憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

よく見た光景

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少女の言葉に、少年がなにを言うでもなく、ただ軽く頭を下げたのに、トモエが頷き、少年たち5人が揃うのを改めて待つこととなった。
その間も、少年はただ悔し気にうつむいたままで、入れ替わったもう一人の少女は、何があったのかわからない、そんな様子で、ただ首をかしげていた。
外から戻ってきた少年たちも、順に呼ばれていき、ひとまず狩猟者ギルドでやることはない、そう判断したオユキとトモエは、5人組の少年たちを連れて、傭兵ギルドへと足を向ける。
意外なことに、それにイリアとトラノスケもついてきた。
イリアに関しては、待っている間に、マルコへの連絡のため、一度離れていたが。

「イリアさんは、カナリアさんを見ていなくても大丈夫ですか。」
「ああ、帰るに少し覗いたが、疲れと、薬だろうね、良く寝ていたさ。
 熱も出ていないようだったし、あのまま寝かしておくのが、一番さね。
 起きれば、自分で治癒をするだろうし。」
「そう言えば、カナリアさんは、治癒の魔術でしょうか、奇跡でしょうか。使えるのですね。」
「奇跡のほうだね。それもあって、近くの村にたまに出張しては、マルコの薬の販売と一緒に、現地で奇跡を行使しているってわけさ。あたしは今回の護衛でね。」

そうオユキとイリアが話していると、トモエが首をかしげながら、疑問を口にする。

「その、魔術と奇跡。その違いは何でしょうか。」
「あたしも詳しくはないから、詳しいことは、それこそ教会か魔術ギルドで聞いておくれ。
 奇跡は、神の力を借りていて、魔術はマナを使って人が行う。まぁ、だいたいはそんな認識さ。」
「成程、やはり一度魔術ギルドには行ってみたいですね。」
「まぁ、興味があるなら止めやしないが、あたしはちょっと近寄りたくないねぇ。」

そういってイリアが苦笑いをする。
快活でよく日焼けした、そんな女性だ。
魔術、ゲーム時代と変わらなければ、それこそ机にかじりついて研究する、そういった事が必要な技能なのだ、苦手意識があっても不思議ではない。

「まぁ、今後、ですね。イリアさんは傭兵ギルドで、どのような御用なのでしょうか。」
「傭兵ギルドにも、所属しているからね。カナリアの護衛完了の報告と、狩猟者ギルドからお使いも頼まれているのさ。」

そういって、イリアは片手に持った丸めた紙を軽く振りながら、そう応えると、たどり着いたギルドへとためらいなく入っていく。
オユキとトモエ、それから何を話すでもなくついて来ていた少年たちも、後に続いてはいると、昨日と変わらぬ男性が受付に座っていた。
近寄るイリアを見て、直ぐに声がかかる。

「よう。なかなか大変だったそうじゃないか。」
「まったく、間の悪い事だよ。こっちが狩猟者ギルドから。
 あたしの報告も入ってる。後はカナリアの護衛が完了さ。」
「ああ、手続きをしよう。対象が怪我をしたらしいが。」
「まぁ、不測の事態とはいってもね、そのためにいるわけだから、引いてくれりゃいいさ。」

そういって、片方だけの肩をイリアが軽く上げる。

「んで、そっちはどうした。」
「こちらの子供たちを、少し鍛えてあげようかと。場所はお借りできますか。」
「ああ、構わないさ。うちからも誰かつけるか?」

ちらりと、一瞥してすぐに興味を失ったように、男性はトモエにそう尋ねる。

「お察しの通り、それ以前ですから。」
「ま、そうだな。この前と同じ場所に行きゃいい。料金は、そうだな、場所と、練習用の武器も使うだろうから、まぁ、100でいい。」

トモエが支払い、木札を受け取ると、イリアと分かれて昨日も訪れた、屋内の広い空間へと向かう。
その出入り口にも、昨日と変わらぬ男性、ルイスが立っていた。

「おや、連日とは熱心なことだな。」
「今日は後ろの子たちですね。オユキさんも怪我をしていますから。」
「ああ、イマノルと一緒に動いてたのは、お前らか。
 ふむ。まぁ、手の空いてる人間が、必要なら手伝うからな。存分に仕込んでやればいいさ。」
「イマノルさんにもよろしくお伝えください。お会いできれば改めてお礼を言いたいのですが。」
「あいつは、今日のところは、忙しいからな。事が事だ。」

