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0章-非日常な放課後-0日目の月曜日-

3話 信者とは絶望の事である(偏見)

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 翔也は今、バイト先に向かっていた。

 心の底では少しだけ、可愛い先輩に会えると思い喜びながら……





 今からおよそ10分程前の事である。

 翔也が駅から出てきてすぐ、バイトの先輩である優香から連絡が送られてきた。



─────────────────────

優香ゆうか先輩
助けて翔ちゃ~ん!! お客さんが混雑し過ぎて大変だよ~!!

伊桜翔也
分かりました、今すぐ向かいます。

伊桜翔也
あと、翔ちゃんって呼ばないでもらえません?

優香先輩
それは嫌ですっ!!

─────────────────────

 必死に助けを求めるその連絡を見た翔也は、無難そうな返事を返す。

 たった一度のやり取りをした後に返ってきた返事。

 その『嫌ですっ!!』という可愛らしい言葉文章に、ほわほわぽかぽかと和みながら、翔也は彼女───華峰はなみね優香ゆうか───の姿を思い浮かべる。

 バイトの先輩こと優香は、大学3年生で21歳のら落ち着いた印象を与える地味な雰囲気の茶の髪に、髪色と同色の優しさと慈愛に溢れるおっとりと目尻の下がった茶の瞳を持ち、そのゆったりとした茶髪を、サイドテールにして右肩からその豊満な胸元へと流した妖艶さとは違う大人らしい色香を漂わせる美女で、綺麗で完璧な女性でもある……と本人は思っているらしいお茶目なぽんこつ系ゆるふわ美女である。

 だが、その自身を完璧だと思い込みたいという部分も小動物が見栄を張っているみたいで可愛らしく、更にはおっちょこちょいで抜けてる部分があり、お調子者だけどそこが可愛いおっとり系美女だと翔也は思っていたりする。

 翔也の中では、優香がバイト先の先輩である事は〝ついで〟で片付くような些事なのだ。

 何処かでほろりと一筋の涙を流す先輩の存在を察知した翔也……何とは言わないが、取り敢えず、優香、ドンマイッ!!





 回想を終わらせ、優香に会える事は地味に癒されて眼福だからと少し喜びながらバイト先に向かっていた翔也である。

 そう、喜んでいたはずなのである。


 今は必死に逃げ出そうとしているが……


「先輩ッ、なんでこんな事になってるんですか……?」

「知らないよぉ…私もぉ……」

 自身と同じ高校の制服を着た女子達を見ながら何故か少し遠い目をしている翔也に、少し責めるように訊かれた優香は、涙目で泣きそうになりながらそう言い返した。

 涙目で言い返す優香は大変可愛らしい。

 翔也は頭を振って煩悩を振り払う。

 ……ふぅ、優香先輩の涙目姿が可愛過ぎて萌えるZE☆キランッ☆

 まぁ、それは置いておいて、何故大勢の女子が来店してきただけで翔也が遠い目をしているのか、それは単純に貸切したいという旨の連絡や、大勢来るなどという連絡が事前に無かったのもあるが、来店してきたその女子達が問題で……



「今日は〈琴音様が産まれて16年と半年記念〉という事で、めいっっっぱい騒ぐわよぉ!!」

『「「おぉー!!!」」』



 ……という事が問題であったりする。

 そう、彼女達は翔也が通う高校で琴音の意思関係無く勝手に学園トップの美少女の座を争っている琴音大好き変t……異常s……狂信者集団、〈琴音様を慕う者達〉である。

「うぅ~、翔ちゃ~ん、この人達、なんか怖いのよぉ~」

 翔也は、優香のその言葉を聞いて思った、『確かにこいつらは怖いわ、流石に優香が可哀想だな、だけど不憫な優香はいつもよりも倍増しで可愛いな』と。

 そしてそんな事を考えているとは知らず、〈琴音様を慕う者達〉の1人に、結構重要なある事・・・に気付かれてしまった。

「あれ? そこのイケメンの店員さん、そのエプロンの下、うちの高校の制服じゃないですか?」

「…ぁ…っ……」

 その声は意図して漏れたものか? そんな事は考えずとも明白、翔也は気が抜けていた事もあり、優香からの救援要請で急いで来たから(高校の)制服の上からエプロンをつけていた事を忘れていたのだ。

「……(ニコッ)」

 翔也は、誤魔化す道を選んだ。

『「「(ポッ)」」』

 信者達は、誤魔化される道を選ばされた。

 ついでに隣の優香も頬をポッと染めていたが、それに気付いた翔也は視界に入れると同時に一瞬見惚れ、照れた感情を隠すように顔を片手で隠しながら顔を背けた。

 それから数十分後……店に黒髪を結ったポニーテールの美少女がやって来た。

 やって来た……のだが、その美少女は普通のノーマルな女子達が異常者アブノーマルになった1番の理由である凛とした姿ではなく、苦労性な普通の女の子のような雰囲気を醸し出す姿となっていた。

