憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

トラブル続きに対する慣れ

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言われた言葉に、オユキとしてはそういうことも有るだろうと、そんな感想しか出てこない。側に座るミズキリを見れば、彼もそう言わんばかりの表情をしている。
しかし、その事実に直面したメイが疲れた様子を見せている、その事から考えれば、彼女とその周辺に関してはそうではないのだろう。

「全く、どうしてこのようなことが。」

ここで問題とすべきことは何だろうか、それをオユキが考えれば答えはすぐに見つかる。つまりメイが領主機能とやらに、無差別に、既にほかの領主がいる、その状況でその権限を振るえるかだが。
オユキはつらつらと考えるものの、それをこの場で、如何に周囲に音が漏れないからと口にするのは流石に躊躇われるため、確認もできない。横目でミズキリを見れば、彼も同様であるらしく。困ったような視線がオユキへと帰ってくる。

「メイ様。ここでの話は、他に影響しない。その事に間違いはありませんか。」
「ええ。必要であれば、この場で宣誓を行いましょう。メイ・グレース・リースの名と神に誓い。この場における発言、それを如何なるものであれ糾弾しないと。ただ、もたらされた情報それとして受け止めると。」
「だそうですよ、お二人。どうぞ気にせずに確認を。」

予測も推測もあるが、危うい意見ではあると。身動きが取れない二人にトモエがそうしてきっかけを作る。

「ありがとうございます、トモエさん。メイ様の宣誓に不安はありますが、胸襟を開き赤心を、その約束です。
 もちろん私たちもそれを違えませんとも。ミズキリ、領主権限、その付与がなされる定義は。」
「そこは確かに信じるしかないだろうな、こちらも信じてもらうしかないのだが。
 これはこちらに来る時に創造神様に確認を取ったことだ。以前と変わらない、領地に対して管理者権限はメインととサブが一つづつ。」
「であれば、王権神授、それが文字通りであるか、そこですね。先の出来事による言葉もあります。」
「だろうな。人が勝手に決めた役割を、神が守るかは話が違う。」

二人は容赦なく身分制度、その根幹にかかわる部分に切り込む。領主、領の管理者、その人物が許された権限だというのであれば、出来ない物はそうではない、ただそれだけだ。月と安息の神もそれを肯定するような言葉を確かに言っていたのだから。
ゲームを基としている以上、そのあたりは融通が利かない、そんな造りになっているのは間違いないのだろうから。

「ですが。」

二人の会話にメイが疑問をさしはさむが、それについてはオユキにも予測がある。

「メイ様に関しては、今回創造神様より直接その機能を周囲に伝える、その任を与えられています。」
「それは、そうかもしれませんが。」
「他の機能の使用権、それが与えられたのなら神としての雑さ、その、良い言葉が思いつかないのですが、細かく力を与える、それが叶わなかったのだろうと。」
「ま、そうだろうな。しかしそうとなると、拠点作成のクエスト、それも失われたのか。いや、極一部という事は残っている所もある、そういう事か。」
「私以外に確認できたのは5公のうち2人、伯爵に1人。それ以外には王だけです。」

その数字がどの程度の割合かは分からないが、少なくとも公爵ですら差がある現状はまずいだろう。特に伯爵家の一令嬢。爵位を持たない少女ですら持っているものを、貴族家の当主が持っていない。その状況を打破する、理由の確認も彼女に課せられた使命となっているのだろう。

「ミズキリ。」
「ああ。拠点作成、つまり自分の領を得るこのクエストは単純だ。魔石と硬貨を必要量集めて、教会か神殿で創造神の像に捧げるだけだ。」
「新規の領を作るたびに、こちらでやるような行いとは思えませんが。」
「信心深いものが今後を祈って行った事が要件を満たしたのか、権限の委譲がうまくいったかだな。王族に関しては王が機能の利用を出来る事から、間違いなく血統として権限が委譲されているだろう。」

そうして、言葉に甘えてと言えばいいのだろうか。ミズキリとオユキは遠慮なく少々外側の話も交えて確認をしていく。メイは時折表情を鋭くはするものの、二人の会話を先の宣誓通りに流してくれるらしい。それだけ彼女が、彼女に指示を出した人間が困っていると、その証左でもあるのだが。

「であるなら解決策は二つですね。」
「いや、その前に確認すべき事項がある。現在の領の所有権がどうなっているかだ。」
「領主としての権限は既に利用できている、そう見えますが。ああ。領主としての権限を得ると、システム的には独立した領地、その扱いになりますか。」

