憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

日常は夜に

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とりあえず。それに留まっているが、明日以降の確認を終えた。結局のところ、翌日はあくまで報告と確認に終始する。その程度の事しか、決められなかったともいうのだが。
アベルはメイと話を詰め、オユキとアイリスは教会で祭りの段取り、トモエは訓練の下準備、そう言った役割分担だけが、改めて細かく確認された。その後は日々の雑事を改めて行えば、良い時間となり、今は寝室にトモエとオユキが揃ってとなっている。
どうにか簡単に整えられた部屋、その四方にはカナリアの協力により、氷の塊がしっかりと置かれ、室温はかなり下がってはいるが。

「少しは、楽になりそうですか。」
「生憎と。」

そもそも即効性があるかは疑わしい物なのだ。とにかく試す、少しでも回復を早く。そのための処置でしかない。

「こちらでも酪農はされているようですから、明日以降、氷菓なども作ってみましょうか。」
「そうですね。試せることは、試してみるのがいいでしょうから。」

氷それが用意できるなら、作れる物も多い。それこそ協力の願いは、快く受け入れられたのだ。直接冷却、そういった事も頼めるだろう。今の所、カナリアは手が空いているのだから。勿論、新しく得た魔術文字、その研究は行っているのだが、実践には必要な物が大いに不足している。手土産として持ち帰った短杖、そちらの方であれこれと試してはいると聞いているが。

「トモエさんは、寒くありませんか。」
「ええ。思った以上に。」

そう応えるトモエにしても、不思議そうではある。

「やはり、感じ方、そう言った物に大きく違いがあるようです。」
「実際にそれが体調に、いえ、どう感じるか、感覚器官としてのそれが異なっている、それを考えれば当然の帰結となるのでしょうが。」

就寝前、二人そろって短い時間、簡単に瞑想などもした。ただ、それもすぐにやめて、こうしていつものように揃ってベッドの中、頭を並べている。長くやるには、旅の疲れも残っており、なんだかんだと動き回った結果として、オユキの方でも体力が限界に近かったというのもあるのだが。

「こうして、少し慣れたと思えば。」
「そうですね、分からぬことが増えるといいうものです。」

そう、オユキとトモエ、共通する感想というのは、そこに尽きる。

「元より、そう言った物と、そう言えるのでしょうが。」
「色々と、手を借りる事がここしばらく多かったですから。」
「厚意にどうしても、甘えざるを得ない事ばかりですからね。」

神々から、こちらの世界で暮らす人々にとって、最も優先すべき事柄。それに基づいての事ではあるが、それにしても。
結局のところ、それらが起こるのは、トモエの目的、神殿の観光。それが念頭にある物なのだから。尽くが、自業自得そうなるものだ。そして、今回、こうしているのも。

「改めて。」
「私の方は、問題は無い。そう言いたくはありますが。」

直ぐとなり、トモエからは軽いため息が。

「まだまだ、体に違和感も多いですから。」
「もっと早くなれるかとも思いましたが。」
「常に気を張って動かす、そう気を付けてはいますが、やはりこれまでの慣れ、それは大きいですね。加護の有無、それでも大きく変わりますし。」
「狩猟をするたびに、更に少しづつ変わりますからね。」

以前と比べ、あまりに急に力がつく。その弊害として、小さな違和感、そこまで進めた物がまた大きくなる。加護を抑えた状態であれば、それなりに慣れた、トモエとオユキもそう言えるのだが。
では、授かった指輪を外せばどうかと言えば、無論慣れるはずもない。少年達はそもそもこちらで生まれて、それが当然となっているのだろうが、そうでは無い異邦の身の二人。日毎変わる能力は大いに持て余している。

「先の試合、それと逆の言葉を掛けられてしまいますね。」
「あちらは、危険が無い、その上でだったのですが。」
「今回も、そこまでではありませんよ。アベルさんも参加されますから。」
「守っては頂けるでしょうが。」
「あくまで試しです。あまりに不足があれば、嗜めるために怪我はさせられるでしょうが。」

軽く考えての事ではない、それはオユキにもわかるのだが。

「オユキさんも、最後まで、諦めないのでしょう。」
「それは、そうですが。」

そう、こうしてどうなるともわからぬものに頼っているのも、結局のところはそれが有る。やむを得ない事が有る、それは分かっていたとして。出来る事、試せる手があるのなら、目的達成のために試すという物だ。
危険が無い、それが分かっているならともかく、そうでは無いかもしれない。その可能性は何処まで言っても否定できない場なのだ。そこにトモエだけ、それをただ享受するオユキではない。

「ただ、鍛錬の時間、それは。」
「はい、流石に減ります。」

またぞろ余剰が出来てしまえば、そこに何か押し込まれるのではないか、そう言った不安も確かにあるが。それ以前の問題として、回復に専念する、マナの感知、そう言った物に大いに時間を使うとなれば、体を動かせる時間は減るという物だ。

「少なくとも、ある程度のだるさが抜けたら、庭先で体を動かす時間は持ちますが。」
「そうですね、外でなければ問題も少ないでしょうから。」
「はい。職務があるとはいえ、鍛錬の理由もありますから。」

