憧れの世界でもう一度

五味

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四章 領都

領都に入る、その前に

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「騒ぎになりますからね。」

ホセは荷台からはみ出た鹿の角と、虎の首を見ながらただそう呟く。

「私としても、商品が増えるのは非常にありがたいですし、その俗物的な意見ではありますが、収入も増えますから、有難いのですが。」
「その、お手数かけます。」
「ひとまず移動を優先しましょうか。これ以上増えると、後で回収を依頼しないといけなくなりそうですから。」

ホセはそういうとルイスに声をかける。
ルイスも手慣れたもので、それを聞くと、直ぐに走り回り、他の傭兵に用件を伝えていく。
直ぐに出発となるが、生憎荷馬車は魔物の収穫物で埋まっており、オユキ達も走って馬車についていくが、流石にその速度は、他の者と比べるべくもない。
そうして移動したところで、傭兵達は周りの魔物に対処せざるを得ず、全体の速度は、やはり抑えた物となる。

「ま、少し急いだほうが良いからな。」

並走していたルイスがそう言うと、周囲から傭兵達が集まり、それぞれがオユキ達を持ち上げ、走り出す。
トモエも例外ではなく、一人の傭兵の肩に荷物のように担がれている。

「お手数かけます。」
「なに、護衛の仕事のうちだ。」

そうなると、全体の速度は一気に上がり、壁と門が一気にその大きさを増していく。
そんな中、オユキは荷台に積んだ鹿の角を思い返し、気になったことをオユキを片手で抱えているルイスに尋ねる。

「そういえば、町から運んだ角と、私が得た物で、かなり質が違うように見受けられましたが。」

トモエが切り落とした角は、遠目にも分かるほどの、美しい光沢を称えていたが、オユキの物は、らしい、と言えばいいのだろうか。どこかくすんだものであった。

「トモエのは溢れの時だろ。その差だな。」
「魔物が強化されているのはわかっていましたが、収集物もですか。」
「ま、トロフィーほどじゃないが、魔石の質だって上がる。
 お前らは、そうか、知らなかっただろうが、うちが一度、魔石を領都まで運んでるからな。」
「そうなのですか。」
「おうとも。そんだけ良いもんになるって事らしい。
 確か、丸兎がグレイハウンドと同じぐらいの質になるんだったか。」

ま、それと同じ程度に強化されるがな、そういってルイスが笑う。

「ああ、確かに、切り難かったですね。」
「そう言える当たり、初心者じゃないんだが、中級を目指すのか。」
「行く行くは、正直現状では、町の外で過ごすのが難しいですね。
 そのあたり、基準はどうなっているのでしょうか。」
「個人であれば、狙えるんじゃないか。町の外に遠征をかける様なのだと、基本10人以上の一党に限るしな。」
「やはり、それぐらいの人数はいりますか。」

オユキは、言われた言葉に思わず唸る。
その数字がある程度妥当とはわかるが、なかなかその規模の集団を作るのも難しいだろう。

「ま、それ以前にお前は肉を食え。今のままじゃ流石になぁ。」
「せめて体重を増やしたいですね。」

オユキを抱えて、息一つ切らさず走るルイスにそう言われてしまえば、オユキとしてもため息をつくしかない。
身長もそうだし、体重も流石に増やしたい。
剛剣の類を取り扱うにも、当身にしても、やはり体重は武器になるのだ。

「まぁ、よく食べてよく寝る事だな。
 この移動の間もそうだが、小食すぎるぞ。」
「無理に食べるようにはしているのですが。」
「あれでか。おっと、着いたな。さて、ホセも言っていたが騒ぎになるからな。」

わざわざ近づいたから速度を落としたというのに、再び速度を上げて近づいてきた一団に、何事かと言わんばかりに全身鎧を着こんだ面々が進路をふさいでいる。
そして、門の前で行儀よく列を作っていた他の人々からも、視線が飛んできている。
一団の代表として、ホセがあれこれと説明を行っているが、手間を増やした身としては、申し訳なさを感じてしまう。
騎士たちに囲まれながら、徐々に門に近づけば、今度は荷馬車からはみ出た、虎の顔や、鹿の角が耳目を引き始める。