「……ご、ごめんなさいっ!! あのっ!! ちょっと叱るので待っていてくださいっ!!」

 店の様子を見て、〈琴音様を慕う者達〉以外の客が居ない事を確認すると美少女はそう叫ぶように謝って深く頭を下げ、暫く経ってから、その美少女───琴音は、どこかしゅんとした様子の尻尾ポニーテールを垂れさせながら、ゆっくりとその頭を上げた。

 それから少し小走りに信者達の元へ向かった琴音。

 彼女は信者達の中心となっていた女子数人を引っ張っていくと、瞳を鋭くさせながら、声を潜めて叱り始めた。

「── ─ ─ ─── ── ── ─ ───」

『「「はーいっ!」」』

 翔也には琴音の声は聞こえなかったが、信者達の返事が妙にしっかりとして慣れたような返事だった事だけは分かり、不安に瞳を揺らす。

 だが、何故だろうか? 翔也と優香には、どうしてもその姿は幼子を連れてきた苦労している保護者達の姿と重なるようにしか見えなかった。

 ついでに、琴音が小さくガッツポーズを決めていたのも2人は見てしまったが、2人は微笑ましい気持ちになりながらもスルーした。

 それと同時に、翔也と優香は思った。

 あの人、苦労性みたいだけど……まぁ、信者達の信仰対象として……こほんこほんっ、保護者として頑張って制御してね……? と、瞬間、琴音の背筋に寒気が走ったそうだが、周りに視線を巡らせてみても特に警戒すべきものは見つから…見つから……自身を慕ってくれる可愛い信者達以外には特に見つからなかったらしい。

 だが、安堵したように『ふぅ……』と息を吐いた琴音の視線が翔也を捉えた。

 あら、格好良い男の人だわ、うちの陸よりもイケメンかしら? ……といった表情をした後、その顔を驚愕に染めた。

「翔……?」

 その名を聞いた翔也は一言。

「いえ、人違いです、俺は翔也ですので」

 そう答えた。

 しかし……

「いや、でも……成長して少し変わっているけど、その顔は翔じゃない……?」


 実を言うと、翔也と琴音は旧友だったりする。


 昔、翔也が『義理とか関係無く可愛い妹を守る為にぃっ!! 俺は武術を学びたいぃっ!!』と言って無理矢理親に入らせてもらった道場、そこが琴音の家である〈十文字道場〉だったのだ。

 実際の理由は『強くなってモテたい』という翔也にしては年相応───小学生の頃の事の為、年相応とは言えないかもしれないが───な可愛らしい理由である。

 琴音が翔也の名前を『翔』だと思っている理由としては、翔也は初日に道場で自己紹介をした時、琴音の父親師範代と共に噛み、『翔ゃ』になってしまい、それを聞いた他の弟子達はそれをあだ名として呼ぶ事にし、その日たまたま休んでいた琴音は翌日から翔也が『翔』と呼ばれているのを聞き、翔也の名前は『翔』だと勘違いしたという事である。

 琴音、痛恨のミス。

 余談だが、翔也は翔也で自己紹介での失敗ミスがここまで大きく尾を引く事になるとは思っておらず、黒歴史として恥じていたりする。

「いえ、翔也です、断じて翔などという名前ではありません」

 翔也は、そんな事を言いながら、まぁ、言っている事は間違っていないしなぁ……などと気楽に考えていたりするのだが、なんとなくそれが分かっているのか優香は呆れた表情をしている。

 翔也はもう一度ニコッしておいた。

 優香はもう一度ポッした。

「で、でも……ほ、本当にっ!! 翔じゃないの……?」

 そう言う琴音の表情は泣きそうな幼子のようだ。

 その表情を見ると、流石の翔也も罪悪感に焦ってきた。

 ただ琴音の周囲に問題があるだけだというのに、それだけを理由に関わろうとしないのは流石に可哀想だと思ったのだ───


「……まず俺の名前は翔じゃなくて翔也だし…だから俺の言っていた事は間違ってねぇし……」


 ───だから、これは優しさなんかでは無い。


 ───ただの同情だ。


 ボソボソと独り呟く翔也の声を聞いて、琴音は希望を手にしたかの様な喜びの表情をし、優香は翔也のツンデレ要素自分だけの玩具を取られた幼子の様な悲しげな表情をし、〈琴音様を慕う者達〉は偽りの敵に気付き、翔也真の敵を見つけたかのような表情でハッとし、翔也に敵意を向け始めた。

 それらに気付いた翔也が頬を引き攣らせながら思考を巡らせる。

 あれ? なんかカオスな状況になってない? ……と。

 そして一言呟く。



「うーんと……なんか…ごめんね…?」



====================

次回「混沌中のバイト先-1」

 南城優香みなしろ ゆうか華峰はなみね優香ゆうか
 名前変更しました。
 現在書き直している最中ですので、他の話ではまだ南城優香みなしろ ゆうかのままになっています。

 修正はここまでしか終わっておらず、この話からは未修正である事をご了承お願いします。
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