憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

然も有りなん

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「その、なんというか随分と慣れていますね。」
「まぁ、こちらよりも寒い地方だもの。冬はよくこうなるわね。」

子供の止まり木と言えばいいのか。なんだかんだと忙しい日々、そこでああもはしゃげば、特に10程の子供たちはそうなるだろう。そう言わんばかりに、一人二人と。アイリスを引っ張るまま、しがみつく形で電源が切れていく。
結果として、人よりも毛量の多い、髪や尻尾に埋もれるようにして、止まり木が出来上がる。幸い食べ物は食べきっており、衣類やそれらを汚すことは無いが。

「あー、迷惑かけるな。」
「何という事も無いわよ。爪や牙がない分、まだ楽な物よ。」
「そういや、そっちだとそうなるのか。」
「子供の頃は、どうしても歯が疼くから、噛みつき癖もあるもの。」

その辺りはまさに種族それぞれと言う事なのだろう。トモエとオユキの知る幼子にしても、とりあえずつかんだものは口に入れる物だが。

「じゃ、俺らもそろそろ戻るか。ファルコに土産も買ったしな。」
「ああ。さっきから少しづつ残していたのはそれね。」
「来れないみたいだからな。いつも食べてるものに比べれば、まぁ、確かに味は落ちるけどさ。」
「ちゃんと心遣いを喜んでいただけると思いますよ。」

ただ、そうなると、こういった物を珍しく思う手合いも他に出る物だが。そこまでは気が回らないだろう。その分はトモエとオユキで既に手を回している。彼には少年たちはほとんどあっていないが兄弟もいるし、公爵夫妻にしても民の様子、それが分かる品には興味も持つだろうから。
それにしても、こういったところで食べる物は、味以上に場の空気が影響するものだが。それをきっちりと分ける舌を持っているらしい。これまでの日々、その中でもきちんとした食事をとってきたのだろう。オユキと違って。

「えっと、こっちで預かりますよ。」
「わざわざ寝た子を起こす真似を、するものでもないでしょう。」
「その、ありがとうございます。」
「流石に屋敷に戻れば、離れてもらうけれど。それまでなら、まぁいいでしょう。それにしても、領都に比べてかなり涼しいわね。」

既に、今は夕方とはいえ、かなり日差しも強くなってきている。しかし、そこは水と癒しの神殿があるからだろうか。吹く風は水の冷たさ、それをどこかから伝えてくれる。その為、非常に過ごしやすいのだ、王都は。

「おや、アイリスさんは、王都はあまり。」
「タイミング、かしら。春先や冬は多かったけれど、この時期は。」
「冬、ですか。雪が降るのであれば、あの神殿の景観も実に趣深いでしょうね。」
「このあたりは、降らないわね。」

どうやら、そう言った物は望めないらしい。

「割と、こう、上下は感じるけれど、それでも他と比べれば一定よ。」
「成程。それは実に暮らしやすそうですね。」
「ええ。大きく気温が変わると、何かと、ね。」

獣人、獣の特徴を持つというのなら、換毛期も有りそうなものだ。そう思いついつい尻尾にトモエとオユキ、揃って目が行ってしまう。人間大、そうなっているから、非常に立派なのだ。

「まぁ、知ってるみたいね。ええ。本当に大変よ。髪もね。」

そうして、彼女が大きくため息をつく。

「その、冬毛があるのであれば。」
「正直、暑い所には近寄りたくもないわ。元々私たちの部族は、寒いところが得意だし。」

そんな事を話しながらも馬車に乗り込み、帰路を辿る。

「へー。でも、アイリスさん火を使いますよね。」
「だからと言って暑いのが得意かと言われると、話は別なのよ。」
「その、魔術が得意な人は、その属性に体質が依るといった話を聞いたことが。」
「そっちは、あなた達や精霊の方ね。私たちは祖霊に由来するものだから。」

こうして聞いてみると、色々と実に不思議な種族であるらしい。向こうにしてみれば当たり前、それがこちらにとってはそうではない。その話を聞くのは楽しいものだ。

「色々と違いがあるもんだな。」
「ええ。まぁ、不便を感じることもあるけれど。」
「尻尾、大変そうですよね。」
「私たちの所だと、切り込みを入れてあるからそこからになるけれど、こちらでは、ね。」

まぁ、臀部に切り込みを入れた衣服と言うのは、かなり特殊な価値観でもなければ受け入れられるものではない。こちらにとっては。後は彼女たちにとって、獣人にとって不便を感じるのは金属周りだろうか。
これまで見た事が有る相手は、やはり相応に身なりを整え、飾っていたものだが、金属は避けていた。

