憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

戦闘も少々

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子供たちは元気に荷物を持って往復を繰り返し、その道すがら色々と話をせがむという実に微笑ましい光景が繰り広げられている。
それが職務と嘯いた騎士にしても、純粋に憧れを向けられれば勿論悪い気はしないのだろう、請われるままにあれこれと少年たちに話して聞かせているようだ。
ただ、そんな光景を見れば勿論、トモエとオユキにしてみれば改めて手持無沙汰を実感してしまうのだが。

「罠は、今のところなし。敵の戦力も覚えのあるものと、恐らく違いはなさそうですね。」
「そのようです。ただ、内部構造、敵、それらはある程度の指向性を与えられるとのことでしたが、慣れてはいけないそう言う類の場所にはなるのでしょうね。」

そうして話す二人の視線の先では、泥人形と石人形、鉄人形を纏めて相手取る騎士の姿がある。最初は弱く、後は強い、そう言った優しさは当たり前の様に排されているらしい。それとも今まで出た相手は、弱いとそうひとくくりにされているのか。

「このまま人形ばかりとなると、鉄の上は。」

鋼でしょうかと、そう続けるトモエにオユキは首を振る。

「変異種として鉄の上に鋼、炭素が混ざり硬度が上がったものがいますが、そうでない場合は、銀、金と上がります。」
「鉄より軟いはずですが。」
「そのはずなんですが。」

オユキにしても、以前の知識に従えばそうなる事はわかる。だがここでは違う。

「銀製品として短杖がありましたよね。」
「ああ、魔術ですか。厄介な。」

完全に敵とそう見ているからかトモエの言葉に遠慮はない。

「オユキは、出て来ると。」
「確証はありませんが、まだまだ浅い、そんな印象を受ける位置で鉄がこうして出たことを考えれば。」
「成程。さもありなん。しかし進度と強さに相関はないように思うが。」
「暫く進みましたが鉄までです。そこまでが一括り、その可能性もあるかと。加護の制限、それがなにを持って決まっているのか、そこに魔物の強さがあっても不思議ではない、その様にも考えますので。」
「慣れてはいけない、金言であるな。」
「騎士の方は問題なさそうですが。」
「我らはな。しかし我らばかりが入るわけには行かぬのだ。さて、そろそろその方らも混ざってみるかね。」

その言葉に、オユキとトモエが揃って頷き、早速とばかりに前に出る。
加護に対する制限は二人にはない。そもそもどの程度と計れるものではないが、領都での経験で確実に二人とも以前の倍以上、そう言えるだけの物は身に着けている。
そして、二人で話したのだが、少年達とも加護のつき方が異なるような気もすると、そんな話も。

「では、次は私どもが。隊列には不慣れですので。」
「分かった。危険だと思えば割って入ろう。」

そう先頭を騎士と変わって、改めてあたりを見ながら進めば、これまでの道すがら鉄人形がその重量を散々に発揮したというのに、へこみも傷もつかない石の通路を進む。
石の隙間にはえた植物や隅の方に僅かに生えた苔など、気になるものではあるのだがミズキリの言葉によれば採取できない物であるらしい。
物は試しにとオユキが長刀で草を少し払えば、それは溶けるように消えていった。

「何とまぁ。」
「皆さまはすでに確認を。」

不可解な、こちらでの事と考えればそうでもないが、目の前の出来事に後ろを振り返って尋ねれば首が横に振られる。

「そうだな。他も試してみよう。少しその場で待っていてくれ。」

騎士の一人がそういって、ラザロに確認を取れば、手すきの騎士が周囲に散って草をむしり、苔を削り、壁を破壊しようと打撃を加えたりと、色々確認を始める。
しかし、その結果はどれもミズキリの言うように、無意味なものとなった。

「採取もできれば、色々とはかどることも有るのでしょうが。」
「ああ。あそこ、少し青みがかった苔が生えているのが分かるか。」
「はい。」
「あれなんだが、打ち身の軟膏に使う物でな。」
「それは、惜しいですね。」

どうやら周囲には実際に薬として使えるものまであるらしい。それを眺めるだけで得ることができないというのは、辛いものがある。

「ミズキリがメイ様の元へと取って返したようですから、こちらも何か解決策があればいいのですが。」
「ああ。全くだな。薬の材料は不足している所の方が多い。」

輸送の問題が常に付きまとうこちらの世界。その悩みは大きい物だろう。
そんな話をしながら、少し歩みを進めれば、すっかり見慣れた影が目に入る。

「さて、久しぶりですね。」
「ええ。こちらでもとなると、嬉しさを覚えてしまいます。」

石に金属がぶつかる大きな音を響かせながら、鉄人形が3体ほど連れ立って歩いてくる。
廃鉱山は狭く、一体づつを相手にできたが、こちらは道幅があるため一度に相手取る事になりそうだ。油断はないが、問題もない。その程度の相手ではあるのだが。