そういって、手を振る男性に、それではと、そう言葉を残して、7人でそのまま訓練所へと入る。
相変わらず、こちらの室内の空間は人がおらず、ただ広い空間、その一角に模造の武器が立てかけられている。
そちらのほうへと、ひとまず歩きながら、トモエは軽い口調で、話し始める。

「さて、それではとりあえず、素振りから始めましょうか。
 数は、そうですね、外で活動して疲れているでしょうから、二百でいいですよ。
 さ、それでは皆さん、手に自分の武器を。」

そう満面の笑みを浮かべて少年たちに告げる、そんなトモエの姿に、何か不穏なものを感じ取ったのだろう。
5人そろって、一歩下がることとなった。

それから10分も立っていない時間、オユキは、ルイスと並んでトモエたちから離れた場所で、話をしていた。
オユキはオユキで、イリアから譲り受けた、肉厚の短剣に馴染もうと、それを抜いて構えをとったままではあるが。

「あの赤毛の兄ちゃん、見かけによらないもんだなぁ。」

少年たちの正面、そこで数を口に出しながら、遅れればすぐに叱責を飛ばす、そんなトモエを見ながらルイスがそう口に出す。

「私は師より許可を頂けていませんが、彼女は技を授けることができる立場ですからね。」
「ま、訓練が実践よりもきついのはいい事だ。」

そう言うルイスに、オユキは今後の事を考えて、質問をする。

「そういえば、今後野営のご教示を頂ければと考えていますが、それまでに用意していたほうが良いものなどはありますか?」
「ああ、まぁ、こっちでそのあたりは面倒を見るさ。
 まずは一日、それこそ門のすぐそばで、夜を過ごす、そこからだからな。
 徐々に慣らして、最終的には森の中、隣の村まで移動、そういう流れだな。」
「随分と、面倒見がいいですね。」
「その道中の護衛が、こっちの本分でもあるからな、こっちの訓練も兼ねているのさ。」

ルイスの言葉になるほどと、そう頷いていると、トモエの叱責がまた飛ぶ。

「まだ50も振っていませんよ。あなた達が丸兎1匹を倒すために、30は振っていました。
 一日に5人がかりで1匹、その程度で終わらせるつもりですか。」
「くそ、なめるなよ。」
「それ以前です。過小評価ではなく、それがあなた方の現在の程度です。」

トモエはそういいながらも、数を一定の間隔で数えながら、ただ淡々と武器を振るう。

「にしても、本来の得物はまた違いそうだな。」
「分かりますか。」
「あっちのガキども程じゃないが、体がたまに流れそうになっているしな。
 手首の動きを見れば、長さは変わりないみたいだが、もう少し軽い物だな。
 ま、わかって馴染ませてるみたいだからな、お前さんもそうだし。」
「ご賢察の通りです。」
「昨日も見たが、お前さん達異邦人か。
 ほれ、さっきから徐々に切っ先が上がってる。」

慣れない重さの短剣だからか、過剰に力が入り始めていることをルイスに指摘されて、オユキは少し恥ずかしげに笑う。

「はい、このあたりの技も、向こうで身に着けた物です。」
「成程な。ま、お前ら二人はこっちのというか、今の手持ちの武器になじむのが優先だな。
 お、最初のところにきれいに戻したな。」
「ご指摘、有難く。」

そんな話をしていると、トモエもそれぞれに、武器を振り上げすぎている、地面まで振り下ろさず、きちんと自分の正面で振り下ろしを止めろと、少年たちそれぞれに改善すべき点を、矢継ぎ早に告げる。
数もそろそろ70を数えるところ、疲れてきたのか、体勢が崩れだせば、それも見逃しはしない。
その様子を、オユキは懐かしく見守っていると、ルイスが肩をすくめながら、ぽつりとつぶやく。

「イマノルの教え方とよく似てるな。
 世界が違っても、武門ってのは似るもんなのかね。」
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