上 下
38 / 47
本編

38 爆乳ホルスタインさんと、その友達

しおりを挟む
 日が暮れた商業街は、既に人通りもまばらになっており、店からこぼれる明かりと街灯の温かい灯りが濃い影を作り出しながら街中を照らしている。

 今夜も雲がほとんど流れていない見事な星空だった。

 俺は白魔法少女さんとの1戦、もとい圧縮10連戦を終えた後、その場で別れることとなったが、白魔法少女さんの魔素排出が無事に達成されて、彼女からとても感謝されたのは言うまでもない。
 人から感謝されるというのは本当に心地が良いものである。
 ちなみに、一方的な施しではなく、俺も気持ち良い思いができているので、まさにWINWINな関係だ。

 別れ際に、白魔法少女さんに「また会えますか?」と熱心に聞かれたので、「もちろん」と答えておいた。
 というか、今の所、白魔法少女さんを娼婦として買えるのは俺だけだろうからな。
 俺の変わりが見つからない間は、どうぞ、また会いに来て下さいませ。

 ちなみに、今朝みたいにポーション販売の露天商をする時があるから、俺を探している時はそこにおいでと教えておいた。

 俺との関係が必要なくなる時がいつ来るかも分からないし、あとは白魔法少女さんの意思に任せようと思う。

 俺とすれば、これからも白魔法少女さんとの関係性が深まれば楽しいなーとは思うのだが。




 俺は白魔法少女さんと別れた後、商業街をのろのろと歩きながら、昨夜の爆乳ホルスタインさんと出会ったベンチへと向かっていく。

 白魔法少女さんの突発イベントが発生したせいで忘れてしまいそうになったが、そもそも、俺がここ商業街に来た目的は、昨夜の爆乳ホルスタインさんとまた会えるかなーという、淡い期待があったからである。

 いつかまた会えればという程度だったので、昨日の今日ですぐに会えるとは思ってはいないのだが、特にやることもないので暇つぶしにやってきたわけなのだが、結果としてまさかの白魔法少女さんイベントに遭遇したという感じである。

「……いるわけないよな」

 俺は誰も座っていないベンチを見つめながら近づいていくと、そのまま木製のベンチに腰をおろした。

 ベンチの側には街灯がひとつ立っており、ぼんやりと辺りを照らしている。

 俺はベンチの背もたれに腰を預けながら、後頭部に両腕を回して夜空を見上げた。

「……もう少しだけ待ってから、セレブ姐さんの宿屋に帰ろうかな」

 俺がそう呟いてから少しもしない内に、ベンチ前の暗い通りの先から二人組が何やら話しながら歩いてくる。

 声色が高い感じからするに女性の二人組だとは思うのだが、何やら軽い言い合いをしているようだった。

「……ねぇ、本当にそんな男がいたの?」

「いたのー! いたのー!」

「……夢でも見たんじゃない?」

「でもでもでもー! 私、お腹いっぱいになるまで合成食を食べさせてもらったしー、私がお兄さんからもらったおみやげで、空腹で死にそうなところを助かったよねー!?」

「……まぁ、確かに助かったけれども」

「でしょー? でしょー?」

「……でも、この通りを歩くのは今夜だけで既に4度目よ? どのベンチにもそのお兄さんとやらは座ってなかったじゃない」

「でもー、でもー、あのお兄さん、私のこと綺麗だと言ってくれたしー」

「……亜人を綺麗だなんて言う人間はいないわよ。だから夢を見たって言ってるの」

「でもでもー、ちゃんとお礼をするからって言ったら、待っているよって言ってくれたんだもん!」

「……そんな男が本当にいるのならば、私もぜひ会ってはみたいわね。とはいえ、せっかく空腹を免れたのだから、動けている間に酔っ払いでも探して娼婦仕事をしないと、お互いにまた死にかけるわよ?」

「でもでもー、私、あのお兄さんにまた会いたいのー」

「……気持ちは分かるけれども、今日はこれで最後にしましょうよ」

「うぅ……、分かったー」

 何やら軽く言い合いをしている二人組の女性は、お互いに話し合うので夢中なのか、俺という存在など気がつく余裕も無いという雰囲気で俺が座るベンチに近づいてくる。

 やがて、ベンチの街灯の範囲に入ってきた二人組の女性の姿が明かりであらわになり、二人組の片方の女性を目にした俺は、少しばかり目を見開いて微笑みを浮かべてしまう

 白地に黒の斑点、そのまんま牛柄なブラと際どいハイレグショーツを着た爆乳な大柄女性が拗ねた表情で俯いている。

 その人物こそは、昨夜、俺が餌付けしたミノタウロス亜人な女性こと爆乳ホルスタインさんであった。

 金髪のふんわりロングに、牛の耳と、そのすぐ上の側頭部から角が両側に生えている。

 爆乳ホルスタインさんは牛耳をパタパタと動かしながら、情けなく眉を下げた表情で、隣に立つ女性に声をかけていた。

 爆乳ホルスタインさんの背丈は180cmを軽く超える巨体。

 隣に立つ女性は、爆乳ホルスタインさんと比べてしまえば当然ながら小柄ではあるのだが、それでも170cmを超えるであろう背丈は、ほぼ170cm程度の俺にとっては一段階は上の背丈であり、立派な体格である。

