憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

帰還して、二人

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そうして、河沿いの町で、さんざん魔物を狩り、魚を釣り、始まりの町へのお土産も大量に用意できたところで、当初の予定通りに帰還することとなった。
帰り道に関しては、最低限の助言はあるが、あくまでオユキ達が主体となり、行動をする。
それでも問題なくどうにかなったのは、最後の一日が目前となったところまでであった。

道中は魔物に気を張りながらも、進路や速度に気を配り続け、夜中も主体として行動し、見通しが非常に悪い中で魔物を警戒することとなり、なおの事体力を削られた。
そして、最終日は少年たちとオユキが、めでたく荷馬車の住人となった。
トモエとトラノスケにしても、普段よりも足取りが遅く、反応も鈍い。

「ま、よくやったほうだと思うぞ。」

一方で、傭兵達とミズキリ、同行していたイリア、体力がありそうに見えないカナリアですら、まったく苦にしていない様子を見せながら、門に向けて始まりの町の壁沿いを歩く。

「俺はもう少しやれるかと思ったが、中級は遠そうだな。」
「トラノスケは、もう少し力の抜きどころを覚えるのが先だな。
 休むときは休む、任せるところは任せる。それができなきゃ、四六時中気を張ることになる。
 それじゃ、流石に3日も持たないさ。」
「野営がな。流石に外での寝泊まりは、気が抜けない。」
「それでも休むのさ。ま、それができないうちは、遠くまでいけないと思っておけ。」
「手厳しいな。まぁ、その通りなんだが。」

そんな話声を聞きなながら、一団で門を抜ける。
荷台の有様に、アーサーが苦笑いをしながら、まだまだこれからだなと、そんな言葉をかけるが、オユキが覚えていたのはそこまでだった。
気が付けば明るさで目を覚まし、自分が慣れ始めた宿にいることに気が付く。
トモエも起きたばかりという風で、体を伸ばしながら、体を起こしたオユキに声をかける。

「おはようございます。流石に疲れましたね。」
「ええ、想像以上でした。今日明日くらいは、ゆっくりしましょうか。」
「向こうのように、便利なところでも旅行疲れ、なんて言いますからね。」
「ただ、思ったよりも、でした。歩くことくらいはと、そう思っていたのですが。」
「どうなんでしょう。気づいているとは思いますが、この体、向こうとはかなり勝手が違いますから。」

トモエがそういって苦笑いをする。
オユキよりも、自分の状態、それを把握することに意識を傾けているだろうトモエは、やはり気が付くかと、その言葉に頷く。

「純粋な人、いえ、向こうで言うところの人とは違うようです。
 姿を作るときに、人から離れすぎないように、そう言われてはいましたが。」
「見た目はと、そういう事なのでしょうね。
 そもそも、元の世界ではマナなどは無かったのですから、そちらが原因とも思えますが。」

二人で話しながら、体を伸ばす。
既に習慣となって久しく、こちらでも、常に続けている。
だが、動きは少し奇異に映るようで、旅の最中で何度か聞かれた。
意味を説明すれば、誰もが真似をしだしたあたり、重要だと、それはわかっているのだろうけれど。

「さて、調べようにも、検討が付きませんから。ルーリエラさんのように、同種に近い方と会えば、ご教示いただけるかもしれませんが。」
「そのあたりも含めて、異邦人と、そう括られそうな気もしますね。
 マルコさんも、以前異邦の者は、よくわからないと、そのようなことを口にされていましたから。」
「不都合はありますか。」
「私は、そうですね。恐らく食事が途絶えると、途端に動きが鈍るでしょう。
 燃費、まさに燃費ですね。それがやけに悪く感じます。空腹を覚えると、どうしても体が重くなりますから。」
「私のほうは、疲れやすい、今はそれだけですね。
 正直その点では、前の世界のそれこそ仕事を止めてしばらくでしょうか、その年齢の頃と同程度です。
 食べられないからかとも考えましたが、食事で改善した印象もありません。」

