憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

乱獲の後に

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河沿いの町への移動は、以前を超える規模となり、その道中もなかなか楽しいものとなった。
トモエとオユキも、引き連れているものたちの面倒を見つつ、加えて20人程の新人たちにも、如何に武器を振るのか、その振り方を細かく注意していく。
既に相応の魔物は、相手をしてきたのだろう。明らかに加護による、そう分かる程度の身体能力は身に着けていたが、あまりに無駄が多く、体力の浪費がひどい。それでは継戦能力がと、トモエが不安視したうえで、望むものにと口を出せば、気が付けば全員へとなっていた。
明らかに、彼らよりも幼い、オユキはともかく、子供たちが元気一杯魔物を狩る横で、疲れて肩で息をしている己、それを自覚したからか、彼らとて必死だった。
オユキもその様子を確認していたが、魂の強化と言えばいいのか、確かに訓練、魔物の狩りを通して、二人ほど茫洋としていた相手も、明確な受け答えを返すようになるのを、目の当たりにして、それをトモエと話したりと、新しい発見も大いにあった。
加えて、少年たちにも蟹は実に良い相手であったようで、石人形を思い出しながら、きっちりと関節を狙って、弱所を狙って攻める、その意識をより強く持てた様だ。子供たちにしても、これまでのように、ただ近寄ったところを着ればいい、そういった単純さを持った戦闘ではない、その状況に学びが多く、不安定な足場、それに立つことで、かつての、少し前だが、少年たちのように、自分がどれだけ体の制御ができていないかを、思い知る事が出来た様だ。
町での宿泊は、以前の宿に合わせて、いくつかに一団としては分かれての宿泊となったが、それぞれが自分で獲得した海産物を楽しみ、実に良い時間を過ごせた。

「んー、こうしてみると、力技ってのも、確かに選択肢として有効だよなぁ。」

始まりの町、その壁沿いにぞろぞろと連れ立って歩く中、シグルドがそんなことを言い出す。
以前とは違い、加護の強化もあるのだろうが、少なくとも、少年達、トモエ、オユキは、馬車の住人にならず、今回の旅を踏破できている。
オユキは少々きついからと、武器を手放している状態ではあるが、それ以上に馬車が積載量の限界を超えてしまっているため、疲れたから程度で乗ることは出来ないというのも実情なのだが。

「ええ、選択肢の一つ、手札の一つ、それとして持っておくのは重要ですよ。」

恐らく、数度あった、蟹が体を縮め、防御の姿勢を見せて、攻めあぐねたときのことを思い出しているのだろう。
それに対して、トモエがそれも一つと、そう頷いて見せる。

「でも、トモエさんも、オユキちゃんも、力押しをしませんでしたよね。」
「あれでは、流石に隙だらけですから。」
「えっと、目を鍛えるだっけ、それをやったら、出来る様になんのか。」
「はい。そういった物の見方を鍛えるための訓練ですからね。
 繰り返しにはなりますが、パウ君のやったように、防御毎、これも正解です。」

シグルドの言葉に、トモエが笑いながらそう告げる。

「あー、そういや前にあんちゃんも、プラドティグレを蹴り上げてたもんな。」
「はい。目的は同じ、防御を崩すとなりますが、やはりそこにはいろいろとやりようがありますから。」
「お勧めって、どっちになるんだ。」
「状況次第、そうとしか言えませんね。」

そうして、トモエが考え込む。

「あー、そんなもんか。」
「得手不得手もありますし。例えばアイリスさんは、防御の隙を突く、そういった理合いではありません。
 そんなことをするくらいなら、防御毎斬れ、開祖の方は、ああ、ハヤトさんではありません、そう言うでしょうね。」
「あー、あのねーちゃんも、最近、なんというか、すごいよな。」
「ね、文字通りにカングレホを一刀両断、って感じだったし。えっと、トモエさんもできるんですか。」
「できますよ。ただ、その後に収集品が残ればいいのですが、そうでないと調理や、持ち運びが大変ですから。」
「あー、結局あんちゃんが切り分けてたもんな。」

どうやらその会話はアイリスにも届いているようで、しっかりと片耳が向いている。
ただ傭兵として、護衛の道中であるため会話には入ってこないが。

「にしても、こうして一緒にがっつり狩りやると、強くなってるって、改めて分かるよな。」
「そうだな。正直、実感が薄かったが。」
「ちゃんと、狩れなかった魔物も、狩れたじゃないですか。」
「そうだが。」

そうして、話して歩く中、壁沿いを歩いていることも有り、魔物が襲って来ることもない。
体力的な問題はあるが、それさえ除けば気楽な道行だ。特に食欲に支配された傭兵達の、過剰すぎる戦力もある事だし。

