39 / 1,235
二章 新しくも懐かしい日々
新しい朝
しおりを挟む
「おはようございます。よく眠れましたか?」
オユキが目を覚ませば、すぐ隣にある顔から、そんな声がかかる。
「はい。思いのほか長く眠っていましたか。」
「そうですね、私も明け方ではなく、こうして日の昇っている時間に目を覚ますのは久しぶりです。」
そう二人で話しながら、どちらからというわけでもなく、起き上がる。
「オユキさん、足の具合はいかがですか?」
オユキは室内でもあるので、無理に強く踏むことはなく、数度捻った足へと体重をかけてみるが、違和感も痛みもない。
「問題はなさそうですね。昨日ミズキリが言っていましたが、やはり治るのが早いようです。
場所の確認のため、一度お医者様にお伺いして、そこでまず診て頂いて今日の予定を決めましょう。」
「そうですね。それにしても、こちらの医療費はどの程度なのでしょうか。」
「分かりませんね。お伺いした時に、お尋ねしてからにしましょうか。
こちらに来るにあたって、十分な資金は頂いていたように思いますが、そういえば、こちらの衣類ではどれくらい使いましたか?」
オユキがそう尋ねると、トモエが外してひとまとめにしていた装備から、一つの小袋を取り出す。
「食費に比べると、かなり高額ですね。やはり工業化されていないからでしょう。
オユキさんから頂いた分すべてで、この量の衣類ですから。
私が頂いた分は、すべて残っていますので、一度の診療くらいであれば、問題ないかと。」
「それは、今後も気を付けないといけませんね。」
そういうと、オユキもトモエも、そこまで広くはない空間であるがその中で体を伸ばし、曲げ、柔軟を行う。
「やはり、こう、体が思うように動かせるというのはうれしいですね。」
晩年は、どうしても節々が固まり、今ほど思った通りに、思った以上に体が応えてくれることはなかった。
「トモエさんは、昨日かなり負担をかけてしまいましたが、不調はありませんか?」
「体が重く感じますが、これは疲労ではなく、本当に感覚的な重量の部分ですね。」
「そうでしょうね。私も体が軽くて心許ない、そんな感覚は抜けません。」
「少なくとも、二月はかかりそうですね、違和感に慣れるまでは。
ところで、魔術と呼ばれるものは、どのような物でしょう。
その中には、怪我を癒すようなものは無いのですか?」
「はい。ありましたよ。ただ、私は以前のゲームでは、結局扱えませんでしたから。」
オユキは、柔軟を、オユキが思う以上に柔らかい体に驚きながら終える。
以前はゲームに使えそうだと、そんな理由からそういった技術に手を出したこともあり、体は、同年代、何もしていない相手に比べれば柔らかに動いたが、トモエほどではなかった。
今は過去に見たトモエ以上に、柔らかに体が動く。
「そのように仰っていましたね。今回はどうでしょう。
私も興味はありますので、一度魔術ギルドでしたか、伺ってみたいと考えていますが。」
「ええ。いいですね。昨夜も言いましたが、何も私の行いをなぞる事もないでしょうから。
この町にもあるはずですから、一度伺って、話を聞かせていただきましょうか。」
そういって、二人で連れ立ってまた一階へと向かう。
こちらの人々は、勤勉であるらしく、食堂にはすでに人がまばらとなっていた。
「おはよー。どうする?すぐご飯にする?」
「ええ、おはようございます。
そうですね、いただけますか?」
オユキがそう答えれば、フラウはすぐにパタパタと駆けだす。
彼女にしても、二人が起きだすより早く、こうして家の仕事を手伝っているのだろう。
そうして、空いている机の一つに、二人で座ると、昨夜の夕食とは変わり、野菜のサラダ、果物らしき物、膨らんでいるパン、それにヨーグルトのようなものが並べられる。
「はい、どうぞ―。足りなかったらお肉焼くよ。燻製したものになるけど。どうする?」
「私は、大丈夫です。トモエさんは?」
オユキがそう聞けば、トモエは少し考えるそぶりを見せ、応える。
「そうですね、いただけますか?」
「はーい。」
「オユキさんも、少し私からお分けしますので。卵でもあれば、それでいいのでしょうが。」
「燻製されていれば、油も落ちているでしょうから、少しなら口にできるでしょうか。」
「調理法次第でしょうね。私も久しぶりに料理をしてみたくありますが。」
「そうですね。私もトモエさんの作ったものを、頂きたく思います。
少し慣れてきたら、いろいろと、そうですね、いろいろと試していきましょう。
今度は、私が覚えてみるのも面白そうですし。」
そういうと、トモエは少し苦い顔をする。
オユキの生前、ほとんど料理など作らなかったことを思い出しているのだろうか。
もしくは、たまに作った物、それこそ肉を焼くだけ、お湯を入れるだけ、それを料理と呼んだことだろうか。
そう、思い当たる節が、確かにオユキにはあったが、トモエの懸念は異なった。
「そうですね、ただ、昨日の事を思い返すと、台所の高さが不安ですね。」
言われたオユキは、それがあったかと、そう思いいたる。
「こちらの方は、私達のいた場所よりも、平均値が高そうですから。
少し、そのあたりも考えて、設定をさせていただいたほうが良かったでしょうか。」
