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15章 這いよるもの
契機
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ここ暫くの事。それが良い方向に働いた結果と、そう考えても良いものなのだろう。
オユキの抱えた症状はマナの枯渇。常の加護が働かない程、己が意図して暑かったわけでは無いというのが難物ではあるが、そう言った状態を得た事が有る。それ程足りていないもの、それが充足していく過程が身近にあった結果と言えばいいのだろう。
「成程。このような物ですか。」
アイリスからも、マナに依っているとそう取れるような発言をされたこともあり、濃度が上がると同時に重さとして感じた物。それが確かに体の中に入り、同じものが周囲にあるのだとオユキはそれを自覚する。古巣から大量の資料を運び、そのほとんどを屋敷に入れる前に埃を落とし、日に当てねばならぬとそう言われ、本当に必要なのかと細かく確認されていたカナリア。彼女がようやく使用人から解放され屋敷に戻ってきたため、時間があるからとトモエとオユキが並んでマナの瞑想を行っていた折であった。
「ただ、これは。」
そして、それが具体的に分かるようになったオユキは思わず口元を抑える。
「オユキさん。」
「贅沢な悩みとなるのでしょうが、このタイミングであるのは。」
セシリアは食事だと言い切り、容赦なく疲労に合わせて吸い上げるそぶりを見せていた。似た来歴を持つタルヤにしても、いくらでも吸い上げてしまえばなどと言い切ってはいたのだが。
オユキにしても、食事に近しい物、確かにそう感じられる。ただし、それはこちらに来て随分と苦手意識の増した脂に近く感じられる、そう言えばいいのだろうか。呼吸と共に、明らかに粘性を持った物が体に。
「オユキさんの基礎となる属性を考えれば、確かに現状は苦手意識も持つでしょうね。」
呼吸をするだけで胸焼けする。今のオユキには己の存在する場にある物、それに対してそのような印象を抱いてしまう。それもあって、どうした所で口元を抑え、入ってくるものを抑えたいと。そのような意識が働いてしまう。既に季節は秋に入って入る物の、この国は何処まで言っても常春と呼んでも良い気候の国。冬は遠い土地柄。当然周囲のマナも、そのように染まっている。
「特に今はアイリスさんによって、豊饒の気配が強いですから。」
オユキの様子を一目見て、それに熟知したカナリアが周囲を簡単に整える。目に見える変化としては、すっかりと就寝前のお馴染みとなっている氷柱が周囲を囲んだこともあるが、それ以上にオユキの感じる気配も変わる。焼けた肉に踊る脂の様なくどさを感じていた空気が、突然軽いものに。それもどちらかと言えば好ましく感じる物に変わる。
生前の事であれば、雨上がりの良く晴れた庭、そこにこれまで閉じていたとを開くと同時に進み出た。そのような感覚とでも言えばいいのだろうか。重さはある。湿度と呼んでも良いような。だが、この重さは心地よさを感じる物だ。
「流石に、いきなり季節の物に合わせるのは難しいですから。一先ずは、水と氷に内側を変えています。」
「有難う御座います。おかげでかなり楽に。」
「長じれば取り込む前に、得意な形にというも出来ますし、場にある物から優先的にと出来ますが。それはまだまだかかるでしょう。それにしても、オユキさんはこの一帯に多いものは取り込んだうえで加工しなければなりませんが。」
その辺りは食事と変わらない物であるらしい。経口で摂取し、消化、吸収という機能を通して使える形に変えて全身に。その難易度が高い物に対して感じる物。それと変わらぬことが今起こっている者であるらしい。
「短杖もたくさんご用意いただけていましたから、この部屋のマナを冬に置き換えるよう後で手を入れておきましょうか。」
瞑想の折に良いとされる体勢、それを唐突に感じた感覚に崩したオユキの側であれこれと確認していたカナリアが思案顔でそう口にする。
「部屋を、冬にですか。その、かなり大層な物に聞こえてしまいますが。」
