憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
347 / 1,235
10章 王都の祭り

反省会

しおりを挟む
分かれてそれぞれと思えば、アベルによって纏めてのほうが良いと、そう言われたため皆で車座になる。中央にはしっかりと持たされた食事、勿論外で食べられるように工夫が凝らされている。残った武器の手入はどうにもならないため諦め、簡単に怪我の手当てを終えれば、全員でそれに手を伸ばす。
なんというか、本当に至れり尽くせりだ。未だに雑事を任せている相手には申し訳ないが、そばを通る時にそれぞれに声を掛けられる。

「実に見どころのある子供たちではないか。」
「全くだな。まだまだ若いところは目立つが。」
「その調子で精進を続けるといい。」
「しっかり休みなさい。我らに出来る事は、我らがやるのだから。」

掛けられる言葉は、基本的にはそのような物で、経験を感じさせるものだ。その辺りの人選も、短い時間だというのに、本当に良くしてくれている。改めてそれに感謝しながらも、オユキは少々少年たちの旺盛な食欲に、引き気味ではある。
運動のすぐ後は食べられない、そんな者も多く、現に今のオユキもそうなのだが。少年たちは動いた分はすぐに回復させねばと言わんばかりに、次々と口に運んでいる。

「ま、こうなるからな。」

どうやら、アベルが分けなかったのは、一先ず彼らの食欲を処理させるためであったらしい。

「何と言いますか。ええ。過去に覚えがあるとはいえ。」
「確か、異邦の人間が考察を残しているが、加護が定着するにも食事や休憩が必要になってるらしくてな。」
「身体ばかりではなく、ですか。」
「どうにも、栄養素意外に食事に含まれている物が有るとかないとか。花精を始めとして、噛んで食べるでは無く、食物そのものを吸収する種族がいる以上は、そんな話だったか。」
「ああ。そういえば、そのようなこともありましたか。」

オユキとしてはそれでルーリエラの振る舞いが納得できるものでもある。加えてセシリアが座る一角、その周囲の下ばえから色が抜けているのも。そうであればと飲み込むことは出来る。理屈はとんと見当もつかないが。

「まぁ、それでは皆さんも食べながらで。まずは総評のような物を。そうですね、アベルさんからのほうが良いですか。」
「お前らだと、個別になるからな。」

そうして、まずはと口火を切る。そしてその評価に対しては緊張感が生まれているが、そのような席でもない。

「正直、初陣と考えれば、ああ、集団戦、掃討戦としてだな。上出来すぎる。」

そして、褒められれば、立場もある人物だ、子供たちが特に喜ぶ。

「勿論、改善すべき箇所も多くあるが、事前にその説明を行っていないしな。それで結果は目的を達成して、負傷者にしても軽傷だけだ。結果を見れば、文句のつけようがない。だから総合評価としては、成功だな。」

何なら、もう少し苦戦があると踏んでいたが、そうアベルがこぼす。
それに対して、少しお腹も落ち着いたのか、食べるペースを落とし始めたアナから質問が出る。

「えっと、怪我をしたのにですか。」
「確かに、個別で、これまでなら無傷で倒せただろうが、状況が違う。」
「それは、そうですけど。」
「そのあたりはお前らも言われてるかもしれないが、トモエの教えの弊害でもある。」

そうはっきりと言われれば、トモエとしても反論はない。

「あー、そういや前あんちゃん言ってたな。回避が前提だからって。でも、怪我してないぞ。言った本人が。」
「そんな事直ぐにできるようになるわけがないだろ。アイリスにしろ怪我がないだけで、何度か素手で角払ったりしてるからな。」
「まぁ、そうね。それだけの経験がある、そういう事だから恥じるつもりはないけれど。」
「おー。」

そう、アイリスにしても、これまでの間に本人も気が付いているが、なんだかんだとそれに頼っている事が有ったのだ。だからこそ、普段の訓練、魔物がいない場であれば必ず指輪を付ける。だからこそ、別枠で能力がさらに伸びているのだろう。
近頃は、魔物の数が少ない場面では、試しにと指輪を付けている場面もあったりもする。それほどまでに、闘技大会までの短い期間に、懸けているらしい。
それは、その場で己の流派、教えこそが至上だと、そう示すつもりのトモエにしても、異なるやり方ではあるが、余念がないものだ。それに負けるつもりのないオユキにしても。だから、二人して乱戦の最中、一切の怪我を負うことなくという物だ。教えているからと、それに時間を使っているからと、己を磨くことまで投げ出しはしない物だ。

