憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

これからの話

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「良かったのですか、これまでのようにとしなくても。」
「その、私が望んでという事では無いんですよ。」

創造神ルゼリア。恐らくその名を伝える事ですら、ロザリア、あまりに名前の似た彼女に、言い含めていたであろう相手。それが席についてせっせと供えた物を口に運びながら、そう応える。

「今後切り離しが終われば、そうなれば新たにお呼びすることはありませんが。」
「ええ、その折には、私たちの未練、それに捕らわれる事も無くなると、そう理解はしています。」
「あの、話してはいけない事は、やはりありますから。」
「正直、判別が難しいので、その折にはどうぞ存分に。」

そう、彼女とて、今はまだ役割という物に縛られている。絶大な力、それはあくまでその枠でしか振るえない。そして、だからこそ、それを超える物に容赦はない。その枠を守らなければいけないのだから。
これまでにも、何度となくあったのだ。分かりやすいように、特にここ最近は、そう配慮はなされていた。トモエと話していた。グラスを半分ほど空けた、書き物の途中であった。だというのに起きてみればグラスは空であり、記憶よりも進んでいるのだ。
それこそ、一切の容赦なく、エラーが発生しないように、そうできたはずだというのに。

「変革の時、ええ、想像の通りです。切り離しを行う、ここでしか許されないことが、実に多いのです。」
「となると、未だに制限は。」
「多いですね。ただ、もう、技術、知識の共有、それについてはありませんよ。異邦の方々は、それを望んでいる方が多いので、クエスト形式ですけど。」

正直、オユキとしては立て続けにマジパンを口に放り込まれる、その姿を見るだけで胸やけがするのだが。以前よりも甘味が得意、好ましく思えるようになったとは言え、これは無理だったのだ。

「つまり、御身らにとって。」
「それは違います。こちらにも残っているでしょう。この世界の始まり、その歪。つまるところ、それを埋めるためにこれほどの時を要しました。そこから生まれた私たちだからこそ、その仕組みから抜ける事が難しかったんですよ。」

そう、独立したそれとして、互いに手を取り合う。そこに力が生まれるのだとして。神とて力を蓄える必要があった。恐らくかつて存在した数多を切り捨てながら、そうせざるを得なかった。
ゲームでは、リスポーンという明確などのプレイヤーにも提供されていたらしい機能。それで確認できるのは、あくまで10柱だけ。しかし、こちらの人々は口にする。それ以外の神の名を。オユキの呼んだ、ゲーム外の知識、そこに書かれていたものの名を。

「だからまずは、使徒様方。それからプレイヤーがいる、その前提であった魔物に対するために、ですか。」
「はい。そしてそこで増えた総量を元にこちらの世界で。ええ、ご想像頂いた事が正解です。勿論、他のことも、それなりに手をだされていましたが。」
「ええ、基盤に大いに不足がある以上、どうにもならないでしょう。そもそも物理法則、宇宙によって定まるとされているそれにしても、根本から異なるのですから。」

オユキの言葉に創造神はただ嬉しそうに笑う。そもそもオユキにしてもそれは専門という訳でも無い。そして、実際の専門家はこちらに来なかった、未練が無かった。そういう事なのだろう。ただ、いくらかは無しえている。国王、王太子がそれぞれ抱え込む。そういった稀人でしかないのであろう。
トモエにしても、物理法則の違い、それを刷り込まれている節はあるのだから。

「確かに、球体と平面、損も成立を考えれば、同じ理屈も通りませんか。」
「最低限、作用反作用、それにしても。」

未だに計ることが叶わない加護、それがそこにも働いている。それにマナといった全く異なる外力が存在する。狐火、それが当たり前のように、酸化反応として現れるべきプラズマが、当たり前のように存在するのだ。

「ただ、計測、それができないようにと言う事だったのでしょう。」
「いいえ。その方々は試練が先に、そうなっていただけです。」

さて、公爵とアベル、それからアイリス。気が付けば世界はすっかりと色を失い。この場で動いているのは、オユキとトモエその二人だけ。それと、創造神もだが。こうして露骨に聞かせたくない、そうされてしまうと、色々とオユキとしてもまた考えなければならないのだが。

「未練を果たす、全てはそれからですか。であるなら、私たちは。」
「ええ。お持ちでしょう。」

ニコニコと、ただそう言われてしまえば頷くしかない。使命はないが未練はある。それはオユキにしても、実際のところはトモエにしても。
それを使命としない、その特別は、用はこの状況に合わせて、加えてそれぞれの事情によるのだろうが。

「私については、確かにとも思いますが。他の戦と武技、それに連なる方たちはやはり。」
「そもそも、後を引き取る方がいないことが多かったようですが、はい。稀に来られた方は皆さん、流派として確立し、残されていますよ。」

つまり、その働きかけとて行っているらしい。

「シグルドの言葉ではありませんが。」
「ええ、分かっています。ですが同じ問いかけには、同じ答えを。」
「一応働きかけは色々と、それは理解していますとも。」

経験をもとに、以前はそう考えもしたが、それすらも及ばないらしい。

「始まりの町の教会、司教様は月と安息とそう仰っていましたが。」

そもそも、それすら被造物であることには間違いないのだが。なんと言えばいいのか。

「お二人は特にですけど、時間を取ってもう少し話を聞くのが良いと思いますよ。」
「何分忙しく。」
「ええと。その、それについては私からもお礼を。あの子たちは、本当ならあのままあの町で暮らす予定でしたから。」
「おや、想定外のことが。」
「それはそうですよ。あの子も言っていたでしょう。本来ならもっと早く切り離すつもりだったと。」