「斬りますか。」
「いえ、悪戯に武器を痛めるのは得策ではありませんから。」
「そちらも、解消するといいのですが。」

さて、資源が得られたとして、武器の不安が無くなるのはいつのことになるだろう。
そうして二人無造作に歩いて近寄り、振られた腕をかわし、それぞれに継ぎ目を狙って鉄人形を解体していく。
鉱山であれば、魔石が残る、それを目安に攻撃を止めることができたがと、そう考えながら四肢をその継ぎ目で切り離せば、突然切って地面に転がっていたはずの一部が消える。
どうやらそう言った合図はあるらしいと、そうオユキが観察している時には、トモエがすでに二体目も解体しきる。

「鉱山の物より脆いですね。」
「はい。」

鉱山にいた物は、丸太を斬る様な硬さを持っていたが、こちらはそれの中が空洞になっていると言えばいいのだろうか。入りの感触は変わらないが、途中が軽すぎるのだ。

「そのあたりに魔石の有無があるのかもしれませんね。」
「そればかりは、今後の研究に期待というところでしょうか。しかし、あの子たちでもやれそうですが、失敗をしたときのリスクが大きすぎますね。」

今の少年達であれば、問題なく相手は出来る、そう言った相手に感じられるが、問題は継ぎ目を狙う場合だ。失敗すれば武器を失う。替えの用意が難しい現状では、試させるのも難しい。

「見事な物だな。」
「お目汚しを。」
「それと、先ほどの話だが。」

そう騎士に問われて、トモエとオユキが所管として、廃鉱山、そこで戦った魔物に比べて弱いとそんな感想を述べる。恐らく騎士たちにしてみれば違いなど分からないだろうし、加護の制限、それがあったところで殴れば片が付く程度の相手であることに変わりなく、気が付けなかったのだろう。

「ここで慣れて、過小評価をすると危険があるとそう考えます。」
「しかしその方らの様に、ああも綺麗に継ぎ目を狙って分断できるものの方が少ないのではないかね。」

あれこれと話すうちに、ラザロも混ざり簡易的な報告を行えば、そう言った話題にも移っていく。

「少なくとも、私が教える相手にはこの程度、そうなるよう尽力させていただきます。」
「ふむ。それはあちらの少年たちも。」

戻ってきた少年たちが、トモエとオユキの討伐した鉄人形の部位を運び出している。
そして、転がるそれを見たときは、慣れたように誰の手によるものかが分かったように頷いていた。

「武器の問題が無ければ試させたく思いますが。」
「できぬ、とは言わぬか。相分かった。少なくとも経験を積んだ狩猟者にも、外の魔物との違いを報告させねばならんな。我らでは、言葉は悪いが差が分かるほどの敵ではない。」

一先ず、話はそこに落ち着き、それからはオユキとトモエも定期的に戦闘に混ざりながら、ただまっすぐな通路を進んでいく。内部は明るいのだが、一定の距離、そこからはもやがかかって見えないくなっており、警戒をしながらとなると進むのにはどうしても時間がかかる。
そして都合5時間ほども進めば、大きなホールに出る。
分かり易く、これまでとは違い近づいたところで見通せない濃い霧に阻まれたそこをくぐった先、此処がボスの鎮座する部屋だとそう言わんばかりのそこには、両脇に金と銀に輝く人形を従えた、鈍く輝く巨大な人型が鎮座していた。両脇の物も、鉄人形よりも大きく、それぞれ5m誓いく有るだろうが、中央の変異種鋼人形がその大きさを霞ませる。両脇のそれの倍はあるのだから。

「ああ、トモエさん。アレが鋼と金と銀ですよ。」
「以前説明いただい通りですね。あの大きさになると、もはや人相手の理合いなど役には立ちませんか。」
「重量も、まぁ見たままですから。」

二人は人形を相手取る騎士、その背後でそう呑気に会話を楽しむ。
今の二人であれば、かなりの危険を伴うであろうが、そこは歴戦の騎士達。民の守護を矜持とする彼らの動きはすさまじく、二人の場所まで人形が通り抜けることはあり得ない、そう思わせるほどの物であった。
金属同士がぶつかる騒音はあるものの、己の五倍以上の金属の塊、その重量を受けてもわずかに下がる事すらしないその背中は、確かに民の憧れを受けるに値するものだろう。
少年達も見られれば良かったと、そんな事を考えている間に、騎士達は実に危なげなく、布陣した場所から一歩も下がることなく変異種を討伐して見せた。
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