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5章 祭りと鉱山
武器の出来上がり
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翌日は、朝から神殿に向かえば、衣装を着替えるとほぼ同時にモラニス伯爵が、剣と帯を再び持って訪れ、それを付けたオユキとトモエの姿をしげしげと見たうえで、頷く。
「うむ。悪くないな。では、こちらを預ける。リザ殿後は任せる。」
「承りました。」
「トモエ殿、オユキ殿も。慣れぬ事ではあろうが、やり遂げてくれ。」
「は。微力を尽くさせていただきます。」
「うむ。では、慌ただしくて済まぬが、私はこれで失礼させてもらう。」
そうしてモラニス伯爵が、慌ただしくその場を後にする。
ルイスから聞いた話も併せて考えれば、今彼も修羅場だろう。
信頼できる人間、それを使って何を行うのか、何を任せるのか。具体的なことはわからないが、それでも減った貴族の数だけ、モラニス伯爵の行うべき職責は増えているのだろうから。
それこそ、伯爵、こちらの貴族制度はわからないが、前の世界であれば、一般的に王族を含めず、上から3つ目のくらい、そんな人間が、小間使いをするくらいに忙しいのだ。
いや、となると下位の人間に、不埒物が多かった、そう考えるべきか。
「あの、髪が絡むんですが。」
モラニス伯爵は新しい剣帯、恐らくどれかを切り、オユキに合わせてくれたのだろうが、それを本当に一日で要して見せたが、それにしても、剣にしても装飾が多く、ひざまずき、頭を下げ、髪が前に流れると、その装飾に神が引っかかる。
「少し括り方を変えてみましょう。」
そうして、その日は変わらず教会で御前を過ごし、昼からは領都の南へ魔物を狩りに、そして、そのあとは傭兵ギルドで訓練を、その流れを繰り返す。
そして、夜、部屋で休もうとその時にトモエがオユキに話しかける。
「オユキさんは、今日の南側、その様子に気が付きましたか。」
「はい。魔物が町まで近づいています。」
「私の見間違いではありませんでしたか。」
そうして、彼女はため息をつく。
「私も、好きだったゲームの世界、トモエさんにも是非と、そう思ったこの場で、こういった事に早々に直面するのは、やはり悲しいですね。」
「その、ゲームの時にも。」
「はい。神々は、ギリギリまで人にお任せくださるのでしょう。だからこそ一線を踏み越えてしまえば、苛烈になるのでしょうね。」
「そうなのでしょうね。今日の南側、結界もそうですが少々不穏な気配がありました。町の中から。」
「さて、自分たちがどうなるか気が付き、その逆恨み、それが何処に向くかですね。」
「あと、神の裁き、オユキさんはどういう物か。」
「ゲームの中で、聞いた事が有る、それでしかありませんが、町が消える、そういう事もありました。
その、所謂噴火や洪水、そういった描写が行われるものではなく、文字通りに、消えます。」
「それは、また。」
「ただ、その影響力が多すぎるためか、定められた区画でとそうなるようです。そこから逃げた物は、改めて捕縛してほしいなどと依頼が出たりしていましたから。」
「成程。当日は、そういった手合いが、居る、そういう事ですか。」
そうして二人そろって、ため息をつく。
「こうして明確に加護があるというのに、それでも踏み外すのですね。」
トモエの悲し気な呟きに、オユキは胸が締め付けられるようだった。
「踏み外す前に、どうにもできませんでしたから、せめて周りの人を大事にしましょう。」
「そうですね。正直始まりの町に里心が付きそうです。こちらは、以前と同じ、人の悪意を感じることが多いですから。」
「人が集まると、そういう向きが出るのでしょうね。悲しい事ではありますが。」
そうして、お互いに少し辛い、口に出したところで気分が沈む、そんな胸の内を二人だけの時間で吐き出してしまう。そのあとは、肩を寄せ合い、眠れば朝に。暗く悲しいものはその場に吐き出して、新しい日を迎える。
それでも周りには、まっすぐ育った少年たち、良い人とそうわかる人たちが多くいるのだと、吐き出して眠りに落ちるまでは、良い人の話をしながら。