こちらの尺度では計り知れない事が多くあるのだが、それでもそうなってしまえばこその悩みはあるらしい。
今回の事は、どこまで記憶に戻るのだろうかと、そう言った不安も頭をよぎりはするが、そのままオユキとトモエは話を続ける。恐らく、残りの3人の記憶では、整合性が取れたものとして残され、寝かしつけられる事だろう。
そこから、逆算する事も出来るのだ。
始めに戦と武技、その神が忙しく、身動きがとれぬ。そう言っていたというのに意外と気安い、その事実と合わせて。そして信仰を強く得ている場であれば、隅々まで目が届く、その月と安息の女神の言葉。

「流石は、神職と、そう言ったところでしょうか。司教以上という訳でも無いのでしょうが。」
「あ、ダメですよ。そういった考え方はルール違反です。」
「所謂メタ視点、は駄目ですか。そうなると両親が残したものを探すのも、難しそうですね。」
「そっちは、大丈夫ですよ。そう頼まれていることもありますから。」

さて、ここまで話す、これが何処まで記憶に残るかは分からないが、理由はあるのだろうが。

「ご期待頂けるのは、勿論喜ばしい事ですが。」
「ええ。流石に、移動の時間、こればかりは。」

本来であれば、今こうしている時にそれを話す予定だったのだ。あれこれと、今ある物、見て回ったそれをどうにか寄せ集めてと。生憎と、トモエにしてもオユキにしても、こちらのそれに詳しくはないのだから。元はそういったものづくりに関わっていたとして、先にあげた様な根本的な差異、それがそこに立ちはだかる。

「もう、だから何回も聞いたじゃないですか。ご褒美は何がいいですかって。」
「いえ、流石にあの程度で釣り合いが取れる様な物では。」
「勿論お二人が自由に使える物ではありますけど、それ以上に私たちの都合に必要な物ですからね。」
「確かに、それはそうなのでしょうが。ただそのてこ入れがあるという事は。」

まぁ、つまりそういう事なのだろう。定められた期限がある。根底にある考え、二人で話した先延ばしの決断。其処までには色々間に合わせろという事であるらしい。

「実際の所、どれくらい時間があるのでしょうか。」

20年、それが切り離し、それだけを指しているはずも無い。その余波については想像すらできない事態なのだ。そもそも文字通り超常の存在が先延ばし、それをするほどの事態だ。理外の事が、想像の埒外の事が、色々とあるのだろう。それについては、まぁ、そもそも出来る事はそう話し合ったこともある。だからこそ、そう尋ねるのだが。

「えっと、切り離しまでは5年ですね。」
「つまり、助力が無ければ不可能という事では。」
「だから何度も聞いてるんですよ。本当に望みはないのかと。」

元々平均して年に一つ、そう考えるほどに、離れているのだ、物理的に。
それを半分にしろと言われるとなれば、もはや移動時間の短縮、それ以外に方法も無い。そして今ないものを作る、それにかかる時間というのは、優にそれを超える。仮に別の者が研究行っている代替技術があるにしても、いま実用化されていない以上話にならない。オユキたちだけでなく、実に多くの物が求めているはずなのだから、そもそもという話もあるが。

「他から色々と言われそうなものですが。ああ、それでアベルさんに公爵ですか。」
「はい。情報の公開それができる物は用意しますけど。」
「甘味の要求、そちらはそのように相殺しますか。」

そう、手の取り合い、加護はそこに。なので一方通行とはならない。だからこそ改めて、私欲もあるだろうが。

「本当に、忙しないものですね。」
「その。」
「いえ、もう少し早くなどとは言いませんよ。」

そう、それを求めたりはしない。つまりこれとて試練の一環ではあるのだ。ギリギリ、それこそ助力を受けた上で、それに付随する多くをかなえた上で。そうしなければ叶える事も許されない、そんな大それたことを願っているのだから。

「後は、目を覚ました時にどの程度記憶に残っているか、ですが。」
「今回については、一部を除いてそのままに。」

つまり、今こうして認識できている、その流れはそのままという事らしい。周囲の動きが止まっている。時間の経過は判断しにくい。しかし、そこれならそれでやりようもある物だ。無論、それとて許されているからに過ぎない。
あまり話題に口を挟まなかったトモエ、話題の切り替えのタイミングで並んだ料理、それに口を付けていたはずだが、それがオユキが認識している話題以上に減っている。連続性があやふやな中、そんなぶつ切りのフィルムの様な時間。まずい話題など、そこをそっくり切り取ってしまえばいいものなのだから。

「では、神殿で、改めて。」
「闘技大会の終わり、では無いのですね。」
「こちらの人達が調べられませんから。」

そうして少しの間話は続く。そして気が付けば目が覚めるだろう。夜こうした時間を持った、その整合性が取れる形、その記憶が今は色の無いそれぞれに与えられたうえで。
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