状況に放り込まれた相手にしてみれば。確かに、オユキの端的な感想というのは虚を突かれたと、そのように感じる物ではあるだろう。現状、正面にいるオユキの表情とて陸に見えはしないのだ。周囲の者達、まだ同情するだけの素地がある者以外の表情など、現状があり、見えないだけまだ良かったというところだ。

「元より期待はありませんでしたから、それでどうこうは無いので安心してください。」

そもそも、この相手から引き出される情報に対して、オユキは価値を見出してなどいなかった。
こうして話を聞いているのは、人となりを見る為でしかない。話す内容を聞けば、この相手は見た目通りであるという事らしい。痛みに喘ぎながらも、実に情感溢れる話を語ってくれたのだから。以前、カレンを話し合いの席から外した理由という者が、まさにこれだ。
目の前の相手が事情を抱えているのは良い、ただそれを被害者に向けて語るというのは、どうした所でというものだ。今回については、確かに背後にあるあまりに大きな目標というものは関係がない。しかし、大いに面倒を与えた相手に対してすべき話かと言われればというものだ。それこそ、こちらで暮らす者達二人、そちらの耳に正しく届いていれば、ここまで長々と独白できなかったであろう。

「さて、つまるところは、会話が成立せず、人の中で暮らすことが出来なかった。その結果となります。」
「それだけか。」
「他に二点胡乱な話もありましたが。それは後としましょうか。」

確かめなければならない話というのが、そこには含まれている。
オユキは価値を見出していない、しかしアベルの判断が正しいとすることができるかもしれない情報が。

「一先ず先に決めるべきは、貴女の処遇となりますね。」
「え、それは。」
「必要な事は聞けましたから。」

シェリアに対して、視線で合図を送ればそのまま地面に転がる相手の首元に手を当てる。突然の事に反射として動き、結果として痛みに息を詰めたため、もがく時間は短かった。その後、以前カナリアに示していた道具、狭い範囲で音を制御するための物だろう、それを身につけさせれば一先ずは終わりだ。

「まぁ、疲れてはいるでしょう。今暫く寝ているのが良いですよ。」

厄介毎の類でしかない、それは何処まで行っても事実だ。しかしこの少女に対して憐憫の情の一つもわかないかと言われれば、当然オユキは首を振る。それを示す為には仕事を終わらせなければならない、ただ、それだけだ。

「相槌程度で、あれだけ泣いていたとなると。」
「それについては、後です。」

アベルの何処かやりきれない表情、こぼす言葉については一度オユキが遮る。

「確かめようがあるのか、その検討を行わなければならない情報が2点ですね。」

この少女によってもたらされた情報の中、有益かもしれない物。彼女のこれまでの生活に関する事柄の中から、抽出できた二つ。一つはそれそのまま、どのように暮らしていたのか。残る一つは魔物との関係性。

「森の中で、集落に近い物を形成しているようです。」
「まぁ、そうだろう。具体的な場所を覚えていたのか。」

それ自体は、既に分かり切っている事でもある。野盗の拠点という形で、存在を既にオユキも聞かされていたことだ。こういった者達が暮らす場などそれ以外にない為、それだけでは役に立つはずもない。

「辛うじて生活が成立する、その程度の植生が半日の範囲にあったようですね。それと、この者達が木々を切り倒せば、戻らないと。」

資源が再度採取可能になる、そのありえない速度も確かな加護だという事らしい。そして、それに対して支払いを求めるからこそ、鍛えられる。オユキとアベルを始めとして、この町で試験としている事の補強が得られる情報が齎された。まずはそれが一つ。
集まっている者達の間でも、やはり言葉に問題を抱え、無理に日々の意思疎通を熟していたらしい。同じ言語圏の相手もいた様だが、その辺りは今後も細かく聞き出すしかない。

「成程。良い情報ではあるな。拠点の位置は。」
「そこを出て暫く一人で動き回った、それだけでは難しいですから。人海戦術などやりようもありません。」

作戦の立案に使える情報は、残念ながらというものだ。そもそも深い森の中、心得のない物がうろついて、まともな方向感覚など維持できるものではない。他と変わらず、そう言った拠点が存在すると知った上で、放置しておき、幸運にも誰かが気が付けばとするしかない。

「ああ。だが、お前が挙げた物にしても。」
「ですから、もとより確かめようがないと。」

相容れない存在であり、そちらの情報など当てにする訳にもいかない。安息の守りと、外。そこで明確に生まれている違い、その差異とは何か。それを考える際に、試しても良いと、そうする項目の指針が出来ただけだ。それでも全くの手探りよりはましと、その程度ではある。総当たりしかない現状でよりはと、計上していた確認項目の一つ、その優先順位が上がる程度。

「もう一点は、魔物を操るのに魔石がいるという事です。そして、それを運ぶ者達がいたとも。」

長じれば、魔物を使って他の魔物をと、そう言う事も出来る様になるのだという話もあった。その集落の支配者が、魔物を従えて支配者としての位置を確立していたのだと、そう言う言葉はあったのだから。