 髪は紫色の長くも美しいストレートヘアで、毛先がどこも綺麗に切り揃えられており、切れ長の赤い瞳。

 エナメル質なハイレグスーツは、いわゆる黒色のバニースーツ。
 白い素肌が透けて見える黒色の粗い網目のタイツが妙に色気をそそり、履いているハイヒールが足の長さを更に長く見せている。
 このような高級かつ品質の良さそうな服は、一ツ星娼婦の稼ぎでは着ることが難しそうだ。

 巨乳でむっちむちながらも、腰のくびれと足首が細いせいで、かなりスラリとした体型に見える。

 どこか冷たい妖しさと美しさを持つ魔性の女性なのだが、亜人の爆乳ホルスタインさんとは違い、普通の人間の姿をしていた。

 歳は……20歳以下のような妙に若々しい感じもあるのだが、そのむせ返るような色香は遠目で見ても危険なレベルであり、本当にその若さで出せるものなのかどうかの判断がつかない。
 この異世界における西洋風女性の年齢が分かりにくいのとは、どうも少し違う感じがした。

 おっとりした雰囲気の爆乳ホルスタインさんとは、真逆と言っても良いほどのクールな雰囲気を漂わせている色っぽい淑女が爆乳ホルスタインさんの顔を見上げながら、小さなため息混じりに顔を振っていた。

 俺は爆乳ホルスタインさんに声をかけようと思うのだが、ふと沸き起こる、何やら気恥ずかしい感じ。

 お礼はまた今度でいつでも良いよ、などと格好をつけておきながら、翌日にはきっちりかっちりと早々にベンチで待っているとか、よくよくと考えてみると、なんとがっついた恥ずかしい行為なのだろうかと、今更ながらに気がついてしまい1人で勝手に顔が赤くなってしまう。

 いや、でもさ、暇だったんだよ。

 ゴージャスなセレブ姐さんの宿屋で寝るまでの時間を、ちょっと潰そうと思っただけなんよ。

 せめて、1日ぐらい空ければ良かったと悔やむも時は既に遅し、顔を俯けてやり過ごそうなどと考えては見たものの、爆乳ホルスタインさんにあっさりと発見されてしまうのだった。

「――あーっ!!! いたいたいたいた、いたよー!!!」

 ギクギクギクッ!

 思わず小さく体を震わせてしまう俺なのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

声を失ったSubはDomの名を呼びたい

白井由貴
BL
 高校一年生でダイナミクスが発現した弓月。  Sub──それもSランクだとわかり、家を離れる決意をする。しかしその前にSubであることをDomである兄に知られてしまい、抵抗虚しく監禁されてしまった。両親からはいないものとして扱われ、実兄からは手酷くされ、聞きたくもない命令に従わなければならない毎日。  そんなある日、身も心も弱りきっていた弓月に救いの手が差し伸べられる。しかしその時にはすでに声が出なくなっていて───?  これは声を失ったSubが幸せになるためのお話。 【Dom/Subユニバース(※独自解釈あり)】 ※性的描写を含む話には「*」がついています。 ※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています。 ※R18は中盤以降からの予定です。 ※進行はかなりゆっくりです。 ※PTSDや精神支配などを連想させるような表現や描写があります。苦手な方はご注意ください。 ※いじめや虐待などの暴力表現があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

公爵令息は悪女に誑かされた王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)

青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。 妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・ 暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。 全5話

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~

朝露ココア
恋愛
ハベリア家伯爵令嬢、マイア。 マイアは身分に相応しくない冷遇を受けていた。 食事はまともに与えられず、血色も悪い。 髪は乱れて、ドレスは着せてもらえない。 父がかわいがる義妹に虐められ、このような仕打ちを受けることとなった。 絶望的な状況で生きる中、マイアにひとつの縁談が舞い込んでくる。 ジョシュア公爵──社交界の堅物で、大の女嫌いが相手だ。 これは契約結婚であり、あくまで建前の婚約。 しかし、ジョシュアの態度は誠実だった。 「君は思っていたよりも話のわかる人だな」 「それでは美しい姿がもったいない」 「マイア嬢、食べられないものはあるか?」 健気なマイアの態度に、ジョシュアは思わぬ優しさを見せる。 そんな中、マイアには特殊な「おまじない」の能力があることが発覚し…… マイアを支度金目当てに送り出した実家では、母と妹のせいで家計が傾き……マイアが幸福になる一方で、実家は徐々に崩壊していく。 これは不遇な令嬢が愛され、ただ幸福な日々を送る話である。

処理中です...