憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
上 下
131 / 1,235
四章 領都

カナリア先生

しおりを挟む
「その、一応ですね、使えるかもしれない、それを調べる方法はあるんですよ。」

少年たちが顕著ではあるが、身につくかどうか、それも完全に意味が無いかもしれない、そんな技術の習得について難色を示すような質問がしばらく続くと、カナリアは悲しげな表情でそう呟く。

「かもかー。セリーは、あのねーちゃんから、なんか聞いてたよな。」
「ルーさんから、土に溜まったマナを吸い上げる方法は習ったけど。」
「おー。それって、魔術じゃないのか。」
「種族の特性だって。」

そういって、シグルドがカナリアをみると、カナリアはそれに対して説明を始める。

「魔術とは、違います。種族の特性、それによるマナの扱いは、やはり普遍性、えーと、誰にでも使える、そこから外れますから。いえ、魔術も万人が使えるわけではないので、その言葉が正しいというわけではないですね。
 魔道具として、魔術に用いられる言語に即しているか、それを使っているか、そういう観点からずれている、というのが正解でしょうか。
 ただ、そういう特性を持つ種族の方が、魔術を学べば必ず扱える以上、区分として確かなものではないのですが。」
「その、魔道具というのは、耳にしたことがありますが、それはどの様な。」
「魔術言語と、それを実行するための回路を刻み込んだ道具です。
 動力に魔石を使うのですが、魔石からマナを吸い出すわけですね。
 町の結界、壁の中には必ず使われている技術です。
 魔物の魔石が、ある程度以上の金額で買い取られるのは、この町を守る結界の維持、それに使われるからです。」
「という事は、魔術は魔道具で十分なのですか。」

アドリアーナがカナリアの説明に対して漏らした言葉が、カナリアに致命傷を与えてしまった。
くぐもった声を漏らすと、胸を押さえてカナリアがうずくまる。
シグルドにするのと同じというわけにはいかないのか、小さな声でアナがアドリアーナに注意をしている。

「分かってますよー。魔術ギルドは魔道具ギルドに名前を変えろって、100年は言われてるらしいですからね。
 そうですよね。使えるか分からない魔術より、学べば必ず作れて、使える魔道具のほうが有益ですよね。」
「その、軽んじているわけではありませんが、その二つに差はあるのでしょうか。」
「正直なところ、あまり。」

カナリアは悲し気にトモエの疑問に答える。

「強いて言えば、使い手によって、起きる事柄の規模が多少調整ができることと、魔道具はどうしても大型化しますが、魔術はあくまで本人だけで行使できる、それくらいでしょうか。」

その言葉に、オユキはふと思い当たることがあった。
ゲーム時代、こちらとは逆だった理由は、それだろうと。
ゲームだったのだ。誰も彼も知らぬ場所、用意されたすべての場所へと行くことを望んだ。
他のゲームにまま見られる、インベントリ、重量だけが問題になる便利の収納道具など存在しなかった。
ならば、大型化、かさばる道具など人気が出るわけもない。
存在は知っていたが、ゲーム中で見たことなど、無かった。

「成程。しかし、魔道具は学べば必ず作れるようになるというのは。」
「動力、つまり発動するためのマナが、別から取り出せますから。自身の体内で捻出しなくてもいいので。」
「という事は、人も魔石を外部動力とすることで、魔術が使えるようになるのでは。」
「そちらは、研究中ですね。今のところ実現できていません。
 仰るように、外部から供給が可能であるなら、そういった発想はありますが。
 そもそも、マナ自体はこの世界に満ちていて、そこから取り出せない以上、魔石を用いたところで不可能では、そういった反論もありますから。」
「ああ、成程。魔道具は、大気中にあると薄く、燃料として適した濃度を持っているのが魔石、そういう認識ですか。」
「ご推察の通りです。一応、人でも魔石を使って、適性を見ることはできるんですよね。
 どうにも、理論ばかりでは、興味を持っていただけそうにないので、そちらも試してみましょうか。」
「いや、セリーは分かるらしいけど、俺は、前教えてもらった姿勢とっても、さっぱりわかんねーから。」
「そのあたりも、改善できればいいんですけど。」