「そろそろ降ろして頂いても。」
「ああ、まぁ、大丈夫だろう。」

抱えるルイスから、ようやく解放され、オユキは自分の足で地面を歩き始めると、他の抱えられていた者たちもそれぞれに降ろされる。
20分ほどは、オユキはともかくトモエを抱えて走ったであろうに、傭兵達は、息一つ乱していない。

「体力、付けないといけませんねぇ。」
「ま、そのためにもしっかり食ってしっかり寝ろ。
 そういや、そっちは今後の予定は決めてんのか。」
「武器を新調する事、くらいですね今決まっているのは。
 後は、せっかくですから、町を見て回るのと、トモエさんが鉱山に興味を持っている程度でしょうか。」
「試し切りか。」
「試し切りです。」

ルイスがオユキの言葉に苦笑いを浮かべる。
剣呑な積み荷のせいだろう、一団は騎士に連れられたまま、開かれた門の一角。人が並んでいないほうへと、案内されると、ホセの側にいた傭兵が、トモエとオユキを呼び、二人そろってホセの元へと行くと、門の側に備えられた、始まりの町に合った物よりもかなりしっかりとした、それこそ屋敷と言われれば納得しそうな家の中へと案内される。

「ええと、申し訳ありませんね。
 私は領都の騎士団、そこで第4騎士団の副長をさせて頂いている、ラスロと言います。」
「ご丁寧にありがとうございます。私がオユキ、こちらがトモエです。
 この度は、こちらに始まりの町で得た物で、武器を作っていただきに参りました。」
「ありがとうございます、お嬢さん。
 積み荷を改めさせていただいても、構いませんか。」

そう言われて、オユキは呼ばれた理由を理解する。
建前としては、オユキとトモエがホセを雇用し、荷物を輸送しているという部分もあるのだ。
ホセ自身が運んでいる荷もあるだろうが、こちらの頼んだ積み荷に関しては、こちらが許可を出す必要があるのだろう。特に、物が高価でもある。

「はい。問題ありません。えっと、こちらがホセさんに依頼した際、狩猟者ギルドから受け取った納品書の控えです。」
「ありがとうございます。お預かりいたします。
 ヴィンセント、確かめて来てくれ。」

ラスロが書類を一瞥すると、それを隣に立っていた男性に渡し、その男性が一度トモエに頭を下げると、そのまま部屋を出ていく。

「ご協力ありがとうございます。」
「いえ。これまでの町では、こういうことが無かったので、気が付きませんでしたが、町中に大量に荷を入れるわけですから。」
「ご理解いただきありがとうございます。まぁ、普段はここまでしませんが。」
「その、やはり積み荷が。」

そう言うとラスロが苦笑いを浮かべる。

「流石に、並んでいる物の中には、魔物を怖がらない者ばかりではありませんからね。
 それと、先ほどの書類に乗っていないトロフィーに関してですが。」
「つい先ほど得た物です。鹿はオユキが、虎は私が。それとグレイハウンドは外にいる少年が。」
「シエルヴォが私で、プラドティグレがトモエです。」
「成程。位置をお伺いしても。それと、積み荷の中に、魔物の品が多かったようですが、数が増えているように感じましたか。」

呼ばれたのは、それも原因かと、オユキは納得すると、まずルイスとホセが話していた内容を伝える。
氾濫で得た品だから、魔物を普段より集めたのだろうことと覚えている限り、魔物の数や強さなど。
ただ、そちらに関しては傭兵のほうが詳しいだろうと、結局伝えるしかなかったが。

「成程。溢れの兆候は見られませんでしたか。」
「その、断言ができず、申し訳ありませんが。」
「いえ、そちらの町で周期から外れた物があったと、そう連絡が来ていますからね、少し神経質になるようにと通達があったんですよ。」
「成程。」

そう言われたところで、ヴィンセントが戻ってくる。

「副長、問題ありません。こちらの書類通りです。」
「助かった。」

そういってラスロは受け取った書類を、トモエへと渡す。

「では、この後は狩猟者ギルドですか。」
「ホセさん。」
「トロフィーがありますから、そこで大物を卸して、私達は商業ギルドに。」
「分かりました、二人つけるので、行きましょうか。」

町中を堂々と魔物を、死体とはいえ一目でわかる状態で持ち歩くのは、まぁ、治安に悪かろう。
トモエとオユキで揃ってお手数かけますと、頭を下げれば、仕事ですからと、そう返される。
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