あくまで得たのは、戦と武技、その名のもとに。
ある意味で言えば、それも仕事、そのようにも捕らえる事が出来るものだ。

「それにしても、アイリスさんの祖霊、名前はここでも出さないほうが良いのでしょうが。」
「どうなのでしょうか、彼の神の御父上、そちらについては聞き取れていないようでしたが。」
「由来を考えれば、それこそ戦と武技では。姉、そう直接呼んでいる柱の数も合いますし。」
「であれば、姉が二人、創造神様は分かりませんが、月と安息の神は、成程と、そう思えるものですね。」

ただ、そう言った分かりやすい方向に、思考を誘導しているのではないかと、そのように二人して邪推をするものではあるが。

「まぁ、そちらは置いておきましょう。それだけという訳でも無いでしょうし。」
「そうですね。人の考えた物、それが根底にある以上、着想を得たのだろう。その程度がちょうど良いかと。」
「では、話を戻しますが。」
「流石に、彼の神から継いだ武、想像がつくようなものでは。」

トモエとしても、ただそう応えるしかない。文字通り、神話の出来事。見たものなど誰もいない。

「奉っているとされている場所も多かったと思いますし、奉納演武も、それぞれでしょうから。」
「まぁ、そう言うものでしょうね。名が体を表す、それを考えれば、荒れ狂う暴風の如き、そうなるのでしょうが。」
「武、人が知を凝らして育んだもの、それが無い時と考えれば、暴、そう言った物でしょうが。」

ただ、それにしても先の予想と比較してしまえば、否定はされる。
数度切り結んだ、その柱らしき相手は、実に多くの武を修めている。それこそ、二人が見覚えのない、そう言った実に多くの。

「短い時間でしたが、所作を伺う限りは。」
「ええ、非常に整っていました。試しとして、どういった形になるか、それ次第でしょう。」
「勝つことは。」
「枠組みの中で、それを考えれば、あり得るかもしれませんが。」

そう言って、トモエがただ苦く笑う。

「人知の及ぶ方々では、まぁ、有りませんよね。」
「はい。それにしても、金に輝く様子を見た折に、ああ、成程とそう思った事が直ぐに成るとは思いませんでしたが。」
「確か、尾に纏わると、そのように聞いたこともありますが。」
「実る程、それを遠目に見れば、ああなる程、確かにその様な感想を得た物です。」
「言われてみれば。」

そうして二人、何とはなしに話の方向を変える。今後、あまり日があるものでもないが、近づけば否応なくそちらに林が及んでいくからと。

「祀られぬ神、それをこちらでも奉っていくのでしょうか。」
「鳥居の用意を言われていますから、社くらいはとも思いますが。」
「こちらの方は、ご存じなのでしょうか。」

恐らく、祭りの場、それとして四方に立てるのだろうが、それに付随すべきとでもいうのか。本体というのが正しいのか。神職では無かった二人では、それが解るはずもない。

「その辺り、アイリスさんはご存知だと良いのですが。」
「無い、わけでは無いでしょうが。今後広げていくことも考えると、アイリスさんも忙しくなりそうですね。」
「どうでしょうか、豊饒を司る神、そちらはおられるわけですから。」
「思えば、マルコさんが蛇神、それを口に出していた以上、いるのだと、そう分かりそうなものでしたね。」
「獣人は、祖霊を降臨祭で個人的に、アイリスさんもそのように言っていましたから、これを機会に色々と話を聞けるのでしょうが。」
「以前話した、本来の流れ、それを思えばという物ですね。」
「その辺りは、明日にでもミズキリさんに聞くのでしょう。」

そう、明日からの予定、それにはミズキリの事も含まれている。
特に予定、それにある程度関わっているだろうミズキリ、そこから話を聞かない事には、推測ばかりの事が多く、早めにと、そうなるという物だ。

「二つは、お答えいただけるとのことでしたが。」
「一つは、先にも言ったように、既に前倒しになった部分でしょうね。」
「確かに、それを話すのに、障りはありませんか。」

既に終わったことだ。それを聞く分には問題ないと、そうされるだろう。そして、本来のその流れと対比したうえで、今後何を行う予定だったかを考えればよいと、そう言うものだ。

「もう一つは。」
「私としては、今後の事、ミズキリの目的、そう言った物を明らかにしたくはありますが。」
「そちらは、答えて頂けないと。」
「はい、返答を得られるのは確認だけでしょうね。知った顔が、知識と魔、そちらで私たちを待っているでしょうから、それが誰かと。」
「橋を架ける、片側からばかりとも行きませんか。」
「対岸を見ることは叶いませんでしたが、勿論両国とも準備のいる事でしょうから。」

今日確認した元団員、同僚、その名前を思い出しながら、オユキも検討を付ける。恐らく、そう思う顔というのはあるものだ。構造、それに詳しくなければ、どうにもならないものではあるのだから。

「となると、ミズキリさんは最初に来たのでしょうか。」
「それも応えては頂けないでしょうね。確認できたのは2年前、そこまでしか分からないでしょう。」
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