憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

柔らかな時間

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「本日迄、良くしてくださったことに改めて感謝を述べるとともに。明日からも続く苦労、それをどうかこなして頂けますように。」

時刻はすっかりと日が失せ、月が照らす頃。オユキが音頭を取った上で、宴席が設けられる。
当初は庭をと、そう言った話もあったのだが、耳目がある。室内、広間を使い、ここまでの間手間をかけた相手を集めた上で、そうなった。室内については、カナリアが対策を取れるということもあったのだから。
そして、一角では未だに調理用の設備が最低限しかないため、道中役にたった屋外用の調理道具が活躍している。それを使うのは、未だ数の少ない使用人と、トモエによるものではあるが。

「正直、なめてたな。」
「団長も、勿論私たちの誰もが。」
「こっちに来て一年もたってない、それを考えなきゃな。」
「それは、確かに。」

オユキとアイリスは、広間の中、一段高い場が用意され、そこに座っている。隣にはメイの代わりにと、ある程度、こういったものに慣れのあるファルコも連れてこられてはいるが。料理、その段、他にも必要以上の量。それらをトモエは一時間に満たずに用意して見せた。森の一角、それは当然のように一刀で薙ぎ払って。

「技、加護の無い状態で、ですか。」
「戦と武技の神、その言葉もあるからな。訓練、その形は色々とあったと、そう言う事なんだろ。」
「団長も、彼の神より授かったとか。」
「ああ。流石に仕事もある。付ける場面が難しいがな。」

木材だけでなく、今もせっせと20人程の人員、それに向けて料理を要している一角を見た上で、アベルは改めて己の評価を改めていく。木材だけではない、この人数の食事、それを支える食肉にしても、当たり前のように短い時間で用意されている。
最も、そちらについては王都で散々目にしたものだが。

「トモエ様、こちらは。」
「タルヤさんも、お手伝いいただき有難うございます。そうですね、皆さんよく食べられますし、もう火にかけてしまいましょうか。」

流石に調理の手が足りていないこともあり、馴染んだ宿にも頼み、いくらかの品は既に用意している。採ったばかりの木材にしても、頼めば実に手早く木串に代わり、それに今もせっせと切り分けた肉や野菜を刺している最中だ。
併せて、手に入れた鹿肉など、少し手の込んだ料理はトモエが担当しているが。

「人が足りない時は、私どもも手を貸すことはやはり。」
「下級の使用人、そちらの手配は遅れると、メイ様からはそのように。」
「そればかりは。狩猟者や傭兵の方であれば町の移動も簡単ですが。」
「ああ、その辺りもありますか。」

そうして、あれこれと話しながら次々と料理を完成させ、それをシェリアとラズリアが、立食形式であるため、数か所に置かれた机、そちらに運んでいく。

「トモエさん、料理出来たんですね。」
「カナリアさんも、どうぞ楽しんでくださいね。色々と手を頂いていますから。」

そしてカナリアにも、色々と手間をかけている。

「いえ、対価は頂いていますし。素材の調達も行って頂いたわけですから。」

そう、トモエの持ち帰った木材、その用途は実に多い。調度、仮の物となるがそちらにしても、祖霊から言いつけられた鳥居にしても、馬車にしても。
特に、馬車は実験も含めて、カナリアが大いに消費するのだから。食肉、その乱獲の際に手に入れた魔石についても。

「こちらは、洗浄が終わってますよ。それと氷と、水も足しておきますね。」

最も、今はこうしてトモエたちと同じく、調理その雑事に大いに手を借りているのだが。

「ありがとうございます。タルヤさん、こちら徐々に硬くなっていきますが、混ぜ続けて頂いても。」
「はい、分かりました。」

改めて、魔術とは便利な物だとトモエがそんな事を考える。こちらで手に入る木材は、領都と異なり都合の良い物では無い。加工が必要な物だ。だというのに魔術であれば、立ち上る煙も、生木に火をつける事も実に容易く行われるのだから。

「カナリアさんも、負担が過ぎるようでしたら。」
「いえ、流石にこの程度の魔術では。使い続けても、マナが不足して体調不良お覚えるよりも、先に眠気に負けますよ。」
「それは、凄まじいですね。」
「生憎、戦闘は得意ではないですから。」
「以前、氾濫の時に。」

カナリアは重症、その回復の為戦闘には不参加であったはずだが、他の物は広域に影響を大いに与えていた。それを思い出しながらトモエが疑問をそのまま尋ねる。

「得られた魔術文字、次第ですね。私はどうにも、攻撃的な文字とは相性が悪くて。」
「属性ばかりという訳では無いのですね。」
「そちらは訓練すれば身に付きますから。」

料理の手は止めず、そうしてトモエはトモエで色々と話をしながらも、賑やかな場を楽しむ。オユキの方も、嬉しそうにはしているが、気楽なものとなり切らないのは仕方がない。改めて挨拶を受けなければならないと、そう言われてもいるのだから。

「これまでは、お名前を伺う機会も持てず。」
「いえ、神々の使命、その道行であれば我ら等まさに些事、そのような物でしょうとも。」
「どうぞ楽に。公私、それは求めますが、私的な場では異邦の者。こういった振る舞いに、慣れているわけではありませんから。」
「私にしても、まぁ、知ってるでしょうけれど長はいても、後は変わらないもの。」
「は、ご厚情誠に有難うございます。」