そこまで言い切ると、オユキは少し考えて続ける。

「カナリアさんから、マナに関して教えていただいた時に、私にも感じるところがありましたから、ともすれば、そちらに依っているのかもしれません。」
「そういった、種族が。」
「ルーリエラさんが、身近な最たる例でしょうね。精霊が実在しますから。」
「確かに、そう考えれば、納得もいきますね。」

そういうトモエに軽々と抱えられて、ベッドに座らされ、髪を整えられながら話を続ける。

「トモエさんのほうは、名前の元よりも、見た目の印象ですか、赤獅子、そういった流れをくむのかもしれません。不確かな記憶ではありますが、獣人の方は、肉を食べなければ、著しく体調に影響があるそうですから。」
「お互いに、気を付けるしかなさそうですね。オユキ、その印象が正しければ雪精と、そうなるのでしょうか。」
「常冬の地もありますが、かなり離れていますね。」

旅の間は、トモエに髪を手入れされるオユキを見て、少女たちでなくイリアとカナリアにまで苦言を呈されたが、トモエが好きでしている事でもあるため、今のところオユキはそれが許されるならトモエに任せようと、そう考えている。
自分で触り始めれば、真っ先に切りたくなってしまうというのもあるけれど。

「目的としている場所への旅は、もう少し先になりそうですね。」
「そうですね。旅路をお願いできるのであれば、可能でしょう。
 一度相談してみて、賄えるようであれば、近場に一度行ってみるのもいいのではないでしょうか。
 そうでもなければ、どうにも、ただ殺伐とした日々になりそうですから。」

オユキがそう落ち込んだように言うトモエに声をかければ、背後からは嬉し気な空気が返ってくる。
案内したいと、そう思う気持ちがないわけでもないが、それこそ目的地は今のところ10だが、他にもいくらでもある。
前の世界で見た、他国の風景、それ以外にも、それこそ魔術が無ければ成しえないような、そんな建造物や美術品が収められた場所もあれば、神話に語られるような、そんな風景。
それは、数多くある。
オユキ自身も、以前見た、宝石と水晶の町。
流石に一般の家屋はそうではないが、水晶で作られ、泳ぐ色とりどりの魚を見ることができる、大きな噴水がある公園、神をまつる神殿は、水晶と宝石で作られ、絢爛たる輝きを湛えていた。
そういった、あまりに現実離れした光景、そういった物もあるのだから。

「先延ばしになっていましたが、機会があれば、ロザリア様に面会のお願いをしましょうか。」
「そうですね。一番近い場所が、あの方の祀る神に関わるのでしたか。」
「はい。常闇の地ですので、いえ、明りは十分にありますが、魔物が少々。」

オユキはそこで言葉を濁すと、背後から不思議そうな気配が返ってくる。

「ええ、所謂、ホラーの住人が。魔物です。」

オユキが申し訳なく思いながら、そう続けると、髪を触る手が止まる。
苦手、というほどでもないが、好んでみたいものでもないだろう。
ゲームの時分でも、実に評判の良くない、極端に好むものが一部いた、そんな場所であった。

「神様の、お膝元で、ホラーですか。」
「何か、納得がいくだけの背景があったようにも思いますが、そうですね。
 神様のお膝元で、ホラーが現実になります。幽霊、ゾンビ、なんでもござれです。」
「すこし、考えさせていただいても。」
「ええ、話を聞くだけ聞いて、無理そうなら、別の場所を選びましょう。
 次に近いのは、王都の北側にある、湖ですから。
 そちらも景色のいいところですよ。」
「花と水の神殿でしたか。」

そう呟くと、背後から唸るような声が聞こえ、手の動きが戻り始める。
どちらにしても、話を聞いてからになるだろう。
オユキはそっと、ゾンビの放つ悪臭、それに関しては胸の内に秘めたままにして、朝ののんびりした時間を楽しんだ。
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