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権力者の宴
17 権力者の訪れ.7 執行
しおりを挟むロレーヌ州
インタビュー当日、ケインは早朝にシャロンに起こされた。大きなあくびをしながら外に出ると、既に、警官や他の保安庁職員らは警戒に当たっていた。冬が近づきつつある島では、朝の外気がいっそう冷え込んでいる。寒さに震えているケインにシャロンがホットの缶コーヒーを渡した。
「微糖しかないけど。」
シャロンが渡した。
「ありがとさん。」
「ケインさん、あなた今回の訪問が終わったらどうするつもりなの?」
「まぁ、飛ばされた場所にもよるかな?僻地すぎるところとか、危険な場所は嫌だな。こんな平素な時に仕事には殺されたくないよ。」
シャロンが一口飲んで別の質問をした。
「ケインさん、どうしてカメラマンが手配犯ということを知ってたの?」
「ファレスさんからだよ。シャロンさんにも言おうと思ってたんだけど、なにせ、直前で知ったからさ。」
「でも、なんで捕まえられなかったのかしら?」
「さぁね、知らないよ。」
ケインはそう言うと、一気に飲み干した。そうして、第2小隊の隊員を集めて、インタビュー時の隊形などを再確認した。その後、州警の機動隊や一般警備隊と合流して、真ん中が吹き飛んだブリッジが見える、インタビューが行われる所で待機した。
待機し始めて、無線が騒がしくなったのは、それから約4時間経った時だった。付近の段差や階段に座っていた、隊員たちは一斉に立ち上がり、特に機動隊員らは重い盾をぶつかり合わせながら、立ち上がった。ヘリコプターも上空を飛び始め、ロレーヌ湾内はあっという間に巡視船が展開した。その頃ホテル玄関付近では、ライアンが警衛課の隊員たちに守られながら、メディアの質問攻めや、フラッシュの嵐を回避しながら黒の車両に乗り込んでいた。車両は勢いよく発進し、警察車両に守られながら、インタビュー地点に向かった。
そして、その時をインタビュー地点から対岸の工業地帯でライフルのバイポッドを立てて待ち構えるICICLEの隊員2人がいた。
<ICICLE4-1からICICLE1、現状報告。>
<了解。ICICLE1、及び他の2人も準備完了。そちらは?>
<こちらも準備完了だ。ここから武装した隊員が見える。>
<了解。インタビューはもう少しで始まる。最初はOS社からだ。MOXは、その次、気をつけろ。>
<了解した。MOXは、黄緑だな?>
<その通り、では完了後、会おう。>
<了解、通信終わり。>
そう言うと、マックはニッチとダグラスを引き連れて、現場に入った。ケインのお陰で、警戒任務に当たる職員らの中では、名が知れたMOX社、それが故に注目の的であった。
「ケインさん?あなたが取り押さえようとしたのは誰?」
シャロンがケインに尋ねた。
「1番奥のやつだよ。」
少し遅れてOS社がやって来た。軽く警備主任の人間に挨拶を済ませる。そして、しばらく待っていると、パトカーとバイクを先頭に、黒塗りのセダンが続々と地点に到着して来た。2社がカメラを回した。
<いいか、なりきるんだぞ。>
警衛課に守られながら、ライアンは2社の職員と握手を求めてきた。OS社から行って、MOX社へ。満面の笑みで、ライアンは今から自分を殺そうと企んでいる人間たちと握手を交わした。
そうしてOS社からインタビューが始まった。ライアンは終始笑顔でペラペラと流れるように喋っていた。事前に用意されていたインタビュー内容を全て終えて一礼した後、すぐにMOX社方へやって来た。
<着手>
マックがマイクを持ってライアンとのインタビューを開始した。
「ライアン長官。今回はインタビューを受けていただきありがとうございます。長官方、オーシア国から助成金がなければ、この放送会社は成り立ってはいませんでした。」
「とんでもない。私達は困っている人がいたら助ける事が、当たり前なんですからね。」
どの面下げて言ってるんだ。マックは内心憤りを感じながらも、落ち着いて続行した。その後も続けられて、外から見るには、まるで3人は本当のMOX職員に見えた。
「ケインさん。やっぱり、あの人たちは本当にMOXの社員じゃないの?」
シャロンが言ったが、ケインは3人組をじっと見ていた。
誰にも怪しまれずに続けていた3人は遂に動いた。マックがブリッジ爆破の一件を尋ねた後、自然とライアンを海の方に近づけた。ライアンは自身の考えや行動を全世界に伝えようと、舞い上がってしまっていて、簡単にマックについていった。
<レティクルに合わした。風はない。>
狙撃班員のポッツからの無線通信が入った。
<こちらはいつでも良い。ICICLE4-1、発砲せよ。>
音声役のニッチが答えた。<了解>と一声言って、ポッツは深く息を吸い込んだ。スナイパーライフルのクロスヘアは完全にライアンの胴体中心を捉えている。トリガーに指を掛けた。
そして引いた。
サプレッサー付きのライフルから放たれた銃弾は、弾けるような発射音を出して、回転しながら巡視船を通り抜け、港湾を横断して、ライアンの胸部に命中した。
撃たれた瞬間、返り血がマックに散り、ライアンはそのまま胸を手で押さえながら、倒れた。あまりに唐突な出来事に一瞬何が起きたか、分からずに時が止まったように感じられた。
「第2小隊!展開しろ!」
ケインの素早い怒号で周りの警備隊員らも我に帰って、すぐに対応した。救急車がサイレンを鳴らしながら荒々しい運転で現場に入って来た。「運べ」「急げ」男達の荒々しい口調が現場に広がった。
そんな中、ケインはすぐに近くに停めてあった指揮車の無線を取って、上空を飛ぶ洋上保安局のヘリに繋げた。
<あー、あー、あー、こちら特殊警備課第2小隊隊長。聞こえますか?>
<聞こえます。こちら洋上保安局、テイラーです。どうぞ。>
<ちょっと、対岸の工業地帯を調べてもらいたいんだけど、出来ますか?>
<えーっと、名前は?>
<あぁ、ケインです。お願いします。>
すると、無線に他のヘリの機長が割り込んで来た。
<ダメだ。我々は我々の任務がある。今は緊急事態だ。特殊警備課の頼み事を受けてる暇は無い>
<えーっと、そうですか、分かりました。>
ケインが無線を切ろうとすると、テイラーに変わった。
<ケイン隊長、余裕が出来たら調べてみますので、無線は取れるようにしといて下さい。以上です。>
テイラーがそう言うと<了解>と、ケインは言った。すぐにライアンは救急車で搬送されて行ったが、まだ終わりでは無かった。無線では、州内を全面封鎖する、と言っていて、州警がすぐに通りを爆走し始めた。警察のヘリコプターも多数飛び回り始めた。
銃撃された地点は真っ赤な血溜まりが出来ていて、OS社の女性職員は、ショックでその場にうなだれていた。ケインはそれを見て、ハッと思い、すぐに辺りを見回したが、その時には既に3人組は姿を消していたのだった。
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