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カルテNo.3 二十七歳、男性。人間、黒髪。主訴、誰も何もわかっちゃいない
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「お前は知ってるか?」
「ん?」
唐突なヴォルフからの問いに、俺は思わず気の抜けた声を出してしまった。だが、そんな俺に構わず、ヴォルフは流れるように言葉をつなげた。
「俺達のような孤児。この世界に一杯いるよな……一応住む場所と生きていくだけの食い物を、死にもの狂いで働くことで与えられてきたよな。そうして、俺達はこうして生きている。幸せだ、幸せだと思わないか?」
「何を……」
「でもな、俺達みたいな幸せな奴らだけじゃない。世界には、もっとつらい想いをしている奴らがいっぱいいるんだよ」
俺を見つめるヴォルフの瞳は、潤んでいるような気がした。
「エルフが迫害を受けているのを知っているか? あいつらは静かに森で暮らしていたいだけなんだ。集落の中でそっとしといてやればいいじゃねぇか……でも俺達人間は、悲しいことにそこに茶々をいれなくちゃならない性質なんだよ。だから、攫われ、奴隷となり、そうなったらもう人として生きていくことは叶わない」
ヴォルフは俺に向けていた剣先をゆっくり降ろすと、力が抜けたかのようにだらりと両腕をたらした。
「獣人だってそうだ。あいつらだって、腹が満たせて家族で生きていけりゃあそれでよかったんだ。別に、人間を傷つけようだなんて思っちゃいない。俺達人間が、あいつらの領域に入っていったから怒っただけなんだよ、それだけさ」
淡々と語られる言葉。俺はヴォルフの言葉を聞きながら、必死で考えていた。だが、考えはまとまらず、答えもでない。しかし、そんな俺とはちがい、ヴォルフの目には迷いがない。
「そいつらだけじゃない。人間の中にだって人間じゃなくたって、ただ幸せに生きたいだけなのに、身勝手な奴らの言い分でいいようにされちまってる。なぁ、こんな世の中正しいのか? お前は我慢できるのか?」
びくりと、身体が跳ねる。
ヴォルフの言葉に俺は何も返せない。
「俺は我慢できなかった。それだけの話だよ。だから、そんな世界はぶっ壊して、そしてまた皆で幸せに生きればいい。それだけの話なんだよ」
「だが、そこに巻き込まれる罪のない人々はどうなんだ! その人たちだって幸せに生きたいだけだろう? その命は、ヴォルフにとって関係ないことなのか?」
俺の言葉を聞いて、ヴォルフはふっと鼻で笑う。そして、再び剣先を突きつけながら叫んだ。
「関係あるに決まってんだろうが! だがな! このままじゃ、弱いもんが苦しんでいくだけの世界がずっと続くんだよ! それじゃあだめなんだ! なんで、わからねぇ、ユーマ……お前だって弱い側の人間じゃねぇか……」
「ヴォルフ……」
あぁ。
ヴォルフ、お前は強いな。俺みたいに弱くない。強いから、そうやって切り捨てられるんだよ。俺はだめだ。全部が全部、そうやって割り切れない。ヴォルフの言うことはもっともだし、俺だってそう思う。でも、でも、俺は、そうやって虐げられる人も虐げていた人も見捨てたくないんだよ。全部、助けたいって思うんだ。
「だからもう最後にしよう。俺はお前を止めるよ、ヴォルフ。俺は、ヴォルフみたいに強くなれない。だから、だから……」
「やっぱりだめかよ。そうかよ……なら、お前をぶっ殺してそれで始まりだ。人間だけの世界の終わりが、幸せへの階段が」
「ん?」
唐突なヴォルフからの問いに、俺は思わず気の抜けた声を出してしまった。だが、そんな俺に構わず、ヴォルフは流れるように言葉をつなげた。
「俺達のような孤児。この世界に一杯いるよな……一応住む場所と生きていくだけの食い物を、死にもの狂いで働くことで与えられてきたよな。そうして、俺達はこうして生きている。幸せだ、幸せだと思わないか?」
「何を……」
「でもな、俺達みたいな幸せな奴らだけじゃない。世界には、もっとつらい想いをしている奴らがいっぱいいるんだよ」
俺を見つめるヴォルフの瞳は、潤んでいるような気がした。
「エルフが迫害を受けているのを知っているか? あいつらは静かに森で暮らしていたいだけなんだ。集落の中でそっとしといてやればいいじゃねぇか……でも俺達人間は、悲しいことにそこに茶々をいれなくちゃならない性質なんだよ。だから、攫われ、奴隷となり、そうなったらもう人として生きていくことは叶わない」
ヴォルフは俺に向けていた剣先をゆっくり降ろすと、力が抜けたかのようにだらりと両腕をたらした。
「獣人だってそうだ。あいつらだって、腹が満たせて家族で生きていけりゃあそれでよかったんだ。別に、人間を傷つけようだなんて思っちゃいない。俺達人間が、あいつらの領域に入っていったから怒っただけなんだよ、それだけさ」
淡々と語られる言葉。俺はヴォルフの言葉を聞きながら、必死で考えていた。だが、考えはまとまらず、答えもでない。しかし、そんな俺とはちがい、ヴォルフの目には迷いがない。
「そいつらだけじゃない。人間の中にだって人間じゃなくたって、ただ幸せに生きたいだけなのに、身勝手な奴らの言い分でいいようにされちまってる。なぁ、こんな世の中正しいのか? お前は我慢できるのか?」
びくりと、身体が跳ねる。
ヴォルフの言葉に俺は何も返せない。
「俺は我慢できなかった。それだけの話だよ。だから、そんな世界はぶっ壊して、そしてまた皆で幸せに生きればいい。それだけの話なんだよ」
「だが、そこに巻き込まれる罪のない人々はどうなんだ! その人たちだって幸せに生きたいだけだろう? その命は、ヴォルフにとって関係ないことなのか?」
俺の言葉を聞いて、ヴォルフはふっと鼻で笑う。そして、再び剣先を突きつけながら叫んだ。
「関係あるに決まってんだろうが! だがな! このままじゃ、弱いもんが苦しんでいくだけの世界がずっと続くんだよ! それじゃあだめなんだ! なんで、わからねぇ、ユーマ……お前だって弱い側の人間じゃねぇか……」
「ヴォルフ……」
あぁ。
ヴォルフ、お前は強いな。俺みたいに弱くない。強いから、そうやって切り捨てられるんだよ。俺はだめだ。全部が全部、そうやって割り切れない。ヴォルフの言うことはもっともだし、俺だってそう思う。でも、でも、俺は、そうやって虐げられる人も虐げていた人も見捨てたくないんだよ。全部、助けたいって思うんだ。
「だからもう最後にしよう。俺はお前を止めるよ、ヴォルフ。俺は、ヴォルフみたいに強くなれない。だから、だから……」
「やっぱりだめかよ。そうかよ……なら、お前をぶっ殺してそれで始まりだ。人間だけの世界の終わりが、幸せへの階段が」
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