「しかし、アベル殿。」
「ま、お前らも分かってるだろうが、問題が無かったとは言わない。だが全体としての評価はそんなもんだ。」
「えっと、問題って言うと、やっぱりさがる時だよな。」

その辺りはもちろん自覚があるようだ。シグルドがそう言えば、揃って頷いている。

「だが、それが一番難しい所でもあってな。正直初回で出来ない、それを責められるようなもんでもないんだよ。」
「でも、それこそ失敗したら。」
「だから、監督役がいるんだよ。出来る様になるまでは。その辺りは悪い事じゃない。
 勿論、この後、それぞれの改善点は伝えていくがな。」

そこでアベルの話は終わりのようで、次はとトモエが口を開く。少年たちにしてみれば、結局彼ら自身ではない、その事が引け目になっているのだろうが。その辺りは分かっていたことだ。
これまでにどうにか出来た事でも、囲まれ、そこに助けが来ない、それだけで慌てるのだから。それこそ経験不足、そういう物でしかない。

「さて、皆さんにとっては初めての経験だったでしょう。まずはお疲れ様でした。そして、後程狩猟者ギルドでも感謝の言葉を頂けるでしょう。それだけの事を為したのだと、まずはそれを誇りましょう。」

そして、トモエとしても個別で見ればそれぞれに言うべきこともあるが、全体としてはよくやっていた、本当にそう思うのだから。もう少し、色々と手を出さなければ、そんな事も考えていたのだ、最初は。

「先ほどのアベルさんの言葉にもありましたが、私の教えている事、特に今の段階では不都合の多いこともあったでしょう。それを良く互いに庇い合いました。」
「今の、段階、ですか。」
「ええ、私もオユキさんも、これまで3度ほどですか、見せたでしょう。」

そう、やってやれないことは無いのだ。ただ、それを後に回している。こちらの教えであれば、特に騎士、己の身までも盾にする、そんな相手とは優先順位が違う。

「流石に、皆さんにはまだ早いですし、手も足りませんから。」

トモエがそう話せば、不穏を感じている風ではあるが、それは良い。一体多数、休むことなく、相手だけが入れ替わりながら。そんな愉快な鍛錬もさせられたものだ。そして疲れたころには、待っていただけ、そのはずの相手が周囲から短刀を投げ込んだりしてくるのだ。

「えっと、まぁ、ならよかったよ。俺らだと、これが初めてのギルドからの依頼だしさ。」
「ええ、ですから、戻った時、その時は喜びましょう。結果は上々。目的の達成という意味では、言うまでもありません。ギルドの方々の想定、それはずいぶんと超えていますからね。」

そう、最初は見なかった顔、追加の荷台、そのような物まで手配されているのだ。ならば成果は十二分すぎるほどだ。そうしてトモエが話しを締めれば、既に持たされた食事も無くなっている。物足りなさそうにはしているが、戻る前にまだ話はある。

「さて、それでは個別の話をしましょうか。まず、シグルド君。」

そう、全体の結果、その成功。その話が終われば、個別の失敗だ。

「あー、前に出すぎた、そうは思ってる。」
「はい。そうですね。」

そして、それぞれに良い所と悪いことを順に話していく。それぞれ自覚があるところではあるようで、受け答えも早い。そして、それが終われば、どう改善するかという話になるのだが。

「ただ、改善策、悪かったところを直すというのは。」
「ああ。今回の事を頭に入れて繰り返す、それしかないからな。」

トモエとはまた異なる、指揮をする立場、それも経験豊富な立場としてアベルからも、それぞれに言葉はあったのだが。結論はそうなる。

「あー、そうなるのか。確かに、じゃあやれって言われても、無理だってのはわかるけど。」
「確かにな。」
「うん。流石に囲まれちゃうと。そうしないように動かなきゃってのはわかるけど。」
「私、基本的に後ろにいるから、私が言ったほうが良いのかな。」
「いや、今日はリーアも両手剣だったしな。」

それぞれに、思い思いの事を話し始めるが、ただそれも終わりとしなければいけない。荷物についても、流石にこうして1時間以上も休んでいれば、片が付いているのだから。

「では、話はまたあとで。今は移動としましょうか。」
「おー、そうだな。」
「後は、そうですね。戻ってから今日は疲れもあるでしょうから、そちらで改めてゆっくりと話しましょう。それぞれ消化すれば、また思うところも出て来るでしょうから。」
「ま、移動中も、話は出来るし。つっても、役割分担って言うのは考えなきゃだよな。」

さて、そんな少年の言葉は正鵠を得ているが、そもそもそれをするにもまだ早いのだ。これからそれも時間をかけて、それぞれの得意を把握しながら作っていくしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...