憧れの世界でもう一度

五味

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12章 大仕事の後には

門番さん

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まずは代官であるメイと、領主一族のファルコとリヒャルトが手続きを行う。
冗談じみた量の荷物もあり、後送されるものもある。それに初めてこの町を訪れる者も多いのだ。手続きはやはり多い。

「あんちゃんから見て、あいつらどうよ。」
「最低限、と言った所でしょうか。やはり身長と体重が。」
「オユキも気にしてるみたいだけど、それってそんな変わるもんか。」
「ええ。あの子たち、武器を振るたびに体がそちらに流れているでしょう。武器の重さに耐えられるだけの体が無ければ、やはり振ること自体が難しいですから。それを御する術もありますが。」
「あー、あれってそういう事か。」

門の外、そこに用意されている明らかに練習用と言った区画。年かさの人物がそちらに丸兎を連れて来ては、一人が武器と一緒に体を振り回しながら、どうにかと言った様子で狩猟を行っている。

「でも、トモエさん、私たちでも出来る様にしてくれましたけど。」
「それができない方々が、見ているのでしょう。せめて持ち手と足幅、それを直してあげるだけでもだいぶ変わるのですが。」

トモエとしても、現状の理解はある。口を出したい、手を入れたいという思いはあるが、流石に見守るにとどめている。既に断っている相手が相手だ。どこの誰とも知れぬ子供、それを先にと言うのもやはり難しい。頼まれたならば、狩猟の最中でと言う事ならまた話も変わるが。

「えっと、それがオユキちゃんでまだできない事、何ですよね。」
「流派の枠組みであれば、代理を名乗るにも印可を得てからですね。目録には記されていない事も多いですから。」

のんびりと、一部ははらはらと様子を見守っていれば、ようやく順番が回ってくる。門の周囲については、ラザロが指揮を執る騎士達が傭兵と共に配置され、魔物が近寄ってくることが無い。そうして後進達の様子を見ながら、あれこれと話す。既に今となっては、少年たち、子供たちにしてもこの町の壁の側、丸兎しか出ない場では、油断をしたところでどうという事もない。

「俺達も少し前までは。」
「いえ、日々の最低限それは見えました。」
「正直、そこまで変わらないかなって思いますけど。」
「確かな差はありましたよ。ファルコさんとあなた達、その差があるように。」
「ファルコも、スゲーよな。俺らが訓練で疲れても、あいつ他の仕事も平気でやってるし。」

個人差はある、境遇、才覚とて与えられた物、得た幸運だ。そしてそれを伸ばした、その事実をただ褒める。

「ええ、確かな訓練、その成果ですから。皆さんもかなり伸びていますよ。」
「まぁ、流石にな。」

五人そろって丸兎を追い回していたのも、実に昔の事のようだ。そして、その頃は、彼らとて今見ている相手とそれなりの差はあったが、まぁそれこそその程度だ。トモエとオユキ、そちらの視点で物を見れば、ファルコにしても少年たちと大きく差があるわけでもない。五十歩百歩だ。それこそあと半年もあれば、横並びになるだろう。
どうにも、加護の得かたと言えばいいのか。理外の強化、それにしても個人差が激しい物であるらしい。
トモエは指導をする立場として、オユキと話し合いを持ってはいるが、オユキにしても分からない物なのだ。そもそも、過去判明したこともあまりに少ない。
今は、余剰の功績、恐らく得た物のごく一部が溜まる器を持っているものもいるが、それにしても気が付けば色が減り、薄くなりと言った物だ。どうにも日常のあちらこちらで消費されているらしい。
恐らくそれも含めて身についたという事なのかもしれないが。
そんな事をしていれば時間も立ち、ようやくオユキ達が町に入る段となる。

「なんだか、帰って来たなって、そんな感じがするね。」
「ね。領都の時もだったけど、少しなのにね。」

壁を超えれば、少女たちがそう話し始める。

「あー、お前らからも代表者を出してくれ。」
「なら、俺か。」

いよいよ町に入ったこともあり、本格的に気を抜く少年たち相手に、アベルが声をかける。

「代表者だったら、俺か。」
「坊主は、なぁ。よく話に交じる嬢ちゃんの方が、いいかとも思うが。」
「ってことは、なんか手続きが有んのか。」

彼らとて、後から来る荷物もある。そして今後はメイの麾下だ。今回も、どうやら流れを教えるためにと、それが用意されている物らしい。

「一度全員知っておくのがいいでしょう。」
「ま、それでもいいか。少々手狭になるが。」
「お、そうか、あんたらも一緒に戻って来るよな。」
「アーサーさんも、お久しぶりです。」

聞こえる懐かしい声に、トモエが応える。

「ああ。久しぶりだな。にしても、さっき色々と話だけは聞いてはいるが。」
「こちらでも、色々と変わりがあったようですが。」
「この短い期間で色々と、な。やっぱり旅はいいな。そっちのガキどもも、少しは使い物になってるみたいだしな。」

いいながら、アーサーが無造作に少年たちに威圧を行う。以前は何やら居心地が悪そうにするだけではあったが、今回はそれぞれに動き出す。

「そこまでにしておいてくださいね。」

シグルドとパウが真っ先に前に立ち、武器に手をかけたところで、トモエが割ってはいる。

「気が付けるようになっちゃいるが、まだ流せないか。」
「まだまだ、鍛錬が足りませんから。」
「それもそうだな、まだ半年ほどだ。ま、今後もこの調子でな。さて、それじゃ必要な手続きだな。」
「お、おう。」

