憧れの世界でもう一度

五味

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11章 花舞台

食事の席は、話し合い

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「ファルコ、先の聞き取りは助かりました。」
「いえ、実際によく見ていたのは、アドリアーナです。」

食事の席、それにつく前にファルコが数枚の紙をリヒャルトに渡し、彼はそれに目を通すと、そのまま公爵へと手渡していた。オユキとしては実に見慣れたものではあるが、公爵が食卓でその書類に今目を通している。勿論公爵夫人はいい顔をしていないし、簡単な手振りで、配膳を直ぐに止め、先に飲み物だけが運ばれているが。

「今は、食事の時間。手本とならねばならぬ時間ですよ。」
「ああ、すまぬな。だが、助かった。我らのところまでくる情報では、平らになっているものが多いからな。アドリアーナ、助かった。それとすまぬが、他にも気が付いた事が有れば、ファルコでもよい。この後でもよい。忌憚なく言ってくれ。」

流石に個別の情報等、この規模の都市だ。目を通している時間などないだろう。ならば実際に目にする情報というのは、取りまとめ役、ギルド、その報告先、そこで纏められたものとなる。勿論添付資料として、指標とした数値の根拠、それは並んでいるのだろうが。
さて、ファルコにしてみれば、恐らく必要になる。その程度であった、その感覚は優れたものだが、リヒャルトと公爵がここまで深刻に受け取っている、その理由にまで重いが至っていない風ではある。
オユキにしても、実際の数値は見ていない。近頃は買い物は任せる事が多く、狩猟にしても後から合流が多い為ではあるが、かなり物価が上がっているのだろう。
それも、狩猟に必要な物品の。これまで社会として軽視されていた、そこでインフレが起これば、打つ手を間違えれば、結果はまぁ、考えるまでもない。今後の行動、それに非常におおきなしこりを残すだろう。

「それほど、ですか。祭りの影響と見れば。」
「いや、今後も続く。そもそも魔石の需要が上がる、そうなれば今こうして魔石を得ている者達、その生活に危機感が出れば、魔石の値段が吊り上がる。」
「ええ、これでは、今後の魔石の取引についても考え直しですね。」
「ああ、そちらにも影響が。」

口にしてはいないが、そうなれば魔石を使う全てに対して影響を及ぼす。そして、壁、魔物から町の中を守るためのそれ。そこに使わなければいけない以上、需要というのは何処まで行っても下がらない。人が増え、拠点の拡張は今後求められると決まっているのだから。
そして、さらなる魔石を、そうなれば、魔物の討伐を。その為に必要な道具を。結果として食料の需要が上がりと。勿論想定はあったが、その流れが速い。そういう事だ。
そうであるなら、指針を決める側として、全体の計画を直ぐに修正しなければならない。もうすでにそれにほころびが出始めている。その証拠がファルコから渡されたのだ。

「アベル。すまないが明日。」
「ああ。聞き取り用の人員だけ選んでおいてくれ、こいつらは基本的に毎度同じ店だからな。」

そうして公爵が改めて書類を使用人に預ければ、夫人の指示で改めて食事が始まる。席次はすっかりと見慣れたものとなり、その席ではアドリア―ナが不安げな表情を浮かべる。

「その。私が話したから、ですよね。」
「悪いものではありませんよ。むしろ気が付かなければ、後々酷いことになっていた、未然に防いだという事ですから。」

それ以上に今回の功績と言うのは、彼らにとっては大きい。今後使えるリース伯爵家、モデルケースとなる始まりの町に、より多くの情報と対策を持ち帰れる、そういう事なのだから。
それについては、メイから後で褒めてもらうとして、今は不安があるなら手伝いを、そう望んでいる彼らに何かを示さなければと、そうなるのだが。
簡単ではない。
一つの都市、それを支える生産力など、そもそも今この場にいる人数程度で賄えるものではない。そして、確認すべきことも多いのだが、それを行う相手とは席が違う。

「これについては、後程改めて話しましょうか。」
「えっと。」
「流石に、私だけで解決策を出せる物ではありませんから。」
「まぁ、そうよね。向こうを巻き込まない事には。」

アイリスにしても、経験はオユキ達よりも積んでいるのだ、理解はある。

「その、皆で、せめて傷薬の材料だけでもって。お肉はある程度大丈夫みたいだし。トモエさんから、狩猟者ギルドの人たちと話をしてからって言われましたけど。」
「ええ、それも一つでしょう。ただ、その場合は護衛をする、そう言った形をとる事になります。経験のない皆さんでもとなると、難しいでしょう。」
「採取者の人たちって、魔物と戦ったりは。」
「単独でということもあるでしょうから、出来ないわけでは無いでしょう。ただ足りないのであれば、専念してもらう事となります。」
「そうですよね、分担が要りますよね。」

