憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

異邦人たちの一時

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宴席は、その後は恙なく。話せない、まだ公開していいとその判断がつかないことも多いため、そこからは話題を変え、領都でのオユキとトモエの行動の詳細や、異邦、前の世界の事などを聞かれるままに話して、終わりを迎えた。
そして翌日は散々に言われたことも有り、トモエとのんびり街歩きをしながら、今後の予定を改めて確認しつつ、少年達や子供たちの様子を見たりと、のんびりと過ごした。
そして、あけて今日、約束通り、異邦人四人集まって、木材の調達に森のそばまで来ている。
魔物の数にしても、溢れが近かった、あの時ほどではないが、簡単にわかるくらいには増えている。それで今更どうという事もない四人ではあるが、流石に数が少々増えたところで、少年たちにも物足りない相手になってしまっている。木材を運ぶための荷車は、ギルドから借りているため、さて伐採の前にと、オユキから口火を切る。

「ルーリエラさんは、良かったのですか。」
「後で話してくれとさ。流石に新人の世話をする手を、そこまで減らすわけにもいかないからな。」
「そのあたりは面倒を投げた形になって、すみませんでした。」
「で、こっちに来るにあたって、何を聞かされたか、だな。」

軽い雑談からとも思ったが、ミズキリはすぐに本題に移す。トラノスケは未だに何の話か分かっていないようなので、そちらに向けて補足する。

「トラノスケさん。恐らく私達はここに来るにあたって、説明されていることが、それぞれ異なります。
 ありていに言ってしまえば、ゲームとしてクエストが与えられていますが、各々異なっているのでしょう。」
「そんな事が有るのか。というか、あったとして、よく気が付いたな。」
「トラノスケさんの言葉が、大きな手掛かりでしたよ。」

そういって、オユキが笑って見せれば、トラノスケはミズキリに視線を向ける。

「俺は、オユキがそれを気にするそぶりを見せたからだな。何もないなら、そもそも言い出したりしないさ。」
「それにしても、俺、そんなこと言ったか。」
「武器について、それから、索敵方法ですね。」

そうして、オユキはトラノスケに尋ねる。つまり、こちらに来るにあたって、ゲーム的な説明を受けなかったかと。

「ああ。そう説明されたな。能力はかなり落とすが、基本ゲームの時使ってたアバターのままだと。
 スキルや魔法、いや、こっちだと武技と魔術か、そのあたりも同じ感覚だってな。」
「そんな感じですか。他には。」
「単純に、こちらの世界を作る要因に対しての感謝、って事だったな。後はそうだな、月に千は魔石を納めてくれと。」
「日割りで、30、休日を考えれば50ですか。となると、インスタントダンジョン、その準備を既にという事でしょうか。成程、私がそれを望むことも範疇、まさに掌の上ですね。」

オユキは言われた言葉に、口に出しながら、今はそれも共有しておきたい相手がいるから考える。

「そこまで違うとは。」
「ええ、私も流石に驚きましたね。」

トモエの驚きの声に、オユキが頷けば、トラノスケもはっきりと気が付いたらしい。顔色が変わる。

「お察しの通り、私達は、この姿も、自由に作ってよいと、そう言われましたよ。人と認識する範囲から外れないようにと、注意はありましたが。加えて、こちらに私達を招くのは、魂の総量が足りないからだと。」
「オユキ、それは。」

慌てたように声を上げるミズキリに、オユキはすぐに説明を行う。トモエにはこのあたり、周囲の耳がない状況が作れなかったため、今初めて話すことにはなるが、気が付いていたのだろう。特に驚きもない。

「そこまで悪辣ではありません。ただ新しい魂として、この世界でそれを鍛えて輪廻に返す、それをお望みのようです。」
「大事、そうか、それがあったか。子供が少ないのにも納得がいくな。」
「それ以上に、魂、それの薄い方もいましたよ。」

トモエが補足する。向こうで出会った、南区の者たちだろう。そこまで気が付いていたとはと、オユキがトモエを見れば、それに応える。

「気配が薄かったですから。それに、最初の言葉もあって、まぁ、オユキさんよりはだいぶ早く気が付いていたようですね。」
「ああ、それで殊更あの子たちに目をかけましたか。」
「輪廻、その話も出ていましたから。」