そうして、教会でまた動きの練習を行えば、祭りも既に2日後には本番が。
一度通しで練習をしたいといえば、歓迎され、礼拝堂は使えない物の、廊下を使って一通りとして、当日の補佐を行ってくれる修道女の手も借りながら行ってみる。
「実に良いですね。正直時間が足りず、もう少し簡単にと、そういう話もありましたが、十分です。」
「いえ、こうして手伝ってくれる皆様のお陰ですよ。」
「ありがとうございます。本来であれば参加しない、それを選べる身でありながら、よくこうして真摯に学んでくださいました。司祭様に代わり、改めてお礼を申し上げます。」
「どうかそれは、終わった後に。その当日なのですが。」
トモエが少し恥ずかし気に、そう切り出すと、リザが不思議そうに首をかしげる。
「はい。どうかされましたか。」
「いえ、こちらに来て初めての祭事ですから、少し見学することができればと。」
「そうですね。祭事の間は誠に申し訳ありませんが。終わった後、やはり人々の間で祭りの喧騒がありますし、御子様による奉納舞、司祭様による儀式など、いくつかこの時でしか見られない物もあります。
そちらをご覧いただけるよう、準備させていただきますね。」
「ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。楽しみを奪う、そんなお願いをしている、その自覚はありますから。」
そんな話をしながらも、教会での用事が終わり、工房へと足を運ぶ。
道すがらすっかりと私用で使いまわしている馬車のありがたさ、それも二台に増えたそれを、馬車に乗る面々で話しながら、少しの間揺られて、工房へと入る。
「おう、出来てるぞ。」
工房にはいるなり、店主のウーヴェにそう声をかけられ、先日試しに振った武器、それらが並べられた試し切りができる場所へと案内される。
「とりあえず使ってみて、何かあればまたもってこい。
試し切りは、あっちの丸太を使ってくれ。」
「ありがとうございます。」
トモエがそういって太刀を手に取り、早速とばかりに数度振って確かめている。
オユキも長刀を手に数度振り、バランスを確かめる。
柄は別の工房にとのことであったが、大まかな形ができた状態で試した数日前と違い、使っている木から違うのだろう。別の工房に任せるとのことだったが、想像以上に良い仕上がりとなっている。
手に馴染んだ紐が編み込まれたものではなく、皮がまかれてはいるが、それでも、これまで使った、今一つ気を使いながら振らなければならない武器とはかなり違う。
「良い仕上がりですね。」
「おう。当然だな。」
「少し、離れていてくださいね。」
トモエがそういって、丸太の前に立ち、軽く太刀を振る。
そして、当たり前のように、両断された丸太がその場に転がる。
「刃が少し硬いのでしょうか、少し手に反動が来る感覚が大きいですね。」
「ま、そういった特性の素材だ、そこばかりはな。」
「いえ、これはこれで。本当に期待以上の仕上がりです。」
そういって、トモエが嬉しそうに太刀の刀身を一撫でする。
「なに、面白い注文だったからな、こっちも色々と勉強になったさ。」
そう言われながらも、トモエは両手剣も試し始める。
大太刀に比べて幅も厚みもあるそれを、こちらに来てから得た加護、身体能力の強化もあるのだろう、見た目以上の重量があるそれを、トモエが実に軽々と振る。
オユキはオユキで長刀を、軽く振り回し、トモエに続いて丸太を切り捨て、刃に何も問題ないことを確認すれば、太刀と特別に誂えて貰った片手剣を試す。
そのどれもが前に振った時に比べて、バランスも、柄の作りも、実に手が馴染む。
ウーヴェの前で以前振って見せ、少々手直しを頼んだが、それ以上にこちらが武器を扱う姿を見たうえで、ウーヴェが手を入れてくれたのだろう。
「本当に。手に馴染む良いものです。」
「一点ももってのは、そんなものだ。ま、だから割高になるんだが。」
「いえ。値段以上と、そう思える物ですよ。鞘はこちらで扱っていますか。」
「ああ。そっちも用意してる。ただ、皮でとりあえず形に合わせて作っただけだ。そっちは別の工房に話を持って行ってくれ。」