これまでと異なる感覚、それに意識が取られているオユキではなく。部屋を整える役割を得ていることもあるからと、トモエがカナリアと話を進める。側にいたシェリアにしても、刺繍の手を止めた上で聞き入っていることもある。カナリアが行う事の内、馬車、新しく得た魔術に関しては、彼女の本来の主がいる為自身の職責に基づいた判断として割って入ることもあるのだが、今度の事は違うと今の所はそう考えているようでもある。オユキが既に危機的状況を脱している、それも大いにあるのだろうが。
「いえいえ、そこまででもないですよ。以前部屋を整える使い方をお見せしたかと思いますし。」
「ああ。そう言えば。」
随分と昔の事に感じてしまうが、確かに土産として買って帰った物、それをどう使うか見せ得てくれとねだったこともある。
「この屋敷全体にとなりますと、他の魔道具との干渉の調整が必要であったりしますが、部屋だけであれば簡単な物ですし。」
「それにしても、部屋を冬にとなると。」
以前カナリアはそれこそ見た目として、指を這わせるだけその気安さをもって行った事。それをこの場に対してもという事であるのだが。問題としては、オユキの得意が冬と眠り。後者については、そもそも休む為にこの部屋に来る以上、部屋の主は問題がない。侍女として振舞う相手は、差しさわりがあるのだろうが、その程度でどうこうなる物であるはずもない。しかし、既に秋の気配も色濃くなってきているとはいえ、部屋の中に冬の寒さがいきなりというのは。
「そればかりは、どうにもなりませんね。」
トモエの懸念がカナリアにも正しく伝わったようで、予想は正しいとそのように返ってくる。
「その、シェリア様。」
季節に応じて、内装を整える。そう言った合意を得た相手に、トモエとしては変わらず不足しているこちらの知識、その補填を願う。
「オユキ様の不足、それを喧伝するとも言えますが、私室ですので。」
「確かに、早々他の方を招く場ではありませんが。」
ではなぜカナリアがと言えば、医師でもあるからとしか言えない。それを除いたとしても、夜毎部屋の四方に巨大な氷柱の用意を頼んでいることもある。それ以外でこの部屋に足を運ぶのは、オユキが就寝前の私的な場として話をしよう、そう考えた相手だけとはなっているのだから。それこそ身内でもない相手が、以前王都での出来事のように、突然理外の方法で招かれでもしない限り現れる事もない。
「では、お手数かけますが。」
「侍女としての務め、その最たるものですから。」
「えっと、少し待ってくださいね。」
話が決まりかけたところを、カナリアが止める。
「アイリスさんから炎獅子に近い匂いがと、そう言う話も聞いていますから。そちらに完全に寄せると、トモエさんに負担がかかるかもしれませんので。」
「オユキさん程、私は快復に急を要するわけでは。」
「いえ、慣れないうちはマナを加工する、それにも相応に労力を使いますし。あまりに慣れないマナが強い場所で、その影響に晒され続けると酔いますからね。」
「酔う、ですか。」
トモエとして、直ぐに思いつくのはこちらに来て初めてオユキが氷菓を口にしたとき、その時の事を思い起こすが。
「酩酊とも違って、馬車などの揺れによるもの、そちらですね。それこそ加工を当然として行えるようになれば、そういった事もなくなるのですが。やはり慣れないうちは、先ほどオユキさんが感じたように自分が使いやすい物とは別、それが呼吸と共に、呼吸を必要としない種族の方はまた感じ方が異なるという話ですが、常の事として周囲、それに抵抗を覚えます。恒常的なそれに疲れて、と言った物ですね。」
慢性的な疲労。そう取れるものがあると、用はそう言う事であるらしい。
オユキの事を考えればと、そう思わないでもないのだが、ではそのためにトモエがとなると。
「一度試してとするのが良いのでしょうね。トモエさん。」
我慢をすれば。そうトモエが考えた矢先に、オユキがそれを止める。
「カナリアさんであれば、そう言った事も見ればわかるでしょうから。」
「はい。それもそうですね。いえ、私だけでなく魔術師を名乗れるのであれば。」
「ですが。」
「公爵様に望まれている職務、その範囲においては、多くをトモエさんにお願いしていますから。それに、部屋を冬として整えたとして、そこまで気温が下がるかは。」
そもそも、実際に行わなければどうなるともわからないからと。オユキとしてはそう考えている。少なくとも部屋にこうして氷柱を置いてもトモエの方では何も不都合を感じた様子もない。
