憧れの世界でもう一度

五味

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10章 王都の祭り

人、その問題

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「理屈はわかるが、今は無理だな。」

戻ってみれば、上手く調整したのだろうと、実感させられる。当たり前のように一同が合流することとなり、簡単に身なりを整える時間が過ぎれば、ちょうど昼食と夕食の間の時間帯。
公爵夫妻がリース伯爵とメイを伴ってお茶を嗜む場に、ファルコとアベル、オユキの三人が通される。アベルは当たり前のように着込んでいるが、言った彼はいつの間にこういった席に合わせた衣類を持ち込んだのか。そういった疑問が浮かんだりもすいるが、慣れない衣服、感触にオユキはどうしても身を数度よじる。そのたびに公爵夫人から視線が飛んでくるのだが、そればかりは了見してほしい。

「まぁ、そうなるでしょう。しかし。」
「うむ。その方らが王都を離れる、その前には。」

神殿に向かう事、そう勘違いさせる事は決まっている。そのためそれをやるとなれば、その前でとはなるのだ。

「そちらは、ひとまず置いておこう。大体の事は分かった。その方はこうした場の方が身につくようだな。」

そして、持っていた数枚の紙、狩猟者ギルドの中途報告書を置いた公爵が、ファルコにそう笑いかける。
これまでの教育、その成果については、祖父では無く父に報告されている物だろうとは思うが。其処は孫の一人が、後を継ぐと決まっているのだ。人が足りない、それでも領を、管理者を置かなければいけない場所を増やさなければいけない。そういった結果だろうとは理解しているのだが、相も変わらず不思議に感じてしまう。
貴族家ならば、やはり世襲だろうと、そう言った認識はオユキに根強くある。

「はい。どうにも想像も及びませんでしたが、改めて行い、話を聞けば。」
「うむ。今後も励むがよい。」
「しかし、分からない事もまだまだ多く。」
「当然であろうとも。我とて分からぬ、初めて直面することなど未だにある。半分も生きておらぬその方では、それが当然という物だ。」

そうして、珍しく公爵が口をあけて笑う。こちらにしても、他の場所にしても。今ではすっかりと私用人の顔触れが変わっている。机の中央には、何やら見覚えのない道具が置かれていることもある。いよいよ私的な場となっているのだろう。外に出すべきでない話も、出ると、初めからわかっての事ではあるのだろうが。
そうして、家族の交流を行う公爵のなかに、ファルコの兄、リヒャルトがいないのは、今頃書類仕事をしているからだろうが。前日までに、当然終わるような仕事量では無かろう。公爵にしても、あくまで休憩。実際には、露骨にやつれたリース伯爵の休憩といった側面が大きいのだろうが。

「それと、やはり私一人では。」
「そうであろうとも。だが、誰も彼もがそう思っておる。」
「ええ。私よりも、それは理解しています。そこでなのですが、今狩猟者ギルドの用意している人員です。」
「ふむ。だが、彼らは既に職務を全うし、余生を楽しむ、その権利を既に得た物たちだ。」
「しかし、こうして事があれば無理を押して、危険を冒して、そうしてくれている方々です。」

メイからどういう事ですかと、そんな視線も送られてくるのだが、そちらには目線で公爵が机に置き、リース伯爵に回した書類を示す。
始まりの町のダンジョン、その管理に関わるあなたは狩猟者が暴れまわると、どの程度の物が得られるのか確認する必要があるのだからと。それは正しく伝わったようで、数度頷けば、親子二人で書類を覗き込んでいる。最もそれを為すのに支払った費用、金銭、時間、人、そう言った物も未だ概算ではあろうが。

「断られれば、やむなしとは思いますが。」
「彼らの安息、それを侵す覚悟はあるのか。事情を話せば、強制とそう受け取るものもおるだろう。今は祭り、その言い訳があるから、一時と、そうできているのだ。」
「良き民の安息こそ、ですか。」
「だからこそ、我が公爵家は彼の神より名前を頂いておる。」

さて、ファルコの方では説得が難航している。というよりも公爵はわざとそうしているだけだ。それを為せば、主導したファルコは、当然今公爵に言われているような事、それを方々で問われるのだ。
言葉を聞き、それを考え、彼なりに考える事に精いっぱい。そんな彼は公爵の目に浮かぶ楽し気な色に気が付けない。どうにも、公爵にしてもこのファルコという少年が武を好んだ、そこには理解のためにどうしても経験が必要だと、そう言った性質であると理解したのだろう。そしてそれが得られる場として、今まさに学ばせている。