以前話したことを、きちんと覚えていてくれたようで何よりではあるのだが。そもそもこういった事態に対応する、そのために新たな奇跡の仕組みとして、水に。それがあったはずだ。それでも追いついていないというのであれば、他にも手を打たねばなるまい。
水と癒しの神殿、それを抱える王都以上に、その恩恵を受けている場所などあるはずもないのだから。
ここで不足するのであれば、他でどうなるか、それは考えるまでもない。闘技大会、その影響もあるのだろうが。今後は近隣に、そして国へ、世界へと、広がっていく影響なのだから。

「そうですね、前こういった話をしたときに、アドリアーナさんは居ませんでしたからね。」

そもそもこうして作法を習う場、食事を勧めながらでもこうして話をするために、それを習っている。だからこそ、所作に問題がない限り、それを止めるものなどいる訳もない。
これまでのようにただ黙々と、見よう見まね、それよりはよほど練習になるという物でもある。

「こういった事態に直面した時、何よりも大事なのは問題の整理、把握。それから分割です。」

数学的な、分割統治と呼ばれる思考ではあるが、それについては流石に置いておく。

「問題の分割、ですか。」
「はい。今の状態では、あまりに問題が大きく、私たちで解決できる、そのような規模の物ではありません。」

だからこそ、それを解決可能なサイズにまで。やりすぎも良くはないが、全体としての解決のビジョンは、他の者が持てばいい。その為に統治者がいる。分割した先には、それを任せる人材がいて、全体としてはそれを統括したものがいる。

「今の問題、これはとにもかくにも資材の不足、人手の不足。それです。そのどちらも私たちが、明日からどうにか、そのような物ではありません。」

そう、それこそ数十年、下手をすれば百年。それほどの期間で取り組まなければならない。

「えっと、はい。売れる物がない、でもたくさん欲しい人がいる。だから値段も上がるんですよね。」
「ええ、その通りです。それは本当に素晴らしい理解ですよ。」

需要と供給、その仕組みを感覚としてでも理解している言葉なのだから。

「さっき、ファルコさんが。」
「覚えて、状況に合わせて直ぐに口にできるなら、それを理解しているという事ですから。ただ、この乱れを整える、それはとても簡単な事ではありません。現に国として備蓄していた、それを持ってしてもですから。」
「そうですよね。今は、いろんな人が、これまで持っていたものを。」
「ええ。そうして時間を作り、その間に改善策を。まぁ、そこは置いておきましょう。やはり私たちでは手が付けられません。」

極論、現在の問題というのは、それこそどうにかなる物では無いのだが。それでも、出来る事はある。焼け石に水、たとえそうだとしても。
そして、オユキは今不足しているものを並べていく。そして手が出せない物を省いていく。調薬、鍛冶、人口の増加、育成、そのどれも、到底直ぐにできる物では無い。

「さて、残るのはやはり、原料の調達、狩猟者ですから、これにつきます。今も魔物の肉を大量に修めているように。」
「はい。という事は、武器のための鉱山か、薬のために森、そうなるんですよね。」
「では、改めて最初の問題を振り返りましょう。鉱山、たとえそこで鉱石を取ってきても。」
「えっと、もっと人手が要りますよね。」
「はい。魔物を狩る方が増えた以上、武器の手入、その需要が一気に伸びますから。鋳つぶしてうち直す、そういう事も増えるでしょう。なので、こちらはあまり問題の解決に寄与しません。クレオさん、お疲れだったのでしょう。」

そして、アドリアーナの言葉を考えれば、鍛冶を行う人物、そちらは素材もさることながら、人手の問題がある。だからこそ、かなり疲労をしているのだろうから。しかし、薬を売っている店、それは話が違う。
始まりの町では、マルコがどちらも行っていたが、こちらでは薬の販売だけを行う店舗もあるのだから。恐らく、まだ余裕があるのはここだろう。

「でも、薬草の採取とかは。」
「はい。私たち、護衛の経験のない私たちだけでは、難しいでしょう。」

ただ、現実には違う。その専門家はいるのだ。祭り、闘技大会。つまりこの町に来るものが増え、外に向かうものが減った。結果として仕事が減った者達がいる。
無論、その猶予を使って狩猟に精を出してくれているのだろうが、本来は違うのだ。そして、慣れたものであれば、出来る事も増える。例えば、まったく心得の無い、そんな相手を護衛することも。

「傭兵ギルドに頼みましょうか。採取ギルドの方、それから町中にいる手の空いている方も一緒に、守ってもらえるように。」
「えっと。」
「生誕祭は、町の皆さんの物でしたが、闘技大会はそこまでという方もいるでしょう。では、そう言った方も集めて、そうしましょう。」

足りない手は増やすしかない。それは薬の販売、それの助けとしても、必要な物を集める手としても。

「明日は、そうですね、採取者ギルド、狩猟者ギルド、傭兵ギルドで、話を持ちましょうか。」

ギルド、仕組みが別としているのは、あくまでその利便性によるものだ。合同で何かをしてはいけない、そのような決まりなどあるはずもない。
これまでの話し合いの中で、狩猟者、採取者、その枠組みも見直そう、そう言った話もある。ならば、今回も試験としてもいいだろう。一先ず解決策があると見せて、後の面倒、公爵との話し合いは、それこそオユキのほうで受け持てばいいのだから。
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