憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

赤く色づく

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世界そのものの難易度が上がる。
魔物が増える、その結果として少年たちは移動の最中にも見落としていたが、魔物のの分布も勿論変わる。そこに生存競争の有無が存在するのか迄は判断できるものなどではないが。始まりの町、その周りでもこれまでは少し離れなければ、たまに森から出て来るだけだった魔物というのも勿論出て来る。
そして、難易度を上げるのではなくこれまで下げていたものをそうしない、その結果として少年たちが大いに対応に苦慮している。普段の顔ぶれから、抜けている相手もいるのだ。

「アン。先に数を、って、そうか。パウ。」
「ああ。分かっている。」

王都で見た群れ程の難易度は当然ない。それどころか領都で間引かなければ、それに比べても数は少ない。ただ、十分以上の魔物はいる。

「シグルド君。」

そして、対処に追われれば今の少年達では、これまでしていたことも当然満足にできなくなる。丸兎を立て続けに切り捨てグレイハウンドの爪と牙を払う。そして、その間に己の持つ刃の確認などできる訳もない。
一振りで切り捨てた相手が、次第に手数を掛けなくてはいけない。その認識は確かにあり、それが焦りに繋がって結果徐々に動きは雑になりその結果として軋轢が。なかなか見事な悪循環に陥るという物だ。それを無理に払えるだけの身体能力をパウが持っているために、一度力技でパウがこじ開けシグルドが改めて整えてと、対処としては上手くいっているものだが。

「役割分担としては間違ってはいないのですけど。」

トモエから見ても、これ以上は過剰になると。未だに比べるべくもない子供たちが申し訳なさに委縮したのを見て取って、トモエが一度片を付ける。

「一度下がりましょうか。」
「ああ。あんがとな。」

そして、そう言ったそぶりを見せれば、タルヤを始めとした護衛が周囲一帯を薙ぎ払ってくれるのだから、何とも甘やかされている。トモエとしてはそう感じる物でもある。己を戒めるために、指輪をはめてということもあり護衛が警戒を強めているのだろうが。

「やっぱ、まだまだだよなぁ。」

結界の中まで手早く退避した。それが許された理由にも、勿論気が付いているものだ。向けた視線の先では、ファルコとオユキが頼んだ治らぬ怪我を持った相手が、護衛が作る安全地たちとなったそこで、残さざるを得なかった魔物からの収集品を拾い集めてくれているのだ。
取り分、如何に利益を分配するか、それについてはどうした所で都度話さなければならないのだが、寄ってくる魔物にしても少年達よりも遥かに危なげなく対応ができる相手なのだ。そう言った相手に雑事を頼む、それに対して猶の事少年たちは思うところがあるという物だ。

「いつもより少ないしな。」
「つっても、これまでよりも簡単な場所だしな。俺らがガキども見るのは、難しそうだな。」
「ああ。手を引かれているものが手を引くのはな。」
「状況に対する慣れ、それが生まれればまた変わりますよ。」

門からそこまで離れていない場所でもある。今は護衛の手によって、狩猟者を目指す者たちが鍛錬の場としている場所に向けて、魔物が追い立てられている。
そして、そう言った様子を見ながら、これまでにもよくあったように草原に腰を下ろして、改めて装備の確認をじっくりと行っている。

「こうなると、騎士がしていたように、己の体も盾に、その意味が分かるな。」
「はい。その、パウさんだけじゃなくって、シグルドさんにも。」
「ま、今は俺らの方が強いんだ。出来る事をやっただけだからな。」

血と脂を布で拭いながら、装備の確認を各々行う。これまでの経験もあり、中央にはきっちりと飲み物や食事も広げているため、血まみれの武器や、返り血に濡れた様子を覗けば秋を感じさせる高い青空の下、まさにピクニックといった様相だ。

「あー、やっぱ、こうなるよな。斬るときの手応えははっきりと違うってのに。」
「斬れば、どうした所でそうなる物ですから。」

そして隠す汚れを拭えば、その下に生まれた刃毀れというのが目立つという物だ。

「トモエさんも、ですか。」
「そうですね、今は質の低い物を持っているのもありますので。」

溢れの熊、それを主体として作ってもらった太刀も既に日々の手入では隠せないほどの疲労がたまっている。領都を離れる前に、なんだかんだとトモエとオユキも少年達からお礼にと貰った新たな奇跡と共にウーヴェに預けてきている。神授の太刀もあるにはあるが、それはオユキに与えられた物であるし、そもそも日常で使うような物でもない。大会に置いて、トモエがオユキを最も警戒した部分でもある。今できる全力で立を合わせ、最後は首を貫いたというのに、欠けも無ければ曇りもないほどの刃なのだ。
時間のある時に、オユキから借りたトモエは、日が暮れるまで刀身を眺めたりもしたものだ。

「ま、それもあって買い込んできたわけだしな。でも、あれだよな。」
「ああ。間もなくと聞いている。」
「ああ、そうですね。後続の方もそろそろ来られるでしょうし。」

この町の代官。この長閑な町に最も積極的に手を入れられる相手がどうしているかというのは今となっては、少年たちの方が良く話を聞いている。そこに含まれる思惑や計画の全貌などは、トモエでも彼らを超えられるものではあるのだが。