「ですが、今のままでは、今後より大きな。」
「うむ。それも間違いではない。しかしその方は、覚悟があるのか。先の多くの民のために、今の民に無理を強いる。その覚悟が。」
「それは、極論では。何も全てを賭してくれ、そう言った物では。」
「さて、その者達はそう取るだろうか。我等、リース伯、加えて王家もだな。それらが動く新しい組織、その手伝いを我が孫のその方が頼んだとして。」
「ですが、手を借りたいそれを願うのは、私です。私が頼まなければ。」

さて、そうしたやり取りが続いているように見えるが、年季が違う。綺麗に公爵に思考の袋小路に放り込まれたファルコが、空回りしはじめた所に公爵夫人から制止がかかる。

「あなた、やりすぎですよ。まったく、孫相手に大人げのない。」
「すまぬな。ここしばらく、目を見張る成長が嬉しくてな。」

そうして笑う二人に、ファルコがひどく不思議そうな顔をする。

「ファルコ様。ここも練習の場ですから。」

そして、そう告げれば、彼はただ机に上体を投げ出す。矢継ぎ早に質問を投げかけられ、言葉に詰まったところは重点的に。使う単語と文脈を入れ替えて。それに対応するうちに、始まりを忘れている。
そもそも今日手を借りた人々は、既にそういった手伝いを承諾しているのだ。後は王都からの移動、所属の変更、そういった事を受け入れてくれるのか、それが本題だ。
今後類似の、それこそ手配がされていないことをする、若しくはそれを良く思わない物、こういった事も手札として使いたがる手合いへの対処、その練習だ。

「公爵様。流石に、そろそろ疲れもありますから。」

そして、ここまでの道すがらでもオユキとアベルで詰め込んだこともある。この後はアベルの手による指揮、以前イマノルが最小編成は3人と言っていた以上、その中でどう動くか。その知識の集積はあるのだろうから、その触りの説明もある。流石に、過剰だろうと思いはするが、それこそ加減をするしかない。案外とアベルが今日は用意できないと、そう言って明日に回しそうな気もするが。

「ああ。正直、想像を大幅に超える成果でもあった。その方らの教え子は、まぁ、補助、その程度に考えていたのだが。」
「数に対するには、数が要りますから。」

基本は格下の乱獲なのだ。勿論一振りで叶う事に差はあるが、それこそ3人と12人では。

「我も改めて実感したとも。少なくとも現状運び込まれたものについては、差が無いと、そう書いてあったわけであるからな。」
「そう、なのですか。」
「人数が4倍違う、それで変わりがないのを少ないという事も出来るが、それこそその程度の差はあると、その方も納得できるであろう。」
「いえ、もっと開いている物かと。」
「流石に、私たちもそこまでではありませんよ。体力の分配もあります。余裕をもって動けるようにと調整はしましたから。」

少年たちは、全力だが。残りの3人、アベルも、勿論余力を残してとなる。

「何というか、我も時折狩猟者ギルドからの報告書に目を通すが、これが15人、その2時間にも満たぬ成果であるか。」
「勿論繰り返せば、今は得られているトロフィー。それにしても次第に減るでしょうが。」

そう、今はまだそこまで離れていない。技を使う余裕も試す余裕もある。だからこそ得られている物も、いつかは無くなるだろう。そうすれば、見た目の成果と言うのは大きく減ることになる。

「何、魔石は確実に得られる。それを考えれば、後はそれこそ他の奇跡を使えという事だろう。だが。」

リース伯爵がそこで言葉を切ってため息をつく。まぁ、オユキにしてもその気持ちはわかる。

「武器の消耗が、な。」
「参考までに、本日使いつぶしたもの、それを用意するにはどの程度かかるのでしょうか。」
「頼む職人の数にもよるが、二人で1週程か。鉱石からとしたときに。」
「意外と、早いですね。」

製鉄からそれであれば、かなり早い。あくまで粗製乱造品だとしても、そもそもそれで十分でもあるのだから。

「早いからこその問題もあるがな。」

そして、現在の生産、その速度では金属の供給が間に合わない物であるらしい。その辺りは、新たに得られた奇跡に期待をするしかないが、そちらもまだまだ実験段階。直ぐに叶う物では無い。
当然、こちらも暫くは我慢を強いられることになる。それが分かったとて、オユキは野外の炊事を行うための道具、その手配はするが。

「アベルさんの方では。」
「色々と手配はしているが、話がもう回っていたからな。取り合いだ。」
「已むを得まい。他でも気が付くものも、知っている物もいるであろうしな。」

さて、ダンジョンについては、まだいろいろと不安はあるのだが。オユキとしては今はどうにもならないと口にするつもりはない。ミズキリにしても、それを避けている風ではあった。なので、話を振るのは彼からになるだろうと、そう判断もしている。
話すべきことも、決めるべきこともまだまだ多いという物だ。
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