憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

正式な訓練

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食事をとった後は、また各々で魔物を狩り、釣りをする、そんな時間となった。

「本当に見ていてもいいのかしら。」
「ええ、護衛の方であれば。守秘義務もありますし、さわりだけですから。」
「それでも、内伝の類でしょう。」
「実のところ、こちらに来てと考えると、あまり拘りはないのです。
 この子たちにも説明しましたが、生兵法を避ける、それ以上は。」

クララが気まずそうに護衛として側につき、トモエに話しかけている。
その前では、横に並んだ少年たちが、トモエに言われるままに、今はまっすぐ立つ。そんな練習をしている。
オユキも久しぶりだからと、その横で一緒に訓練はしているが。

「どのみち、対人の色の強い理合いです。魔物にも応用できるでしょうが、そこまでです。
 今後これを教えて、生計を立てると、そんなことも今は考えていませんから。」
「まぁ、いいのなら、わかったわ。一応、頭にはあまり残さないよう気を付けるわ。」
「そうですね。既に馴染んだものがあるようですし、そちらが崩れることもあるかと思いますので、その方が良いかと。」

トモエとクララの間で、ひとまず話が付くと、少年たちの構えを一人ずつ細かく治していく。

「ん、なんか、やけにこう。」
「窮屈に感じるでしょう。」
「ああ。これで、上手く動けるのか。」
「上手く動くんですよ。そちらは、この先ですね。はい、軸足から重心がぶれてますよ。」

トモエがそう言いながら、シグルドの腰を軽くたたくと、途端にバランスを崩してたたらを踏む。

「お、おお。ああ、なんか、わかってきたかも。
 こうなるから、ここでも武器を振るたびに、よろけたのか。」
「その通りですよ。はい、それではもう一度構えて。パウ君は今後も、そういった重さのある武器を使う予定ですか。」
「ああ。性に合ってる。」
「分かりました、ではもう少し背中に意識を向けましょう。このあたりを使って、武器を支える、そんな感覚です。」
「む。こうか。」
「はい、それで、今度はその重さを腰に来るように、うん、筋が良いですね。まずはその構えを半日は維持できるのを目標としましょう。」
「長いな。」

シグルドに比べると、言葉は少ないが素直に言葉を聞くパウは、トモエが要所要所で体に触れながら言葉をかければ、直ぐにそれに合わせて調整する。
オユキから見れば、少し雑な印象も残るが、それも個性だろう。最低限はできている。

「何を言ってるの。ここに来る迄思い知ったでしょう。武器を構えたまま半日なんて、当たり前にできなきゃ、町から離れて狩りなんてできないわよ。」

クララにしても、頭には残さないといいながらも、やはり興味は持たざるを得ないのか、口をはさむ。

「そうだな。そうだ。」
「騎士団だと、丸一日完全装備で構えを取らされるわよ。」
「そうか。」

トモエはその間にも、アナに今後使う武器を確認するが、アナはそこも悩んでいるらしい。

「槍も悪くないと思うんですけど。なんだか、しっくりこなくて。」
「成程。今は予備がありませんから、町に戻って、傭兵ギルドで訓練用の物を借りて、いくつか試しましょうか。」
「私の物を使ってみますか。」

そう、オユキが手に持つ長刀として使っているグレイブと、イリアから譲り受けた短剣を示す。
特に短剣に至っては、ここしばらく訓練以外で、鞘から抜いてもいない。

「どうしますか。」
「えっと、オユキちゃんが良いなら。借りてもいいかな。」

そういうアナに、それぞれを渡せば、パウもグレイブに興味があるようで、珍しく饒舌にオユキに話しかける。

「こう、こんな刃物じゃなくて、叩くようなものはあるのか。」
「戦槌の類でしょうか。金属量が多くなるでしょうから、このあたりでは望めないかと。
 他の場所では、どうなのでしょうね。」
「あるわよ。ウォーハンマー。ただ、丈夫な金属をそれなりに使うから、値段は張るわ。」
「そうか。」

クララの補足に、パウが何処か落ち込んだような空気を湛える。
一方、アナはナイフ、グラディウスが思いのほか手になじむようだ。

「こっちのほうが、動きやすいかも。」
「まぁ、お前は普段からあっちこっちしてるからな。ちょこまか動くもののほうがあってるんじゃないか。」
「即断はできませんが、確かに、馴染むのが早いですね。
 では、短刀術もみましょうか。セシリアさんは、グレイブが気に入りましたか。」
「えっと、はい。槍よりもこっちのほうが、なんか分かり易いかなって。」
「そういった感覚は、大事にしておきましょう。」

