憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
521 / 1,235
15章 這いよるもの

面接

しおりを挟む
この町を管理する相手からは、人数に対して上限を決められる事とはなった。産業が増えたこともあり、屋敷の管理にばかり取るわけにもいかない、理由としては実に納得のいくものだ。
溜め池は未だに壁の外であるのだが、ミズキリが優先して行ったのだろう。水産資源を安全に採取可能な場も町中に既に用意され、そちらの管理者を募らなければならず、これまでこの町には無かった鍛冶場、炭焼き小屋といった施設にしても実に多く増えた。要はトモエとオユキの生活の場以外にも、一度に人手を必要とするようになったのだ。周囲の町からという話も僅かに出はしたが、一番近い川沿いの町にしても壁の拡張が急務となっている。
では、教会が無い町、そこで暮らす教会の子供、言葉を選ばなければ孤児はとそう言った疑問が生まれたが、そもそも子供が生まれるということ自体が稀な世界。その存在が教会に多いという事は、用は周囲から集めているという事だ。余剰として、家業を継ぐ予定の無い者達、このままであれば狩猟や採取と、いくらでも手がいるそれに向かうしかなかった者達は、降ってわいた多様な仕事を日々あれこれ試しつつ、己似合う物を探してとなっている。
そういった者達は、残念ながら、気後れもあり、オユキの出した人の募集には全くと言って言い程寄ってこない。

「となると、この子たちは、生活の場を移す事にも。」
「あー。まだ教会から出なきゃいけないって訳でも無いけどな。ティファとかスタンがもう出なきゃって話聞いたみたいでさ。」
「その辺り、町による違い、仕事がどれだけあるかということもあると、そう言った理解はしていたのですが。」

では、何かとこれまで仕事を頼んでいた相手、教会の子供たちについてはどうかと言えば家主と見えるのが巫女だ。同じ系統、他に呼び方もオユキにしても思いつかないが、同じ流れが通るように見える場所であり、彼らの先輩の面倒を大いに見ている相手でもある。色々と話して聞かせてもいるのだろうから、他と違って気後れなども当然ない。
今はこの町にいない、就学する必要がある年齢層の子供たち、そちらが今後この町に戻ってこれるのかその問題についてもメイが早速頭を悩ませていたりもする。どこもかしこも人手が足りていない。放してもらえるものか分かった物でもないのだ。人の自由を尊重する、それが神々の決め事ではある物の、では選択の自由があればどうなるかなど、過疎化が散々問題になっていた世界から来た者として考えるまでもない。

「一応、皆さんでしたら、仕事の都合もありますから邸内にというのも構わないのですが。」

面接の場には、オユキも座っているがあくまで最終判断を下す者としてでしかない。そして、実務にはまったく詳しくないため、それぞれの部門の担当者が良しとすれば頷くために、いよいよ置物である。実際の面接としては、家を維持するための雑役についてはトモエと、近衛が。料理の場という意味では、アルノーが担当する。そして、子供たちの引率として、シグルドも同席している。

「騎士様が別なのに、って言うのはなぁ。」
「お借りしている方々ですから、確かに配慮もと思いますが。しかしそうなるとそちらで一緒にと。」
「そりゃそうだよなぁ。」
「あの、私たちは通いでも。」
「料理の中には、数日様子を見る必要がある物もあります。特に仕込みという部分では、それを疎かにするわけにもいきませんから。」

そして、教会の子供たちは、ここまで散々手伝いを頼んでいたこともある。
日雇いやアルバイトといった形態から、では正式にとなった時に、すでに互いに知った相手でもありそこについては実に速やかに話が決まっている。雑役として四人、実際には細かく分けるのだとシェリアも言っていたがそこまでの余裕がないからとそう言った扱いにせざるを得ない。後の三人がアルノーの下でとなっている。実際としては五人程アルノーの手伝いに来ていたのだが、その数が減った理由はと言えば、一人はヴィルヘルミナの雑役の方に、もう一人は調理ではなく食材の魅力に取りつかれてという事らしい。

「今後も人はある程度借りる事が決まっていますし、移動に合わせていなくなりますから。別に用意しようとそう言う話になっていますので今はとしましょうか。」

どのみち、これまでは通いの範囲でしか仕事を頼んでいなかった相手でもある。実際の、正式な仕事としてとなれば当然時間ごとの役割分担というのも生まれていく。騎士にしても、夜警もあるのだからその理解もあるであろうと、進まない話、それについてはオユキが決定事項として話を進める。

「部屋が空いているのかと言われてしまえば、また難しいのですが、一先ず一室くらいは整えられますので一先ずそちらで。」

七人の子供を一部屋に放り込む、言葉だけを聞けばかなり反感を招きそうではあるが、子供たちはそれを喜んでいる。そもそも、土地があまりに余っている世界であり、階数もある屋敷だ。一室というのもそれに合わせた大きさになっている。ましてや、現状開いているのは客間予定の部屋。

