憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

チュートリアル 2

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オユキが少し今更ながらの事態に思いをはせていると、ロザリアが説明を始める。

「それでは我らが神より与えられた務めを、早速ではありますが、果たさせていただきます。
 お二方にはこの世界の概要は、お伝えされているという事ですので、この国、この町の守るべき法ですね。
 それをご説明させていただきます。」

そうして、ロザリアは一度手で印を中空に切ると、語り始めた。
その内容は、オユキやトモエが以前暮らしていた場所に比べれば、法と呼ぶほどの物でもなかった。
内容はとても単純である。
現在地は、王の治める国、その首都から遠く離れた場所。
王都までは、オユキも知る通り、4つの領を超える必要がある。
ただ、領と領の間には関所もあり、そこで身の証を立てられなければ越境は叶わない。
勿論、創造神からその身分を保証されているため、協会から身分証は発行されるので問題は無いらしいが。
加えて、主に生活の糧を得る方法は二つ。
土地に住み、職を得る。または、外に蔓延る魔物、それを討伐してそこから財貨を得る。
そのどちらか。

ざっくりとしたその説明はオユキにとってはなじみ深く、変わっていることといえば、領都以外にも間にいくつか町や村が生まれていたり、それくらいであろうか。
法律は、ゲーム時代から変わらずシンプルで、極論、神が直接その罪を裁く。特に神前での誓いを破れば、容赦なく神によるさばきが下るとのこと。
オユキはバックストーリーやフレーバーテキストにまで熱を上げていなかったため詳しくはなかったが、確か彼の友人はそれを調べ、ゲームの背景となっているその独創的な神話体系に感動していた記憶がある。
さて、それはどんなものであったかと言われれば、オユキは全く思い出せない、どころかそもそも知ろうとすらしていなかったわけだが。

合間合間で、オユキが頷くだけで済むのに対し、トモエは相槌を打ち、時に質問をしと、それはとても対照的なありようになった。
それなりの時間がたち、ようやくトモエも疑問を大まかに解消できたのだろう。
ロザリアに加え、オユキ自身も確かゲームの時はこうであった、そう思うことを説明し、また、時にその説明が過去の物であるとロザリアに窘められる。
そんな時間が過ぎていった。

「いや、長い時間、申し訳ありません。実に助かりました。」

説明の終わりを感じ、オユキはロザリアに礼を伝える。

「いえ、これも務めです。お礼をいただくほどの事ではありません。
 それでもというのであれば、どうぞ私ではなく神々に感謝を。」
「いいえ、ロザリアさん。もちろんそれをお伝えくださった私達のお会いした創造神様にもお礼は申し上げます。それでも、その言伝を聞き、義務だけでなく、私達に礼と優しさをもって接してくださる、そんなあなたにも私達は感謝をしているのです。」

トモエの返しに、ロザリアが少し驚いたような顔をする。

「ええ、そうですね。私としたことが。現世での行いは常に人の物。
 主の教えを忘れて、不要な謙遜をしてしまったようです。で、あれば、どういたしまして。
 あなた達の道行きに、今後も主の照らす光がありますように。」

ころころと、実に楽しげに笑いながら、ロザリアはそういう。

「それにしても、見た目と中身が違う方が多いとは思っていましたが。
 まさか、自分より若い方に、まるで修道女の頃のように諭されるとは思いもしませんでした。」

そういって、再び印を切り、目を閉じるロザリア。

「まぁ、私達はかつての世界で天寿を全うしていますので、いや、ずいぶんと若作りをしてきたものです。」

お恥ずかしい。そういってオユキは頬を掻く。

「そうでしたか。それとオユキさんは元は男性、今も男性でしょうか。
 もしそうでないのならば、椅子に座るときは膝をそろえましょうね。」

言われて、オユキは思わず自分の姿勢を見る。
特に意識もせず座っていたが、その様子は実に昔ながら、足を開き、膝の上に軽くこぶしを乗せ、背筋を伸ばし、背もたれから少し背を放し。
いや、オユキにとって、まさにそれが自然であると、そういう格好ではあった。
それが今の姿にふさわしいかは別として。
横を見れば、膝をそろえて座っていたトモエも驚いたように自分の姿勢を確認している。

「ご忠告有難く。何せ女性として生を得て未だ半日もたっていませんもので。」

オユキの言葉に、ロザリアは楽しそうに笑いながら続ける。

「当協会では、行儀見習いとして、高貴な方も修身に訪れます。宜しければ、そちらもどうぞ。」
「お気遣いありがとうございます。しかし、未だにそこまで吹っ切れているわけでもありませんので。」

そう答えると、ロザリアは少し驚いたように、瞬きをする。

「はい、夫、元ですが、私の我がままを聞いてくださいました。
 生まれ変わるなら、異なる性で、そんなことを子供の頃に考えたことがありました。」
「それは見事な夫婦愛。そこまでの願いをあっさりと受け入れるとは。」

驚いたように告げられる言葉に、オユキは頷く。

「ええ、生前は私の我がままに付き合わせました、いえ、今も生きているのですが、そうであるなら、今回は私がそれを聞く番でしょう。」

オユキにとっては、やはりそれが大きかった。
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