「構いませんよ。それで不便があったとしても、納得したのは私です。
それに、思い入れもあったのでしょう?」
そういうと、トモエは少し恥ずかし気に、はいと頷く。
「なら、構いませんよ。
不便を楽しむことなんて、それこそ慣れた物です。お互いに。」
そんな話をしているうちに、フラウが焼いた大振りのベーコンを持ってくる。
さて、多くの人がおいしそうだと、そう評するだろう、きれいに白い油が層を作るそれを見て、オユキは思わず身を引いてしまった。
そして、そんなオユキをフラウが咎める。
「もー。好き嫌いは駄目だよ。ちゃんと食べないと大きくなれないんだから。」
昨晩と同じ言葉に、オユキは苦笑いをするしかない。
苦手意識、それこそ晩年は脂が胃もたれをもたらしたこともあり、あまり食べていない、そんな時間が続いたことに加えて、この体は、あまり食に積極的ではないようだと、そんな実感をオユキは得てしまう。
「ええ。大丈夫ですよ。私のものを分けますから。フラウさんは、好き嫌いなく?」
「うーん。好きじゃない野菜もあるけど、でも、食べるよ。」
「それはいい事ですね。」
そう、トモエがほめると、まぁね、そういって直ぐに何処かへと移動する。
そんな姿を目で追いながら、オユキとトモエは食事に取り掛かる。
そして、生前とは逆に、オユキが食事を終えるのを、トモエが待つと、そういう結果となった。
オユキが目を覚ませば、すぐ隣にある顔から、そんな声がかかる。
「はい。思いのほか長く眠っていましたか。」
「そうですね、私も明け方ではなく、こうして日の昇っている時間に目を覚ますのは久しぶりです。」
そう二人で話しながら、どちらからというわけでもなく、起き上がる。
「オユキさん、足の具合はいかがですか?」
オユキは室内でもあるので、無理に強く踏むことはなく、数度捻った足へと体重をかけてみるが、違和感も痛みもない。
「問題はなさそうですね。昨日ミズキリが言っていましたが、やはり治るのが早いようです。
場所の確認のため、一度お医者様にお伺いして、そこでまず診て頂いて今日の予定を決めましょう。」
「そうですね。それにしても、こちらの医療費はどの程度なのでしょうか。」
「分かりませんね。お伺いした時に、お尋ねしてからにしましょうか。
こちらに来るにあたって、十分な資金は頂いていたように思いますが、そういえば、こちらの衣類ではどれくらい使いましたか?」
オユキがそう尋ねると、トモエが外してひとまとめにしていた装備から、一つの小袋を取り出す。
「食費に比べると、かなり高額ですね。やはり工業化されていないからでしょう。
オユキさんから頂いた分すべてで、この量の衣類ですから。
私が頂いた分は、すべて残っていますので、一度の診療くらいであれば、問題ないかと。」
「それは、今後も気を付けないといけませんね。」
そういうと、オユキもトモエも、そこまで広くはない空間であるがその中で体を伸ばし、曲げ、柔軟を行う。
「やはり、こう、体が思うように動かせるというのはうれしいですね。」
晩年は、どうしても節々が固まり、今ほど思った通りに、思った以上に体が応えてくれることはなかった。
「トモエさんは、昨日かなり負担をかけてしまいましたが、不調はありませんか?」
「体が重く感じますが、これは疲労ではなく、本当に感覚的な重量の部分ですね。」
「そうでしょうね。私も体が軽くて心許ない、そんな感覚は抜けません。」
「少なくとも、二月はかかりそうですね、違和感に慣れるまでは。
ところで、魔術と呼ばれるものは、どのような物でしょう。
その中には、怪我を癒すようなものは無いのですか?」
「はい。ありましたよ。ただ、私は以前のゲームでは、結局扱えませんでしたから。」
オユキは、柔軟を、オユキが思う以上に柔らかい体に驚きながら終える。
以前はゲームに使えそうだと、そんな理由からそういった技術に手を出したこともあり、体は、同年代、何もしていない相手に比べれば柔らかに動いたが、トモエほどではなかった。
今は過去に見たトモエ以上に、柔らかに体が動く。
「そのように仰っていましたね。今回はどうでしょう。
私も興味はありますので、一度魔術ギルドでしたか、伺ってみたいと考えていますが。」
「ええ。いいですね。昨夜も言いましたが、何も私の行いをなぞる事もないでしょうから。
この町にもあるはずですから、一度伺って、話を聞かせていただきましょうか。」
そういって、二人で連れ立ってまた一階へと向かう。
こちらの人々は、勤勉であるらしく、食堂にはすでに人がまばらとなっていた。
「おはよー。どうする?すぐご飯にする?」
「ええ、おはようございます。
そうですね、いただけますか?」
オユキがそう答えれば、フラウはすぐにパタパタと駆けだす。
彼女にしても、二人が起きだすより早く、こうして家の仕事を手伝っているのだろう。
そうして、空いている机の一つに、二人で座ると、昨夜の夕食とは変わり、野菜のサラダ、果物らしき物、膨らんでいるパン、それにヨーグルトのようなものが並べられる。
「はい、どうぞ―。足りなかったらお肉焼くよ。燻製したものになるけど。どうする?」
「私は、大丈夫です。トモエさんは?」
オユキがそう聞けば、トモエは少し考えるそぶりを見せ、応える。
