憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

武器を見る

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オユキとトモエは、狩猟者ギルドを出る前に、武器を取り扱う店の場所を聞くと、そちらへと足を運ぶ。
一度見に行こうと、そんな話をしながらも、こうして切迫した状況になって初めて訪れる、そんな状態にオユキは皮肉を感じてしまう。

「もう少し、ゆっくりとした状況で訪れてみたかったのですが。」
「本当に、ままなりませんね。
 くる時期が良くなかった、そういえばそうなのでしょうが、これこそ現実。
 そう思ってしまうところもありますね。」

オユキが呟けば、トモエもそれに同調するように返す。
トラノスケは、予備の武器は既にあるからと、少年たちの面倒を見るといって、ギルドに残った。
その様子に、相変わらず、今日の道中もそうであったが、面倒見良さが出ていると、オユキは懐かしさを覚えた。

「まぁ、思い通りにいかない、その中で楽しみを見つけるのが、私達にできることでしょう。
 大物はともかく、露払いはあるでしょうから、質よりも数ですかね。」
「あまり、使いつぶすのは気が進みませんが。」
「そうですね。ただ、血と脂ばかりはどうにもなりませんから。
 ゲームの時と同じであれば、それこそ数千の単位で魔物が来ます。
 手入れの時間が常にあるとは、考えないほうがいいので。」

オユキがそう言えば、トモエは踊りたようにオユキを見る。
町の周り、増えているとはいえ、それでもまばら。
変異種が引き連れていたのも、数えきれてはいないが、百を超える程度。
更に桁が変わるとは、考えていなかったのだろう。

「それはまた、立派な自然災害ですね。」
「そうですね。おや、ここでしょうか。」

目印として言われた看板、その名前を確認したうえで、二人で店内に入る。
前の世界では、模造刀等を扱っている店に行ったことまではあるが、店内いたるところに鈍い光を放つ武器が並べられている、そんな店に入るのは初めてだった。
興味をもって、その様子を二人で眺めていると、店員らしき人物が話しかけてくる。

「おや、見ない顔だね。その恰好からすると、狩猟者の方かな。」
「ええ。まだなって指折り数えられるほどですが。
 それと、こちらを見せれば、どのような用事かは、お判りいただけますか。」

トモエがそういって、木札を取り出して、店員に見せれば、表情がすぐに変わる。

「ああ。なるほど。忙しくなりそうだね。予備の武器だな。
 それなら、そっちの纏めてあるほうがいい。壁にかけてるのは、使い捨てにはもったいない物だからね。」
「やはり、そういった扱いになりますか。」
「愛着を持ってくれるのは嬉しいが、どうにもならんだろうさ。
 数が数だ。手入れしながらでも、100も切れば駄目になる。」

店員の答えに、トモエは少し悲しそうな顔を浮かべるが、オユキはその手を握って軽く引く。

「武器は、守るために。そうでしょう。」

そうとだけ言えば、トモエは息を吐いて、オユキに目線を合わせる。

「そうですね。供養だけはきちんとしましょう。」
「そうするしかありませんよね。
 これまでと違って、実際に使う以上、どうしても消耗していきます。
 そのあたりの折り合いは、つけなくてはいけませんから。」
「いけませんね。どうしても、引きずってしまいます。」
「悪いことではないですよ。物は大事に、それは事実ですから。」

そういって、二人で話していると、店員から声がかかる。

「二人の話し合いは別でしておくれよ。さて、片手剣と槍でいいのかい。」

その言葉に二人で頭を下げて、それぞれに希望を改めて告げる。

「そうですね。片手で扱えるもので、少し反りがあるものはありますか。」
「槍でも構いませんが、長柄で、先に大ぶりな刃が付いたものがあれば。」
「なんだ、やけに具体的だな。慣れた武器があるなら、普段からそれを持ち歩けばいいんじゃないかい。
 まぁ、少し待っておきな。いくつか持ってくるから。」

そう言うと、店員がカウンターから離れ、店の中を移動して、いくつかの武器を集めて来る。
想像して、それこそ太刀や長刀、そういったものではないが、口にした希望に近いものが、カウンターの上に並べられる。