「成程な。神々の奇跡とは言え。」
「加護の過多に依らず、私たちが打倒できる試練ではなくてはならないからこそ、付け入る隙がという事ですか。」
「木々と狩猟の神の忙しさ、それもその辺りがあるのでしょう。」
「いや、俺らに対する汚染がある、それを考えれば魔物に対してもやれるって事だろ。」

アベルの言葉に、トモエとオユキ揃って首をかしげる。

「溢れの際、淀みが指標になるとか。」
「ああ、そうか。お前らはマナの仕組みは理解していないんだったな。そっちは、それこそカナリアに聞いてもらいたいもんだが。」
「私たちよりも遥かに詳しいでしょうから。その、私たちがマナを使うと、本来の形から変わり、それを一纏めに淀みと。だからこそ、国として魔物を払う力が求められるのです。」

どうやら、こちらで暮らす者達が魔物という奇跡を疑わない素地はそこにあったらしい。そして、人の生活、その規模が多くなったときに周囲の魔物が強化される理屈というのも。後は、以前にカナリアから魔物が残す魔石に含まれる属性や、魔物の特性について簡単に説明を受けた事を思い出す。だからと言って、そのあまりに不思議な生態に納得がいくものではないが。

「そちらは、確かに話を強請るのも楽しそうですね。」
「はい。」

少し、興味を逸らせる話が出たために、オユキとトモエの気分も少し上向く。そして、そうなれば、改めて現状迄に得た陰鬱な感情というのがため息として漏れて来る。

「なんにせよ、得られた中で重要なのはその二点です。」
「その割に、随分長い時間、涙ながらの訴えだったが。」
「彼女のこれまでの苦労、それを聞かされただけです。その二つにしても、彼女からの提供という訳ではなく、その暮らしぶりからこちらで。」
「という事は、そうか。」
「はい、見た目通り、でしょう。悪辣な企みなども特に感じられません。話の進め方も、自罰的な方向であり、そこで暮らさざるを得なかった、強要されたなどの物言いはしませんでした。」

だからこそ、助けるべきだろう相手なのだ。困ったことに。
滅ぼすべきと決まっているのは、あくまで根源となっているそれで有り、汚染された相手はやむなくとならなければ。だからこそ、雑にならざるを得ない、その対処を避けたいと考えている。
望んで汚染された者達、取り返しのつかない者達、それらに印はあったとして、そうでは無い相手は違うのだと。こちらの神々は、厳しさもある、無理難題に近い物とて吹っ掛けて来る。しかし、手をとり合う事を厭う存在ではない。

「そうか、そうなるか。」

そして、その結果から生まれる流れに、アベルが大いに頭を抱える。
助け、話を聞き。苛烈な対応をしなくても良い相手と見る事が、出来る。そして、僅かとは言え有益な情報を持ち込み、オユキがそのように話してアベルに聞かせた。巫女を審問にかけるのは難しい。言葉が通じる以上は、異邦の同郷だと疑う余地もない。

「確認も、より細かい話を聞く必要もあるでしょう。」
「ああ、それで、お前らにという訳にもいかない。」

オユキの聞き取りの正しさを調べる、それをしなければならない相手は、口に出さずただただため息をこぼす。

「アベルさんが拾ったわけですし。」
「それはそうだがな、一応は見た目通りなら、年頃の子女だぞ。」

トモエの言い方はともかく、他に選択肢もない。

「それと、汚染の対策もあります。一応、明日で構いませんか。教会に連れて行ってあげてくださいね。必要な治療もそちらで。」
「本当に、とんだ貧乏くじだな。」
「一応、公文書に使われる言語を、かなり簡単にゆっくりと、そうすれば最低限の意思疎通は、ええと、挨拶くらいは間違いなくできると思いますよ。」
「事情聴取が出来るのは、何時になるんだよ、それだと。」

そして、思い出したくない記憶、あまり気にもしていなかった事。それはすぐに風化していくことだろう。

「トラノスケさんと合わせてとするのが良いでしょう。彼女の話によれば、まず間違いなく重なっている時期もありましたから。」
「そうなるのか。」

寧ろ、この少女の方がこちらの世界では、先輩だとそう呼んでも差し支えなさそうではあった。
そういった事情までを踏まえれば、オユキとしては考えなければならないと、そう感じる事が一気に増えてしまったと、負担が肩を重くもする。トモエにとっては、この少女は未だに明らかではないため、保留していることが多いのだが、少年たち同様に身内と判断してしまえば、更に苛烈な物が生まれるだろう。オユキの示し方は、広く浅いものが基本だが、トモエの物は狭く深い。今後の王都で、愚鈍であるだけならまだしも、汚染の気配がある者がトモエの前に立ったとき、そこに八つ当たり以上の物が間違いなく生まれる。そう言った先々迄を考えた上で、オユキは全てを先送りにすることを決める。

「これ以上は、改めて安全が確保されてからとしましょう。流石に、罪もない怪我人であるなら、現状に申し訳なさも覚えますから。」
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