「にしても、荷物、大変だよな。馬車ないと、埋めるか、ギルドのある街に卸すんだっけ。」
「うん、そう言ってたね。」
「つっても、今回も結構売ってきたんだよなぁ。」

取得物の課税は、あくまでギルドに納めた物だけ。そうなっているようで、2台の馬車には、それこそ大量の海産物が放り込まれている。
そして、カナリアの手によって、その全てが冷凍されている。そんな彼女も、定期的にかけなおす必要があるからと、マナの回復を優先するため、馬車の御者席に座って舟をこいでいる。

「魔石は必ず売らなきゃいけないんだっけ、普通は。」
「そうみたい。今回は、始まりの町のギルド長が手配をしてくれたから、大丈夫って、そんな話だったけど。」
「ま、これであのねーちゃんへの土産もできたし。」
「あ、ちゃんと覚えてたんだ。」
「忘れっぽい自覚はあるけど、そんな何でもかんでも忘れやしねーよ。」
「どうだか。それにしても、えっとメイ様だったかな、いつ来るんだろう。」

そうして、セシリアがトモエを見れば、そのまま視線がオユキに来る。
オユキは疲労もあって、少々反応が鈍くなっている自分を自覚しながら、それに応える。

「恐らく数日中でしょうね。流石に、まだ到着してはいないと思いますが。」
「おー、なんか、急用で来れなくなったらしいけど、案外早いんだな。」
「ええ。相応の準備はあるでしょうが、移動が思いのほか早く終わると、思い知ったので。」

そう、オユキが応えれば、少年たちは揃って顔色を悪くする。

「あれな。正直二度はごめんだな。」
「えー、ジークとアンは大丈夫そうだったじゃない。」
「いや、起きれてただけだぞ。」

そうしてオユキがミズキリの方に視線を向ければ、彼が軽く首を左右に振る。それに少々の不思議を覚えて、声をかける。

「ミズキリ、どうかしましたか。」
「いや、俺もその予想だったんだがな。」
「まさか。」
「ああ、神の配剤そう言えばいいのか。」

その言葉にオユキも視線を正面に向けるが、残念ながら馬車や人が壁になって、見通せない。

「よもや、もう到着ですか。かなり過酷な、いえ、そうでもないのでしょうか。」
「どうだろうな。準備の時間、それを切り詰めたのか、移動時間を切り詰めたのか。」
「準備、人をある程度動かすのに、時間を短縮しきれないかとも思いますが。」
「そのあたりは、封建制という事だろうな。」
「話したと思いますが、南区の騒動が。」
「伯爵家、公爵家、それぞれの戦力は、それぞれの命令系統で動くだろうからな。」
「成程。それにしても、そこまで重く見ていますか。テストケース、それ以上では無いでしょうに。」

そういって、オユキは軽く頭を振る。その言葉が許されるのは、それこそオユキ達の世界、その下地があってこそだ。歴史を見れば、たった一つ、それこそ些細なそう言ってもいい失敗で、凋落した名家がどれほど存在したか。
助けがない、その状況を作った、それまでの流れもあるが、それにしても。

「失敗は許されない、そう、なりますか。」
「ま、そうだな。王都までは、お前たちと一緒に行くだろうな。」
「それは想定内ですが、一度試しに、その程度に考えていたんですよ。」
「相変わらず、詰めが甘いな、最低三回はやるだろ。」

そう言われて、少し考えて、ミズキリに応える。

「最低限で一回、条件を変えて一回ではないのですか。」
「求められる上限、それがあるだろ。」
「危険では。」
「そのための人員だ。」

その言葉に、流石にオユキもため息が漏れる。

「急ぎすぎ、そのように感じますが。」
「お前が急ぐ原因を作ったんだぞ。毎度のようにな。」
「こちらでは、これが初回です。」

そう言い返して見せれば、ミズキリもため息を返す。

「あのな、毎度言うが、事が起これば、それぞれの思惑が働くんだ。
 その制御までしろとは言わないが、もう一歩先を考えるようにな。」
「いえ、考えてはいるんですよ。」
「想定の根幹が、善性によりすぎだな。もう少し利益を求める、その思考も組み込めと。」
「それは、悲しいではないですか。」

オユキとしては、そう思うしかない。良い人が多いと、そう信じたい。少なくともそういった相手を側に置く、その選択をし続けているつもりではあるのだ。
だというのに、そうではないことを考える、それはあまりにも悲しい。
事、この点に至っては、ミズキリと何度話しても、平行線になった。それは会社の方針、それを揺らがすほどに。
最もそういう時は、他にもいた、古い付き合いの面々が、先方も含めて全員を一堂に集め、そこで話すことで決着をさせる、そういった形でなんだかんだと、円満に終わったものだが。

「気持ちは分かるんだがな。利益を求めなければいけない、その立場がな。」
「立場、その前に私たちは、私たち、ですよ。」
「まぁ、そうなんだがな、今度はその立場を持った相手は、不安に思うんだよ。お前も言ってたろ、先入観は大事だと。」
「ままなりませんねぇ。」
「それが人の世、そういう事なんだろうなぁ。」

そうして話しながら歩いているうちに、オユキの目にも豪華な馬車、それに装飾も華やかな装備に身を包んだ一団が目に入る。
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