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1章 懐かしく新しい世界
キャラクターメイク
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互いに、これで良しと、そう判断し終わったとき。
それまで黙って見ていた女性が、声をかけてくる。
「いいですね。いいですね。
実に素晴らしい関係です。流石姉さまも認めたおしどり夫婦。」
その言葉に月代は思わず首をかしげる。
あの、どこまでもこちらに興味を見せなかった女性が、自分をそう評するなどとは思えなかったのだ。
そもそも彼にだけという訳でも無かっただろう。あの目にはどこまでも無機質な、長く生き多くの者を見たが故の、個に対する何かが失せてしまったようなそんな無感動を受ける物であったのだから。
「私たちを、あの女性がそう評したのですか?」
月代は率直な疑問を口に出す。
彼は恥ずかしさを覚えながら、自身がそう評されることはままあったそう思い返す。
また、彼自身も、つまらないこだわりや、我がままを許してくれる榛花に、許してもらった以上を返すことを忘れないように心掛け、しばしばそれを口に出し、形で感謝を表すことを行っていた。
だから、その評価自体に、良かった、そう思うことはあれ、彼にとって恥じ入ることはない。
「ええ。姉さまは、長く在ることもあって分かり難いですが。
それでも、己の世界で生きるすべてに等しく愛を注いでいますよ。
本当は、私の世界にあなた方を送ることだって、ものすごく、とっても嫌なことなのですから。
それでも、新しく生まれた私を祝福し、助けるために、己の愛するものがと、愛するものが望むならと。
ええ、今回の事を提案してくださったのですから。」
月代はその言葉に衝撃を受ける。
あの女性は、無表情、無感動。そうではなく、長く生きたがゆえに、隠すことが上手くなっただけなのだ。
この女性の言葉が正しければ、手放したくない物、それを手放さざるを得ず。それでも、選ぶ対象が自身の感情に左右されぬようにと、努めてそうあったのだろうか。この言葉が目の前の彼女の想像だと、そういってしまえばそれまでではあるが。
最期に聞こえたあの言葉、アレを自然に贈れる相手だというのなら、あながち嘘でもないのだろう。
相変わらず、私は人を見る目がないな、そう彼は恥じ入る。
そんな彼の考えを読んだように、隣から声がかかる。
「典仁さん。相手が隠そうとしていること、それに気が付かないのは良いことですよ。
気が付いてしまえば、そこには遠慮が。相手の気づかいに水を差すことにもなりますから。」
そう言われて、月代は、自責の念を感じていた己を戒める。
そう榛花の言う通り。彼女はただやり切ったのだ。だから、そこにあるべきは彼の反省ではない。
ただ、相手の好意を受け取る、そこまでにしておくべきなのだ。
「そうですよ。騙されるのも器量というものです。
それで、こうして新しい姿を作りましたが、そのあとは?」
榛花はそうして話を進める。
しばしば彼が、己の考えに没頭する、その悪癖が顔をのぞかせるときは、彼女が常々場をつないだ。
「はい。ではそちら、新しい格好にまずは変えさせていただきますね。」
そう女性が言って、手を数回たたくと、月代と榛花は同時に激しい違和感を覚える。
まず何より、慣れていた視線の高さと全く違う。
月代はどこか、泣きたくなるような心持で、己の手足や、体を見回す。
年を取ってからは、確かに枯れ枝のようになっていた、自分の肢体。
それがずいぶんと若返っているのはやはり、どこかうれしいものはあるが、やはり見慣れた、記憶にある己の若いころとは全く違うありように、心細さを覚える。
また、頭を動かすたびに、首元や背中をなぞる髪の感触が、ひどく落ち着かない。
月代が隣を見れば、そこにはおおよそ40年。付き合い続けた、彼のゲームにおける姿があった。
それが自分の隣で、自分の意思とは関係なく動く姿を見るのは、どこか懐かしく、寂しさを覚える物であったが。ゲームの中ではログイン画面以外では一人称視点であったため、その全体を見る機会は確かに少なかったが、それでもそのゲームにおける、あのせかいにおける自分が、こうして隣にただ彼の意思と関係なく動いているのは。
「さぁ、それで少し動いてみてください。