「過剰に冷えるようでしたら、炎、その名が示すように暖炉などを置いても良いかと思いますし。」
そして、それに不都合を感じる。オユキの取っていする方向に働いたとして。トモエが言われているものにしても、炎であって夏ではない。冬の寒さ、それに抗うためにと人は古来より火を尊ぶ。互いにそちらに依っているのだとすれば、共存できぬ特性でもない。問題としては、トモエが以前試した折には雷と輝き、その特徴であったはずだが。
三冬、冬の雷。どちらにせよ季語となるほどには、組み合わせとされている者でもある。馴染まぬことは、無いはずだと。
「暖炉ですか。窓が無いので、換気が。」
「ああ。」
ただ、問題として、トモエの言葉がある。
現状、トモエとオユキにあてがわれている部屋には、当然窓などない。私室、用は寝室。この屋敷に於いて、守らなければならないもの、それが最も無防備になる場所。そこに簡単に外部と繋がる出入り口等用意されるはずもない。閉塞感をごまかすために、調度を整え、壁には絵画や織物がかけられている。そう言った部屋で火を焚けば、当然の不安として一酸化炭素中毒と言った物が、不安としてよぎる。
「部屋の扉に、少し穴をあけて、風を回しましょうか。一先ずは、オユキさんに向けて部屋を整えて、トモエさんの刀子を確認してと、そう言った順序になりますが。」
「はい、お願いしますね。」
さて、随分とカナリアを便利に使っていると、そう言った思いもトモエとオユキどちらにも湧き上がってくるものではあるが。
「そう言えば、マナの感知が出来るのが第一段階とは伺いましたが。」
オユキとしては、では現在の習得進行度がどの程度なのかと、そう言った話をカナリアに向ければ。
「はい。人族の方でしたら、これが最も大きな分岐点ですから。後は、そうですね。まずは自分の得意な属性に加工する、これを意図的に行う事を覚えるのが次ですね。」
魔術文字の勉強も、その間に並行して行うといいでしょう。そうカナリアが実に嬉しそうに話す。期限に明確な区切りを付けない、それについては魔術が学問の側面が強いという事なのだろう。
「こちらも、習熟には生涯をとなりますか。」
オユキの抱えた症状はマナの枯渇。常の加護が働かない程、己が意図して暑かったわけでは無いというのが難物ではあるが、そう言った状態を得た事が有る。それ程足りていないもの、それが充足していく過程が身近にあった結果と言えばいいのだろう。
「成程。このような物ですか。」
アイリスからも、マナに依っているとそう取れるような発言をされたこともあり、濃度が上がると同時に重さとして感じた物。それが確かに体の中に入り、同じものが周囲にあるのだとオユキはそれを自覚する。古巣から大量の資料を運び、そのほとんどを屋敷に入れる前に埃を落とし、日に当てねばならぬとそう言われ、本当に必要なのかと細かく確認されていたカナリア。彼女がようやく使用人から解放され屋敷に戻ってきたため、時間があるからとトモエとオユキが並んでマナの瞑想を行っていた折であった。
「ただ、これは。」
そして、それが具体的に分かるようになったオユキは思わず口元を抑える。
「オユキさん。」
「贅沢な悩みとなるのでしょうが、このタイミングであるのは。」
セシリアは食事だと言い切り、容赦なく疲労に合わせて吸い上げるそぶりを見せていた。似た来歴を持つタルヤにしても、いくらでも吸い上げてしまえばなどと言い切ってはいたのだが。
オユキにしても、食事に近しい物、確かにそう感じられる。ただし、それはこちらに来て随分と苦手意識の増した脂に近く感じられる、そう言えばいいのだろうか。呼吸と共に、明らかに粘性を持った物が体に。
「オユキさんの基礎となる属性を考えれば、確かに現状は苦手意識も持つでしょうね。」
呼吸をするだけで胸焼けする。今のオユキには己の存在する場にある物、それに対してそのような印象を抱いてしまう。それもあって、どうした所で口元を抑え、入ってくるものを抑えたいと。そのような意識が働いてしまう。既に季節は秋に入って入る物の、この国は何処まで言っても常春と呼んでも良い気候の国。冬は遠い土地柄。当然周囲のマナも、そのように染まっている。