「そちらで基本はとしましょうか。シェリアにしても、監督を行うのであれば何かと都合が良いでしょう。仕事を教えるにしても、今いる使用人の生活を支えるにしても。」

結局のところ、雑役を頼む相手、アルノーの手伝いにしてもそうだが生活の場、その表に出て来るような仕事を頼むわけでは無い。現状、そこを整える為の人員として預けられている者達が居り、そちらに頼まなければならない、出来るから頼んでいる、そう言った物を纏めて引き受けてもらうための相手だ。それにしても数が少なく、慣れもない為結局はというところでもあるのだが。単純な労働力が必要になる項目でもあるため、誰も彼もが増員を期待している場面でもある。ならば、その辺りは雇用する側として決めればよいと、オユキが。

「休日の取り決めと言いましょうか。皆さんが同じ日に休みというのは、現状難しいのですが。」

加えて、実際の話としてあれこれと聞いていることもあり、雇用条件をオユキが改めて主体として詰めていく。

「いや、それは流石にこいつら貰いすぎじゃね。」
「その、私たちもお手伝いとかしてますけど、住む場所もあるなら。」

問題となるのは、やはり給与面となる。
トモエも把握している事であるのだが、今いる使用人に支払う給与、それと比べてしまえば桁が一つ二つ違う、そう言った額でさえも、やはりという事になる。
主な理由としては、簡単だ。今借りている人員は、公爵や伯爵という上位貴族が認めた人員なのだ。その資金の出所にしても、公爵や王家となっていて、オユキ達が直接支払っている物では無い。正直、直接雇用した相手にある程度回してしまわなければ、不健全な蓄財が発生するからと、この機会に放出を考えていることもある。

「以前領都で相場と言いましょうか、そう言ったのは確かに聞きましたがシグルドたちの稼ぎ、それと比べてもかなり少ないものではありますから。」
「つっても、俺らは武器に結構使うからいいけどさ。」
「ある程度は用意しますが、それ以上の装飾であったり、個人としての物も今後必要になりますから。」

仕事に必要な物は用意する、もちろんオユキもそのつもりではあるのだが。今後どうなるかもわからない家に仕えているものとして、個人的に行わなければならない事も今後やむを得ず発生する。オユキは無理でも、そこで仕える者達であれば話も出来るだろうと。そう言った部分については業務の範囲外でもあり、そこまでは面倒が見切れないというのが本音でもある。使用人たちにしても、それぞれに家を持つものたちなのだ。その相手とある程度仲が良くなれば、他から入ろうという物たちでけでなく、招きに応じなければならないこともあるのだと。

「えっと。」
「流石に皆さんでは、予想も難しいでしょう。そういった事も今後聞くでしょう。」
「でも、そう言ったときは商人ギルドにとかっていう話じゃなかったっけか。」
「家に仕えていなければ、そうなるでしょう。」

貴族という、こちらで非常に困難な家を繋ぐ、それを可能と出来ない者達の庇護者に頼れるのは、そこに所属していない者達だけだ。そうでは無い彼らは、招かれる時は、使える物としてとなるがそれ以上に個人としてとなる。そもそも仕事中であればお使いでしかない。私的な物となれば、それに合わせなければならない。

「その辺りも、良く学ぶようにと私からはそう言うしかありませんね。」

どうにも堂々巡りになりそうな部分に、そうしてオユキが決めた事だとそうして口を挟みながら話を進めていく。雇う相手が少々遠慮をしようとするものについても、今後はこれが基準値になると考えれば、それなりに高めにしておきたいという思惑もあるのだ。
長じれば、と言えばいいのだろうか。
結局のところ現行の人員は、そのほとんどが借りものだ。オユキとトモエが整えるだけの用意が出来てしまえば、引き上げていく人員でもある。そして、その後を継ぐのがこの第一陣とでもいうべき子供たちになる。本人たちにそういった思考はどうした所で今はない。そう言った先を考えるには、やはり経験が足りない。だが先々を考えたときに、今後増える相手に仕事を教え、指示を行う立場にとそこまでを考えてしまえば、それができるだけの立場というのを与えなければいけないし、慣れて貰わなければならない。流石に、オユキにしても領都や王都に用意しようと言われている屋敷、そちらに連れて行こうとまでは現状考えておらず、ここを任せるとそう決めてもいる。
ただ、問題と言えばいいのか。この町は、今後他国との交流の場にもなるのだ。それこそ、事前にしっかりと余裕を立ててとなれば王都となるだろうが、それ以外の場合は、この屋敷で魔国から、他の国からの客を招くこともある。今後の展望を持っていない、そういった意味では上に立つものとしての評価は下げざるを得ないのだが、それこそ経験が必要な分野という物だ。そこまでは求めすぎだと、後任という意識で採点を行っているだろう近衛たちにしても、それらを試すような真似は今の所していない。実際は国法によると言われていることもあり、常に総指揮をとれる相手が付くというのもあるのだろうが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

自警団を辞めて義賊になったら、元相棒の美少女に追いかけられる羽目になった

齋歳 うたかた
ファンタジー
自警団を辞めて義賊になった青年リアム。自警団の元同僚達から逃げながら、彼は悪人の悪事を白日の下に晒していく。 そんな彼を捕まえようとするのは、彼のかつての相棒である女副団長。リアムの義賊行為を認めるわけもなく、彼女は容赦なく刀を振るってくる。 追われる義賊、追う副団長。 果たして義賊は元相棒に捕まってしまうのだろうか? ※『カクヨム』『小説家になろう』でも投稿しています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...