憧れの世界でもう一度

五味

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6章 始まりの町へ

大通り

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そうして二人で城を見ながら少し話をして、再び馬車に乗れば、また少しの間移動が行われる。

「見事な建築でしたね。」
「ええ、作りはやはり共通する部分があったのも、興味深かったです。」
「ある程度の実用性を考えた結果、そうなるのでしょうか。」
「どうでしょう。人以外が、それこそ精霊種の方の里などは、大いに異なりますから、魔術を念頭に置いた工夫などもあるのではないかと思いますが。」
「あるとは思いますが、それこそ一般に開放されているか怪しいですね。」
「実際に使われている、防衛施設、そうである以上は、そうでしょうか。」

馬車の中では、互いに先ほどの城についての感想をそう交わす。

「それにしても、水路も見事な物でしたね。」
「ええ。それに関しては私も初めて見ましたが。」
「周囲に水源が無いにも関わらず、よくもまぁ基底部に。」
「ええ、恐らく最初から水と癒しの教会、そちらも計画にあったのでしょうが、まさに清流とそう呼べる水路でしたね。生物の気配がない、それをどう評価するかは分かれてしまいそうですが。」
「鑑賞という意味であれば、そうなりますね。ただ、それよりも水路の先が気になってしまいますが。」
「そういえば、そうですね。流れる先が無ければ、溢れそうなものですが。」

以前の世界ではありえない、そんな観点についても、二人で話し合う。
魔術や奇跡、それが当たり前にあるからこそ、それを感じさせる水路は深く印象に残る美しさと、思いを馳せれば首をかしげざるを得ない不思議が、確かにある。

「おや、止まるようですね。」
「ええ、貴族区画に来るのは初めてなので、次はどの様な景色か、実に楽しみです。」

そうして、トモエが楽し気に応えれば、馬車は止まり、少しの間をおいて、扉が開く。
そこには、広場、馬車を止める、そういった目的の場所と分かる駅舎、馬留が片側に。
そして、そこからは広々とした道が伸びており、馬車も行きかっているが、その両側にはここに来て初めて見るガラス張りの店舗が並んでいる。
少々距離があるため、そこにはどのような品が並べられているのか分からないが、見知ったモールと、そう言えるかもしれないが、背の低さに比べて間口の広い店舗がずらりと並ぶさまは、それこそ高級感を否応なしに演出している。

「では、少し歩いてきますね。」
「はい、こちらでお待ちしております。それとこちらを。」

暫く、二人でその光景を眺めたうえで、そう静かにたたずんでいた案内役に声をかければ、トモエに何かを差し出す。
金属製のプレート、そう分かるものには、いくつかの記号と数字が刻まれている。

「お買い上げになった時、この札を店の者に提示していただければ、こちら迄運んで来ます。」
「成程、自分で持って歩く必要がないと、そういう事ですか。」
「調整のいる物でしたら、後日宿に届けに来ますので、どうぞごゆっくり。」
「ありがとうございます。おすすめの店舗などはありますか。」
「銀製品を扱っている店舗が多くあります。領都の名産でもありますので。」
「成程。ありがとうございます。では、オユキさん。」

言われて差し出された手をオユキがとって、二人並んで歩き出す。
それこそ馬車が通ることが前提だからだろうが、道幅は非常に広く、片側の店舗に寄ってしまえば、反対側の品をはっきりと見ることも難しい。
そんな中、近い側から店舗を除きながら、二人で歩き出す。
ただ、そうなると、オユキの方に問題がすぐに出て来る。
靴は流石にこれまでのブーツではあるが、スカートの裾がどうしても足取りを難しいものにさせる。

「これは、トモエさんには迷惑をかけていましたか。」
「いえ、身長差もあるでしょうから。」

何度もつないだ手を引いて、足を止めさせる形となるオユキが謝れば、トモエもただ苦笑いで返すしかない。
二人で街歩き、その体裁があるため、抱えるというわけにもいかないだろう。