「特に今はアイリスさんによって、豊饒の気配が強いですから。」
オユキの様子を一目見て、それに熟知したカナリアが周囲を簡単に整える。目に見える変化としては、すっかりと就寝前のお馴染みとなっている氷柱が周囲を囲んだこともあるが、それ以上にオユキの感じる気配も変わる。焼けた肉に踊る脂の様なくどさを感じていた空気が、突然軽いものに。それもどちらかと言えば好ましく感じる物に変わる。
生前の事であれば、雨上がりの良く晴れた庭、そこにこれまで閉じていたとを開くと同時に進み出た。そのような感覚とでも言えばいいのだろうか。重さはある。湿度と呼んでも良いような。だが、この重さは心地よさを感じる物だ。
「流石に、いきなり季節の物に合わせるのは難しいですから。一先ずは、水と氷に内側を変えています。」
「有難う御座います。おかげでかなり楽に。」
「長じれば取り込む前に、得意な形にというも出来ますし、場にある物から優先的にと出来ますが。それはまだまだかかるでしょう。それにしても、オユキさんはこの一帯に多いものは取り込んだうえで加工しなければなりませんが。」
その辺りは食事と変わらない物であるらしい。経口で摂取し、消化、吸収という機能を通して使える形に変えて全身に。その難易度が高い物に対して感じる物。それと変わらぬことが今起こっている者であるらしい。
「短杖もたくさんご用意いただけていましたから、この部屋のマナを冬に置き換えるよう後で手を入れておきましょうか。」
瞑想の折に良いとされる体勢、それを唐突に感じた感覚に崩したオユキの側であれこれと確認していたカナリアが思案顔でそう口にする。
「部屋を、冬にですか。その、かなり大層な物に聞こえてしまいますが。」
これまでと異なる感覚、それに意識が取られているオユキではなく。部屋を整える役割を得ていることもあるからと、トモエがカナリアと話を進める。側にいたシェリアにしても、刺繍の手を止めた上で聞き入っていることもある。カナリアが行う事の内、馬車、新しく得た魔術に関しては、彼女の本来の主がいる為自身の職責に基づいた判断として割って入ることもあるのだが、今度の事は違うと今の所はそう考えているようでもある。オユキが既に危機的状況を脱している、それも大いにあるのだろうが。
「いえいえ、そこまででもないですよ。以前部屋を整える使い方をお見せしたかと思いますし。」
「ああ。そう言えば。」
随分と昔の事に感じてしまうが、確かに土産として買って帰った物、それをどう使うか見せ得てくれとねだったこともある。
「この屋敷全体にとなりますと、他の魔道具との干渉の調整が必要であったりしますが、部屋だけであれば簡単な物ですし。」
「それにしても、部屋を冬にとなると。」
以前カナリアはそれこそ見た目として、指を這わせるだけその気安さをもって行った事。それをこの場に対してもという事であるのだが。問題としては、オユキの得意が冬と眠り。後者については、そもそも休む為にこの部屋に来る以上、部屋の主は問題がない。侍女として振舞う相手は、差しさわりがあるのだろうが、その程度でどうこうなる物であるはずもない。しかし、既に秋の気配も色濃くなってきているとはいえ、部屋の中に冬の寒さがいきなりというのは。
「そればかりは、どうにもなりませんね。」
トモエの懸念がカナリアにも正しく伝わったようで、予想は正しいとそのように返ってくる。
「その、シェリア様。」
季節に応じて、内装を整える。そう言った合意を得た相手に、トモエとしては変わらず不足しているこちらの知識、その補填を願う。
「オユキ様の不足、それを喧伝するとも言えますが、私室ですので。」
「確かに、早々他の方を招く場ではありませんが。」
ではなぜカナリアがと言えば、医師でもあるからとしか言えない。それを除いたとしても、夜毎部屋の四方に巨大な氷柱の用意を頼んでいることもある。それ以外でこの部屋に足を運ぶのは、オユキが就寝前の私的な場として話をしよう、そう考えた相手だけとはなっているのだから。それこそ身内でもない相手が、以前王都での出来事のように、突然理外の方法で招かれでもしない限り現れる事もない。
「では、お手数かけますが。」
「侍女としての務め、その最たるものですから。」
「えっと、少し待ってくださいね。」
話が決まりかけたところを、カナリアが止める。
「アイリスさんから炎獅子に近い匂いがと、そう言う話も聞いていますから。そちらに完全に寄せると、トモエさんに負担がかかるかもしれませんので。」
「オユキさん程、私は快復に急を要するわけでは。」
「いえ、慣れないうちはマナを加工する、それにも相応に労力を使いますし。あまりに慣れないマナが強い場所で、その影響に晒され続けると酔いますからね。」
「酔う、ですか。」
トモエとして、直ぐに思いつくのはこちらに来て初めてオユキが氷菓を口にしたとき、その時の事を思い起こすが。
「酩酊とも違って、馬車などの揺れによるもの、そちらですね。それこそ加工を当然として行えるようになれば、そういった事もなくなるのですが。やはり慣れないうちは、先ほどオユキさんが感じたように自分が使いやすい物とは別、それが呼吸と共に、呼吸を必要としない種族の方はまた感じ方が異なるという話ですが、常の事として周囲、それに抵抗を覚えます。恒常的なそれに疲れて、と言った物ですね。」
慢性的な疲労。そう取れるものがあると、用はそう言う事であるらしい。
オユキの事を考えればと、そう思わないでもないのだが、ではそのためにトモエがとなると。
「一度試してとするのが良いのでしょうね。トモエさん。」
我慢をすれば。そうトモエが考えた矢先に、オユキがそれを止める。
「カナリアさんであれば、そう言った事も見ればわかるでしょうから。」
「はい。それもそうですね。いえ、私だけでなく魔術師を名乗れるのであれば。」
「ですが。」
「公爵様に望まれている職務、その範囲においては、多くをトモエさんにお願いしていますから。それに、部屋を冬として整えたとして、そこまで気温が下がるかは。」
そもそも、実際に行わなければどうなるともわからないからと。オユキとしてはそう考えている。少なくとも部屋にこうして氷柱を置いてもトモエの方では何も不都合を感じた様子もない。
「過剰に冷えるようでしたら、炎、その名が示すように暖炉などを置いても良いかと思いますし。」
そして、それに不都合を感じる。オユキの取っていする方向に働いたとして。トモエが言われているものにしても、炎であって夏ではない。冬の寒さ、それに抗うためにと人は古来より火を尊ぶ。互いにそちらに依っているのだとすれば、共存できぬ特性でもない。問題としては、トモエが以前試した折には雷と輝き、その特徴であったはずだが。
三冬、冬の雷。どちらにせよ季語となるほどには、組み合わせとされている者でもある。馴染まぬことは、無いはずだと。
「暖炉ですか。窓が無いので、換気が。」
「ああ。」
ただ、問題として、トモエの言葉がある。
現状、トモエとオユキにあてがわれている部屋には、当然窓などない。私室、用は寝室。この屋敷に於いて、守らなければならないもの、それが最も無防備になる場所。そこに簡単に外部と繋がる出入り口等用意されるはずもない。閉塞感をごまかすために、調度を整え、壁には絵画や織物がかけられている。そう言った部屋で火を焚けば、当然の不安として一酸化炭素中毒と言った物が、不安としてよぎる。
「部屋の扉に、少し穴をあけて、風を回しましょうか。一先ずは、オユキさんに向けて部屋を整えて、トモエさんの刀子を確認してと、そう言った順序になりますが。」
「はい、お願いしますね。」
さて、随分とカナリアを便利に使っていると、そう言った思いもトモエとオユキどちらにも湧き上がってくるものではあるが。
「そう言えば、マナの感知が出来るのが第一段階とは伺いましたが。」
オユキとしては、では現在の習得進行度がどの程度なのかと、そう言った話をカナリアに向ければ。
「はい。人族の方でしたら、これが最も大きな分岐点ですから。後は、そうですね。まずは自分の得意な属性に加工する、これを意図的に行う事を覚えるのが次ですね。」
魔術文字の勉強も、その間に並行して行うといいでしょう。そうカナリアが実に嬉しそうに話す。期限に明確な区切りを付けない、それについては魔術が学問の側面が強いという事なのだろう。
「こちらも、習熟には生涯をとなりますか。」
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