憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
153 / 1,235
四章 領都

商談後

しおりを挟む
「さて、シグルド君から同意は得られたけれど、さて、次はあなた達。」

アマリーアはそこで言葉を切ると、ただため息をつく。
それから気を取り直したようにして、話し出す。

「こちらの内情は、だいたい伝わっているようだけれど、さて、何をお望みかしら。
 正直、今日の話は広まるわ。それに、そういった腹積もりもあって、祭事に参加する、その側面もあるのでしょう。そうなれば、あなた達の不興を買えば、私達は神敵の如き扱いを受けることになるでしょうね。
 頂いたお言葉の内容は、それほどですもの。」
「あの、そちらに関しては、そのようなつもりはありません。
 これは神の前でも、宣言できますよ。祭事への協力、それはこちらにお導き下さった神への感謝、それによるものですから。」

そう言うと、アマリーアはわずかに肩から力を抜く。

「その、誤解なきよう。この場であれば、嘘が通じない、そう聞いていますので言葉を重ねますが。
 私たちは、そもそも不要に力を振るい、誰かに威を示す、そのような真似を好みません。
 今回の事については、この子たちを軽んじる、損な振る舞いに対して、それに対する保護者としての措置、それ以上の意図はありませんとも。」

オユキの言葉にアマリーアがレーナに視線を向ければ、彼女はただ頷く。
奇跡の類か、魔術の類か、嘘を看破する、そのような物があるのかもしれない。

「そうであれば、こちらからは感謝の言葉しかありませんわね。
 寛大なお心に、改めて感謝を。」
「ですから、私達からは、先にカレンさんに伝えたこと以上に望むものはありません。
 ただ、後程狩猟者ギルドでホセさんを交えて改めて話す、その際に手間を省く、それくらいはそちらにお願いしたいと、そうは思いますが。」
「ええ、こちらの落ち度ですもの、それくらいは当然です。いいですねカレン。」
「はい。その、この度は。」
「いえ、商人であればこそ、断りにくい、断れない、そのような話もあるでしょう。」
「その調整を行える、だから商いの仲介を行っているのですけれどね。」

アマリーアがカレンを見てチクリと棘を刺すのを、オユキが笑って止める。

「それこそ、年季が足りないでしょう。カレンさんは人以外の特徴が見受けられませんから。」
「あら、それは私が年をかなり取っていると。」
「人とは違う時の流れの方である以上、私達と比べて年長であることは、間違いないのでしょう。」

オユキとアマリーアが互いに笑顔を浮かべてやり合い始めると、少年たちが居心地悪そうにし、それを伝えるようにトモエがオユキの肩を軽くたたく。

「失礼しました。見目の事はお互い様ですね。
 それと、今この場で求めたいのは、私達が目的としたもの、それが得られるだけの素材については、手出し無用。それだけです。全てと、そう望む方が話を持ってきたのでしょう。」
「ええ、そちらについては、こちらで間違いなく。」
「では、話はここまでで。私達はそちらに対して隔意はありません。
 今後も良い取引相手であってほしい、そう望んでいます。」
「ええ、私どもも日々の商品その多くは狩猟者の手によるものです。勿論そこに隔意等ありません。今後も良き取引相手であることを願っています。」

そう互いに言えば、オユキが手を差し出し、アマリーアがそれを握る。

「それでは、ホセさん、お手間をかけますが、なるべく早くに狩猟者ギルドへ一緒に。」
「そちらの都合が良ければ、明日の朝にでも。流石に今日は私も疲れましたから。」
「アマリーア様は、準備が間に合いますか。」
「ええ。カレン。あなたが同行して説明を。」
「畏まりました。」
「全く、これに懲りたら、あまり見た目で判断してはいけませんよ。それこそ狩猟者の方は見た目以上の力を持っているのが常なのですから。」

そうして、話が終わり緊張感が霧散した場で、オユキはのんびりとお茶に口を付ける。
そんな中、シグルドとしてはやはり多くの事が気になるのだろう。
他に口を開くものがいないからか、質問をオユキにし始める。