「分かりました。それで、残りはいつ頃に。」
「型は出来たからな。残り全部、仕上げまで入れて1週間で終わる。」
仕事の早い事だ、そう思いながらも、有難いとそう思う。
「うむ。悪くないな。では、こちらを預ける。リザ殿後は任せる。」
「承りました。」
「トモエ殿、オユキ殿も。慣れぬ事ではあろうが、やり遂げてくれ。」
「は。微力を尽くさせていただきます。」
「うむ。では、慌ただしくて済まぬが、私はこれで失礼させてもらう。」
そうしてモラニス伯爵が、慌ただしくその場を後にする。
ルイスから聞いた話も併せて考えれば、今彼も修羅場だろう。
信頼できる人間、それを使って何を行うのか、何を任せるのか。具体的なことはわからないが、それでも減った貴族の数だけ、モラニス伯爵の行うべき職責は増えているのだろうから。
それこそ、伯爵、こちらの貴族制度はわからないが、前の世界であれば、一般的に王族を含めず、上から3つ目のくらい、そんな人間が、小間使いをするくらいに忙しいのだ。
いや、となると下位の人間に、不埒物が多かった、そう考えるべきか。
「あの、髪が絡むんですが。」
モラニス伯爵は新しい剣帯、恐らくどれかを切り、オユキに合わせてくれたのだろうが、それを本当に一日で要して見せたが、それにしても、剣にしても装飾が多く、ひざまずき、頭を下げ、髪が前に流れると、その装飾に神が引っかかる。
「少し括り方を変えてみましょう。」
そうして、その日は変わらず教会で御前を過ごし、昼からは領都の南へ魔物を狩りに、そして、そのあとは傭兵ギルドで訓練を、その流れを繰り返す。
そして、夜、部屋で休もうとその時にトモエがオユキに話しかける。
「オユキさんは、今日の南側、その様子に気が付きましたか。」
「はい。魔物が町まで近づいています。」
「私の見間違いではありませんでしたか。」
そうして、彼女はため息をつく。
「私も、好きだったゲームの世界、トモエさんにも是非と、そう思ったこの場で、こういった事に早々に直面するのは、やはり悲しいですね。」
「その、ゲームの時にも。」
「はい。神々は、ギリギリまで人にお任せくださるのでしょう。だからこそ一線を踏み越えてしまえば、苛烈になるのでしょうね。」
「そうなのでしょうね。今日の南側、結界もそうですが少々不穏な気配がありました。町の中から。」
「さて、自分たちがどうなるか気が付き、その逆恨み、それが何処に向くかですね。」
「あと、神の裁き、オユキさんはどういう物か。」
「ゲームの中で、聞いた事が有る、それでしかありませんが、町が消える、そういう事もありました。
その、所謂噴火や洪水、そういった描写が行われるものではなく、文字通りに、消えます。」
「それは、また。」
「ただ、その影響力が多すぎるためか、定められた区画でとそうなるようです。そこから逃げた物は、改めて捕縛してほしいなどと依頼が出たりしていましたから。」
「成程。当日は、そういった手合いが、居る、そういう事ですか。」
そうして二人そろって、ため息をつく。
「こうして明確に加護があるというのに、それでも踏み外すのですね。」
トモエの悲し気な呟きに、オユキは胸が締め付けられるようだった。
「踏み外す前に、どうにもできませんでしたから、せめて周りの人を大事にしましょう。」
「そうですね。正直始まりの町に里心が付きそうです。こちらは、以前と同じ、人の悪意を感じることが多いですから。」
「人が集まると、そういう向きが出るのでしょうね。悲しい事ではありますが。」
そうして、お互いに少し辛い、口に出したところで気分が沈む、そんな胸の内を二人だけの時間で吐き出してしまう。そのあとは、肩を寄せ合い、眠れば朝に。暗く悲しいものはその場に吐き出して、新しい日を迎える。
それでも周りには、まっすぐ育った少年たち、良い人とそうわかる人たちが多くいるのだと、吐き出して眠りに落ちるまでは、良い人の話をしながら。
そうして、教会でまた動きの練習を行えば、祭りも既に2日後には本番が。
一度通しで練習をしたいといえば、歓迎され、礼拝堂は使えない物の、廊下を使って一通りとして、当日の補佐を行ってくれる修道女の手も借りながら行ってみる。
