憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

ミズキリたちの帰還

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「ダリオさん、少し宜しいですか。」

そう女性が声をかけると、傭兵ギルドの受付に座っていた、岩の塊のような、そんな男にも引けを取らない、筋骨隆々とした、壮年の男性が振り返り、声を上げる。

「おう、どうしたミリアム。悪いが、あと一回、いや二回は外に出ないと回収しきれないぞ。」
「そこまでですが。流石はイマノルさんですね。
 その、今回の件、それで意思を決定される方が、今回の報酬分配をギルドに預けるとのことですから。」

そう、女性、ミリアムが伝えると、ダリオと呼ばれた男性は、顎を撫でながら、口にする。

「俺たちは、それこそ荷運びだけだが。」
「俺たちだけじゃ、放っておくしかないからな。
 イマノルさんへの配慮は求めるが、何なら頭割りでもいいさ。」

ダリオの言葉には、トラノスケが応える。

「おう、トラノスケの坊。そうか、基本はイマノルか。
 にしても、いいのか。ギルドに任せても、俺らの取り分が増えるぞ。」
「なに、俺はさっきも言ったが、頭割りでもいいさ。
 ほとんどイマノルさんがやったしな。まぁ、ギルドが決めたことに、こっちから文句はつけないさ。
 そっちも、それで問題ないか。」

トラノスケから振られると、オユキ達三人もそれに頷く。
ただ、そこにミリアムが少し難しい顔をしながら口をはさむ。

「イマノルさんですか。護衛として雇っている状況ですから、少し難しそうですね。」
「いや、それこそ、そこで過小評価すりゃ、護衛を連れて危険地帯に突っ込む馬鹿が増えるだけだろうよ。
 まぁ、うまい具合にやんな。俺からはそうとしか言えんな。
 なんにせよ、俺らの仕事は、回収だけだ。多少魔物も相手しちゃいるが、そう変わらんんさ。」
「ん。そうですね。それでは先に、シグルド君。お話を聞かせてもらいますね。
 そうですね、シグルド君のパーティーから、後二人残っておいてください。
 それで、話を聞いている間に、またダリオさんも戻ってきているでしょうから。」

オユキが見る前は分からないが、何処か暗い顔をしたシグルドが、そうして二回に連れていかれる。

「じゃぁ、俺らはまた外に行ってくるか。」

ダリオ達が荷袋から中身を出すこともなく、そのまま預けると、それを受け取ったギルドの職員が、替わりの袋を彼らに渡している。
ミリアムに言われて、荷物持ちという事もあるのだろう、少年二人がダリオ達についてギルドから出ていき、少女二人がギルドに残る。
その二人は、さぞかし疲れているのだろう、何を言うこともなく、ギルドの壁を背もたれに、座り込んでいる。
その姿を見ながら、四人で集まり話を始める。

「にしても、本当に良かったのかい。」
「ああ。俺は問題ない。そっちだって、荷物を全部捨ててるんだ。
 先立つものはあったほうが、いいだろう。」
「そうですね。私たちにしても、まぁ、怪我で動けない間、その分くらいはと思いはしますが。
 逆を言えば、それだけあれば十分ですから。今のところは。」

そう、トモエが言えば、イリアは肩をすくめる。

「ありがたくはあるけどね。欲のないこった。」
「足るを知っているだけですよ。まだこちらに来て日も浅く、直ぐに物入りになるわけでもありませんから。」
「まぁ、借りと思っておくさ。何かあったらいいな。
 それにしても。」

そういって、イリアは未だに座ったまま、ぐったりとした様子の二人の少女に視線を向ける。

「あんたら、狩猟者になるなら、高々あの程度動いただけでそんなんじゃ、今後やってけないよ。」

そう言われて、少女たちがのろのろと顔をあげる。

「まぁ、大変なことにはなりましたから。緊張もあるのでしょう。」
「そうかもしれないけどね。町から離れれば、半日以上動きっぱなしになるからね。
 他の三人もそうだけど、もっと体力つけなきゃ、やってけないよ。
 あんたらよりちっこい、このオユキだって息一つ乱しちゃいないからね。」