「用水路も引いていますしね。私としても、実に有難い事です。ただ。」

それについては、トモエとしても懸念が一つある。

「日用品、そちらにある程度回すでしょうから。」
「オユキからも、そうい話があったんだってさ。なんつってたか。」
「魔石の確保、狩猟に割く時間が増えれば日々の生産力を上げるために求められる、だったか。」

子供たちにしても、メイの言葉をただ頭の中で繰り返しているようで、よくわからないとそう言った風ではある。

「やはり、お腹がすくでしょう。そうなると料理する量が増えます。手間を減らそうと思えば。」

そう、道具がいる。

「最も、その素材を求めるにはダンジョンと、そう言う話になり、それを用意するためにはとそうなるのですが。」

鶏が先か、卵が先か。
そう言った話にさらに何回となり出口の見えない問題に、子供たちが渋い顔をする。

「大丈夫ですよ。今は忙しなさが生まれますが、少しすればこれも日々の事です。畑仕事と変わりません。」
「あー、それも、そうか。」

確かに見た目としては目新しく、難しく見えるのだろうが。一次生産という意味では何ら変わりない。
畑に種をまき、作物を育てる。それを人が行うのであれば、その対価として利用したエネルギーそれの回復は収穫物で行われるものだ。その効率を上げるために、知恵を絞り行ってきた。そう言った身近な例、専門とする相手からは暴論ともとられる問題の整理だろうが、理解の為には都合がいい。
それこそ、詳細な違いが知りたければ、その先で行えばいいというのがトモエの教育方針だ。

「食べるために、食べ物を育てて、そのために食べ物を食べるんですもんね。」
「ええ、そうですよ。」

そうして話していれば、武器の手入も終わり、用意しておいた食料に次々手を伸ばすことになる。勿論、王都での騒ぎに比べれば落ち着いた物ではあるが、体、その成長の為と考えれば当然必要な量も相応だ。重たい武器を振り回し、全力で動き回ってもいるのだから。

「それにしても、あいつらには悪い事をしている気になるな。」
「そうですね。差は生まれるでしょうが、それは鍛錬に時間を使わない、そこでもありますから。」

パウがそう呟けば、時間があるからとついでにトモエは言葉を作る。そもそも勘違いがあるのだ。

「差などという物は、既に十分以上に有りますよ。シグルド君とパウ君で比べても、同じことは出来ないでしょう。」

加護、経験。それ以上の差異など生まれ持った段階で、それまでの成長過程でいくらでも生まれて来る。

「今のこれをそうというのであれば、それすらも申し訳なさを感じなければいけません。」
「そういや、そうだな。リーアも魔術覚えたし、俺らはまだだもんな。」
「ああ。そうだな。これで奇跡で差がつけば。」
「そうですね、神様に認められ、あの子たちも教会で各々努力をしているのですから。寧ろ余計な遠慮となり、差が開くことになるかもしれませんよ。」

悪戯気にトモエが笑いながら話せば、少年たちがそれに対して気持ちを入れ替え、奮起する様子を見せる。ただ、それをくじかなければならないのも、指導者ではあるのだが。

「さて、食べ終われば、戻りましょうか。」
「あー、そういや、そうだよな。」

拾い集める事を他人に任せているとはいえ、その納品であったり手続きであったり。それについては彼らがギルドでお紺わなければならないのだから。

「私も、自分の分は集めていますから、それも修めなければいけませんからね。メイ様からは、何か預かっていますか。」
「ああ。魔石とか、その分配だっけ。手紙預かってるな。出る前に渡したほうが良かったのか、そう言えば。」
「いえ、そうなるとそこで確認をする時間も生まれますので、私たちとしては後の方が正解ですね。返事をする必要があれば、皆さんが頼まれなければなりませんし。」
「まぁ、そうなるか。教会でも返事の手紙は色々と受け取ったからな。」
「そうだな。それに先に渡せって事なら、そう言われるか。」

荷運びを頼んだ相手も、既に町へと戻る流れを作っている。そこまで長い時間ではないが、成果もそれなり。寧ろ、子供たちが食べ終わるのを待つように、かかる時間を調整するそぶりも見せていた当たり、動きに明らかな問題は感じる物だが、経験の確かさが変わる物では無い。おおよそ今のトモエでは想像もつかない魔物の相手を、人里離れた場で行い、結果として間に合わなかったとそれは聞いた物だが、用はそれが元来できる人物達でもあったのだ。

「まだまだ、及ばぬ相手の多いものですね。」
「そういや、あんちゃんの目標って、なんかあんのか。」
「私が終わる時まで、これを磨き続ける事でしょうか。前もそうでしたが。」

聞かれたことに、鞘に納めた太刀を軽くたたいてそう告げる。目指す先は確かにあれど、近い目標も置いてはいるものだが。終わりが無い道を歩く、それを決めて随分と経っている。今更迷う事などありはしない。その矜持を込めた返答に苦笑いが返ってくるのは、まぁよくあるものだとトモエも納得済みだ。
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