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第1章
プロローグ
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「――――貴方がここではない別の世界に転生するとしたら、どんな世界に行きたいですか?」
それはなんというか、妙な気分になる質問だった。
「あはは……いやぁ、どんな世界って……」
目の前でしゃんとスーツを着込んでいる女性から、俺は思わず目を逸らす。
そんな俺に、女性は爽やかで親しみのある笑みを向けた。
こんな狭苦しい雑居ビルの一室でよく分からない問答をするよりも、大企業の受付でもやっていればいいのに。そう感じてしまうくらい、彼女の表情はよく出来ていた。
「恥ずかしがることはありませんよ。素直な意見を言ってくれたら良いんです」
「はぁ」
俺は苦笑いを浮かべつつも、その柔らかい声に促されるように……考えてみる。馬鹿馬鹿しいとは思うけど、想像する。
要は、生まれ変わるならどんな世界が良いのか。そういう、問いかけ。
だったら少なくとも、現代ベースはゴメンだった。なんせ『異』世界感が薄れてしまうし、今と似た環境では仮に生まれ変わったところで……どうせ同じことになるような気がしてならなかった。
となると、俺の貧困極まりない想像力が導き出すのは……昔に遊んだロールプレイングゲームくらいなものだ。
「剣とか魔法とか……やっぱそういうのが……」
いいですね。と、スーツの女性は優しく微笑んだ。
「王道です。皆様、なんだかんだで結構この手の世界観を好まれますね」
「そ、そうなんすか……?」
「ええ。ですから、そんなお顔をなさらずとも大丈夫です」
女性は手元のノートパソコンに細い指で素早く何かを打ち込むと、再びこちらを向く。
「それでは次に、先程挙げて頂いた世界において……ご自身が物語の『主人公』として存在出来たとしたら。貴方はどんな物語を送りたいですか?」
繰り出されたのは、また奇妙な質問だった。
「どんなって……『主人公』ねぇ……」
「はい。冒険の末に魔王を倒しても良し、ひたすら世界一の強さを追い求めても良し、特に何をする訳でもなく、のんびり日常を送っても良し……まあこれらはあくまで一例に過ぎませんが、要はなんでも良いんです。今の貴方が望む自分を、お答えいただければ」
「はぁ……」
ここでも俺の頭の中は、自然と過去に遊んだゲームの姿を頼りにしていた。小四の誕生日に買ってもらった、一番印象深くワクワク楽しんだRPGを。
「うーん、最初は田舎の村から始まって……そんでもってドラマチックな出来事があって、次第にデッカイ街とか都とかに冒険……みたいな……。別に魔王とかは……まぁ、折角だからヒーローになってみたいってのは、少しあるっちゃあるけど……」
なるほど。女性は興味深そうに呟くと、また小気味よくキーボードを叩いた。
「はじまりは田舎の村、ですか。そんな環境に身を置いた『主人公』……つまり貴方には、素敵なヒロイン達が登場します。そこでまた質問になりますが、貴方はどんなヒロインが一番お好みですか?」
「ははっ、今度はヒロインっすか」
「ええ。全ての方に、きちんと答えてもらっています。……まぁ、同性の方が良いと仰るのなら、それはそれで対応いたしますが」
いいえ、異性の方で大丈夫です。と、俺はきっぱり言い切った。
「……でもなんか、恥ずかしいっすね。女の子の好み、聞かれてるみたいで」
「ふふ。身も蓋もない言い方をすれば、まさしくその通りなんですけどね」
やけにサバサバとした女性の言い回しが、しかしながら不思議と俺を安心させた。
「ヒロイン、ねぇ……」
好みのヒロインを考えた時、俺の頭の中はさっきまであった昔のRPGゲームから少しだけ、ほんの少しだけ、離れたのだった。
「幼馴染、みたいのがいいかなぁ。ベタなお姫様っつーのも捨て難いけど……」
「なるほど、幼馴染ですか。それは活発な感じの? それとも大人しめの?」
「まぁ……明るくて元気な感じだった、かなぁ」
「元気な幼馴染、あとはお姫様……ですか。ふむ」
それからも俺は何種類かの女の子を挙げ、女性は俺から引き出した情報を小馬鹿にする訳でもなく、あくまで真剣にパソコンへ入力する。
「長々と申し訳ありませんでした。ですが、私からの質問は次が最後です。そしてこれが、アンケートとしては最も重要なものとなります」
最重要。その言葉に、ごくりと俺の喉が鳴る。
「――――『主人公』である貴方だけに何か『特別な能力』が与えられるとしたら、それはどんなものがいいですか?」
どんな、能力が。
自分だけの特別な、チカラが。
そう、それがあれば。
それさえあれば、俺はこんな胡散臭さ極まりない辺鄙な場所へと来ることは無かったのかもしれない。
ずっと、ずっと、ずっと信じてた。
いつかはきっと……と、想い続けていた。
その姿を。おぼろげな、影を。
でも、いくら待っても何もなかった。
そして、気付く。どうにもならなくなって、ようやく理解する。
つまるところ、自分は何者でもなかったのだ……と。
だから……だから、俺は……!
