Defense 完結 2期へ続く

北東沿岸の初戦

Alive

「うぅぅ...」

体が重い。目を開けると俺は瓦礫の下敷きになっていた。空は暗く。焦げ付いた異臭が鼻をつく。
 瓦礫をどかし、周りを見渡す。

 「ハル？ハルー」

何度も呼びかける。

ガツン

急に後頭部に衝撃が走った。地面に倒され、振り返るとケイン一曹だった。

「大きな声を出すな！馬鹿野郎！敵に見つかるぞ！」

「一曹！無事だったんですね！？」

「まぁな。さぁ立て、まだ他の部隊は交戦中だ。味方と合流して態勢を立て直すぞ！」

「まって下さい！ハル二等兵を見ませんでしたか？」

その問いかけにケイン一曹はピタリと止まり、腰のポーチを取り外し中から１つのドッグタグを取り出した。

「お前の戦友か、受け取ってくれ。」

そのドックタグを凝視する

 "ハル・ユング"

言葉を失った。

「ハ、ハルはどこに！？」

「行くな！敵はもう目の前に迫って来ている。それに二等兵は...」

「二等兵は？二等兵が何ですか！？」

「ドックタグが無ければ誰か分からないほど損傷が激しかった。行っても辛くなるだけだ。」

「そ、そんな...」

どうして俺は生き残ったのだろうか、不運だ。この時俺は初めて生き残った事を後悔した。

「行くぞ。」

その言葉に連れられ味方との合流を目指す。道中至る所に先程まで共に戦ってきた仲間の遺体が転がっていた。ドックタグを一つ一つ、俺は彼らに最大限の敬意を示しながら丁寧に回収した。爆撃を生き残った仲間も多く、後方の部隊と合流する頃には人数も増えていた。

「アンディー！」

「コーク！」

「死んだかと思ってたぞ！」

無邪気な笑顔をコークは俺に見せて来た。彼は俺がどれだけの地獄を見て来たか知らないであろうな。


スカイライン軍はセグワ軍を北東沿岸で打ち破り、内陸への侵攻を開始した。第103混成防衛隊は壊滅的な損害を受けた。防衛線が突破され、各隊員は散り散りとなり戦死するか捕虜となるかだった。部隊の3分2は行方不明。総隊長だったクレイグ中佐は戦死。今後は俺たち生き残りは後方の防衛隊と合流、再編される予定だ。

  移動中の間はずっと戦闘時の事を考えていた。今頃、戦死した敵の兵士は遺体袋に詰められている頃だろうか？あの海面に激突したA10パイロット、俺が額を撃ち抜いた搭乗員。浜辺で俺が撃ち抜いたであろう敵兵達。
彼らにも人生があったと考えると申し訳ない気持ちで一杯だった。
 行方不明になった仲間は？今頃捕虜となった仲間たちは何をされているんだろう？

「ハル...」

血が飛び散ったハルのドックタグを、まじまじと見つめる。俺があの時ハルを引き連れてその場から少しでも良いから離れていたらどうなっていたんだろうか。自分の無力さが鬱陶しく感じられた。

 なんの気無しにドックタグを裏返して見た。傷ついたドックタグの裏面にはかすかながら文字が刻まれていた。

「盾となり勅命を果たす。」

涙が止まらなかった。彼こそが、彼こそが生きるべき存在だったんだ。悔しくて悲しくてたまらなかった。

「ハル、俺は絶対戦うよ。最期の最期まで、どんなに辛くても絶対に。」

ギュッとドックタグを握りしめた。

 俺の涙に感化されたのか、このトラックに乗った生き残った隊員の殆どが涙を流していた。

 運命は残酷だ。