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42 白魔法少女さんの心情

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※※※白魔法少女さんの心情※※※


 一体、私の身に何が起こったのでしょうか。
 とても嬉しいことだった筈なのに、あまりに現実感の無い出来事だったせいか、理解が追いつかないのが現状です。

 そもそもの話として、私は早く自立したいという焦燥感から、お世話になっている猟犬の皆さんに報酬を上げてもらう為の交渉を口に出してしまいました。
 結局、いつも通りに怒られて、なじられて、土下座をさせられて、私という立場を思い知らされました。

 私は、男性の魔素排出を阻害してしまう「魔素喰み」という体質です。

 娼婦になれない「魔素喰み」体質の私にとって、精液を無駄撃ち覚悟で提供してくれる男性は、まさに生命線ともいえます。

 しかし、その行為を逆手に取って、良いように扱われていること、つまりは搾取されていることは分かっていました。

 日持ちがして緊急時には役に立つポーション薬を買うには高いが、もしもの時にはやはり回復はしたい。

 そこで、白魔道士の地位の低さを利用することにより、便利な常備薬代わりとして白魔道士を連れて歩くのが、下位の猟犬達にとっては手軽で一般的となっているのです。

 なぜ、手軽なのか。

 ポーション薬は商品として商人と交渉するしかなく、値引きなどほぼあり得ません。
 しかし、白魔道士相手ならば、いくらでも交渉の余地があるからです。

 なにせ、戦闘力が皆無の白魔道士はお金が満足に稼げません。
 唯一、稼げるポーション薬作りには手間暇と日数がかかってしまいます。
 つまり、合成食(レーション)を手軽に買うことが出来ないのです。
 となれば、簡単に足元を見ることができるのです。

 今日の食べ物が欲しければ回復魔法を格安で使え、と。

 なにせ、ポーション薬は使用すれば買い直すしか補給ができませんが、白魔道士による「小回復(ライトヒール)」を使用した際の消費魔力は「食べて寝れば」回復するのです。

 だから、必要最低限の報酬で食べ物と休みを与えて、小回復を使用するだけの人間ポーションとして利用し、搾取するというわけなのです。

 それに加えて、私は魔素喰み体質。

 もはや、足元も足元、地面の底まで到達しそうなほどに足元を見られて搾取される日々でした。

 精液を頂く時は、必ず土下座をさせれられます。
 貴重な精液をどうかお恵み下さいと。

 こんな惨めで情けない人生を早く終わらせる為に、私は白魔道士の道に人生をかけました。

 娼婦にはなれない、猟犬にもなれない私。

 しかし、白魔道士としては少しばかりは才能があるらしく、例え下位の職業とはいえ、ここに人生をかけるしかなかったのです。

 ポーション薬でお金を稼げれば、逆払い娼婦としての道が開けるかもしれない。

 ですが、搾取される日々の中では、満足にポーション研究や製作ができるわけもありませんでした。

 毎日、クタクタになるまで小回復の使用を迫られます。
 ケガをしていないのに体調を良くするためだけにも使用を迫られます。
 そのせいで魔力を限界まで搾り取られてしまい、ポーションに練り込む魔力が残りません。
 ジリ貧なのです。

 必要最低限の魔素排出しか出来ていないので、体内の魔素は少しずつながらも溜まる一方です。
 今日、明日、死ぬことは無いのでしょうが、ゆっくりと終わりは近づいて来ているのです。

 そんな焦りから、思わず猟犬の皆さんに意見を口にしてしまいました。
 しかし、案の定、惨めな結果です。
 土下座して、精液を恵んでもらい、最低限の魔素排出を行うだけ。
 明日も、明後日も、またその次の日も、私のジリ貧な生活は変わらない。

 ですが、今日は違いました。

 絶望に落ち、悔しさに嗚咽する私に優しく声をかけてくれる男性がいました。

 今朝、お会いしたあの黒髪の白魔道士さんです。

 露天で目にしたのは、見事に安定した濃度の水色で発色したE級ポーション。
 それらを作ったのが、その白魔道士さんなのです。
 どうしても誤差が出やすい濃度を、見事なまでに安定させるその腕はまさに職人技です。

 そんな凄腕の白魔道士さんが、少し会話をしただけの私のことなどを覚えていてくれたらしく、路地裏で土下座状態で嗚咽している私を心配して声をかけてくれたらしいのです。

 しかも、私の身の上の話までを親切に聞いてくれて、その解決案まで提示してくれました。

 私に娼婦にならないか、と進めてくれたのです。

 正直、最初は何を言っているのか分かりませんでした。
 しかし、白魔道士さんが私に一ツ星娼婦の相場である銅貨1枚を手渡すと、本当に抱いてくれました。
 しかも、連続で10発分です。

 なぜ、男性が連続で10発も射精できるのかは分かりません。
 分かりませんが、事実だけがそこにある以上はしょうがないのです。

 私は連続セックスの凄さに気を失ってしまいましたが、なんと、白魔道士さんは貴重な小回復をかけて私の体力と気力を回復して下さいました。

 普通ならば、そんな娼婦など捨て置いて帰るのが普通です。

 なんと優しい男性なのでしょうか。
 そんな男性がこの世界に存在したのかと、今でも信じられません。
 でも、居たのです。
 これもまた事実なのですから、私が信じようが信じまいが関係ないのです。

 私は、白魔道士さんと路地裏の出口でお別れしました。
 笑顔で手を振ってくれる白魔道士さんは本当に格好良かったです。

 そもそも、私は今朝の露天でお会いした時点で、凄い白魔道士さんであると確信していました。
 色々と教えてもらいたい。
 その為ならば、なんでもする覚悟です。

 だから、私は別れ際にお願いしました。
 また会えますか、と。
 その答えは、白魔道士さんの微笑みと共に返ってきました。
 もちろん、と。

 なんと、朝の露天を同じ場所で時々はするとの情報を頂けましたので、あの時間帯でお待ちしていれば必ずお会いできるということです。
 もう二度とお会いできないかもしれない、という不安は夜空の果てへと吹き飛んでいきました。

 ああ、本当になんて爽やかなお人なのだろう。
 私は、白魔道士さんの微笑みがあまりに眩しくて、思わず視線を地面に向けて逸らしてしまうほどでした。
 失礼とは思いつつ、しょうがなかったのです。

 私は人生で初めてかもしれない、体内魔素を完全に排出した際の体の軽さに感動を覚えながら、夜道を寝床に向かって歩いていきます。

 帰り道の途中で、私が今、お世話になっている猟犬パーティーである3人組が、地面でだらしなく寝転んでいるのを見かけました。
 どこかでお酒でもたらふく飲んだのでしょうか、道行く人達も気にせずに通り過ぎていきます。

 また、明日からもこの三人組に利用されて搾取されるかと思うと気分が暗くなりましたが、それでも、明日からは白魔道士さんともお会いできる機会がある。

 そう考えると、私の胸に小さな明かりが灯ったような気がしました。
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