そう、イリアが言えば、のろのろと視線をオユキに向けて、また俯く。
かなり小柄なオユキが、曲がりになりも戦闘を行えたこと、それと自分達を比べているのだろう。
疲れだけではない曇りが、表情にさす。
その時に、オユキ達に比べれば、随分と早く、シグルドと呼ばれた少年が二階から降りてきて、次の少女へと声をかける。
そして、二人はそのまま場所を入れ替えるようにして、少年が座り込み、少女がゆっくりと二階へと向かっていく。

そんな様子を見ながら、さて、これからどうしたものかと、オユキとトモエが視線をかわしていると、少年からうめくような声が聞こえる。

「なんでだよ。」

オユキ達は、その声が聞こえたが、それだけでは、流石に何もわからないと、それに応えることはなかった。
そんなときに、入口に見慣れた姿が見える。
どうやら、ミズキリたちが戻ってきたようだ。
オユキが手を挙げて軽く振ると、それに気が付いたのか、ラルフがミズキリの肩をたたくと、三人連れ立って、側にやってくる。
そんな三人、ラルフに対して、トラノスケが声をかける。

「悪かったな。変わってもらって。」
「まぁ、俺も気になっていたからな。それに斥候としては、種族差がある。こっちが適役さ。」

そういえば、最初はトラノスケはミズキリについていくよ手といっていたな、そんなことをオユキが考えていると、ルーリエラがオユキに声をかける。

「薬草の匂いがしますね。どなたか、怪我を?」
「ええ、私と、そちらのイリアさんが。」

そう答えると、ミズキリが眉を上げながら、イリアに尋ねる。

「それでその有様か。それにしてもイリア、お前が今更こんなところで怪我をするなんて、何があった。」
「ロボグリスの率いる群れに絡まれてね。カナリアもいたから、一人で逃げることもできずに、この様さ。」
「森が騒がしいとは思っていましたが、走りマッシュルームだけではありませんでしたか。」
「まぁ、三人じゃ森全体までは難しいからな。仕方ないさ。それにしても、これはほぼ確定か。」
「ミズキリたちも、変異種に遭遇しましたか。」

走りマッシュルーム。ゲームでその名前を始めてみたときは、翻訳の間違えかと笑ったりもしたが、実物はそうとしか言えない見た目をしている。勿論、大きさについてはかなりのものではあるが。
オユキがそう声をかければ、ミズキリも一つ頷きながらそれに応える。

「ああ。それで、怪我は大丈夫か。」
「今日明日は、安静にとのことです。」
「大事が無ければよかった。それで、ここで何を?」
「群れを討伐したので、その報酬の分配にギルドの知恵を借りていることです。
 門のあたりを通ったなら、遠目に見えたかもしれませんが、未だに回収を行っていただいている有様で。」
「ああ、外の匂いはそれか。まぁ、ロボグリスは群れが大きいからな。
 そういや、旦那、うちはどうする。」

ラルフが少し嫌そうな、鼻のいい彼の種族にしてみれば、そこら一体から生肉の匂いがする、その状況は何事かと、そう思うようなものなのだろう、そう納得して、ミズキリに声をかける。

「頭割りでいいだろ。面倒だしな。
 俺たちは、一度報告と、納品を済ませてくる。またあとでな。」
「ええ、後程。」

そう答えて、ミズキリたちが離れていくと、イリアがオユキに声をかける。

「ミズキリとも知り合いかい。」
「ああ、私達も異邦人ですから。その縁で。」

オユキがそう言って、トモエを見れば、頷いて答える。

「それでかい。見た目にしちゃ落ち着いてると思っていたが。」
「まぁ、見た目通り、そうではないことは確かですね。」

オユキがそう苦笑いを返していると、木をたたく音が聞こえ、俺に意識を向ければ、こぶしを震わせた少年、シグルドが震える声で、訴えた。
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