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12章 大仕事の後には
教会の建て方
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河沿いの町に一行が到着してみれば、何度か訪れたそこは随分な騒ぎとなった。
それもそうだろう。領主、それも代理では無く一体を管理する最上位の人物。それが巨大な騎馬に跨った重装の騎士、絢爛な鎧を纏う近衛に先導されてやってきたのだから。
そして、数多い馬車、そこからは神職が連れ立って降りて来る。
先触れは合った様で、主要な権力者、それが町の入り口に並び平伏して待っている。
始まりの町に近く、まだまだ発展はこれから。そういった長閑な町に対しては、過剰な出来事ではある。
神授の大箱。正しい名称としては、神域の種、そう呼ぶものらしいがオユキだけが持つには色々と障りがあり、助祭と修道士の補佐を頼んでとなっている。
すわ何事かと集まった町人は心当たりが無いようではあるが、やはりこれを知る物はいるようで権力者たちが、いよいよ身を固める。そして、その様子を見れば何事かと、動揺は伝播する。
「皆、静粛に。」
そう公爵が告げれば、群衆の騒ぎも収まる。生憎とオユキからはどうしたところで見えはしないが、トモエは集まった人々の中に見知った顔を見つける。実に都合の良い人材が、こうして都合よく配置されているものだと。
オユキが見えない、その理由は単に下から支えている箱で、視界が埋まっているからだ。
驚いたようにトモエを見るその二人組、それから以前ギルドで見た覚えのある、新人教育を買って出た数人の先達、そしてそれらに連れられた相手に対して簡単に目礼だけを返す。
普段の少年達であれば、それこそ声を掛けそうだとは思うのだが、そこは神事。それも珍しいものだ。すっかりと熱中し、周囲へ気が回っていない様子だ。
ここに来るまでに、トモエの方では巫女と、水と癒しの巫女と話す機会があり尋ねたものだ。何故戦と武技が水と癒しなのだろうかと。回答は単純で、トモエとしては気安い、何くれとなく、そう感じる物だが本当に忙しいらしい。
実際のところは、忙しいというよりも、こちらの世界から遠い場所にいる、そのような物らしいが。
要は異邦人、かつての世界。そちらの境界に近く、そこを抜けてきた相手だからこそ。そういう物であるらしい。とりあえずトモエはそう納得している。オユキの方では、また違う理解があったようだが。公爵が説明を終えれば、後は司祭が先導し、それも当たり前のように新たに教会を設置する場所へと。
問題としては、それが現在町を覆う壁の外、そこにある事だろうか。そして、それは見覚えのない新たな川。大本の大河に比べれば、川幅は狭い。それでも30メートルほどはあるのだろうが、それを眺める事が出来る位置にとなるらしい。
「未だに準備が整わず、今直ぐにとはならぬ。しかしこれも神々から得られた確かな恩寵。その用意に我も、始まりの町、その代官を務めるリース伯子女も手を尽くそう。」
そして、教会を建てる。トモエとしても不思議極まりないが、あの箱。それを空ける祭祀を執り行えば、教会がこの場に建つものらしい。理屈は無論分からないし、それこそ是非見学したいものだが、いまではない。そして、公爵の言葉には、事前の打ち合わせ通りにオユキが言葉を加える。
「未だ守られぬ、そのような場に置くこととなります。そして、ここは町を守る壁の外。魔物の脅威のある場です。河沿いの町、そこにいる方々にも、無論手伝いをお願いすることになります。しかしあまりに突然とそう感じる物でしょう。」
見知った顔から、オユキに向けて視線が集まる。馬車の中で着替えを済ませていることもあり、今は公務としての装いだ。さぞかし意外な事だろう。勿論、それにとり合わず、続けるが。
「公爵様が、幸いにもお借りしている方々がいます。」
12人の騎兵からなる、第二騎士団。
「その中から8名。私共の道中、その安全をお願いした。その言を翻すことになりますが。この場をお願いすることとなりました。」
事前に話したところ、全てでとそうするわけには流石にいかず。一部は始まりの町に、となってはいるが。そして、オユキがそう言えば、残るものが前に出て、改めて宣言をする。続いては、領都からの神職、その中からこの場に残る者達も進み出る。
教会の建設、それそのものは、ここまでを壁で改めて囲った後となる。それに教会の内部、そちらまでは流石に用意される物では無い為、必要な調度の手配もある。
そう言った諸々の手配を概略として公爵が告げ、この町の代官が受け入れれば、司祭と巫女により、仮置き。それに対する理と祈りがささげられる。それを一同揃って見届けた後に、公爵とオユキから改めてこの場の警護、それを担当する者たちに声をかければ、一先ずは終わりとなる。
勿論事後処理はあるが、そちら、今後の町に関する計画という部分は為政者たちに任せて、オユキ達は別の事後処理がある。流石に視界を遮るものが無ければ、オユキとて気が付くものなのだ。別れる前に公爵に声をかけ許可は得たからと。早速話を進めたい相手もいる。それはアイリスも同様に。
「お久しぶりです。今度ばかりはかなり間が空きましたが、その後は如何でしょうか。」
馴染んだ場所では無く、案内されるままに、公爵がここに立ち寄る際に使う屋敷、そこを借りて席を用意する。
「オユキ様も、ご無沙汰しております。過日は知らぬこととはいえ。」
「任を確かに得たのは、王都に向かってからです。それ以前を持ち出すことはありません。」
「その広き御心に、改めて感謝を。」
カナリアとイリア、両名を招いて改めて席についている。
流石に他の人物については、この場に呼ぶのも障りが色々とあるため遠慮を願っているが。
オユキとしては、若干の疲労が見えるトラノスケは確かに気にかかりはしたが、想像よりも良い状態ではあるのだ。今は一度おいておくことにした。
責任感。それもあって、過剰に業務を抱え込んでいるのだろうから。そういった手合いの扱いは、ミズキリもオユキも手慣れている。それこそ戻ってから時間を使えばよい。今はミズキリも、それこそ始まりの町に川を引く、用水路を。そういった大掛かりな事業に手を取られたこともあるのだろう。それがひと段落着いたからと、それこそ急ぐためにと別で動いている土産、屋敷を整える人員、そういった物が揃えば改めて新居の紹介も併せて慰労会を開けば良い。異邦人同士、それも見た目はともかく年長者。その立場だからこそ、言えることもあるだろう。
「どうぞ、あまりかしこまらずに。私自身こうして位を頂いて日が浅く、未だにといった有様ですから。」
「しかし。」
「教えを乞う、そうのようなこともあるでしょう。それに、今お呼びしたのも。」
「では、私的な場ではお言葉に甘えさせていただきます。」
意図しての物では無いが、騙したような、身分を伏せたような形にもなっている。そこでこうも畏まられては、オユキとしても座りが悪い。まぁ、公爵から場を借りている屋敷に、今は鎧を脱いではいるが近衛という名の侍女がいる。その状況で畏まるなと言うのも、無理な話ではあるのだが。
「オユキ様、お持ちいたしました。」
「有難うございます。こちらに来て魔術の矜持を願ったカナリアさんに、改めて手を借りる事が出来ればと。」
アイリスが得た物は、彼女の判断を待たねばならない。だから、今ここで彼女に見せるのはトモエとオユキが得た物だけ。
「私の物も構わないけれど、イリア、あちらが気になるかもしれないけれど、私からも話があるのよ。」
「何なりと。」
「良いわよ。部族から離れたんでしょう。そういった相手がどんな者かは私も分かるもの。祖霊の降臨祭、それを私も始まりの町で開くようにと、そう言われてるのよね。」
「それは。」
「部族だけで集まる集落の出かしら、それなら難しいでしょうけど。」
「いや、そんな事は無い。ただ、私はあまり強く引いてるわけでは無いからさ。」
アイリスとイリア、そちらでは彼女の頼まれごとが進んでいる。そちらはそちらで任せるとして、そもそもその祭りがどのような物かもわからず、助けられはしない。
だからとばかりに、近衛が持ってきてくれた魔術文字、それが長々といくつかの文で並ぶものをカナリアに見せる。
「これは。」
「頂き物です。生憎と、私たちでは手が出せぬこともありますので、お知恵をお借りできればと。」
少々近衛の面々から剣呑な気配が流れる中、オユキはどうぞとそれをカナリアに差し出す。カナリアにしても、何を警戒されているのは分かっている。要は新たな魔術、神から授けられた新たな奇跡だ。無体を働けば、それこそ次の瞬間には組み伏せられるだろう。まだましな状態として。
「これは、新しい文字が多いですね。壁に使われている魔物避けが中心ですが、馬車に使われている重量軽減、部屋を整える物と。」
「今後移動も増え、相応に急がねばならない身の上となりましたから、それをお助け下さるようです。」
「成程。それで。後は知らない文字については、様式としては重量軽減に近いものもありますが、触れてみても。」
オユキに確認を取る体ではあるが、実際は他だ。それにしてもオユキが頷けば、その意思を優先してくれるものだが。
「では。」
許可が出たため、改めてカナリアが魔術文字の刻まれた板に触れる。そして、何とも不思議な事に、その文字が淡く輝いたかと思えば、そのまま光が板の上を動く。移動先は当然のようにイリアの触れた指先からとなる。
オユキとしては、当たりを引いたと喜べばいいのか、これが本来の流れかと首を捻りそうにもなるが、ここに来てようやく先のミズキリの言葉を思い出す。
彼は知っていた。名前も知られず、祭られぬ神の存在を。ならば間違いなく予定に組み込んでいるのだろう。
始まりの町、トモエがまず魔術に興味を持ったが、気が付けば後回し。要はこれらも含めてあの町で別の時間の使い方、それをするのが正解だったのだろう。
何故カナリアが、そう思うところも確かにあるが、それこそ時間を使わなかったから分からない。そうとしか言えないのだから。
それもそうだろう。領主、それも代理では無く一体を管理する最上位の人物。それが巨大な騎馬に跨った重装の騎士、絢爛な鎧を纏う近衛に先導されてやってきたのだから。
そして、数多い馬車、そこからは神職が連れ立って降りて来る。
先触れは合った様で、主要な権力者、それが町の入り口に並び平伏して待っている。
始まりの町に近く、まだまだ発展はこれから。そういった長閑な町に対しては、過剰な出来事ではある。
神授の大箱。正しい名称としては、神域の種、そう呼ぶものらしいがオユキだけが持つには色々と障りがあり、助祭と修道士の補佐を頼んでとなっている。
すわ何事かと集まった町人は心当たりが無いようではあるが、やはりこれを知る物はいるようで権力者たちが、いよいよ身を固める。そして、その様子を見れば何事かと、動揺は伝播する。
「皆、静粛に。」
そう公爵が告げれば、群衆の騒ぎも収まる。生憎とオユキからはどうしたところで見えはしないが、トモエは集まった人々の中に見知った顔を見つける。実に都合の良い人材が、こうして都合よく配置されているものだと。
オユキが見えない、その理由は単に下から支えている箱で、視界が埋まっているからだ。
驚いたようにトモエを見るその二人組、それから以前ギルドで見た覚えのある、新人教育を買って出た数人の先達、そしてそれらに連れられた相手に対して簡単に目礼だけを返す。
普段の少年達であれば、それこそ声を掛けそうだとは思うのだが、そこは神事。それも珍しいものだ。すっかりと熱中し、周囲へ気が回っていない様子だ。
ここに来るまでに、トモエの方では巫女と、水と癒しの巫女と話す機会があり尋ねたものだ。何故戦と武技が水と癒しなのだろうかと。回答は単純で、トモエとしては気安い、何くれとなく、そう感じる物だが本当に忙しいらしい。