他に方法が見つかっていないんですよ、そういってカナリアが、小さな魔石を袋から取り出して、一人一人に渡していく。

「それを手に持って、瞑想をするとですね、自分の一番得意な属性の色が出ます。」
「となると、それができた方は、魔術が使えると。」
「いえ、そういう訳ではないんです。あ、そこ。そんな露骨にがっかりしないでください。」

カナリアの言葉に、何だといって、シグルドとパウが手に持った魔石をカナリアに返そうとするのを慌てて押し返す。

「いや、だって、ぬか喜びじゃね、それって。」
「だって、他にないんですよ。マナが扱えるようになるまで、目に見える変化なんて。」
「例えば、魔石のついていない魔道具を起動したりというのは。」
「いえ、魔道具はあくまで魔石を基に動きますから。その、生物の自然なマナでは圧縮量がですね。」
「魔石の代わりを務められるなら、そもそも魔術が行使できると、そういう事ですか。」
「ええ。はい。あ、だから、そんな露骨に落ち込まないでください。
 とりあえず5年続けてみましょう。」
「なげーなぁ。」

すっかり、やる気をなくしてしまった少年たちと、どのみち今日はその予定だったからと、カナリアを囲む様に、全員で瞑想をする。
トモエとオユキは二人で軽く目配せをしながら、さて、勉強を嫌う子に、それをさせるにはどんな手管が良いかと、考える。
そうして、余所事を考えながらも瞑想は、行うのだが。
これまで、集中の一環、脳裏に理想の動きを思い浮かべる等、そういった事として行ってはいたが、マナの感知となると勝手が違いすぎる。
こちらにそれはあると分かっていても、そもそも前の世界にはなかったし、実感などできるわけもない。
しいて言うのなら、魔物が消え、魔石と、収穫物を落とす、そんなときに、何か、そういったよくわからない力が確かに働いていると、そう感じられるくらいか。

「あ、そこ、寝ないでください。ちゃんと集中して、マナを感じようとしてくださいね。」
「あ、ああ。いや、魔物と戦った後だと、程よい疲れが。」
「我慢しなさいよ。使えたら、便利にはなるでしょ。」
「セリーは、分かるか。」
「えっと。うん。分かるかな。」
「おー、やっぱりそんなもんなのか。どんな感じなんだ。」
「美味しそうな匂いがするのが、こう、周りにある感じ。でも、薄くてあんまり美味しくない。」
「あの、セシリアさん。食事としてではなく、マナを使うために取り込んでくださいね。
 生命維持に使ってしまうと、魔術に使う分は、体にたまりませんから。」

そういって、カナリアが、背中から羽を広げる。
そう言えば翼人種、とのことだったか。

「私達も、飛ぶために使うマナは魔術には使えませんから。」
「んー、よくわからいかも。」
「まぁ、感知はできるわけですし、種族としても、扱えるでしょうからあとは練習ですね。
 それか、満足するまで取り込めば、後は残ると思いますし。」
「分かりました。」

そんな会話を、間に挟みながらも、それぞれに瞑想を続ける。
始めて30分ほどたったころだろうか、カナリアが、ここまでにしましょうと、そう皆に告げる。
間に、シグルドの寝息が聞こえたり、パウが横出しに倒れたりと、ちょっとしたトラブルはあったが、どうにか全員が終わりの解放感に体を伸ばす。

「正直、無理かもしれない。」

そして、パウが呟くと、シグルドとオユキもそれに続く。

「えっと、オユキちゃんもなの。」
「いえ、今なら問題なく続けられるでしょうが、やはり成果がどうなるか分からない、そう思うと、自身で進捗の把握ができる技を磨きたいと、そう思う心は止められませんから。」
「だよな。やっぱ、こうしてじっとしてるよりも、素振りしてたいよな。」
「うむ。」

そんなことを話していると、オユキに裏切られたと、そう言いたげなカナリアの視線が突き刺さった。
そもそも、ゲームの時にも、早々に諦めて、見向きもしなかったのだ。
もう一度機会があるのだから、挑戦してみてもいいと、そうは思うが、やはり今模索していることに比べれば、どうしても優先度は低くなってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...