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5章 祭りと鉱山
マツリの前
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散々に魔物を切り捨て、その納品物を受け取ったあと、オユキ達は揃って教会へと向かう。
当日の朝は、人混みがどうにもならないだろうからと、前日の夜から泊まるように言われていたこともあるし、少年たちが言うには、前夜はともかく、当日は早朝から、人々を迎え入れる前にやる事がたくさんあるとそんなことを聞く。
トモエとオユキにしても、着替え、装飾品を身に着け、髪を整え、加えて最終確認と、行うべきことは山積みだ。
「いよいよ明日か。」
「ね。楽しみね。」
少年たちもテンション高くそうして話し合っている。
護衛の二人は少々緊張感が漂っているが。
「お祭り、初めてなんですよね。」
「あ、そうですよね。」
「リザ様に頼んで、少しは見て回れるようにお願いはしているのですが。」
「あんちゃんたちは、どうだろう。」
そういってシグルドが首を捻ると、アナも難しい顔で腕組みをする。
「お祭りで、祭事に参加するんだもんね。そうなると色々あるし。」
「まぁ、そのあたりは。」
「ええ、何処かこう裏手のあたりからそっと覗かせていただきますよ。」
「じゃ、その時は俺たちと一緒かも。」
シグルドがそういって頷く。
「そうね。私達も裏でお手伝いの合間に、巫女様の舞とか、司教様の御祈りとか覗くもんね。」
「おや、始まりの町にも巫女様がおられるのですか。」
「いえ、お祭りのときは他の町から。今の御子様は、別の町で過ごされるのがお好きみたいで。」
そういって、アナが苦笑いをする。
なかなか自由な気風の方なのだろうと、トモエが頷く。
「ま、始まっちゃえば、案外手が空く時間もあるからな。こっちだとどんな感じなんだ。」
シグルドがそういって子供たちに話を向ければ、子供たちも楽しそうに話に混ざる。
「えっと、私達は礼拝に来られる方に、水を振舞ったりするので。
割とお祭りの雰囲気はずっと見ていられます。」
「水と癒しの教会だものね。」
「あとはご案内したり、修道女や修道士の人を呼んできたり。色々。」
そんな話の中に、トモエも興味があるのか混ざる。
「教会ごとに色々なのですね。」
そんな話をしていると、馬車が教会に着き、降りればわざわざ司祭が出迎えに来ていた。
「この度は、ありがとうございます。ご協力いただいている中、顔も出せず。」
「いえ。忙しいのは分かりますから。」
「司祭様、こんばんは。」
「はい。皆さんも手伝い、ありがとうございます。
まだ手を借りたいことがあるとのことですから、悪いけれど、もう少しお願いね。」
「ああ、任せてくれ。」
「では、皆さん、こちらへ。」
そうして司祭に案内され教会の中へと入っていく。
直ぐに少年たちと別れ、トモエとオユキはまず衣装の最終確認からとなる。
その途中、ところどころに騎士の姿があり、それに気が付き、ルイスに振り替えると、彼は一つ頷いて、トモエに声をかける。
「悪いな、少し話してくる。アイリス。後は任せる。」
そうしてルイスが離れ騎士に近寄り、オユキとトモエには聞こえない声で何事かを話せば、二人で何処かに歩いていく。
アイリスの耳がしっかりその方向を向いていたのを見れば、彼女には聞こえる、その様に調整されていたのかもしれない。
「ただ純粋に、この祭事を楽しめればよかったのですが。
失礼、言うべき言葉ではありませんでしたね。」
その背を見送った時、オユキの口から、そんな言葉がどうしても零れてしまう。
少年たちにとっても初めての祭り、聞けば御言葉の小箱、それが齎されるのは稀有な事で、このようなことが無ければ、どれだけ純粋に、珍しい祭事を実際に目の当たりにする、そんな幸運を噛み締められたのだろうか。
「いえ、私達も、この祭りの準備をしている皆が、明日起こる事、ただそれを悲しむでしょう。
何事もなければ、どれだけ心躍る祭りだったことでしょう。
オユキ様。私達も悲しんでいます。それよりも良くはないと、そう分かっていながらも怒りを覚えます。」
司祭の言葉が、ただ重く通路に響く。
前を歩くその背中からは、表情を伺うことができずとも、怒りは確かに感じられる。
「私たちが面倒を運んだ、そう思っていただいても構いませんよ。」