「で、結局、あっちのねーちゃんがなんか悪いことしたのか。謝ってたけど。」
「そうとも言えますし、違うとも言えます。」
「ん-、何を話してるかもよくわかんなかったし。後で聞いたほうが良いのか。」
「私は構いませんが、そのカレンさんの恥になる事ですから。」
「ああ、そうだよな。謝ったんだ、それを目の前で追及するのは、駄目なことだ。
 その、悪い。そんなつもりじゃなかったんだ。」

そういってシグルドが頭を下げると、カレンは自嘲を顔いっぱいに浮かべ、力なく腕を垂らして俯く。

「シグルド君は本当にまっすぐな気性ですね。司教様の教えのすばらしさが分かるようです。」
「あれ、司祭のばーさんは、ばーさんの知り合いなのか。」
「もう、言葉に気を付けなさいって、いつも言ってるでしょ。」

シグルドの言葉にアナがすぐさま噛みつき、その頭を掴んで下げさせる。

「ジーク、手紙を持ってきたでしょう。」
「ああ、そりゃそうだ、それなら知り合いだな。」

セシリアがそう言うとシグルドはすぐに頷く。
その様子を楽しげに見ていたレーナが笑い声をおさめながら、話始める。

「良いのですよ、持祭アナ、私がそう呼ばれるほどに年を重ねているのは事実ですから。
 ただ司教様は、私が教会に勤め始めたときから、見た目が変わっていませんからね。」
「え。」

そのレーナの言葉にアナが驚いた表情を浮かべる。


「噂では、かれこれ4百年はあの町で司教をお勤めだとか。
 ただ、事実はその長さを超えると、もっぱらの噂ではありますが。」
「えー。」
「それにしてもアマリーア様、今回の事は、私がお伺いしても。
 当事者のお二人は、ある程度分かっておられる様子ではありますが、私もいくらか説明を頂きたく。」

そうレーナがアマリーアに話を振れば、少し考える時間を作って、それから簡単に説明を始める。

「つまり貴族の権力争いが背景です。
 王太子妃様、その出産を祝うための贈り物を、今多くの貴族が探しています。
 そういったパワーゲームの道具を求めて動きがあった、それだけです。」
「成程。それはそれは。」
「残り二つの、御言葉の小箱、レーナ様は想像がついているのでしょう。」
「神の恩恵が薄くなる、そこを狙うものがいる、そういう事でしょう。」

アマリーアとレーナの言葉、そこに含まれるものに、オユキはわずかに警戒すべきと、そう意識する。
その気配を感じたのか、レーナがすぐにオユキに向けて補足する。

「ご安心を。その対策が、あの中に。」
「レーナ様は、御言葉の小箱の中身が。
 そういえば、順番にあける、そう仰られていましたが。」
「ええ、見る物が見れば、分かるようになっていますから。
 その、神職ではない方には。」
「いえ、方法をお伺いするつもりはありませんから。
 ああ、それでいくつかお伺いしたいことが。」

オユキは、ひとまずアマリーアとの話は終わりとして、レーナと話を続ける。
恐らく今夜、ホセと改めて食事を行い、その場で彼からの謝罪と状況の説明もあるだろう。
ならば今聞くべきは、教会側の今後であるのだから。

「その、私達はこちらに武器を求めて訪れています。
 その作製にも時間がかかりますから、先にその話を進めておきたいのです。」
「畏まりました。先に申し上げたように祭事は、早く共4日は先ですから。」
「ありがとうございます。その、当日までに準備するもの、衣装であったりは。」
「勿論、こちらでご用意させていただきます。
 持祭アナ、あなた方はお勤めの装束は。」
「ごめんなさい、司祭様。こんなことになるとは思っていなかったので。」
「旅の荷物を減らすのは、正しい工夫です。どうかそんな顔をしないでください。
 そうですね、では皆様の分もご用意しましょう。
 水と癒しの神、その意匠を施したものになりますが。」
「はい。どの神様にも等しく感謝を、他の神様のお祭りのときに、自分の好きな神様を主張するのは、場を乱す行いですから。」

そうして、当日までに必要な道具は教会で用意することが決まるが、事前にサイズを合わせたり、簡単な進行、そこで行ってほしい事、そういった物を説明し、実際に動きに慣れるため、2日程は見込んでほしい、そのようなことを言われて、教会を後にする。
カレンの操る馬車が、宿に着くころには既に日が沈もうと、そんな気配を示していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...