「装飾で金属を使わない事に、理由が。」
「あなた達は感じないようだけれど、匂いが強いからね。」
「へー。」
「こう、他と、魔物や食事と全く違う匂いが近くからずっととなると、疲れてしまうのよ。」

それで、紐や木彫りといった物に詳しいのであろう。祭りの場、そこに並べられた色々について説明を求められ、あれこれと応えていた。
今はオユキの髪に編み込まれている飾り紐にしても、アイリスの説明によるものであったらしい。
それを最初に贈られたオユキとしては、やはり嬉しいもので。いそいそと長刀の柄に巻こうとして、アナを悲しませたものではあったが。正直トモエに止められなければ、アナが訂正を行う前に事を終えて、もはや止められぬ、そんな状況になったであろう。久しぶりに、育ちが出た。そう言うしかないのだが。
近頃は立ち居振る舞いについて、細かく言われることは無くなってきた。少々がさつとそう取れるものはあるらしいが、そのあたりはこれまで習った事がない、それとして慣れているとも言うのだが。

「にしても、明日は、騎士様達の行進か。」
「これまで、皆さんが目にしたことは。」
「始まりの町には居なかったしな。一応、ダンジョンの周りで見た事はあるけど。」
「ああ。あれか。流石にあれと祭りの行軍は全然違うぞ。近衛も出るしな。」

これまでは、特段何も語らなかった、彼にしても割って入るのは無粋としたのか、護衛然としていたアベルが話に加わる。

「おー。」
「まぁ、実際は明日を楽しみにしているといい。正直騎士の花舞台でもある。」
「そうなんですか。」

アベルがそう言えば、少女たちが怪訝そうにする。

「あー、こう、物語なんかだと試合とかが多いんだったか。」
「えっと、決闘とか、主への忠誠の儀式とか。」
「まぁ、決闘は確かに見ごたえがあるかもしれないが、奉剣はなぁ。」

トモエとオユキとしては、言いたいことも分かる。物語であれば、それこそ一人の騎士が王にそうするのだろうが。学び舎があり、訓練時代があり。そうであるなら年に一回、纏めてとそうなるだろう。

「式典としては、確かに見ごたえはあるだろうが、そもそも外部の目を入れる物でもないし。纏めてとなるからな。」

予想は外れていなかったようで、憧れが崩れた少年たちが何やら悲し気にする。

「どっちかと言えば、王じゃなくて、それこそ地方領主とか、そっちなら個別にってこともあるな。」
「おー、そうなのか。」
「前にも話したが、第四だけで4百いたからな。それを一人づつとなったら、流石に陛下の時間がな。」
「あー、言われてみりゃそうか。でも領主様だって暇じゃないだろ。」
「王都の騎士ともまた仕組みが違ってな。その辺りは、それこそファルコにでも聞いてみるといい。散々叩き込まれているはずだからな。いや、お前らならメイの嬢ちゃんに聞くのがいいか。」

今後の去就、それについては少年たちはリース伯に使える事になるのだ。なら、確かにマリーア公爵、その下にある制度よりも、そちらであろう。

「いや、なんつったっけ。おっさんもいたろ。オユキも話してたダンジョン回り、あれの組織が出来たらって言われててさ。まぁ、俺らは騎士を目指してないから、それでいいけど。」
「あー、あれか。あれも正直固めにゃならんのだよな。」
「なんか、だいたいこんなのって出来てなかったっけ。」
「あくまで、だいたいでしかないからな。それこそ今後不都合が出れば変える必要もあるし、他から視察や情報収集も来るからな。勿論陛下への報告もある。ミズキリとオユキは分かっているだろうが。」

騎士は書類仕事が多い、それは事実である様で。アベルにしてもこうして護衛と監視の傍ら、実に色々と仕事を振られているらしい。

「はい。いくつか試すことになりますよ。」
「あー、なんか、それも聞いたけど。俺らの配属される場所は大きくは変更がないとか。」
「所属、部門としてはそうなりますが、報告先が変われば、すべきことも変わりますから。」
「ってことは、あれか。」
「ええ、皆さんも書類仕事です。」

オユキの言葉にシグルドがげんなりとした表情を浮かべる。そして、実にタイミングの良い事に、屋敷についたようでもある。

「一先ずは、書類についても誰もが手探りですからね。騎士団から書式の共有は。」
「そういった話も来てるが、どうだろうな。領主として得ると決まっている以上。」
「そちらに合わせるのが、無難ではありますか。しかし全てと言うのも。作るための魔石、それを得るための活動もあるでしょう。」
「そっちは、狩猟者ギルドに引き取って欲しいもんだよ、本気でな。」

そんな事を話しながら馬車から降りる。まだ日は高く、夜までは十分時間がある。
今から体を少し動かすのもいいだろうが、まぁ、一先ずは祭りの喧騒、そのおすそ分けが先であろう。
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