そういう話をしていると、アドリアーナが少し極まりが悪そうに、トモエに話しかける。

「その、私弓が使ってみたいんですけど。」

その言葉に、トモエも言葉に詰まるが、直ぐに取り直して返事をする。

「申し訳ありません。私の修めた技に、弓術は無くて。」

その応えにアドリアーナは露骨に残念そうな表情を浮かべるが、直ぐに持ち直して謝る。

「いえ、こちらこそごめんなさい。そうですよね、これだけ色々使えて教えてもらってるのに、無理を言いましたよね。」
「いえ、お気になさらず。命を預けるのです。納得できるものを使うのが良いでしょう。
 弓術は、無理ですが。そうですね、近づかれた時、その時のために武器は使えたほうが良いと思いますので、護身と時間稼ぎに重きを置いて、剣術をやりましょうか。
 弓術は、別に教えてくださる方を見つけなければいけませんが。」
「分かりました。お願いします。」

一先ず、それぞれに使う武器が決まり、オユキは自分が持ち歩いた武器を貸したため、余った槍を構えて、素振りと型を続けて繰り返す。
こうして横一列に誰かと並び、トモエを正面にすると、道場に通い始めたころのことをどうしても思い出してしまう。
あの頃は、隣に並ぶ少年たちのように、逐一指摘され、体を直され、一体何処を直されたのかもよくわからない、そんな日々であった。
ただ、ひと月も続ければ、その効果はゲームの中ではっきりとわかり、さらにゲームに、道場にのめり込んだものだ。
横目に見る少年たちは、当時の自分と比べれば、そもそも日々の運動量が違うのもあるだろうが、体がよくできていて、進歩が速い。
負けてはいられないな、そんな欲を出そうとする自分を諫めながら、ゆっくりと、改めて指先、足先まで、槍の先に至るまで、自分の思い通りに動いているか、それを確かめるように、ゆっくりと動き続ける。

「お。こうか。こうだな。」
「はい、その調子ですよ。ただ、剣を振るたびに少しづつ前に行っているのが分かりますか。」
「ほんとだ。おかしいな。その場で振ってるつもりなんだけど。」
「思い通りに動く、それがどれだけ難しいか、よくわかるでしょう。
 はい、元の場所に戻って、動かないように気を付けて。」
「短剣って、こんなに重いんだ。槍より楽かな、なんて思ってたけど。」
「槍は三日握れば人を殺せる、そういわれる武器です。極めるとなれば、何度は変わりませんが、最低限であれば、一番楽なものですよ。
 はい、下がっていますよ。元の高さに。それと背中が曲がっています。腕だけで持てばさらに疲れますよ。」
「分かりました。」
「振ってみたいんだが。」
「今は、体になじませてください。いえ、意味が分かるでしょうから、そのまま振り上げて、一度振り下ろしてみましょう。」
「ぬ。」
「はい、そうですね。振るとなると構えを維持するのが途端に難しくなります。
 まだ、楽なたての動きでそれです。今後は横にも振りますよ。」
「力に自信はあったのだが。」
「力だけでどうにかなるほど、武の道は浅くありません。
 心技体、そのどれが欠けてもいけませんから。」
「なんで、私よりちっちゃいオユキちゃんが、これを軽々と振れたの。」
「それこそ、正しい訓練、その成果です。はい、刃先がふらついています。」
「あれ。ほんとだ。」
「そこでにぎりに力を入れて対応するのでなく、持ち手を腰に近づけてみましょう。」
「あ、うん。分かったかも。」

そんなやり取りが続く中、護衛として側に入るクララは、ただ懐かしいような、微笑ましいような、そんなただ穏やかな表情でその姿を眺めている。
そして、その横にはいつのまにか、イマノルが立っており、トモエの言葉に耳を傾けている。
トモエが気が付かないことはないだろうし、クララもイマノルに、話しかけているのを確認しているオユキは、さて、自分は今になってもトモエから注意を受けるだろうか、そんな事を考えながらも、ただ訓練に没頭する。
昔、確かにそうしていた、屋根の下、板張りのまで、そんな時を思い出しながら。
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