「実に良いですね。正直時間が足りず、もう少し簡単にと、そういう話もありましたが、十分です。」
「いえ、こうして手伝ってくれる皆様のお陰ですよ。」
「ありがとうございます。本来であれば参加しない、それを選べる身でありながら、よくこうして真摯に学んでくださいました。司祭様に代わり、改めてお礼を申し上げます。」
「どうかそれは、終わった後に。その当日なのですが。」
トモエが少し恥ずかし気に、そう切り出すと、リザが不思議そうに首をかしげる。
「はい。どうかされましたか。」
「いえ、こちらに来て初めての祭事ですから、少し見学することができればと。」
「そうですね。祭事の間は誠に申し訳ありませんが。終わった後、やはり人々の間で祭りの喧騒がありますし、御子様による奉納舞、司祭様による儀式など、いくつかこの時でしか見られない物もあります。
そちらをご覧いただけるよう、準備させていただきますね。」
「ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。楽しみを奪う、そんなお願いをしている、その自覚はありますから。」
そんな話をしながらも、教会での用事が終わり、工房へと足を運ぶ。
道すがらすっかりと私用で使いまわしている馬車のありがたさ、それも二台に増えたそれを、馬車に乗る面々で話しながら、少しの間揺られて、工房へと入る。
「おう、出来てるぞ。」
工房にはいるなり、店主のウーヴェにそう声をかけられ、先日試しに振った武器、それらが並べられた試し切りができる場所へと案内される。
「とりあえず使ってみて、何かあればまたもってこい。
試し切りは、あっちの丸太を使ってくれ。」
「ありがとうございます。」
トモエがそういって太刀を手に取り、早速とばかりに数度振って確かめている。
オユキも長刀を手に数度振り、バランスを確かめる。
柄は別の工房にとのことであったが、大まかな形ができた状態で試した数日前と違い、使っている木から違うのだろう。別の工房に任せるとのことだったが、想像以上に良い仕上がりとなっている。
手に馴染んだ紐が編み込まれたものではなく、皮がまかれてはいるが、それでも、これまで使った、今一つ気を使いながら振らなければならない武器とはかなり違う。
「良い仕上がりですね。」
「おう。当然だな。」
「少し、離れていてくださいね。」
トモエがそういって、丸太の前に立ち、軽く太刀を振る。
そして、当たり前のように、両断された丸太がその場に転がる。
「刃が少し硬いのでしょうか、少し手に反動が来る感覚が大きいですね。」
「ま、そういった特性の素材だ、そこばかりはな。」
「いえ、これはこれで。本当に期待以上の仕上がりです。」
そういって、トモエが嬉しそうに太刀の刀身を一撫でする。
「なに、面白い注文だったからな、こっちも色々と勉強になったさ。」
そう言われながらも、トモエは両手剣も試し始める。
大太刀に比べて幅も厚みもあるそれを、こちらに来てから得た加護、身体能力の強化もあるのだろう、見た目以上の重量があるそれを、トモエが実に軽々と振る。
オユキはオユキで長刀を、軽く振り回し、トモエに続いて丸太を切り捨て、刃に何も問題ないことを確認すれば、太刀と特別に誂えて貰った片手剣を試す。
そのどれもが前に振った時に比べて、バランスも、柄の作りも、実に手が馴染む。
ウーヴェの前で以前振って見せ、少々手直しを頼んだが、それ以上にこちらが武器を扱う姿を見たうえで、ウーヴェが手を入れてくれたのだろう。
「本当に。手に馴染む良いものです。」
「一点ももってのは、そんなものだ。ま、だから割高になるんだが。」
「いえ。値段以上と、そう思える物ですよ。鞘はこちらで扱っていますか。」
「ああ。そっちも用意してる。ただ、皮でとりあえず形に合わせて作っただけだ。そっちは別の工房に話を持って行ってくれ。」
「分かりました。それで、残りはいつ頃に。」
「型は出来たからな。残り全部、仕上げまで入れて1週間で終わる。」
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