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カルテNo.4 百数十歳、女性。魔族、紫髪。強制入院。先生の言うことは聞きなさい。

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 悠馬は空中に魔王を見つめながら、とんとん、と剣を肩に打ち付けていた。
 まるで、だるさを誤魔化す肩たたきのような、そんなのほほんとした雰囲気のまま、悠馬は剣を正眼においた。そして、ゆっくりと剣に魔力を通していく。

 悠馬の剣はただ重厚に作られたものだ。そして切れ味も悪い。何よりも勝っているのはその頑丈さだった。重く、切れ味も悪い剣をなぜ使うのか。
 悠馬にそう問うたならばこう返ってくるだろう。

 ――壊れないためだよ。

 そう、壊れてしまうのだ。
 魔力を込めると、それに耐えきれず崩れてしまう。
 力に任せて振るうと、並みの剣ならひしゃげてしまう。
 剣を壊さない様に使うのならば、悠馬の力の一端すら出すことができない。
 だからこそのこの剣なのだ。頑丈なだけのこの剣は、悠馬が振るうと全てを切り裂き、すべてを圧倒する史上最高の剣へと様変わりする。
 
 圧倒的な強化魔法。それが、悠馬の本来の真骨頂だ。

 剣と肉体をこれでもかと強化するその魔法により、悠馬はすべてを圧倒する。

 その剣は、神話に出てくる剣の如く、すさまじい威力を誇っていた。故に、異世界ではこう呼ばれている。


 ――エクスカリバー。

 悠馬の魔力が染み渡った剣は金色に輝き、魔王と相対する。

「あの影達をああも簡単に葬るとはな。なかなかの力だ」
「それなりに強かったけどな」
「なぁに。たかが、我の十分の一ほどの強さだ。大したことはない」
「まあ、それくらいじゃなきゃ、魔王とは言えないもんな」

 二人のやりとりが聞こえていたのか、サラとミロルは顔を真っ青に染める。

「それはそうと…………久しぶりだよ、この剣を使うのは。加減がきかなかったらごめんな」
「何を――」
「あ、でも加減がきかなかったらもうきっと、お前とは話すこともないんだろうな、なんて」

 そういって、悠馬は地を蹴り飛び出した。

 飛び出した悠馬は、即座に魔王であるイルマとの距離を詰める。
 そのあまりのスピードに、イルマは慌てて魔力の球体――魔弾を投げつける。

「死ねぇっ!」

 直後に互いはぶつかり合い、そして質量のないはずの魔弾は真っ二つに割れはじける。はじけた衝撃が、周囲に衝撃波となって広がった。
 爆風に目を細めるイルマの目に見えたのは、割れた魔弾の間から飛び出る悠馬の姿。既に剣は振りかぶっていた。

 ぞくりと寒気を感じたイルマは魔力で障壁を張る。が――、その障壁は、悠馬のエクスカリバーによって障壁ごとはじかれイルマともども吹き飛んだ。

「あれ、斬れないな」

 そんな暢気なつぶやきを聞きながら、イルマは後ろの瓦礫へ突っ込んでいく。

 一瞬の攻防に、イルマは何が起こったのかわからなかった。だが、すぐさま怒りは膨れ上がり、そして呼応するように飛び出した。

「この人間がっ!」
「隙だらけだ」

 イルマが飛び上がった瞬間、声が耳元で聞こえた。咄嗟に顔を向けると、そこには悠馬がいた。

 ――何故。

 そんな疑問は、悠馬が振り下ろしたエクスカリバーの衝撃で雲散する。

「がああぁぁぁぁっ!」

 今度も吹き飛ばされ、瓦礫を吹き飛ばし、地面をえぐりながらようやく止まる。イルマが前をみると、すでに近づいてきている悠馬がそこにはいた。
 その佇まいには力みなどなく、なにやら納得がいかないような顔で首を傾げている。

「やっぱり久しぶりだとだめだな。全盛期の半分くらいか」

 そんな冗談のような言葉を聞いて、イルマは恐怖をぬぐうかのように叫び声を上げた。

「ふざけるなあああぁぁぁぁっ!」

 飛び起きながら、イルマは手に剣を作り出した。これも黒い魔力で作り出しており、そんじょそこらの名刀と比べても遜色のないものだ。

 その魔力剣でイルマは悠馬に切りかかる。
 脳天から真下へ。切り返して左腕を。勢いを殺さずに一回転しながら右肩、突きでのど元を。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 右腕、左脇、脚、腹、胸、背中、首、横腹、大腿、頭、前腕、手首、頭、頭、頭、頭、頭――。
 無造作、がむしゃらに悠馬に魔力剣を打ち込んでいくイルマ。その斬撃は、文字通り目にもとまらぬ速さであり、事実遠目で見ているサラ達は目で追うのがやっとの状態であった。
 当然、数えきれないほど切り付けられた悠馬は無傷ではあるまい。それどころか、木端微塵になっているとさえ思った。イルマも――サラ達も。

 だが、息を切らしながらイルマが見たものは、信じられないものだった。
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