やはり、これまでの感覚とは、大きく違うはずですから。」
言われて、かれはそれもそうだと、いざ歩き出そうとすれば、そのままの勢いで地面へと体を倒すことになった。
隣では、榛花が後ろ向きに倒れている。
幸い地面は十分に柔らかく、怪我などはないが。
「これは、思った以上に難儀ですね。」
「ええ、歩幅が思っているものと全く違います。体のバランスもかなり変わっていますし。」
二人して、よろよろと体を起こせば、さらに声がかけられる。
「そうですね。やはりゲームの時と違い、機器に依る補助などは得られませんから。
さぁ、その調整でどんどん動いて慣れましょう。形に合わせて、魂のありようも少し変わっていますので、これまでの傾向通りであれば、2時間もすれば十分今の体で動くことになじみますよ。」
いわれて、月代と榛花は顔を見合わせて笑う。
そういえば、いつかスキーに行った時も、そのようなことを言われた記憶があった。こけて覚えましょうと。そもそも動かなければ、動くことに慣れる訳も無いのですよと。
そうして二人は30分ほど、そこらを歩き回り、動きを体になじませる。
特に二人とも、ここ数年と言ってもいいのか、老衰で起き上がることも難しくなってからは、このように自由に動き回ることなどずいぶんと減っていた。ゆったりと、ひ孫を追いかけて庭を歩く、それをしばらくすれば息も上がっていた、そんな有様だったのだから。
それも楽しさを加速させたのか。
二人は自然と笑顔を浮かべ、その時間を過ごす。
榛花の得た体は、細く引き締まった四肢に、広い肩幅、高い上背。元となった典仁よりもさらに数cmほど高いその背丈。
よく日に焼けた赤銅色の肌に、燃えるような赤い髪。緑に輝く瞳。
英雄譚の主役であると、そう紹介されれば、だれもが納得するような、そんな美丈夫。
方や月代は、足首の長さに切りそろえられた長い漆黒の髪。透き通るような青い瞳。
肌は抜けるように白く、その手足も手弱女とはこれこのような物、その見本であるように小柄で、細い作り。
榛花と並べば、その対比に、見る物はこの娘を守る戦士だと、そうとしか思わせないだろう。
歩きなれた二人は、走り、跳び。
動作に慣れたと思えば、二人で昔、榛花の父、月代の義理の父親が細々と行っていた道場で、肩を並べたときのように、互いに向き合い、軽くこぶしを交える。
それまで黙って見ていた女性が、声をかけてくる。
「いいですね。いいですね。
実に素晴らしい関係です。流石姉さまも認めたおしどり夫婦。」
その言葉に月代は思わず首をかしげる。
あの、どこまでもこちらに興味を見せなかった女性が、自分をそう評するなどとは思えなかったのだ。
そもそも彼にだけという訳でも無かっただろう。あの目にはどこまでも無機質な、長く生き多くの者を見たが故の、個に対する何かが失せてしまったようなそんな無感動を受ける物であったのだから。
「私たちを、あの女性がそう評したのですか?」
月代は率直な疑問を口に出す。
彼は恥ずかしさを覚えながら、自身がそう評されることはままあったそう思い返す。
また、彼自身も、つまらないこだわりや、我がままを許してくれる榛花に、許してもらった以上を返すことを忘れないように心掛け、しばしばそれを口に出し、形で感謝を表すことを行っていた。
だから、その評価自体に、良かった、そう思うことはあれ、彼にとって恥じ入ることはない。
「ええ。姉さまは、長く在ることもあって分かり難いですが。
それでも、己の世界で生きるすべてに等しく愛を注いでいますよ。
本当は、私の世界にあなた方を送ることだって、ものすごく、とっても嫌なことなのですから。
それでも、新しく生まれた私を祝福し、助けるために、己の愛するものがと、愛するものが望むならと。
ええ、今回の事を提案してくださったのですから。」
月代はその言葉に衝撃を受ける。
あの女性は、無表情、無感動。そうではなく、長く生きたがゆえに、隠すことが上手くなっただけなのだ。
この女性の言葉が正しければ、手放したくない物、それを手放さざるを得ず。それでも、選ぶ対象が自身の感情に左右されぬようにと、努めてそうあったのだろうか。この言葉が目の前の彼女の想像だと、そういってしまえばそれまでではあるが。
最期に聞こえたあの言葉、アレを自然に贈れる相手だというのなら、あながち嘘でもないのだろう。
相変わらず、私は人を見る目がないな、そう彼は恥じ入る。
