憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
391 / 1,235
11章 花舞台

抽選を眺めて

しおりを挟む
一通りのことが終われば、慣れない事に著しく疲労したオユキが退場となる。とはいえ、完全に姿が無くなってしまえば、無用の詮索を与えるため、国王の隣に用意された席に座っている。
そして、その眼下では、参加者が列をなして箱から木札を取り出していく。
形式に随分と見覚えがあるが、まぁ、他にやりようもない。
それこそシステムとして存在するのであれば、一挙にまとめて決め、表示する事も出来るのだろうが。

「オユキ様、どうぞこちらを。」
「助かります。」

側についてくれているエリーザ助祭が、そっと水を差しだしてくれるのにお礼を言って口を付ける。途中からは少々どころでは無い疲労感を感じ、それでもと動き続けたために、汗もひどいものになっている。
着替えの用意はないが、ここに戻る前には簡単に手直しがされもしたものだ。

「体を動かすだけ、そのようにも考えていましたが。」
「奉納舞ですから。奇跡を願うのにも、マナが使われますよ。」
「そういう理屈ですか。」

オユキがそうしてお色直しをしている間に、神像は機能を確かなものとして、戦と武技の神から改めて試合について話があったそうだ。
内容そのものは、かつてあった対人のそれと変わりはないが。試合中は当たり前のように負傷する。しかし対戦が終われば、大部分は治る、凡そ全治一週間、その程度のところまで。
そして、参加するにも、怪我の回復にも、貯めた功績が利用される。それが可視化できるもの、首から下げる結晶。それが、今回の参加者たちに授けられている。認められた功績、加護、それを色の濃淡で示すことができる、新しい道具。
とはいっても、諍いの種にならぬようにだろうが、かなり漠然としたものではあるらしい。それだけで全ては計れぬと、そう明言されたのだから。

「計れぬまでも、比べて云々、そういった事を言う方は現れるのでしょうね。」
「うむ。それは人の業であるからな。避けられまいよ。オユキも、良く勤めた。」
「御言葉、真に有難く。」
「そも、手に入れられる、それだけの功績を既に持っている、それに目を向けられるものがどれほどいるか、であるな。要は、余剰。それを別に使える、使いやすくするものなのであろう。」

国王の理解は早い。そして、口ぶりから想像もつく。管理者権限。それに触れ、拠点の機能を使うのだ。より可視化されたものが有る、もっと具体的に見る方法があるという事だろう。

「その方は最後に空いたところ、それでよかったのか。」
「はい。陛下。」
「ならばよい。今しばらく休むがよい。」
「ご厚情、真に有難く。」

国王からの労いに、非礼ではあるが座ったまま答えて新たに首から下げているそれを見る。神々の色が入るのだ。オユキの物はなかなか愉快な色味になっている。それが不思議と調和がとれている、そう見えるのはまさに神の奇跡であるのだろうが。
特別感謝をささげたわけでもない、その色が入っていることを考えれば。いよいよ神々の目というのは何処にでもある物らしい。眼下ではそれを誇らしげに掲げる者達もいれば、早速比べてというもの達もいる。
少年たちがそうしないのは、それこそこれまでの教育によるものだろう。どの神も等しく、誰にでも、手を伸ばせば。その教えを信じているからこそ、己のそれを見て、かけた色があれば落ち込むのだろうが、誰かと比べて計ることもないだろう。
そのまま視線を滑らせて言ったところで、今回の参加者、それを上から見ても、アベルを超える者がいない。若年層。少年たちと同じ年頃の相手は言うに及ばず。壮年を超え、老練の域に達しているべき相手にしても。

「おや、ファルコ君はなかなか難儀な事になりましたね。」

100を超える数。都市の規模に比べれば随分と少ない。次回以降はさらに増やすと聞いているが。その程度の数であるため、組み合わせが決まれば、それぞれに並んでいく。
そして、ファルコの隣にはアベルが立っている。
加護が無い、そんな状況を作ったところで。アベルとファルコでは格が違う。