「そうですね、いただけますか?」
「はーい。」
「オユキさんも、少し私からお分けしますので。卵でもあれば、それでいいのでしょうが。」
「燻製されていれば、油も落ちているでしょうから、少しなら口にできるでしょうか。」
「調理法次第でしょうね。私も久しぶりに料理をしてみたくありますが。」
「そうですね。私もトモエさんの作ったものを、頂きたく思います。
少し慣れてきたら、いろいろと、そうですね、いろいろと試していきましょう。
今度は、私が覚えてみるのも面白そうですし。」
そういうと、トモエは少し苦い顔をする。
オユキの生前、ほとんど料理など作らなかったことを思い出しているのだろうか。
もしくは、たまに作った物、それこそ肉を焼くだけ、お湯を入れるだけ、それを料理と呼んだことだろうか。
そう、思い当たる節が、確かにオユキにはあったが、トモエの懸念は異なった。
「そうですね、ただ、昨日の事を思い返すと、台所の高さが不安ですね。」
言われたオユキは、それがあったかと、そう思いいたる。
「こちらの方は、私達のいた場所よりも、平均値が高そうですから。
少し、そのあたりも考えて、設定をさせていただいたほうが良かったでしょうか。」
「構いませんよ。それで不便があったとしても、納得したのは私です。
それに、思い入れもあったのでしょう?」
そういうと、トモエは少し恥ずかし気に、はいと頷く。
「なら、構いませんよ。
不便を楽しむことなんて、それこそ慣れた物です。お互いに。」
そんな話をしているうちに、フラウが焼いた大振りのベーコンを持ってくる。
さて、多くの人がおいしそうだと、そう評するだろう、きれいに白い油が層を作るそれを見て、オユキは思わず身を引いてしまった。
そして、そんなオユキをフラウが咎める。
「もー。好き嫌いは駄目だよ。ちゃんと食べないと大きくなれないんだから。」
昨晩と同じ言葉に、オユキは苦笑いをするしかない。
苦手意識、それこそ晩年は脂が胃もたれをもたらしたこともあり、あまり食べていない、そんな時間が続いたことに加えて、この体は、あまり食に積極的ではないようだと、そんな実感をオユキは得てしまう。
「ええ。大丈夫ですよ。私のものを分けますから。フラウさんは、好き嫌いなく?」
「うーん。好きじゃない野菜もあるけど、でも、食べるよ。」
「それはいい事ですね。」
そう、トモエがほめると、まぁね、そういって直ぐに何処かへと移動する。
そんな姿を目で追いながら、オユキとトモエは食事に取り掛かる。
そして、生前とは逆に、オユキが食事を終えるのを、トモエが待つと、そういう結果となった。
11
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~
釈 余白(しやく)
ファンタジー
「お前みたいな役立たず、俺たちSSSSパーティーにはふさわしくない! もういらねえ、追放だ!」
ナロパ王国で長らくマッパーとして冒険者稼業をしているエンタクは、王国有数の冒険者パーティー『回廊の冥王』から突然の追放を冷酷に告げられ王都を去った。
失意の底に沈んだエンタクは、馬車に揺られ辺境の村へと流れ付いた。そんな田舎の村で心機一転、隠居生活のようなスローライフを始めたのである。
そんなある日、村人が持ちかけてきた話をきっかけに、かつての冒険者経験を生かした観光案内業を始めることにしたのだが、時を同じくして、かつての仲間である『回廊の冥王』の美人魔法使いハイヤーン(三十路)がやってきた。
落ち込んでいた彼女の話では、エンタクを追放してからと言うもの冒険がうまくいかなくなってしまい、パーティーはなんと解散寸前になっているという。
当然のようにハイヤーンはエンタクに戻ってくるよう頼むが、エンタクは自分を追放したパーティーリーダーを良く思っておらず、ざまぁ見ろと言って相手にしない。
だがエンタクは、とぼとぼと帰路につく彼女をそのまま放っておくことなどできるはずなかった。そうは言ってもパーティーへ戻ることは不可能だと言い切ったエンタクは、逆にハイヤーンをスローライフへと誘うのだった。
※各話サブタイトルの四字熟語は下記を参考にし、引用させていただいています
goo辞書-四字熟語
https://dictionary.goo.ne.jp/idiom/
人間不信の異世界転移者
遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」
両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。
一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。
異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。
それはたとえ、神であろうと分からない――
*感想、アドバイス等大歓迎!
*12/26 プロローグを改稿しました
基本一人称
文字数一話あたり約2000~5000文字
ステータス、スキル制
現在は不定期更新です
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる