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1章 懐かしく新しい世界
町の外
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そうして三人は門番のアーサーと別れ、そのまま門の外へと出る。
そこは、オユキにとってはどこか懐かしさを感じる場所であった。
かつての世界で見慣れた、灰色に申し訳程度の緑が混ざるような光景ではなく、それこそ彼の住まう国とは異なる場所、そこの写真を切り取ったかのような風景。
遠くには森を望み、視界に入るのは緑の絨毯。その中にある、踏み固められただけの、明るい茶色の道。
そこを人が、他の何かが通り続けたから、けもの道が道になったのだ、そういわんばかりの、人の歴史とたくましさを確かに感じさせる、それ。
風は緑の匂いを存分に運んでくる。さらに首を傾ければ、柵に囲われた一角に、まばらにそこで飼われる生き物も見える。風向き次第によっては、そこから生き物らしさを感じる匂いが漂う事だろう。
それこそ、慣れぬ人であれば、顔をしかめるような。
遠くには、何かを追うように駆ける人の姿もあれば、馬が白い籠を後ろに連れて、向かってきている姿も見える。
そんな光景を前に、オユキは知らず知らず足を止めていた。
今になって、そんな見慣れた、彼も良く駆け回った広々としたその光景が、オユキに突然はっきりとした実感を与えたのだ。
あのゲームに似た世界に来た。
二度とは遊べぬ、そう決まっていた、あの寝食を解きに忘れるほどに、のめり込み、遊び尽くした、それでも遊び足りなかったあのゲームの世界に。
「オユキさん。」
気が付けば、オユキの前にトモエが膝を立てて、オユキの顔を覗き込むような、そんな姿勢をとっていた。
「ああ、いけませんね。足を止めていましたか。」
そう、オユキが苦笑いと共に返せば、トモエが。
「いえ、涙が。」
生憎ハンカチなどという気の利いたものは、初期装備に含まれておらず。
そっと、手でオユキの顔をぬぐう。
オユキは言われて、拭われて、初めて自分の頬を濡らすものに気が付く。
「いけませんね、年を取るとどうしても。」
「いえ、それだけ思い入れがあったのでしょう。私も、本当によく話を聞きました。
その言葉通りの光景に、やはり息を呑むものはありましたもの。」
少し離れた場所で、トラノスケが感慨深げにこちらを見ながら、腕を組み待っている。
「そうですね。二度と遊べない、来れないと。やはりそう思っていました。
現実となった今では、あの時と同じ、そうはいかないとわかっていても、こうして感じるものはやはりありますね。」
すみません、大丈夫ですから、先にいきましょう。
そう告げて頬にあてられたままの、トモエの手にオユキは手を重ね、それを引く。
トモエは、柔らかに笑いながら、それに逆らわずに、オユキの歩く速さで、手をつなぎ歩き出す。
「すみません。お待たせしましたか。」
オユキがトラノスケに、そう頭を軽く下げながら告げれば、彼は軽く頭を横に振る。
「いや。気持ちはわかるし、俺の時よりも、他にもいたが、それに比べればおとなしいものさ。」
そう苦笑いしながら、トラノスケは語る。
「俺と他の何人かは、それこそ雄たけびを上げた。極端な奴など、笑いながらそのあたりを転がりまわったやつだっている。
まぁ、そのたびに門番には迷惑をかけたな。」
言われて、オユキが振り向けば、急に足を止めた3人を不審に思ったのか、アーサーが気にかけるように見ている。
何でもありませんよ、そういうように、オユキは職務熱心なアーサーに軽く手を振り、つないだ手をそのままに、歩き出す。
「お騒がせしました。それでは、まずは丸兎から?」
「ああ、相変わらず、どれだけ狩っても、いなくなりやしない。
現実になったと聞いたから、生態系なんかも考えたが、一部の魔物は例外らしい。
どれだけ狩ろうが、数が減る気配がない。」
そういって、トラノスケが、踏み固められた道からそれるように歩き出す。
丸兎であれば、ゲームの頃であれば、この一帯、どこにでも湧いたはずだ。
そして、体当たりされたところで、始めたばかりの人間でも、まぁ、痛いですむ。
「ほら、そこにいるぞ。」
言われ、顎で示された先を見れば、丸々とした白い毛玉。そうとしか言いようのない生き物が、ポンポンと、それこそ鞠のように地面をはねている。
「あら、かわいらしい。」
トモエはその姿をほほえましげに見る。
「まぁ、否定はしないし、人気のあった魔物だ。そういう感想もわかるが。
あんな見た目でも、四、五匹集まれば、成人一人、囲んで体当たりを続け殺すくらいはできる、立派な魔物だ。」
「あら。野生動物であれば、それくらいは当然でしょう。私から試してみても?」
そういってトモエは、腰に佩いたショートソードの柄に手をかける。
オユキにしてもトモエにしても、それを見て可哀そうだ、なんて言葉が出るような精神性はしていない。
生きるために、食事の糧のために。
鶏の一匹や二匹、その手にかけたことくらいはある。
「ああ。攻撃方法は体当たりだけだ。油断はするなよ。」
「ええ、もちろん。野犬でも十分人を殺せるのですから。
野生動物相手に、気を抜くことはありませんよ。」
かといって、過剰に力を入れることもありませんが。
そう呟いたトモエは、ゆるりと、無造作にも見える足取りで丸兎に近づき、その途中で抜き放った武器をつき込む。
無造作に見えても、その踏み込みの力強さと、振るわれる獲物の鋭さは、遠目にもわかるものであった。
丸兎は、そのまま輪郭が霞んでいく。
そのあたりはゲームと変わらず、ドロップ品。そう呼ばれる戦利品をあとに残し、魔物の本体は消えうせるのだろう。
オユキはその光景を、懐かしさを感じ、胸がが高鳴るのを止められなかった。
そこは、オユキにとってはどこか懐かしさを感じる場所であった。
かつての世界で見慣れた、灰色に申し訳程度の緑が混ざるような光景ではなく、それこそ彼の住まう国とは異なる場所、そこの写真を切り取ったかのような風景。
遠くには森を望み、視界に入るのは緑の絨毯。その中にある、踏み固められただけの、明るい茶色の道。
そこを人が、他の何かが通り続けたから、けもの道が道になったのだ、そういわんばかりの、人の歴史とたくましさを確かに感じさせる、それ。
風は緑の匂いを存分に運んでくる。さらに首を傾ければ、柵に囲われた一角に、まばらにそこで飼われる生き物も見える。風向き次第によっては、そこから生き物らしさを感じる匂いが漂う事だろう。
それこそ、慣れぬ人であれば、顔をしかめるような。
遠くには、何かを追うように駆ける人の姿もあれば、馬が白い籠を後ろに連れて、向かってきている姿も見える。
そんな光景を前に、オユキは知らず知らず足を止めていた。
今になって、そんな見慣れた、彼も良く駆け回った広々としたその光景が、オユキに突然はっきりとした実感を与えたのだ。
あのゲームに似た世界に来た。
二度とは遊べぬ、そう決まっていた、あの寝食を解きに忘れるほどに、のめり込み、遊び尽くした、それでも遊び足りなかったあのゲームの世界に。
「オユキさん。」
気が付けば、オユキの前にトモエが膝を立てて、オユキの顔を覗き込むような、そんな姿勢をとっていた。
「ああ、いけませんね。足を止めていましたか。」
そう、オユキが苦笑いと共に返せば、トモエが。
「いえ、涙が。」
生憎ハンカチなどという気の利いたものは、初期装備に含まれておらず。
そっと、手でオユキの顔をぬぐう。
オユキは言われて、拭われて、初めて自分の頬を濡らすものに気が付く。
「いけませんね、年を取るとどうしても。」
「いえ、それだけ思い入れがあったのでしょう。私も、本当によく話を聞きました。
その言葉通りの光景に、やはり息を呑むものはありましたもの。」
少し離れた場所で、トラノスケが感慨深げにこちらを見ながら、腕を組み待っている。
「そうですね。二度と遊べない、来れないと。やはりそう思っていました。
現実となった今では、あの時と同じ、そうはいかないとわかっていても、こうして感じるものはやはりありますね。」
すみません、大丈夫ですから、先にいきましょう。
そう告げて頬にあてられたままの、トモエの手にオユキは手を重ね、それを引く。
トモエは、柔らかに笑いながら、それに逆らわずに、オユキの歩く速さで、手をつなぎ歩き出す。
「すみません。お待たせしましたか。」
オユキがトラノスケに、そう頭を軽く下げながら告げれば、彼は軽く頭を横に振る。
「いや。気持ちはわかるし、俺の時よりも、他にもいたが、それに比べればおとなしいものさ。」
そう苦笑いしながら、トラノスケは語る。
「俺と他の何人かは、それこそ雄たけびを上げた。極端な奴など、笑いながらそのあたりを転がりまわったやつだっている。
まぁ、そのたびに門番には迷惑をかけたな。」
言われて、オユキが振り向けば、急に足を止めた3人を不審に思ったのか、アーサーが気にかけるように見ている。
何でもありませんよ、そういうように、オユキは職務熱心なアーサーに軽く手を振り、つないだ手をそのままに、歩き出す。
「お騒がせしました。それでは、まずは丸兎から?」
「ああ、相変わらず、どれだけ狩っても、いなくなりやしない。
現実になったと聞いたから、生態系なんかも考えたが、一部の魔物は例外らしい。
どれだけ狩ろうが、数が減る気配がない。」
そういって、トラノスケが、踏み固められた道からそれるように歩き出す。
丸兎であれば、ゲームの頃であれば、この一帯、どこにでも湧いたはずだ。
そして、体当たりされたところで、始めたばかりの人間でも、まぁ、痛いですむ。
「ほら、そこにいるぞ。」
言われ、顎で示された先を見れば、丸々とした白い毛玉。そうとしか言いようのない生き物が、ポンポンと、それこそ鞠のように地面をはねている。
「あら、かわいらしい。」
トモエはその姿をほほえましげに見る。
「まぁ、否定はしないし、人気のあった魔物だ。そういう感想もわかるが。
あんな見た目でも、四、五匹集まれば、成人一人、囲んで体当たりを続け殺すくらいはできる、立派な魔物だ。」
「あら。野生動物であれば、それくらいは当然でしょう。私から試してみても?」
そういってトモエは、腰に佩いたショートソードの柄に手をかける。
オユキにしてもトモエにしても、それを見て可哀そうだ、なんて言葉が出るような精神性はしていない。
生きるために、食事の糧のために。
鶏の一匹や二匹、その手にかけたことくらいはある。
「ああ。攻撃方法は体当たりだけだ。油断はするなよ。」
「ええ、もちろん。野犬でも十分人を殺せるのですから。
野生動物相手に、気を抜くことはありませんよ。」
かといって、過剰に力を入れることもありませんが。
そう呟いたトモエは、ゆるりと、無造作にも見える足取りで丸兎に近づき、その途中で抜き放った武器をつき込む。
無造作に見えても、その踏み込みの力強さと、振るわれる獲物の鋭さは、遠目にもわかるものであった。
丸兎は、そのまま輪郭が霞んでいく。
そのあたりはゲームと変わらず、ドロップ品。そう呼ばれる戦利品をあとに残し、魔物の本体は消えうせるのだろう。
オユキはその光景を、懐かしさを感じ、胸がが高鳴るのを止められなかった。
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