「ほう。アベルをかなり高く評価しているのだな。」
「はい陛下。騎士団、その勇猛を示すに十分以上。それだけの物を確かにお持ちの御仁です。」

始まりの町でもそうだ。加護が制限されれば重装鎧を着て動けない者もいる反面、問題なく活動できるものもいたのだ。つまり、人によっては。加護がある中、どれほどの事をして鍛えたのかは分からないが、それを可能とする人物が確かにいる。アベルも、間違いなく。それも軽々と、それを行うだろう。
一目できた上げられたと分かるその体躯は、決して伊達では無いのだ。

「評価は高いようだが。」
「恐れながら。」

それでも経験の差、人相手をするために磨いた技。その差が明確に存在する。彼らの知らぬそれを存分に使えば、崩せぬ相手ではない。当日は鎧を着こむのか、その差はあるが。

「初代の勝者は、やはり。」
「はい。」
「その方らの知らぬ異邦の者も、数人おるが。」

言われて、同じく武に身を捧げた物がいるのかと見回すが、そう言った手合いは見られない。姿形にしても、ゲーム時代に合わせた物に代わっているのだろうから、それが当然なのだが。トモエにしても、特定の誰かを警戒するそぶりを見せていない。仮にそういった、抜けた物がいるのであれば緊張する少年たちに声を掛けながらでも、意識を向けるはずではある。

「その様子では気が付かぬ、そういう事であるらしいな。」
「申し訳ございません。」
「良い。距離もあるしな。さて、その方らでも計れぬ相手、それがいると、そう考えられれば良いのだが。」

戦と武技の神、その覚えがめでたいのは別の理由によるものではあるが。
一応はと、アベルとアイリスの様子も観察するが、変わらず二人の警戒はトモエに向いている。もしそれらすべてを欺ける、そうできるだけの鍛錬を確かに積んだ相手がいる。そうであるなら。

「御言葉に返す事、誠に恐縮ではございますが。」
「よい。申せ。」
「そうであれば、どれだけ良かった事でしょう。」
「やはり、そうか。」

実際にどうか、その断定はできないが。そうして、国王その人と軽く言葉を交わしていれば、組み合わせが決まる。
あの四角い箱の中、細工がどのように行われたかも分からないが、実にわかりやすい結果となっている。
四人が最後まで残るのだ。ただ、その組み合わせにオユキは意外を感じる物だが。

「私とアイリスさん、そうなると思っていましたが。」

アイリスはトモエの前、そこにオユキを置いている。そうであれば配慮もあるかと思ったが。

「それを疑いもせぬか。」

問いかけにはただ微笑みでもって応えておく。その余地が無いのだ。少年たちは、一回勝ち抜けば、そういう物もいれば最初からと、そういう物もいる。
改めて、致命傷を与えても問題が無い、死合いの場で。それを追うというのなら、技を、業を見せよという事であるらしい。未だに見せてもいない。教えるのはかなり先になる物を。
そう言った場であれば、鍛錬、練習の枠を超えて、それにオユキとしても異論はないが。
一人、隣に立つものがいないアナが、オユキの座る場所に視線を向けている。この機会、それを話した時には、それからしばらくは悩んでいたが、どうやら吹っ切れたらしい。人と人が争う、その場に。
アイリスの隣は見知らぬ相手、トモエの隣にはパウが立っている。そして、それが終わり、次に勝ち上がるものがいれば、また見知った相手とやり合う事になるのだ。
少年たちについても、他の年少者たちと、そうなるかと考えていたのだが。どうにも、色々と、向こうは向こうで思惑がある物らしい。そう、オユキとしてはため息をつくしかない。
結局のところ、オユキとトモエは切欠なのだ。後の事を進めるのは、他の者達が主体だ。
切り離し、それにしても行う、その言葉の意味も明確ではない。そこで初めて、時間をかけるのか。その時にすべてが終わるのか。
そして、今。眼前ではこの場を纏める言葉を国王が語り始める。本番はあくまで明日。一日を使ってすべての予定が消化される。それが終われば、祝祷を行い、慌ただしく始まりの町へ。その前に領都で一度休みはするが。

「オユキ様。」
「ええ。私もでしたね。」

これが終われば、アイリスと共にこの場から国王に続いて退場する、その流れがある。
暫く座って休めたため、それくらいはできるだけの体力は回復している。オユキが公に、そう決めた事もあり、初期に話した王城迄では無く、公爵の別邸、いい加減に慣れた場であることは実に有難いものだ。
オユキとしても、やはり万全は求めるのだ。トモエに向かうときには。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...