そうして話していると、トラノスケがついてこれていないらしい、よくわからない、そんな表情を浮かべるばかりだ。それには、トモエが説明を行う。

「つまり、この世界では魂、前の世界では存在の証明は行われていませんでしたが、こちらでは、基本的に一人一つ、あるのでしょう。それが足りない、つまり人口には明確な上限が存在したわけです。いえ、存在できる生命の数、そういうのがいいでしょうか。」
「サーバーの性能上限、それがそんな形に落とし込まれたのか。」
「ええと、恐らくは。私はゲームとしての物に詳しくないので。加えて、基本と申し上げたように、それでも生まれる場合は、薄くなる。つまり人を人たらしめる、その根源が薄いものが出来上がる、そういう事でしょう。」
「間引きもあったのだろうな。家を繋ぐために。」
「ええ、それもあって、あの場では話せなかったのです。ただ、それが解消されているようですね。」

血なまぐさい話に、一同に緊張感が流れていたが、オユキがそう告げれば、全員がほっと息をつく。

「ああ、それで王太子妃様の。」
「そういう事です。短剣、小箱、どうにもならず、先方から招待が来るでしょうね。」
「そういう事情なら、そうだろうな。当事者ではないにしろ、その場で話を聞いた一人だ、説明は求められる。」
「ええ、私達に与えられた情報はそれで、そこからそのあたりを紐解いたことで、ご褒美に機能開放が。
 トラノスケさんにその話が来ていないあたり、魔石の納品が足りませんか。」
「どうにか、その数は納めているがな。期間もあるしな。後2ヶ月ほどか。」
「出産予定ですね。となると、成程。」
「何がなるほどかは、分からないが。ミズキリの旦那は。」
「俺は、前の拠点関連だな。」

そういってミズキリが深くため息をつく。

「何を達成すべきかは言われていないが、こちらで領地を得れば、以前と同じ拠点機能が解放されると言われている。」
「ミズキリの分は、少し情報が少ないですか。」
「いいや、それは拠点機能を軽視しすぎだな。拠点、プレイヤーの興した国もそうだぞ。」
「何とまぁ。」

オユキ達の拠点、ミズキリの作っていたそれは、さして大きなものではなかったが、成程、そう聞けば彼の持っている情報はかなりの物だ。それこそ、こちらの人々に軽々に吹聴していい類の物ではあるまい。

「そうなると、創造神、あの愉快な神様の望みは、こちらへのテコ入れか。
 生存圏を増やし、人の生活の安定をといったところか、まぁ、善性の相手でよかった。」
「いえ、ミズキリは戦いを期待されているのでしょうね。」

しかしミズキリの安心を、オユキは取り払う。

「悪神、邪神、呼び方はともかく、人の想念が神を生む、その前例がある。そしてこちらには烙印を押されるものがいます。」
「そうか、そうなるか。つまり箝口令はそれか。」
「ええ、聖戦とその備えを、はっきりと言われました。」
「俺たちに、戦のための人員を育てろと、そういう事か。」

トラノスケがただ呆然と上空を見る。
そこでトモエが少し体を緊張させたのに、オユキが気が付き、そもそもここまでの会話の最中、魔物が一匹として近づいて来ていなかったことを今更ながらに思い出す。
つまり、居るのだろう。トモエにも、それこそ、長い時間経験を積んだはずのミズキリや、そういった技能を持ったうえでここに来ているトラノスケに悟られることなく、魔物を退けることができる、そんな相手が。

「月と安息の神、ですね。」
「あら、よくわかりましたね。」

魔物を退け、人が安らかな夜を迎え、過ごす。その権能を持つ神の名をオユキが呼べば、それが当たり前とその様に木の影からするりとその姿を現す。神像では色合い迄は察することは出来なかったが、長い黒髪、青白い肌、金に輝く瞳。実に怪しげな女性がそこにいる。
よもや、そういった加護だけではなく、直接来ているかと、オユキとトモエが慌てて膝をつくと、ただ悪戯気に笑う声が聞こえる。そうして少し間をおいてから。

「驚かせてしまったかしら。まぁ、そうしようと、そんなことを考えてはいたのだけれど。」
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