トモエが軽くそう言えば、リザがトモエの正面に立ち、穏やかに話す。
「どうかそのような悲しいことは仰らないでください。
司祭様の仰せのように、何事もなければ、ただ忙しい、それも祭りの前、楽し忙しさ。
それに少しの文句を言うだけで、それだけで、後から笑いあえる、そのような物だったのですから。」
「そう言って頂けると、助かります。」
「ええ、本当に。火種が無ければ、そもそも火がつかなかった事ですから。
後の事はどうかお任せを。水と癒しの教会。火を沈めるのは、私達も得意なのですよ。」
そう、振り返ることなく正面を見据えて語られた司祭の言葉は、やはり確かな重さを持って響いた。
その後は、ついに完成した、刺繍がきちんと入れられ、布地も改めて丁寧に合わせられた衣装を着て、当日と同じ装飾を身に着け、動作の確認をする。
「お二人とも、短い期間でよくここまで。」
「体を動かすのは得意ですから。それにいくつかの譲歩は頂きましたし。」
トモエは剣を提げる位置を、オユキも髪をくくる事を、それぞれどうしてもとお願いして、受け入れて貰っている。
「私たちがお願いしたことに対して、あまりにも僅かですから。
そのそれと、夕食ですが、本当に良かったのですか。」
「ええ。その他の慣習を持ち込むのは良くないと、分かってはいるのですが。」
「いえ、私どももこういった祭事に際して、淀みとして魔物由来の物は避けますから。
ただ、狩猟者でもありますから。せめて肉、家畜の物くらいは。」
二人で初めての神事、そこで役目もあるからと潔斎を事前に申し出ていたが、何もそこまでと、そう言われながらも司祭と巫女には好意的に受け取られていた。
「気分と言いましょうか。神事を見るだけであればともかく。やはり参加となると。
本来であれば、もう少し長く執り行うものではありますし、今日も魔物を狩る事を避けるべきとは分かっていたのですが。」
「いえ、そこまでを求めるのは、あまりに過分でしょう。
大事なお務めですから。それを止める等とても。それと水垢離でしたか。私どもはただ水浴びと呼んでいましたが、朝、一緒にご用意させていただきますね。」
「やはりこちらでもありましたか。」
「勿論ですよ。水と癒しの神を祀る教会ですから。」
そうして夕食の席は、教会の奥まったところ、長い机があり、そこで協会の関係者が一堂に会して採るのが習慣なのだろう。
初めて訪れたその場には、思った以上の人数がおり、その中で顔なじみになった少年たちと近い場所に座り、食事をとる。
「ね、このサラダ、私が手伝ったんだよ。」
「そうなのですか。お疲れ様でした。美味しく頂いています。」
「あんちゃんは、今日草だけか。大丈夫なのか。」
「ええ、一日くらいなら問題ありませんよ。神事に参加する身ですから。」
それと草しか食べないことに、どんな関係がと、少年たちが不思議そうにしたところで、オユキとトモエで、異邦の習慣を説明する。
「え、そっか。そうだよね。じゃ、私も今日はお肉止めようかな。」
「いえ、あくまで私たちの習慣ですから。それにそちらも魔物というわけではなく、こちらの神々の加護を受けた家畜、そこからの物でしょう。」
「そう、かな、そうかも。」
アナとセシリアがそう悩み始めたところにオユキも言葉を重ねる。
「私達も魔物を狩ったでしょう。本来であれば、それも避けるのが筋ですが、やはりこちらに合わせていますから。」
「うーん。」
すっかり考え込んでしまったアナに、側に歩いてきた司祭が声をかける。
「持祭アナ、セシリア。信仰は強制するものではない、そういう事です。感謝の示し方は人それぞれ。
お二人は、彼らの知る方法で私たちの祭祀に敬意を示してくださる、それだけの事です。
では、あなたがここでとる食事を選ぶ、それで感謝と敬意を示せる相手はいますか。」
「トモエさんと、オユキさんに。だって、二人がこっちに合わせようとそうしてくれる二人が大事にしている事ですから。それを真似して、不都合がないので、二人に感謝と敬意を。」
「そうですか。それは良い心掛けです。であるならそうあれかしと、私は答えましょう。」
そうして、司祭がアナとセシリアの頭をなでる。
「うーん、俺はもう食べたから、遅いな。」
「俺もだ。」
「じゃ、残すのも駄目だから、私の分も食べて。」
「んー。そうだな。分かった。次からは俺も付き合うから。」
「ジーク、そういってよく忘れるじゃない。」
「そん時は、お前らの誰かが思い出させてくれるだろ。」
「そういう事じゃなくって。」
そうして、いつもと違い簡素な食事ではあるけれど、楽しい時間は過ぎていった。
当日の朝は、人混みがどうにもならないだろうからと、前日の夜から泊まるように言われていたこともあるし、少年たちが言うには、前夜はともかく、当日は早朝から、人々を迎え入れる前にやる事がたくさんあるとそんなことを聞く。
トモエとオユキにしても、着替え、装飾品を身に着け、髪を整え、加えて最終確認と、行うべきことは山積みだ。
「いよいよ明日か。」
「ね。楽しみね。」
少年たちもテンション高くそうして話し合っている。
護衛の二人は少々緊張感が漂っているが。
「お祭り、初めてなんですよね。」
「あ、そうですよね。」
「リザ様に頼んで、少しは見て回れるようにお願いはしているのですが。」
「あんちゃんたちは、どうだろう。」
そういってシグルドが首を捻ると、アナも難しい顔で腕組みをする。
「お祭りで、祭事に参加するんだもんね。そうなると色々あるし。」
「まぁ、そのあたりは。」
「ええ、何処かこう裏手のあたりからそっと覗かせていただきますよ。」
「じゃ、その時は俺たちと一緒かも。」
シグルドがそういって頷く。
「そうね。私達も裏でお手伝いの合間に、巫女様の舞とか、司教様の御祈りとか覗くもんね。」
「おや、始まりの町にも巫女様がおられるのですか。」
「いえ、お祭りのときは他の町から。今の御子様は、別の町で過ごされるのがお好きみたいで。」
そういって、アナが苦笑いをする。
なかなか自由な気風の方なのだろうと、トモエが頷く。
「ま、始まっちゃえば、案外手が空く時間もあるからな。こっちだとどんな感じなんだ。」
シグルドがそういって子供たちに話を向ければ、子供たちも楽しそうに話に混ざる。
「えっと、私達は礼拝に来られる方に、水を振舞ったりするので。
割とお祭りの雰囲気はずっと見ていられます。」
「水と癒しの教会だものね。」
「あとはご案内したり、修道女や修道士の人を呼んできたり。色々。」
そんな話の中に、トモエも興味があるのか混ざる。
「教会ごとに色々なのですね。」
そんな話をしていると、馬車が教会に着き、降りればわざわざ司祭が出迎えに来ていた。
「この度は、ありがとうございます。ご協力いただいている中、顔も出せず。」
「いえ。忙しいのは分かりますから。」
「司祭様、こんばんは。」
「はい。皆さんも手伝い、ありがとうございます。
まだ手を借りたいことがあるとのことですから、悪いけれど、もう少しお願いね。」
「ああ、任せてくれ。」
「では、皆さん、こちらへ。」
そうして司祭に案内され教会の中へと入っていく。
直ぐに少年たちと別れ、トモエとオユキはまず衣装の最終確認からとなる。
その途中、ところどころに騎士の姿があり、それに気が付き、ルイスに振り替えると、彼は一つ頷いて、トモエに声をかける。
「悪いな、少し話してくる。アイリス。後は任せる。」
そうしてルイスが離れ騎士に近寄り、オユキとトモエには聞こえない声で何事かを話せば、二人で何処かに歩いていく。
アイリスの耳がしっかりその方向を向いていたのを見れば、彼女には聞こえる、その様に調整されていたのかもしれない。
「ただ純粋に、この祭事を楽しめればよかったのですが。
失礼、言うべき言葉ではありませんでしたね。」
その背を見送った時、オユキの口から、そんな言葉がどうしても零れてしまう。
少年たちにとっても初めての祭り、聞けば御言葉の小箱、それが齎されるのは稀有な事で、このようなことが無ければ、どれだけ純粋に、珍しい祭事を実際に目の当たりにする、そんな幸運を噛み締められたのだろうか。
「いえ、私達も、この祭りの準備をしている皆が、明日起こる事、ただそれを悲しむでしょう。
何事もなければ、どれだけ心躍る祭りだったことでしょう。
オユキ様。私達も悲しんでいます。それよりも良くはないと、そう分かっていながらも怒りを覚えます。」
司祭の言葉が、ただ重く通路に響く。
前を歩くその背中からは、表情を伺うことができずとも、怒りは確かに感じられる。
「私たちが面倒を運んだ、そう思っていただいても構いませんよ。」
トモエが軽くそう言えば、リザがトモエの正面に立ち、穏やかに話す。
「どうかそのような悲しいことは仰らないでください。
司祭様の仰せのように、何事もなければ、ただ忙しい、それも祭りの前、楽し忙しさ。
それに少しの文句を言うだけで、それだけで、後から笑いあえる、そのような物だったのですから。」
「そう言って頂けると、助かります。」
「ええ、本当に。火種が無ければ、そもそも火がつかなかった事ですから。
後の事はどうかお任せを。水と癒しの教会。火を沈めるのは、私達も得意なのですよ。」
そう、振り返ることなく正面を見据えて語られた司祭の言葉は、やはり確かな重さを持って響いた。
その後は、ついに完成した、刺繍がきちんと入れられ、布地も改めて丁寧に合わせられた衣装を着て、当日と同じ装飾を身に着け、動作の確認をする。
「お二人とも、短い期間でよくここまで。」
「体を動かすのは得意ですから。それにいくつかの譲歩は頂きましたし。」
トモエは剣を提げる位置を、オユキも髪をくくる事を、それぞれどうしてもとお願いして、受け入れて貰っている。
「私たちがお願いしたことに対して、あまりにも僅かですから。
そのそれと、夕食ですが、本当に良かったのですか。」
「ええ。その他の慣習を持ち込むのは良くないと、分かってはいるのですが。」
「いえ、私どももこういった祭事に際して、淀みとして魔物由来の物は避けますから。
ただ、狩猟者でもありますから。せめて肉、家畜の物くらいは。」
二人で初めての神事、そこで役目もあるからと潔斎を事前に申し出ていたが、何もそこまでと、そう言われながらも司祭と巫女には好意的に受け取られていた。
「気分と言いましょうか。神事を見るだけであればともかく。やはり参加となると。
本来であれば、もう少し長く執り行うものではありますし、今日も魔物を狩る事を避けるべきとは分かっていたのですが。」
「いえ、そこまでを求めるのは、あまりに過分でしょう。
大事なお務めですから。それを止める等とても。それと水垢離でしたか。私どもはただ水浴びと呼んでいましたが、朝、一緒にご用意させていただきますね。」
「やはりこちらでもありましたか。」
「勿論ですよ。水と癒しの神を祀る教会ですから。」
そうして夕食の席は、教会の奥まったところ、長い机があり、そこで協会の関係者が一堂に会して採るのが習慣なのだろう。
初めて訪れたその場には、思った以上の人数がおり、その中で顔なじみになった少年たちと近い場所に座り、食事をとる。
「ね、このサラダ、私が手伝ったんだよ。」
「そうなのですか。お疲れ様でした。美味しく頂いています。」
「あんちゃんは、今日草だけか。大丈夫なのか。」
「ええ、一日くらいなら問題ありませんよ。神事に参加する身ですから。」
それと草しか食べないことに、どんな関係がと、少年たちが不思議そうにしたところで、オユキとトモエで、異邦の習慣を説明する。
「え、そっか。そうだよね。じゃ、私も今日はお肉止めようかな。」
「いえ、あくまで私たちの習慣ですから。それにそちらも魔物というわけではなく、こちらの神々の加護を受けた家畜、そこからの物でしょう。」
「そう、かな、そうかも。」
アナとセシリアがそう悩み始めたところにオユキも言葉を重ねる。
「私達も魔物を狩ったでしょう。本来であれば、それも避けるのが筋ですが、やはりこちらに合わせていますから。」
「うーん。」
すっかり考え込んでしまったアナに、側に歩いてきた司祭が声をかける。
「持祭アナ、セシリア。信仰は強制するものではない、そういう事です。感謝の示し方は人それぞれ。
お二人は、彼らの知る方法で私たちの祭祀に敬意を示してくださる、それだけの事です。
では、あなたがここでとる食事を選ぶ、それで感謝と敬意を示せる相手はいますか。」
「トモエさんと、オユキさんに。だって、二人がこっちに合わせようとそうしてくれる二人が大事にしている事ですから。それを真似して、不都合がないので、二人に感謝と敬意を。」
「そうですか。それは良い心掛けです。であるならそうあれかしと、私は答えましょう。」
そうして、司祭がアナとセシリアの頭をなでる。
「うーん、俺はもう食べたから、遅いな。」
「俺もだ。」
「じゃ、残すのも駄目だから、私の分も食べて。」
「んー。そうだな。分かった。次からは俺も付き合うから。」
「ジーク、そういってよく忘れるじゃない。」
「そん時は、お前らの誰かが思い出させてくれるだろ。」
「そういう事じゃなくって。」
そうして、いつもと違い簡素な食事ではあるけれど、楽しい時間は過ぎていった。
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