「あまり数はないが、こいつらだな。
 にしても、こっちは嬢ちゃんには少し重いと思うがね。」

そういって二人で改めて武器を見ると、見慣れない物もいくつか混じっている。

「これは、サーベルと、ファルクスですか。
 流石に逆刃は、取り廻せそうにないですね。」

トモエがファルクスと呼んだものは、柄のない両手持ち、刃が逆についていれば、日本刀を少し太くした、そう評してもいいような形状をしている。
確かに、刃が内側についているため、癖で振れば、峰で叩くことになるだろう。
サーベルは、直刀ではなく、緩く反りがあるもので、ガードもついた、片手で振るためのものとなっている。

「おや、ご存じで。」
「名前と、形状だけは、そうですね、こちらのサーベル、振ってみても。」
「ああ。試しが必要なら、裏に場所があるが。」
「今は、大丈夫です。」

そういってトモエが数度振った後に、鞘からの抜き打ち迄を試す。
そして納得がいったのか、頷くと、決める。

「少しバランスに慣れませんが、問題ないでしょう。こちらと同じものを、もう一振り見繕っていただけますか。
 それと、お代はいかほどでしょう。」
「200ペセだな。元は2000だ。」
「成程。ギルドには感謝しなければいけませんね。」
「嬢ちゃんは、どうだい。」

言われてオユキは長刀によく似た、反りのない刃が付けられた長柄の武器を手に持つ。
全体で、3メートル近く、オユキの倍ほどの大きさがあるそれは、さて、何と呼ぶのだったか、構えながらそんなことを考えるが、やはり長すぎて、バランスもそうだが、間合いを間違えそうだ。

「グレイヴか。構えは問題なさそうだが。」
「そうですね、柄を詰めてもらうことはできますか。」
「まぁ、それがいいだろうな。こっちは150、手間賃込みだ。」
「では、私にも予備があれば、同じものをもう一つ。」

そうして、早々と武器を買い込んだ後は、マルコの診療所で少し薬を買い足す。
そして荷物を置くと、取って返して傭兵ギルドへと向かう。

「おう。どうした。」

だんだん対応が気安くなっている受付の男性に、新しく買った武器を一度叩いて見せてから、オユキが声をかける。

「新調したので、慣らしに場所をお借りしようと。」
「ああ、そういやイマノルがついてたのはお前らだったか。
 料金は気にすんな。いつもの場所を使ってくれりゃいい。」

そういって、男が木札を出すのを、トモエが受け取る。

「宜しいのですか。受け取っておいて、何ですが。」
「緊急事態に場所代取るなんて、野暮な真似はしないさ。
 餓鬼どもは、後から来んのか。」
「どうでしょう。教会の子たちですから。」
「ああ、向こうは向こうで、忙しいだろうからな。
 うちのも体をあっためてる最中だ。変なから見方はしないだろうが。」
「慣らしが終われば、立ち合いくらいは受けますよ。」
「おう、そりゃ助かる。変わった技を使う相手との練習は、得る物も大きいからな。」

そんな話を軽くしてから、ここのところ連日通っている訓練所へと足を運ぶと、受付の男が言ったように、これまでの閑散とした様子とは違い、10を超える人が、模造刀を交えていた。
同じく顔なじみになりつつあるルイスに声をかけ、オユキとトモエはまずそれぞれに武器を振る。
トモエは長さに比べて軽いそれを体になじませるよう、ゆっくりと型を繰り返し、オユキは記憶にある長刀の型を、一つの流れとして、変えながら、武器と、動きを体になじませる。
最初の柄の長さは、かなりなものであったが、覚えのある4尺、120センチほどに詰めてもらい、刃に関しては、知っている物より少し短い程度。
槍に比べると、先の重さが操作の難度をどうしても引き上げるが、それでも元の世界、その全盛期よりも既に高いであろう身体能力が、遠い記憶の動きを可能にさせる。
そうして、一時間ほど、ただ無心に、型を繰り返す。
その時間はとても懐かしく、充実したものであった。
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