「そりゃ……やっぱ、『主人公補正』っつーんすか? 追い詰められたら隠された能力が超覚醒とか。そういう強烈でチートなの、あったらイイっすよね……はは、いやぁホント」
そう答える俺の口元は、半分笑っていた。
そして、もう半分は――――。
それはなんというか、妙な気分になる質問だった。
「あはは……いやぁ、どんな世界って……」
目の前でしゃんとスーツを着込んでいる女性から、俺は思わず目を逸らす。
そんな俺に、女性は爽やかで親しみのある笑みを向けた。
こんな狭苦しい雑居ビルの一室でよく分からない問答をするよりも、大企業の受付でもやっていればいいのに。そう感じてしまうくらい、彼女の表情はよく出来ていた。
「恥ずかしがることはありませんよ。素直な意見を言ってくれたら良いんです」
「はぁ」
俺は苦笑いを浮かべつつも、その柔らかい声に促されるように……考えてみる。馬鹿馬鹿しいとは思うけど、想像する。
要は、生まれ変わるならどんな世界が良いのか。そういう、問いかけ。
だったら少なくとも、現代ベースはゴメンだった。なんせ『異』世界感が薄れてしまうし、今と似た環境では仮に生まれ変わったところで……どうせ同じことになるような気がしてならなかった。
となると、俺の貧困極まりない想像力が導き出すのは……昔に遊んだロールプレイングゲームくらいなものだ。
「剣とか魔法とか……やっぱそういうのが……」
いいですね。と、スーツの女性は優しく微笑んだ。
「王道です。皆様、なんだかんだで結構この手の世界観を好まれますね」
「そ、そうなんすか……?」
「ええ。ですから、そんなお顔をなさらずとも大丈夫です」
女性は手元のノートパソコンに細い指で素早く何かを打ち込むと、再びこちらを向く。
「それでは次に、先程挙げて頂いた世界において……ご自身が物語の『主人公』として存在出来たとしたら。貴方はどんな物語を送りたいですか?」
繰り出されたのは、また奇妙な質問だった。
「どんなって……『主人公』ねぇ……」
「はい。冒険の末に魔王を倒しても良し、ひたすら世界一の強さを追い求めても良し、特に何をする訳でもなく、のんびり日常を送っても良し……まあこれらはあくまで一例に過ぎませんが、要はなんでも良いんです。今の貴方が望む自分を、お答えいただければ」
「はぁ……」
ここでも俺の頭の中は、自然と過去に遊んだゲームの姿を頼りにしていた。小四の誕生日に買ってもらった、一番印象深くワクワク楽しんだRPGを。
「うーん、最初は田舎の村から始まって……そんでもってドラマチックな出来事があって、次第にデッカイ街とか都とかに冒険……みたいな……。別に魔王とかは……まぁ、折角だからヒーローになってみたいってのは、少しあるっちゃあるけど……」
なるほど。女性は興味深そうに呟くと、また小気味よくキーボードを叩いた。
「はじまりは田舎の村、ですか。そんな環境に身を置いた『主人公』……つまり貴方には、素敵なヒロイン達が登場します。そこでまた質問になりますが、貴方はどんなヒロインが一番お好みですか?」
「ははっ、今度はヒロインっすか」
「ええ。全ての方に、きちんと答えてもらっています。……まぁ、同性の方が良いと仰るのなら、それはそれで対応いたしますが」
いいえ、異性の方で大丈夫です。と、俺はきっぱり言い切った。
「……でもなんか、恥ずかしいっすね。女の子の好み、聞かれてるみたいで」
「ふふ。身も蓋もない言い方をすれば、まさしくその通りなんですけどね」
やけにサバサバとした女性の言い回しが、しかしながら不思議と俺を安心させた。
「ヒロイン、ねぇ……」
好みのヒロインを考えた時、俺の頭の中はさっきまであった昔のRPGゲームから少しだけ、ほんの少しだけ、離れたのだった。
「幼馴染、みたいのがいいかなぁ。ベタなお姫様っつーのも捨て難いけど……」
「なるほど、幼馴染ですか。それは活発な感じの? それとも大人しめの?」
「まぁ……明るくて元気な感じだった、かなぁ」
「元気な幼馴染、あとはお姫様……ですか。ふむ」
それからも俺は何種類かの女の子を挙げ、女性は俺から引き出した情報を小馬鹿にする訳でもなく、あくまで真剣にパソコンへ入力する。
「長々と申し訳ありませんでした。ですが、私からの質問は次が最後です。そしてこれが、アンケートとしては最も重要なものとなります」
最重要。その言葉に、ごくりと俺の喉が鳴る。
「――――『主人公』である貴方だけに何か『特別な能力』が与えられるとしたら、それはどんなものがいいですか?」
どんな、能力が。
自分だけの特別な、チカラが。
そう、それがあれば。
それさえあれば、俺はこんな胡散臭さ極まりない辺鄙な場所へと来ることは無かったのかもしれない。
ずっと、ずっと、ずっと信じてた。
いつかはきっと……と、想い続けていた。
その姿を。おぼろげな、影を。
でも、いくら待っても何もなかった。
そして、気付く。どうにもならなくなって、ようやく理解する。
つまるところ、自分は何者でもなかったのだ……と。
だから……だから、俺は……!
「そりゃ……やっぱ、『主人公補正』っつーんすか? 追い詰められたら隠された能力が超覚醒とか。そういう強烈でチートなの、あったらイイっすよね……はは、いやぁホント」
そう答える俺の口元は、半分笑っていた。
そして、もう半分は――――。
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