そんな彼の考えを読んだように、隣から声がかかる。
「典仁さん。相手が隠そうとしていること、それに気が付かないのは良いことですよ。
気が付いてしまえば、そこには遠慮が。相手の気づかいに水を差すことにもなりますから。」
そう言われて、月代は、自責の念を感じていた己を戒める。
そう榛花の言う通り。彼女はただやり切ったのだ。だから、そこにあるべきは彼の反省ではない。
ただ、相手の好意を受け取る、そこまでにしておくべきなのだ。
「そうですよ。騙されるのも器量というものです。
それで、こうして新しい姿を作りましたが、そのあとは?」
榛花はそうして話を進める。
しばしば彼が、己の考えに没頭する、その悪癖が顔をのぞかせるときは、彼女が常々場をつないだ。
「はい。ではそちら、新しい格好にまずは変えさせていただきますね。」
そう女性が言って、手を数回たたくと、月代と榛花は同時に激しい違和感を覚える。
まず何より、慣れていた視線の高さと全く違う。
月代はどこか、泣きたくなるような心持で、己の手足や、体を見回す。
年を取ってからは、確かに枯れ枝のようになっていた、自分の肢体。
それがずいぶんと若返っているのはやはり、どこかうれしいものはあるが、やはり見慣れた、記憶にある己の若いころとは全く違うありように、心細さを覚える。
また、頭を動かすたびに、首元や背中をなぞる髪の感触が、ひどく落ち着かない。
月代が隣を見れば、そこにはおおよそ40年。付き合い続けた、彼のゲームにおける姿があった。
それが自分の隣で、自分の意思とは関係なく動く姿を見るのは、どこか懐かしく、寂しさを覚える物であったが。ゲームの中ではログイン画面以外では一人称視点であったため、その全体を見る機会は確かに少なかったが、それでもそのゲームにおける、あのせかいにおける自分が、こうして隣にただ彼の意思と関係なく動いているのは。
「さぁ、それで少し動いてみてください。
やはり、これまでの感覚とは、大きく違うはずですから。」
言われて、かれはそれもそうだと、いざ歩き出そうとすれば、そのままの勢いで地面へと体を倒すことになった。
隣では、榛花が後ろ向きに倒れている。
幸い地面は十分に柔らかく、怪我などはないが。
「これは、思った以上に難儀ですね。」
「ええ、歩幅が思っているものと全く違います。体のバランスもかなり変わっていますし。」
二人して、よろよろと体を起こせば、さらに声がかけられる。
「そうですね。やはりゲームの時と違い、機器に依る補助などは得られませんから。
さぁ、その調整でどんどん動いて慣れましょう。形に合わせて、魂のありようも少し変わっていますので、これまでの傾向通りであれば、2時間もすれば十分今の体で動くことになじみますよ。」
いわれて、月代と榛花は顔を見合わせて笑う。
そういえば、いつかスキーに行った時も、そのようなことを言われた記憶があった。こけて覚えましょうと。そもそも動かなければ、動くことに慣れる訳も無いのですよと。
そうして二人は30分ほど、そこらを歩き回り、動きを体になじませる。
特に二人とも、ここ数年と言ってもいいのか、老衰で起き上がることも難しくなってからは、このように自由に動き回ることなどずいぶんと減っていた。ゆったりと、ひ孫を追いかけて庭を歩く、それをしばらくすれば息も上がっていた、そんな有様だったのだから。
それも楽しさを加速させたのか。
二人は自然と笑顔を浮かべ、その時間を過ごす。
榛花の得た体は、細く引き締まった四肢に、広い肩幅、高い上背。元となった典仁よりもさらに数cmほど高いその背丈。
よく日に焼けた赤銅色の肌に、燃えるような赤い髪。緑に輝く瞳。
英雄譚の主役であると、そう紹介されれば、だれもが納得するような、そんな美丈夫。
方や月代は、足首の長さに切りそろえられた長い漆黒の髪。透き通るような青い瞳。
肌は抜けるように白く、その手足も手弱女とはこれこのような物、その見本であるように小柄で、細い作り。
榛花と並べば、その対比に、見る物はこの娘を守る戦士だと、そうとしか思わせないだろう。
歩きなれた二人は、走り、跳び。
動作に慣れたと思えば、二人で昔、榛花の父、月代の義理の父親が細々と行っていた道場で、肩を並べたときのように、互いに向き合い、軽くこぶしを交える。
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