憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

神々からの言葉

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改めて。今更。どちらの言葉が正しいのか、オユキにはよくわからないが。これで恐らくは、望まれたことの全てが終わったはずだ。椅子に座ったままの王太子妃が、誓いを新たに捧げた騎士たちに運ばれて出て行けば、僅かに逡巡を見せた王太子は華と恋の神が手で払って後を追わせる。
それを見届けた上で、オユキが改めて創造神を見れば、恐らく他には聞こえていないのだろう。だが、確かに言葉があった。予定以上の成果ですと。
恐らく、ミズキリも関わっているだろうそれ。ならばやはり結果としては上々だ。始まりの町に戻れば、後進の育成といった物はあるが、暫くはゆっくりと。次の旅の準備にあてられるだろう。少なくともあの長閑な町を動かなければ、大きな騒動が無いのは事実なのだから。恐らく事務仕事に駆り出されはするだろうが。

「さて、時間を取った故、簡単な物になるがまずはアベル。」

そして、人としては余韻を残したいものではあるが、そうもいかない相手もいる。

「よもや、御身に直接呼ばわれる、その栄誉に預かれるとは。」
「これまでは、これからも暫くは難しいが、場を選べばな。その方の苦悩、確かに我に届いていたとも。そして、先を望むのであれば、もはや今あるすべてを捨てねば難しい事も。だからこそ、此度の結果、これまでの研鑽を認め、巫女たちとトモエがつける物、それと同じものを授ける。その推察も正しい。加護無く事を行う、訓練とは枷である。」
「御言葉胸に刻み、今後も我が道の先を。」
「うむ。励むがよい。そして、シグルド。」

呼ばれた少年としては、かなり意外だったのだろう。座ったまま体が大きく揺れる。

「武の道、そこには確かに先達が引いた道があり、しかしそれはやはり長く険しい。それを知って猶踏破し先を求める。その心はまさに我が道に相応しいものだ。未だ手を引かれるばかりのその方には、何かを授ける事は難しいが。」
「あー、その、あれだ。」
「何、言葉など気にすることは無い。我の道、その言葉をここで使う訳にもいかぬ。そういった物故な。」
「その、申し訳ないけど。神様からよりも先に、貰いたい相手がいるから。」

そうして、シグルドはただトモエを見る。既に約束はそこにあるのだから。

「ならばそうあれかしと、我はただそう答えるとも。手を引かれることは恥ではない。それは互いに手をとり合っているのだ。その方が思い描くいつか、それが訪れる事を我も確かに願うものであるぞ。」
「少なくとも、一太刀は必ず当てるさ。」

シグルドの返しに、アナの目がかなりの険しさを持ち、戦と武技の神はただ笑う。他の神々が額を抑えているあたり、やはりこういった精神性はこちらでは少数派にならざるを得ない物であるらしい。

「そして、パウ。」
「は。」
「研鑽を、ただ楽しい。そう喜ぶ心こそが我の道、その起点である。未だ進む道ははっきりと分らぬのだろうが、それに迷うのもまた我が道である。」
「御言葉、肝に銘じます。」
「うむ。我が道は長く、深い。存分に探し、求め、その楽しさを感じるがよい。」

その言葉にパウはただ深々と頭を下げる。

「粗忽な弟に任せてばかりだと、席に相応しくないから、私からも。アナ。良くお聞きなさい。」
「はい。月と安息の女神様。」
「良い事。オユキが許されているのは、その粗忽な弟の巫女だから、それも大きいのよ。」

そこで一度言葉を切って、大きくため息をついたうえで続ける。

「他の子たちは、神殿や教会でしょう。やっぱり、二つの道、そのどちらも求めるのは難しい事よ。真摯に祈りを捧げ、私の心に特に叶う持祭アナ。誰も責めないわ。責めさせなんかしないわ。貴女がどちらかを選んだとしても。」

弟子に入る、道を究める。それに必要な事。それは以前トモエが、オユキが片鱗を話した。
そもそも、生活からそのために変えるのだと。そして、彼女の心はやはり教会が主体だ。祭り、その為に始まりの町に帰りたい。そう切に願うほど。そして、あの町では、狩猟それ自体が難しい。弱い魔物をどれだけ蹴散らしたところで、神々はそれを認めないのだから加護も得られない。
月と安息の女神は、だから警告する。短い時間しか持たない種族、それでは行き詰ると。オユキにしても耳が痛いが。

「ありがとうございます女神様。私たちを確かに気にかけて下さっている、そのお言葉だけで私はとても嬉しいです。それでも。」

困難を突き付けられて、彼女はそれでもと、そう口にする。

「まだどちらも諦めません。私がどちらも出来る様に、気を使ってくれている人がいて、手を引いてくれる人がいるから。私が出来ないと思ったら、その手に引かれるだけになって、引き摺られるようになったら、ちゃんとそういう人たちが手を引いてくれているうちは。」
「そう。ならいいのよ。貴方の決意に祝福を。私たちは貴方たちが自由に歩くそれを喜ぶのだから。」

そうとだけ言って、月と安息の神はアナの頭を一撫でする。その移動があまりに脈絡が無いのが神たる所以としか言えないのだが。

「それから、アドリアーナ。決意のためにと、私のしたことは迷惑ではなかったかしら。」

そして、次は同じく己の名を冠する新たな持祭に。

「いいえ、決してそんな事は。」
「だといいのだけれど。それでも、私はやはり月と安息、自由気ままなその子と同じ言葉を。」

そして、彼女については、アナとセシリア。既に位を得ていたものよりも厳しい。武の道にしても、弓に心惹かれる彼女の手を、トモエもオユキも引けはしない。神職としても、学ばなければいけないことが多い。

「私はやっぱり今は色々と忙しくて、こちらへの影響も薄れているもの。重荷なら降ろしてもいいわよ。その選択の自由はあるんだもの。だから、その時はロザリアに返すといいわ。」
「いいえ。私もアナと同じです。それをお認め頂けるのであれば、私がひざを折らない限りは。」
「その、あんまりあの子の方向にばかり傾倒しないでね。私は水。移り変わるのも良しとするのだから。」
「はい。御言葉確かに胸に刻みます。それでも、約束があるから。皆で、怪我をしないようにって。その為に私が出来る事が有るから。私は、私の思う道を。」
「そうね、確かに私は岩をも穿つわ。だからあなたの意思がそうである事を、私も確かに祈りましょう。それから、ええと、セシリア、ね。」

そして、今はこの場にいない神の持祭。そちらにも。

「あの子は今一番忙しくしているから。」
「御心配りを頂き。」
「その、あまり硬くならないでね。私は距離を取られるように感じるのは苦手だもの。水は常にあなた方の側に。そうでしょう。」
「はい。他の神々も、間違いなく。」
「そうなのよ。あの子は今、そしてこれから。狩猟、魔物を狩った結果。それを見なければいけないから。どうしてもあの子の手が空くのは、当分先だわ。だから今、ここにはいないの。」

今後、神々としては狩猟、それに励む人が増える。それがどういった形であれ、主導が何処になるかはさておき。かつてのゲームの時代。そこでは確かに魔物との戦い、それが主体に、根底にあった世界観。そこに回帰する見込みであるらしい。
望まぬものまでは、そうであるのだろうが、それでもオユキとしては嬉しいものだ。その反面、今からでも考えなければいけない事は生まれるのだが。

「だけど、あの子も確かに喜んでいるのよ。狩猟、それで得られる糧。それはあの子があなた達の為に、確かに用意しているのだから。」
「ありがとうございます。そのお心遣いと、御言葉だけで。」
「一応、預かっている物もあるわ。今この場ではなく、やんちゃな弟を経由して、そうなるけれど。」
「では、私から、それはロザリア様に、確かに。」

タイミングは分からないが、起きたらまた例のごとく。もしくはまた夢で呼ばれる事が有るのかもしれないが。

「そろそろ、我らの方でも刻限が近い故な。残りの者たちは、生憎だが未だ我らに名が届かぬ。」
「ええ。やっぱり、それが足りない相手には、その対応しか許されていない物ね。」
「だからと言って、研鑽はやめては駄目よ。」
「ええ、特に私の目は貴方たちの暮らす場にはよく届くのだから。」
「えっと、それでは皆さん。よく日々を生きてください。無理をしろ、そうではありません。出来る事を出来る様に。それだけで、私たちは勿論満足ですからね。」

それぞれの神が一言づつ残して、その姿を一斉に消す。相も変わらず、供えられた物はきちんと持ち帰るらしい。

「ふむ。この場で、招いた物もおらぬ中で晩餐か。」

数拍の間をおいて、思わずといった様子で王が口にした言葉は、多くの物が頷きたいものではあるのだろう。自由を取り戻した少年たちにしても、高ぶる感情に任せて実に賑やかだ。
そして、それを止めよと言えるものもいないらしい。

「陛下。我らが決めごとを守らねば。」
「うむ。思うところはないではないが、そのように。そうせざるを得ない物でもあるからな。」

何とも閉まらない言葉で始まったその食事は、どうしたところで終始浮ついたものとなる。結局はこうして場を共にした。その事実が重要であり、王家は確かに礼をもって接した。そうできるのだから。
給仕役にしてもこの場に居合わせたため、やはり礼法、作法、それからすっかりと離れてしまったのは、ご愛嬌と言うところだろう。それに合わせて、子供たちの話に耳を傾けたトモエとオユキがいえたことでは無いのだが。
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