憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

緊急ではある物の

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「オユキが食べられないのは、マナが原因だったんじゃないかしら。」

如何に差し迫った自体があろうとも、こちらでは猶の事体が資本であり、食事の重要性が損なわれるわけでもない。いつもの顔ぶれ、珍しくという訳でも無く、喉を休めるためにとヴィルヘルミナも同じ席についた食事の場、そこでアイリスがそんな事を口にする。食卓は、生前に馴染んだものと比べるのも馬鹿らしくなる程度には広く、それに見合った人数が一堂に会している。

「呼吸するだけで、胃もたれしていたわけですか。自覚を得てからは、より強くなっていると感じているだけで。」

各々の日々の出来事、それがどうした所で話題に上り。オユキからもマナの感知が出来るようになったこと、併せて良く過ごす場の気温がどうしても下がると、そんな話をしてみればアイリスからそんな言葉が返ってくる。今後の移動、どうした所で馬車に揺られる相手もいるのだから、共有しないわけにもいかない事ではある。

「発言形質は人なので、そこまで影響があるとも思えないのですが。」

オユキとしては納得のいく話ではあるが、カナリアはそうでもないらしい。
同席しているこちらに来て間もない異邦人二人については、どちらにしても知らない話であるからと、実に興味深げに耳を傾けている。時間があるときに、揃ってカナリアに習う程度には、生前から遠い出来事ではあったようである。

「匂いで分かるほどには、他も混じってるわよ。」
「構成しているほとんどは物質ですし、マナの保管領域もそこまで広がりを持っていませんから。今後の成長があれば分かりませんが、現状でそこまで影響が出ていたというのは。」
「あら、そうなの。」
「アイリスさんのように、祖霊から分け与えられていれば、生まれつきというのもあるんですけど。」

そう口にしたカナリアが、実に難しい顔でオユキに視線を向ける。
表情としては、色々考えているのだろう。しかし向ける視線には明らかに好奇の色。実に学者らしいことで結構な事ではある。向けられた側は、やはり居心地のいい物では無い事を除けば。

「アイリスさんは、獣人で、魔術にそこまで親しんでいるわけでもないと思うのだけれど。」
「種族次第、かしら。」

話に耳を傾けていたヴィルヘルミナの疑問には、アイリスからもはっきりとした回答がない。それだけひとくくりにされている分類、その中で大きな差があるのだろう。

「獣としての特徴が、ただ血統に依るのか、祖霊から直接分け与えられているかで、また大きく違うのよね。元々私たちの種族がマナの扱いが得意というのもあるけれど。」
「アイリスさんは、個人でのマナの扱いは苦手そうですし。祖霊に依るものでほとんど埋まっていますので。」
「おや、そうなのですか。」

大気に流れるマナ、それを死角としてとらえる事が出来ると、そう断言したカナリアの言葉にトモエも首をかしげる。ここまでともに行動をする中、当たり前のように周囲に火を放ち等を行っていたと、それを考えれば今一つ納得がいくものでもない。それが本人の能力ではなく、祖霊に連なる者としてのと、そう言われれば納得は行くのだが。
ただ、カナリアの言葉をアイリスも否定しないし、何やら都合が悪いと言わんばかりにすっかりと自身の前に置かれた分厚い肉、それに視線を向けている。

「祖霊に依る物でしょうね。火と陽炎、そう言った物がほとんどです。アイリスさん本来の属性は、氷ですよ。恐らくではありますが。」
「見ただけで、分かるのですか。」
「人族の皆さんよりは、やはり分かりやすいですから。あとは、癒しの奇跡を願ったときにどうしても細かく見ていますし。」

さて、もっとマナに馴染めなどと言われた二人としては、アイリスに向ける視線に僅かばかりの感情も乗るものだが。

「良いのよ。祖霊様の力に合わせる事の方が大事だもの。」
「確かに、そうなんでしょうけど。」

事実明確な恩恵をこちらにもたらす存在が居り、それを祀る役割を得ていることも考えてとなれば、アイリスの言う事も正しいようには聞こえる。その返事を聞いたカナリアが重たいため息をつくあたり、他の観点もありそうなものだが。

「得意な属性、ですか。」
「そう言えば、お二人はまだでしたね。」

カナリアからマナの感知、それについて習い始めたばかりの相手から。

「そうですね、必要な道具も簡単に用意できますし、お二人も確認されますか。」
「是非。」

そちらで話が盛り上がっているのを置いて起き、オユキとしても気になる事が有るためアイリスに。

「氷ですか。そうであるなら、アイリスさんへの負担は少なそうですね。以前夏が苦手とも聞きましたし。」
「よく覚えている物ね。ええ、まぁ、そうよ。」
「アイリスさんの分も、お願いしましょうか。」
「それはそれで、祖霊様の力と反発もあるから、また難しいのよね。」

見た目についてはもうアイリスは問題がない。カナリアからも、近隣であれば、壁の外に出ても問題ないだろうと言われている。その程度には快復していると聞いているが、完治ではないともカナリアに細かく言われてもいるのだ。事実、社周りで何かあったのだと、そう分かる程度には疲労が表に出る事も多いのだ。
オユキがかなり楽になったからと、同じ方法を進めてみれば、しかし返答は鈍い。

