憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

ようこそ、素晴らしい幻想へ

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二人で扉を抜けると、そこは月代の記憶には懐かしい空間であった。
彼が初めて、あのゲームに触れたとき、それはここから始まったのだ。

格子模様が四方を囲む、いかにもと言わんばかりの、この空間。
ここでこれからのことに心を躍らせながら、自分の分身となるキャラクターを作り、ゲームの説明を聞いたのだ。
その時との違いは、こちらに来る時に出会った女性とよく似た、しかし幼い空気を漂わせる女性が、机に座りこちらをまっすぐにみていることだった。

「ようこそ。よくおいでくださいました。
 過去のプレイヤーの方、私の信仰者。」

そう両手を広げて、こちらに声をかけてくる。
満面の笑顔で、喜び溢れる声で。
姿形も、その声も、直前にあった相手によく似ているからこそ、月代は戸惑ってしまう。

「さぁ。こちらに来て、まずはおかけになってください。」

そう招かれ、月代は先に榛花を座らせてから、自分も席に着く。
こういったことをするのもずいぶんと久しぶりだ、そう感じながら。

「まずはお茶でも如何でしょう。いくつか説明することもありますからね。」

そう、ニコニコと機嫌よく言われると、月代はどうしても直前にあったあの女性の姿が脳裏をよぎり、違和感を得る。
あの女性も悪人ではなかった。
最期には月代に、暖かな言葉をかけてくれる、その優しさは確かにあった。
だが、無感動、とでもいうのだろう。
そういった物があの女性からは、どうしても受けられた。

「月代典仁さんはよくご存じでしょう、ええ、それはもう。
 ずいぶん熱心に遊んでいただきましたもの。月代榛花さんは如何でしょう。
 私の世界に関して、説明が必要でしょうか。」

当たり前のようにこちらの名前を知っている相手に、そう聞かれた榛花は、至極あっさりと。

「いえ、よく聞いていましたもの。最低限、これから先に必要なことだけで。」

そう答える。

「まぁ、それは素敵。それではお二人にはこれから、私の世界で。
 皆様の願いを信仰を糧に生まれた、私の世界で生きるために、今からの流れを説明しますね。」

ここにきて、私はようやく引きずるのを止めようと、意識を切り替える。
まったく、若いころと違うのだ、年配、老人として、何を引きずっているというのだろうか。
こうしてあの頃と同じ風景を、失われたものを見て、心まで必要以上に若返ったのか。

「まずはお二方には、キャラクターメイク。
 今後お二人が私の世界で生きていくための、その姿を作っていただきます。
 年齢も設定できますので、そのまま生まれ変わって、すぐに老衰という事はないんですよ。」

月代にとって、それは非常にありがたいことで合った。今の状態のまま、老衰で幕を閉じた身のままとあれば、案内されて直ぐにとそうなるのだろうから。
ただ、榛花にとってはわかりにくい事でもあったようだ。

「私はてっきり、こちらで輪廻というものに加わるのかと、そう考えていましたが。」
「はい、今後はそのようになります。
 これは、お姉さまの世界から私の世界へ来ていただいた方への、私を生んでくれた世界の皆様への特典です。
 もちろん記憶もそのままです。
 私の世界はまだ生まれたばかりで弱く、維持するには、強度を保つためにも、ある程度の、その、信仰をいただけないと困りますので。」
「それは、その。所謂混沌とか、そういった状態という事でしょうか。」
「いいえ、皆さまの思うほどに幼い世界ではありません。
 時の流れも違います。私の世界はこう見えてすでに1000年は存続しているのですよ。」

そういって、女性は胸を張る。
自分の子供にも等しいのだろう、そこには確かな自慢が見て取れる。

「そして、お姉さまから頂いた皆様には、そういった特典があります。
 見た目は、皆さまが人と、そう認識しているものから変えることはできません。
 これは、あまり違う形にしてしまうと、皆さまの魂が傷ついてしまうからです。
 さぁ、それではさっそく、新しいご自身の姿を作ってみてください。」

そういわれると同時に、月代の目の前には、実によく見た表示が現れる。
片側に大きく3Dモデルが表示され、もう一方では様々な項目がタブで管理され、それぞれインジケーターやパレットが表示されている。
これもまた懐かしい、そう月代は思う。このゲームだけでなく、彼にとっては実に見慣れたものであるのだから。多くのゲームで用意されていたキャラクタークリエイト、その機能。慣れた彼にとっては見て直ぐにそれと分かるものである。

「へぇ、こうやって自分好みの見た目を作るんですね。」

そう榛花もそれを面白そうにあれこれと見ているようだ。

「まずは制限時間などは特にありません。納得いくまでどうぞ。
 ただ、あまり時間をかけすぎると、徐々に何がいいのかわからなくなる方もいるみたいです。
 そんな方のために、いくつかの定型も用意してありますので。」

言われてみれば、そこにはテンプレートも存在していた。
本当にゲームじみている、月代はそう感じた。
それもそうだろう、この世界は、かつてあのゲームに熱狂した人間の信仰から生まれたのだ。
それが、そこから外れているなど、おかしなことだろう。

幾つかの項目を眺めていた榛花がふと声を上げる。

「あら、性別も選べるんですね。」

月代が見れば、そこには性別の項目があった。
元のゲームにも合った機能に目が行きがちではあったが、そうではない物も存在する様だ。
そういえば、年齢も変えられるといっていた。
ならば体型も変えられるのだろうと、その項目を探せば、そちらもあった。

「元のゲームにない機能もあるのですね。」
「はい。皆様の望みをもとに生まれましたので。
 本質に損傷を与えるようなものでなければ、存在しますよ。
 元の世界になかった機能も、充実しています。
 そう、私は皆さまの信仰にきちんとお答えする所存です。
 皆さんが得た技術的に不可能であるかもしれませんが、私はこの世界の創造神。
 ないなら作ればいいのです。始まりの方々が、諦めざるを得なかった、あらゆる機能を私は作りましたとも。」

そう、自慢げに、そらせて語る、幼い見た目の女性。
言葉が正しければ、創造神。そうであるなら、あの女性も。
この少女のような外観をした女性に姉と呼ばれたあの人物もそうなのだろう。
私達のいた世界、その作り手。

月代がそんなことを考えながら、かつての自分の分身は、あの世界を生きた姿はどの様なものであったかと、記憶を手繰りながら設定していると。

「ねぇ、典仁さん。」

ふと、隣から声がかかる。
どれ、自分の物を決めてから、それから手伝おうと思っていたが、待たせすぎただろうか、そう月代が考えて横を見ると、そこでは実に楽しそうな顔をした榛花が月代を見ていた。

「私、生まれ変わったら今度は男性になってみたいと、そう思ったことがあるんです。」
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