憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

紅に

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追加の人員、資材の到着。その管理の一部はオユキも勿論やらなければならない。トモエから連絡を受けて直ぐにという事はもちろんなく、メイとの連携もあるためゲラルドに一先ずはゲラルドに多くを任せてとするしかないこともある。それ以上に町の計画、それに参画しているミズキリも話し合いに巻き込む必要があるとなれば、そう言った業務よりも実にいい口実だと勿論それを優先するものだ。
その前に町の有力者をという話もありはしたが、前日の朝にやり過ぎた手のひらは未だ治るわけもなく、しっかりと包帯がまかれていることもありそう言った席を設ける事が出来ないと、そう言った判断もあるのだが。カナリアに癒しを頼もうにも、マナの消費を考えればそれもできないのだから。

「さて、ミズキリ。まずは釈明から聞きましょうか。」

この町にいる主要人物が揃ったなどという事もなく、ミズキリとオユキ、アベルにメイだけがいる室内でまずはオユキからそう口火を切る。
生憎とトモエは少年たちと外で狩猟に励んでいる。食料の消費速度もきっちりと増え始めているため、備蓄などあって困る事など無い。そこにさらに人が増え、メイが戻ったこともありダンジョン、新しい壁、生活を支える道具、新しい物を作るため、数え上げればきりがないほどの理由で魔石の需要も伸びている。
活動しない理由という物がない。

「トモエは、いなくてもいいのか。」
「ええ。後で私から話しますし、隠したい事は要は話せない事でしょう。私が隠されてあげますので、話せることは自分からと、そうして頂けるとありがたい物ですよミズキリ。」

席次についても、ミズキリ一人を向かいに残りの三人で並んでとなっている。勿論、上下関係なくドアを背にしているのは3人だ。

「全く、何の罪もない相手に。」
「さて、私だけでなくいいように使われた人々は恨みを持ってもしかたないかと。」

もう少し事前に色々とあったのなら、ここまでの事になっていないというのも事実ではある。

「お前が予定をかなり変えたから、ここまでになっているんだがな。」
「ミズキリ、その予定というのは何処まで話せる。」
「既に終わったことであれば。」

アベルからかなり鋭い口調がミズキリに向けられている。

「それは時間もかかります。まずは、ミズキリ。」
「まぁ、そうだな。改めて自己紹介だな。」

そうして何もない手をミズキリが一度見せた上で、握って開く。その手の中には、何とも複雑な意匠を持つ飾りが現れている。

「異邦人でもあるが、使徒ミズキリだ。」

世界樹を中央にこれまでに叩き込まれて覚えた聖印が10個。実にらしい配置に並んだものが。

「となると、生前からとなりますか。」
「いや、制作に関わってはいないな。」
「相も変わらず、と言った所ですね。」

さて、同席している二人がすっかりと頭を抱えてしまったため、オユキがさっさと話しを進める。

「神々に関わる相手は、嘘を付けないとそう思っていたのですが。」
「いや、そんな事は無いぞ。それこそ与えられた役割次第だ。」
「そして、ミズキリの役割は予定の調整と推進ですね。」
「ああ。切り離し周りで、色々と細かく調整がいるからな。」
「他の団員が各地に散っているのは、それもあってですか。遠方との連絡はメンバー間の物を使えば済む話ですしね。しかし、使徒が拠点を、ですか。」

そうとなれば、実に色々と起きそうなものだとオユキがミズキリに強めの視線を向けるが、肩を竦めて返されるだけだ。話す気が無い、それも今この場では実にわかりやすくそう示す物だ。

「異邦人、背景が全く分からぬから問い詰めたところでとは、全くよく言った物だな。」
「ええ。調べたところで、知るべきでない事は伝わらない。言葉にしてもこれまでもあり伝わらないと分かれば、どうにもならない。これから制限が緩くなっていくわけですが、実に都合がいい。」
「本当に、お前らは。」

俺がこれまで見てきたのは、もっと分かりやすい奴らばっかりだったがとそんな言葉が漏れるのが、隣に座るオユキには聞こえてくる。メイに至っては、完全に動きが固まってしまっている。今後のこともあるので、話を聞くべきはどちらかと言えば彼女が主体だが、そればかりは仕方が無いとしてオユキは続ける。
恐らく回答を得られるもう一つも先に聞いておきたいのだから。それによって予定という物がどうなっているか、その予想もつく。

「それと、もう一つ聞いておきたいのですが、その予定に参加しているのはミズキリの目的に係わりがあっての事ですか。」
「いや、そっちは全くだな。」

オユキの質問にはミズキリからもため息が返ってくる。恐らく嘘が無いとそうはっきり分かるほどに疲れた。

「大それたことを望んだ結果だな、その分やらなきゃならんことが膨らんだ。」
「一団をもう一度、その程度でですか。」
「拠点がな。」
「ああ。」

確かにそれをオユキが軽視していたというのは、既に分かった。そして、ミズキリの語るそれ、過去と同じ物を求めるのであれば、一から素材を集めて、どこもかしこも足りないと言っているのに用意しろというのも、使徒としての立場を使えばこちらの人々の配慮は得られるだろうが、それは望むまい。
そうであれば、こちらの人々の暮らしに対してまで手を入れる事は無いのだから。離れた場所で、初めからそうとすればよい。で、あるならどうにもミズキリの目的もと、そこまで考えたところで止めておく。恐らくは達成した先に、過去の拠点がそっくり現れる様な、そう言った類の物であるらしい。道理でオユキの手も今はいらぬと断るはずだと納得のできる物でもある。
勿論、それを口に出したところで、同席している二人には伝わりはしないのだろうが。

「さて、凡そは理解でいました。まだまだ聞きたいこともありますが。」
「聞いてみてもいいぞ。」
「こちらが最低限の回答を持っていなければ、誘導されて終わりますから。」

オユキとしても変わらぬ友人にため息が出るという物だ。

「で、そっちの確認が終わったなら、こっちでも少し聞いてもいいもんかね。」
「ええ。答えられる事であれば。」
「使徒相手に無理に聞き出そうなんて、そんな真似が出来る訳ないだろうが。というか、お前にも護衛がいるか。」
「暫くはこの町から動けませんので、どうでしょうか。」
「おや、ミズキリも強敵相手は好んでいたと思いますが。」

そう、ミズキリとてそれを好んでいたはずだ。一団のまとめ役として、拠点を作ってからはそこから動けなくなっていったが、ダンジョンでその分は大いに楽しんだと聞いている。
もっと動き回り、それも未練の内であろうと、今聞いた事とは矛盾するそれを叶えるためかとそのような予想もあったのだが。

「いや、お前らほどじゃない。今となっては正直そこまででも無いしな。ゲームであればこそ、俺に取っちゃそんなもんだ。」
「勿体ない。」

ミズキリの返答にオユキから本音としての言葉が漏れると、頭の上にある程度以上の力をもってアベルの手が届く。

「分かってるな。」
「はい。」

勿論分かっているとオユキは自信をもって応える。与えられたのは戦と武技、その名が求めを許す物だ。

「で、リース伯子女はそろそろ大丈夫ですか。」

ここまで口を一度も開いていない相手に、ミズキリがそう声をかければ長く重い呼吸の後に随分と歯切れの悪い返事が返ってくるものだ。それを確認したうえで、いよいよ話を次に進める。

「さて、本来の予定であれば現状は3年後でした。」
「現状というのは。」
「この町に手を入れる、河の支流を引く事ですね。おかげでこちらに来る予定の異邦人たちも、少々前倒しで来ることとなります。こちらで把握している相手は少ないので、ロザリア様に聞かれるのが確実でしょうが。」
「ミズキリ、それもですか。」

団員しか、その予定し変わらないような事を言っていたというのに、当たり前のように他も把握している。

「だけといった覚えはないが。」
「ええ、そうですね。随分と私が楽しんでいる、その隙を狙ってくれたものです。」
「お前がはしゃぎまわったせいで、こっちも相応に面倒を抱えてるんだ。」
「じゃれ合いはまた今度にしてくれ。俺だけじゃなくお前らに言いたいことがある人間は、それこそ大量にいるからな。で、いつ、何人だ。どれだけ混ざってる。」

異邦から人が来る、その中には含まれると予想できる危険がある。

「そちらは既に完全に別です。トモエとオユキの働きで、この町は既にその隙がありません。それに、集まったことで向こうに下地もありますから。」
「そうか。」
「降臨祭、それに合わせて祭りを賑やかにするために、四名ほど。後はオユキも確認した私たちの古い知り合いが二人ですね。」

祭り、それを賑やかな物にするには現状この世界に足りていない物がある。芸術、それを発展させる素地が無かったのだから。

「となると、私の方でとそうなりますか。本人の意思確認も必要でしょうが。」
「いや、それが使命だからな。確認しても、承諾される。」

神は人の自由な心を大事にする。だが操作が行えないという事は無い。特に異邦人については、以前今はと言い切ったように、こちらに改めて来るまではそう言った決まりごとの枠の外だ。
勿論、手を入れる事だろう。それが最低限になるように配慮はあるのだろうが。

「で、今度はどんなのが来るんだ。」

またぞろ厄介がと、そう言った口調でアベルが効いてくるものだがそれはオユキにも分からない。

「私はそういった方々とほとんど面識がありませんから、今の段階ではどうにも。」
「ああ、私も流石に直接の面識はないですから。」
「お前等よりは、まともな手合いなんだろうな。」

そう、アベルから問い詰められはするのだが、揃って首をかしげるしかない。芸術家肌の人間がまともかとそう尋ねられて、一体誰が簡単に首を縦に触れるというのか。
そして、そんな二人の様子にまたもため息が部屋に零れ落ちる。
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