「流石に私も同時に複数の属性で取り込んだりなんて、そこまでできるほどではないのよ。」
「そう言えば、種族としての魔術の習得と仰っていましたか。」
「そっちを優先した結果でも、確かにあるわね。後は、どう言えばいいのかしら。結局そちらに寄せてしまったから、本来に回すだけの余力が無いのよね。」

さて、その辺りはどういう理屈であろうかと、より詳しい相手に話を求めてみれば、結論としてはそれにしても訓練次第という事になるらしい。

「きちんと時間を取って向き合えば、両立できますよ。主たる神の奇跡、そこから離れたわけでもないのですし。」
「ええ、そうなのでしょうけど、余力が無いのよ。」

要は、戦と武技、その道と祖霊に対するものと。既に洗濯は済んでおり、それ以外に目を向ける事がない。そこまでを含めての言葉であるらしい。言い切られたカナリアが、悲しげな顔を浮かべる物だが、オユキもトモエも、実に納得のいく言葉だ。

「翼人だったか、そこまで分かる物なのか。」
「そう言えば、以前も獣人と勘違いされていましたし、こちらではあまり伝わっていないのでしょうか。」

あちこちと転がる話を興味深げに聞いていたアベルも、一度切れた流れに輪に入ってくる。
騎士として、こちらも十分に魔術の扱いは修めているのだろう。生憎と、彼がそれを使う場面など見た事もないが。

「獣由来ではないと、そうなれば神によるものとか。」

由来としての予測は、以前オユキは近衛たちと過ごす時間でそのように聞いている。
ただ、それにしても祀られている神々が翼を持っている事もない。ならばアイリスと同じ流れ、より祖霊と呼ばれるその存在に近い流れによるものかと、オユキとしてはそのように理解していたものだが。

「私たちの祖は、座を持っているわけではありませんから、神々ともまた違いますよ。過去に失われた世界、しかし本来は新たな座を得るために使う筈の力を、私たちを共にこちらに。そう言った来歴だとは聞いています。」

曰く、彼女たちの種族、その奥が暮らす空に浮かぶ岩塊の群れ、それ自体が元々こちらに存在する物では無く、すでに失われた世界から、かつての創造神とでも呼ぶべき存在が己の力を大いに削りながらもこちらに持ち込んだのだと。そして、今となっては永い眠りについているらしい。あまりに多くの無理を果たし、その結果として必要な眠りに。残された者達として、祈り、祀り、力を育て返しながら、いつか再び目を覚ますその時まで。そうして暮らしながら無聊を慰めるために、周囲を観察しているというのがカナリアの種族である翼人の特徴であるらしい。

「水と癒しの女神様が、おそばに置いてくださっていますし、後二千年もあれば回復するとか、そんな話でしたね。」

語るカナリアにしても、それは神話に類するような話なのだろう。聞いた話、感傷などは特に含まず、ただそういう話があるとそういった風情だ。

「異邦から分けられた祖霊様方とは、また大分違うのね。」
「大きく見れば、私たちの種族も異邦からとなりますし。」
「何とも。異なる世界から来たもの等、異邦人たちだけかと思っていたが。」

アベルが実に深々と、そう嘆息する。

「いえ、たくさんいますよ。アイリスさん達の語る祖霊にしてもそうですし。」
「まぁ、そうよね。」

そちらについては、既にはっきりと告げられている言葉でもある。ただ、続く言葉にはオユキとしても古い友人に他敷いて色々と言いたいことが生まれる。

「タルヤさんはこちらに祖がいる花精ですけど、ルーリエラさんは違いますし。」

思えば、こちらに戻ってきてからという物の、ミズキリを問い詰め色々と話を聞くと決めてから、ルーリエラと直接話す機会という物が存在していない。ミズキリがそちらにも隠し事をしているのかと、そう考えていたものだが彼女にしても色々と思うところがあるのだろう。

「まったく、ミズキリは。」
「本人は別に隠しているわけではなさそうですけど。」

カナリアが実に不思議そうに付け加えるのだが、恐らく隠そうとはしているのだ。ミズキリにしても、予定外の人員、それについての知識が無いのだとすれば。予定通り、恐らく長く生きていると、種族としての目標も知っているタルヤであれば気が付くからとルーリエラはそちらを避けての事なのだろう。
ただ、それをする理由。そこに全く見当はつかないが。

「最初にあったときに、花精と名乗られましたし、そう言えば正式に名前も伺っていませんね。」

タルヤの、花精である彼女、その名前を聞いた時にトモエが何故妖精に例えたのかと興味を持って聞けば、存在する植物であり、そう言った流れから生まれた存在だという事なのだろうと、そう言う予想を聞いた。ルーリエラは、それをさせないことを選んだという事なのだろう。
ミズキリ、使徒などという大層な相手と一緒にいる彼女は、さて一体どういった個人としての、種としての欲を持っているのだろうか。寿命に応じた、随分と気の長い計画をそちらも抱えていそうなものだ。

「国交がという割には、随分と相互理解が進んでいないように感じてしまいますね。」
「周囲にある国は、基本人の国だからな。テトラポダくらいか、完全に他種族となると。それにしても他には、どのような。」

アベルが興味を持ってカナリアに話を振って見せるが、生憎そこからの話は同席しているトモエとオユキではほとんど聞き取れない物であった。恐らく、理解できた、一部なりとも聞き届ける事が出来たのはタルヤだけ。
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