実際のところは、忙しいというよりも、こちらの世界から遠い場所にいる、そのような物らしいが。
要は異邦人、かつての世界。そちらの境界に近く、そこを抜けてきた相手だからこそ。そういう物であるらしい。とりあえずトモエはそう納得している。オユキの方では、また違う理解があったようだが。公爵が説明を終えれば、後は司祭が先導し、それも当たり前のように新たに教会を設置する場所へと。
問題としては、それが現在町を覆う壁の外、そこにある事だろうか。そして、それは見覚えのない新たな川。大本の大河に比べれば、川幅は狭い。それでも30メートルほどはあるのだろうが、それを眺める事が出来る位置にとなるらしい。
「未だに準備が整わず、今直ぐにとはならぬ。しかしこれも神々から得られた確かな恩寵。その用意に我も、始まりの町、その代官を務めるリース伯子女も手を尽くそう。」
そして、教会を建てる。トモエとしても不思議極まりないが、あの箱。それを空ける祭祀を執り行えば、教会がこの場に建つものらしい。理屈は無論分からないし、それこそ是非見学したいものだが、いまではない。そして、公爵の言葉には、事前の打ち合わせ通りにオユキが言葉を加える。
「未だ守られぬ、そのような場に置くこととなります。そして、ここは町を守る壁の外。魔物の脅威のある場です。河沿いの町、そこにいる方々にも、無論手伝いをお願いすることになります。しかしあまりに突然とそう感じる物でしょう。」
見知った顔から、オユキに向けて視線が集まる。馬車の中で着替えを済ませていることもあり、今は公務としての装いだ。さぞかし意外な事だろう。勿論、それにとり合わず、続けるが。
「公爵様が、幸いにもお借りしている方々がいます。」
12人の騎兵からなる、第二騎士団。
「その中から8名。私共の道中、その安全をお願いした。その言を翻すことになりますが。この場をお願いすることとなりました。」
事前に話したところ、全てでとそうするわけには流石にいかず。一部は始まりの町に、となってはいるが。そして、オユキがそう言えば、残るものが前に出て、改めて宣言をする。続いては、領都からの神職、その中からこの場に残る者達も進み出る。
教会の建設、それそのものは、ここまでを壁で改めて囲った後となる。それに教会の内部、そちらまでは流石に用意される物では無い為、必要な調度の手配もある。
そう言った諸々の手配を概略として公爵が告げ、この町の代官が受け入れれば、司祭と巫女により、仮置き。それに対する理と祈りがささげられる。それを一同揃って見届けた後に、公爵とオユキから改めてこの場の警護、それを担当する者たちに声をかければ、一先ずは終わりとなる。
勿論事後処理はあるが、そちら、今後の町に関する計画という部分は為政者たちに任せて、オユキ達は別の事後処理がある。流石に視界を遮るものが無ければ、オユキとて気が付くものなのだ。別れる前に公爵に声をかけ許可は得たからと。早速話を進めたい相手もいる。それはアイリスも同様に。
「お久しぶりです。今度ばかりはかなり間が空きましたが、その後は如何でしょうか。」
馴染んだ場所では無く、案内されるままに、公爵がここに立ち寄る際に使う屋敷、そこを借りて席を用意する。
「オユキ様も、ご無沙汰しております。過日は知らぬこととはいえ。」
「任を確かに得たのは、王都に向かってからです。それ以前を持ち出すことはありません。」
「その広き御心に、改めて感謝を。」
カナリアとイリア、両名を招いて改めて席についている。
流石に他の人物については、この場に呼ぶのも障りが色々とあるため遠慮を願っているが。
オユキとしては、若干の疲労が見えるトラノスケは確かに気にかかりはしたが、想像よりも良い状態ではあるのだ。今は一度おいておくことにした。