国土は王の物では無く、そこを支配するもの、そう取るしかない仕組みがそこにはある。ミズキリが否定せずに頷けば、いよいよメイの顔が曇る。
彼女自身今回の事である程度実感したのだろうが、危機的状況、生存が難しい状況に置かれたこちらの人々にとっては、強力な指導者の有無はかなり大きな違いだろう。
それこそギルドにしても、国の管理下として一元の物では無く、それぞれが領地の理屈で動くとなれば、大いに混乱を招くだろう。

「そうだな。結果として独立の機運を招くだろうな。特に王都から遠い領地では。」
「抑えるには明確なメリットを提示する必要がありますが、あくまでこれまでは領主としての機能に支えられたものそうなるでしょうからね。人柄もあるでしょうが、物理的な距離、制限、それを覆すものではないでしょうから。」
「実質同盟、それ以上の関係は領主間では作れないからな。さて、そうなると面倒だな。」

ミズキリ自身、領地を得ることを考えていたはずだ。だからこそそう言った知識を持ってこちらに来たのだろうから。そうであるなら、これからの彼の行動、その全ては要約すれば国土を切り取る、そんな行為でしかない。
そして、それを公然と行う危険性も気が付いているだろう。
どうにも、高々機能一つ。それが解放されただけというのに、人の世は大いに振り回されるらしい。

「インスタントダンジョン、自領で望む資源を得られるのであれば、後は既存戦力、問題はそれだけですか。」
「ああ。いや、聞いた話によれば今後の戦に備えよと、そういう事だったか。ならばそこで競争することも織り込み済みか。」
「可能性はありますが、現状と照らし合わせれば少々酷では。」
「それこそ現状では最も合理的な決断だろう。連絡は取れるが、物理的には隔絶されたそう言っても問題な地域だぞ。区分が別れるのは自然な帰結だろう。それ以上の求心力を獲得できなかった、その結果としか言いようもないだろう。それに、結果として切り離すほうが楽になるからな。」
「確かに、それはあるでしょうが。」

そうして、暫くオユキとミズキリが何の遠慮もない話し合いを続けていれば、流石にメイから止められる。

「お二人とも、随分と悲観的な予想ですが。」
「可能性を模索するときは、最悪を予想しておくものですよ。現実はそれを超えますから。」

ただ、あまり意味のない、表面的な言葉はオユキが一蹴する。
明らかに彼女では経験も能力も足りない、そんな出来事に巻き込まれてはいるだろうが、だからと言って今この場に彼女の代わりを務められるものはいないのだから。
それこそ相談役のゲラルドであればとも思うが、それをこの話し合いから除いた、覗いてしまったのは彼女だ。つまり彼に開示すべきでない情報が、この話し合いに含まれているという事でもあるのだが。

「とにかく、問題はいかに後の事を行うかですね。」
「報告は。」
「それこそ先の聖印があります。この件については、それに付随する事態ですので恐らく有効でしょう。」

オユキがにべもなくそう告げれば、メイがただ肩を落とす。
その仕草にトモエから咎めるような視線が送られて、オユキも言葉を加える。

「事前のお約束を違えるつもりはありません。メイ様。微力ではありますが、確かに私とトモエお力添えさせて頂けることは、喜んで。ミズキリも厳しいことを言ってはいますが、あくまでそれは現状の認識を正しく持つためです。手伝う気が無いのであれば、そもそもこういった物言いは行いません。御身を手伝う、そのための物です。」
「そうだといいのですが。話をただ聞いているだけでも、こうして心労が溜まって来ました。」
「それについては堪えてください。私からはそうとしか。あなたの前には立てません。私が前に立つのはトモエさんだけですから。」
「この場においても、惚気ますか。」

そうして少し冗談めかして言えば、メイも少し気分を持ち直したらしい。率直に彼女はミズキリに尋ねる。

「概ね原因は、あなたの推測として理解しました。さて、私はこのことをそのまま報告すべきと考えますか。」
「そうせざるを得ないでしょう。結果として私が反乱をそそのかした、そう取られるかもしれませんが、どのみち誰かが気づきます。その時まで無意味なリスクを抱えるよりも起こりうるとして対応するほうが、全体として楽でしょう。ギルド、離れた領地に存在するそれや、現地への派遣戦力、それを引き上げるかどうか、そう言った選択肢を使って交渉することも可能ではありますから。」
「王が忠誠ではなく、利益を持って貴族と交渉ですか。」
「集団としての実態はそれです。王だけが特別ではありません。こちらの世界でも普く人々は神の加護を得ているのですから。」
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