そして、オユキとアリスは並んで椅子に座り、一人づつ順に挨拶を受けている。まぁ、よくある主催と招待、その関係という物だ。そして、不慣れな部分を補佐するために、それぞれにゲラルドとファルコがついているのだが。

「教会、あちらについても。」
「詳細は未だに伺っておりませんが。」
「来週には、外に出すらしいわ。」
「神々の奇跡、不埒物がいるとは思えませんが、事故があっては誰も喜ばぬことになるでしょう。私共が得た使命、それに対する一助として。」
「畏まりました。しかし、流石に人数が。」

既に川沿いの町、そちらにも無理を頼んで人を置いてもらっているのだ。こちらにまで来ているのは、僅か。

「それについては、数日中にリース伯爵子女から、正式に通達がある。」

ファルコから、そう補足が入れば、内容は聞かずともわかるという物だ。それこそ公爵が領都を離れる前に、連絡を入れているだろう。人員の選定、その時間はあるだろうが、足手まといがいなければ移動は早い。特に、第二騎士団は。それこそ、用意できる相応の数というのが、来ることだろう。王都までまた運ばなければならないものが有る、その護衛までを含めて。

「かかる苦労については、申し訳なく。しかし、どうにか増員が叶うまでは。」
「は。畏まりました。」

最も、外に出す、その前には増員の一部、特に急ぎの者達はたどり着くだろうと、オユキはそうふんでいるが。そうして一言二言、口上以外の部分に言葉を交わしながら、順に顔を合わせていけば、それも直ぐに終わる。
本来であれば先になるはずの、アベル、近衛、それらが後回しになったことについては、互いの理解はあるとはいえ、一言謝罪から始まりはしたが。

「お二人にも、色々と。」
「いえ、色々と、こちらこそお手間をかけていますから。」

様式としての事が終われば、オユキとアイリスも食事を楽しみつつ、のんびりと会話をする。他の者達も思い思いに食事をしている中、席について、ファルコ、アベルと共にとそうなってはいるが。

「ま、どうしたって手がいるからな。にしても。」
「はい。この場にいる皆さんであれば、問題は無いでしょうが。」
「そりゃな。」

オユキはまず、最も詳しいだろうアベルに確認を取った上で、ファルコに話を向ける。

「ファルコさんは、先に来る方々と、後続、その人数については。」
「既に出立している第一陣、これが15名というのは伺っていますが、後続は、話を詰めなければならないとか。」
「余所にも出しちゃいるだろうが、数は十分だろ。いや、そうか。」

そして、アベルが、何やら訳知り顔で頷く。

「新しい教会、そちらもですか。」
「それは、確かに必要でしょうね。」
「それだけじゃなく、前の領都、そこと同じでしょう。」
「その前は報告だけでしか知らんが、今回はアイリスが正解だな。」

言われて、オユキも思い至る。これまで荷を運ぶ時には、何かと急いでいたが、今回についてはそもそも期限の指定が無い。ならば、その必要もないという事だ。
用は神授の品、それを粛々と運ばなければならない。

「そうなると。」
「実際にどうなるかは分からんが、それなりの規模にはなるわな。」
「また、時間がかかりそうですね。」
「仕方ないだろ。道中で布告しなきゃならんしな。」

そうして、揃って話をしていれば、いい加減に食事を進める手、その速度も落ち着きを見せる頃になる。今となっては、それこそ領都で買い込んできたチーズを、適当に切った物や、余所から求めたスープなどをそれぞれに突きながら、酒が進んでいる。

「どうぞ、オユキさん。」

そして、手が空いたトモエも作っていたものを片手に合流する。

「ありがとうございます。」

受け取ったのは、オユキにしてみれば実に見慣れた品ではある。冷却をどう叶えたのかと、一瞬それを考えもするが、そもそも瞬時に樽一つを凍らせる、そんな魔術の使い手がいるのだ。
その人物も、揃って席に着く。

「私は、あまり料理に使いませんが、こうして面白いものが出来るなら、もっと試してもいいかもしれませんね。」
「氷、知っているものと全く働きが違ったので、私も驚きましたが。」
「それこそ魔術の組み立て次第ですから。」

オユキは出されたそれの攻略に集中しすぎないように気を付けながら、ジャムを彩に足されたジェラートを口に運ぶ。甘さは砂糖では無く蜂蜜によるもので、王都で口にしたものとは違うが、これもまた美味しい物だ。

「トモエも、手間をかけたな。本来なら使用人の仕事だが。」
「いえ、移動の間もそうでしたが、私も好きでやっていますから。」
「あ、美味しいですね。本当に。それと、私としても木材も銀も潤沢にあるので、まずはこれくらいの小箱から試せればと。」

そうして、近衛や護衛、そう言った人物達も入れ代わり立ち代わり。生憎と席が足りないため、周囲でとそうなるが。興味のある話には断りと共には言ってくる。どうした所で、今いる使用人はこの後の片付けなどもあるし、飲み物の用意もあるため裏方仕事を今も頼むことにはなっているが。
それこそオユキが眠気に負けるまで、あれこれと話が飛びながらも、賑やかな時間が続くこととなった。
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