「それにしても、流石に慣れませんね。」
「エスコートと考えれば、私が合わせる側ですから。」
「これに踵の高い靴を合わせていた、あちらの女性は、本当に。いっそ執念を感じてしまいます。」
「私は好みませんでしたが、そもそもどういった由来の物だったのでしょうか。」
「私も流石に、女性ものまでは。」
「おや、あまり頓着されていませんでしたが、男性物は。」
「知識くらいは、ありましたよ。」

そうして、オユキも苦笑いで返す。
情報を溢れるぐらいにいたるところに転がっていた、そんな世界だったのだ。
少し時間が空いた時、適当に好奇心を満たすためには、身近な疑問、来歴を調べるのはオユキにとっては実に手ごろな暇つぶしだった。
手軽に遊べるゲームに関しては、このゲームに触れてしまってからは、随分と遠ざかってしまった事もあるのだが。

「それは、意外ですね。」
「流石に色の取り合わせ、そういった物は不得手でしたが、どういった場面で、来歴で、それくらいの知識は。」
「あら、そうだったのですね。」

そうしてくすくすと笑うトモエに手を引かれる中、オユキはふと一つの店舗が目に留まる。
これまではやはり駅舎に近いところに、どうしても荷物として大きくなる、又は需要のあるものが並べられたのだろう、服飾の類が目立っていたが、一つの店舗、そこにはいくつもの装飾品の類が並べられている。

「こうしてみると、実に華やかですね。」

特に目を引いたその店舗に顔を向けると、トモエも、ガラス越しに見える品々に視線を送る。
これまではオユキに気を配る割合が多く、あまり自由に見れていなかったのだと、そういった仕草に改めて反省をさせられるが。

「あら。」

そうして、声を上げたトモエも軒先に近づき、置かれた品を見る。

「装飾だけかと思えば、これは、何でしょうか。」
「食器もあるようですが。」

銀食器は当然あるだろうと思ってはいたが、覗いてみれば、まったく見慣れない品々も並んでいる。

「マドラー、でしょうか。いえ、大きすぎますね。」
「はい。大型のジョッキに使うにしても、その割に、先が細くなっていますし。食器とも少し離れていますね。」
「ああ、そうですね、分類で纏めるでしょうから。となると装飾品ですか。」

先が少し細くなった長い棒、そんなものが指輪と並べて置かれている。

「簪の類と、そうなりますか。」
「いえ、そうであるならもう少し飾りがあってもいいと思いますが。」
「それに文化圏も、いえ、そちらは私たち以外が広めれば、どうとでもなりますか。」
「せっかくですから、聞いてみましょうか。」

そうして、トモエが先導して店内に入れば、店員が覗き込むこちらに気が付いていたのだろう。
にこやかな笑顔で迎え入れてくれる。

「あちらの装飾を眺めておられましたが。」
「はい。いくつかどう使うのか、分からない物がありましたので。」
「成程。どちらの品でしょうか。」
「細身の長い棒と、そうとしか言えないのですが。あとは、そうですね、髪飾りや鎖の類があれば、そちらも見せていただけますか。」
「勿論ですとも。さぁ、まずはお掛けください。」

そうして、店員に少し奥まったところ、商品を並べる棚が影を作り、表からは視線が途切れる、そんな場所へと案内される。
二人がそこに用意されている席に腰を下ろせば、少しして、まずはお茶が出される。
少々他に並べられたものに興味もあるけれどと、そんな事を考えながら、軽く口だけ付ければ、出迎えてくれた店員が、いくつかの品を持って、トモエとオユキの向かいに座る。

「お待たせいたしました。まずはこちらですね。これは、短杖。
 魔術を行使される方が、稀に使う道具です。」
「おや、そうなのですね。」

言われて、それを見れば、まさにそれと、そう言ってもよい形状をしている。
こちらで魔術を行使するもの、そういった手合いが持っていることなどなかったし、以前の知識でも、魔術の行使にそのような媒体が求められるなどと、聞いたこともなかったため、オユキもどのような効果があるのかと、僅かに身を乗り出してしまう。
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