責任感。それもあって、過剰に業務を抱え込んでいるのだろうから。そういった手合いの扱いは、ミズキリもオユキも手慣れている。それこそ戻ってから時間を使えばよい。今はミズキリも、それこそ始まりの町に川を引く、用水路を。そういった大掛かりな事業に手を取られたこともあるのだろう。それがひと段落着いたからと、それこそ急ぐためにと別で動いている土産、屋敷を整える人員、そういった物が揃えば改めて新居の紹介も併せて慰労会を開けば良い。異邦人同士、それも見た目はともかく年長者。その立場だからこそ、言えることもあるだろう。
「どうぞ、あまりかしこまらずに。私自身こうして位を頂いて日が浅く、未だにといった有様ですから。」
「しかし。」
「教えを乞う、そうのようなこともあるでしょう。それに、今お呼びしたのも。」
「では、私的な場ではお言葉に甘えさせていただきます。」
意図しての物では無いが、騙したような、身分を伏せたような形にもなっている。そこでこうも畏まられては、オユキとしても座りが悪い。まぁ、公爵から場を借りている屋敷に、今は鎧を脱いではいるが近衛という名の侍女がいる。その状況で畏まるなと言うのも、無理な話ではあるのだが。
「オユキ様、お持ちいたしました。」
「有難うございます。こちらに来て魔術の矜持を願ったカナリアさんに、改めて手を借りる事が出来ればと。」
アイリスが得た物は、彼女の判断を待たねばならない。だから、今ここで彼女に見せるのはトモエとオユキが得た物だけ。
「私の物も構わないけれど、イリア、あちらが気になるかもしれないけれど、私からも話があるのよ。」
「何なりと。」
「良いわよ。部族から離れたんでしょう。そういった相手がどんな者かは私も分かるもの。祖霊の降臨祭、それを私も始まりの町で開くようにと、そう言われてるのよね。」
「それは。」
「部族だけで集まる集落の出かしら、それなら難しいでしょうけど。」
「いや、そんな事は無い。ただ、私はあまり強く引いてるわけでは無いからさ。」
アイリスとイリア、そちらでは彼女の頼まれごとが進んでいる。そちらはそちらで任せるとして、そもそもその祭りがどのような物かもわからず、助けられはしない。
だからとばかりに、近衛が持ってきてくれた魔術文字、それが長々といくつかの文で並ぶものをカナリアに見せる。
「これは。」
「頂き物です。生憎と、私たちでは手が出せぬこともありますので、お知恵をお借りできればと。」
少々近衛の面々から剣呑な気配が流れる中、オユキはどうぞとそれをカナリアに差し出す。カナリアにしても、何を警戒されているのは分かっている。要は新たな魔術、神から授けられた新たな奇跡だ。無体を働けば、それこそ次の瞬間には組み伏せられるだろう。まだましな状態として。
「これは、新しい文字が多いですね。壁に使われている魔物避けが中心ですが、馬車に使われている重量軽減、部屋を整える物と。」
「今後移動も増え、相応に急がねばならない身の上となりましたから、それをお助け下さるようです。」
「成程。それで。後は知らない文字については、様式としては重量軽減に近いものもありますが、触れてみても。」
オユキに確認を取る体ではあるが、実際は他だ。それにしてもオユキが頷けば、その意思を優先してくれるものだが。
「では。」
許可が出たため、改めてカナリアが魔術文字の刻まれた板に触れる。そして、何とも不思議な事に、その文字が淡く輝いたかと思えば、そのまま光が板の上を動く。移動先は当然のようにイリアの触れた指先からとなる。
オユキとしては、当たりを引いたと喜べばいいのか、これが本来の流れかと首を捻りそうにもなるが、ここに来てようやく先のミズキリの言葉を思い出す。
彼は知っていた。名前も知られず、祭られぬ神の存在を。ならば間違いなく予定に組み込んでいるのだろう。
始まりの町、トモエがまず魔術に興味を持ったが、気が付けば後回し。要はこれらも含めてあの町で別の時間の使い方、それをするのが正解だったのだろう。
何故カナリアが、そう思うところも確かにあるが、それこそ時間を使わなかったから分からない。そうとしか言えないのだから。
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