さらりと剣呑な気配を収めたアーサーについて、トモエとアベルを先頭にぞろぞろと連れ立って歩く。
門番が過ごす一角は変わっていないが、門前がそれなりに変わっている。なんだかんだと門をくぐる迄にも距離がある。荷物の確認もあるのだろう。メイが先に持ち帰った武器、公爵から預けられた物品の一部は、このまま門番であったり、駐屯地に回すことになる。それもあって、まだ馬車は進んでいないため、迎えに来てくれたのだろうが。

「あれ、そういやオユキは。」
「オユキさんは、今後は使う側ですから。そして皆さんは使われる側です。」

オユキの方も、流石に旅装だが馬車は相応に豪華な物だ。戦と武技の神を表す紋様もしっかりと入っているため、いやでも目を引いており、そこから降りて来てはいない。
今は内部で、改めて明日からの予定を話しこんでいる事だろう。家の差配は任される、そうトモエは聞いているが、要はそれが必要なほどにはあれこれとあるのだから。

「それって、なんか変わんのか。」
「その辺りを、ご説明頂けるのですよ。」

流石に、トモエにも理解がある範疇ではある。

「お前らも、今後は代官の指示でと言う事も増えるからな。その時は狩猟者としてだけって訳でも無いのさ。」

アベルから、そう付け足された上で、ぞろぞろと守衛室に入っていく。それなり以上に広い空間ではあるが、流石に手狭な物になる。それでも全員が入り、一角を空けておけば、馬車がようやく空いた場所に一台入ってくる。
そして、ようやくオユキも降りてそこに合流する。

「よくぞ、無事お戻りになられました。」
「心強い方々が、周囲を固めて下さっていますから。」
「正式なご挨拶は、また機会を頂けますよう。」
「私どもの暮らす場も、ここからほど近いとか。整うまでは、それこそお力添えを願うこともあるかと。折を見て、改めて話をする機会を頂ければ。」
「畏まりました。」

恰好ばかりはどうにもならないが、一応はオユキも公の場として振舞う。
そして一声かけた後は、早々にまた馬車に戻される。生憎と、オユキがそこにいれば、他の者達に説明をと、そういう訳にもいかなくなるものであるから。

「で、だ。大抵はあんな感じで、挨拶だけに出てきたら、残りの手続きをお前らがやることになるわけだ。」
「あー、それってねーちゃん、いや今はもう代官様か。それと一緒に動いてる時だけじゃね。」
「本人が同行する用事ばかりじゃないからな。で、これまではお前らの身分証だな、その確認だけで終わったわけだが、正式に用事を受けている時は。」
「あ、預かってます。」

アーサーがそこまで言うと、アドリアーナが荷物からリース伯の家紋が押された封書を取り出す。

「よく気が付いた。今後は町を出る時と、予定した場所だな、そこで渡す物、それぞれ渡されるだろうから間違わないようにな。」
「へー。でも、単に町の外に出るだけだろ。」
「お前らな、例えばだが、普通の狩猟者が大量に町に武器持ち込んだら、俺らの仕事として預かるぞ。今後の魔石のこともあるし、ダンジョンもな。」
「そういや、そんな話だったか。」

シグルドが腕を組んで渋面を作る。

「ああ。ダンジョンの糧は領主様の物だ。で、その領主様の許可が無い人間が、当たりの魔物以外から得た物を持ち込もうとすれば、当然俺らは通せないわけだ。」
「大変だな。」
「大変なんだよ。アベル、そっちからも人を借りると思うが。」
「悪いが、そっちはまた後で話そう。メイの嬢ちゃんがまた場を設けるしな。」

そうして二人そろってため息をつく。

「で、そうなると、頼まれた時は、毎度こうやってその証拠を見せればいいんだよな。」
「ああ。で、普段と違って行程表だな、それもだ。万が一連絡が取れなくなったら、俺らから報告しなきゃならんしな。」
「えっと、これまで見たいに、どこに行くって言うだけじゃなくて、ですか。」
「ああ。距離がある時は、どの町でいつ泊まるか、次の移動はいつか、そう言ったのを細かく書いてもらう必要がある。戻らない時は、それを基に何処まで確実にたどり着いたのか、どこから先に行けなかったのか。それを基に探すからな。」
「でも、俺らじゃそんなの分かんねーぞ。」
「だから、お前らが預かった手紙に入ってるんだよ。で、今回はこのまま暫くは滞在、と言うか次の予定が出来るまでは、このまま町だからな。こうして確認して。」

そう話しながらもアーサーが別の書類にあれこれと書き込み、最後にそれにサインをしたうえで封筒に。その上から見慣れない紋様印で封をすれば、それをシグルドに差し出す。

「で、お前らからこれを雇い主に渡してもらうわけだ。門番から、確実に町に到着した、それを示す書類だな。で、後はお前らの雇い主が、これを出発した町に配達させるってわけだ。」

実際には、遠距離の通信で行われるだろうが。それを隠している以上、移動が無事に終わった、その知らせを送る方法は確かにこのようなものにするしかないのだろう。
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