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カルテNo.1 約四百歳、女性、エルフ、金髪。全身擦過傷、栄養失調
⑫
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「心タンポナーデ?」
きょとんとした奈緒の疑問を後目に、悠馬とリファエルはすぐさま疑念を確信に変えるべく行動にうつる。
「リファエル! さっき片付けたエコー持ってきてくれ! 急いで!」
「はい!」
リファエルが部屋から慌てて出て行ったのを背中で見送り、悠馬は突然ミロルの胸元に手を伸ばした。
「ゆ、悠馬!?」
悠馬は奈緒が見ているのもはばからず、すぐさまミロルの服のボタンに手をかけた。一つ、二つとボタンが外され、ゆっくりとミロルの肌が外気へと触れていく。
全てのボタンをはずすと、そこにはミロルの豊満な双丘が姿を現した。その胸元にジェル状の消毒薬を垂らすと、リファエルが持ってきた機械の硬い棒を、ぐりぐりと胸に押し付けた。
「ん……んぁ、あ……」
突然の冷たさと刺激に、ミロルの口から思わず声が漏れる。
「ごめんな、ミロル。すぐ終わるからさ」
「な、なんじゃ? あっ……我の身体に欲情してしまったか、の? 命を助けてくれたからの、相手をしてやってもよいぞ? ん……」
「そんだけ馬鹿言えるならまだ大丈夫だ」
そう言いながら、悠馬はリファエルが持ってきたエコー検査の画面を見つめながら手元の棒をぐりぐりと動かしている。ちょうど、左胸の上あたりから中央、そして乳房の下の方を万遍なく棒を押し付けて行った。
動かす度に画像は変化し、そして、その画像に悠馬は釘づけだ。そして、だんだんとその表情が険しくなっていく。
「ユーマ様、どうですか?」
「たしかに、心タンポナーデだ。タンポなんだが……なんだよこれ」
「どうしたんですか?」
リファエルから問われるも、悠馬は動揺しているのか愕然としたままエコー画面から視線を逸らさない。
そして、どうにも釈然としない、といった様子でリファエルを見た。
「出血していない」
「どういうことです? 普通、心タンポの原因は心嚢内の液体貯留。原因としては出血が普通なんじゃ――」
「そうなんだけどさ……その液体の変わりに左心室のあたりが空洞になってるんだ。その空洞に押されるように心臓の動きが悪くなってる。そしてな、ありえないことに……」
「ことに?」
「その空洞の中心に、なんだか丸いものがあるんだが……」
「え?」
その言葉とともに悠馬は画面に視線を戻した。リファエルもエコーの画面を覗き込む。
すると、黒い影の中に白い丸い玉のようなものが浮かんでいた。見る限り、空洞の中に。
「なんだよこれ……。心タンポじゃないのか? でも、だとしたらこの空洞が説明できない! なんなんだよこれ!」
「ユーマ様、落ち着いてください」
思わず手元に力が入っていた悠馬は、リファエルの言葉で力を抜く。そして、再び眉間にしわをよせ考え込んでいる。
「なんだ? 症状は心タンポだ。だが何が違う? 待て。一から考えろ。心タンポはそもそも心嚢に液体がたまって心臓を動きを妨げることで動きを阻害する疾患だ。だが、本来、心臓の動きを止める液体が気体になっている? いや、気体であるならば心臓の動きは阻害されない。それに少なからず皮下気腫になって現れるし、むしろそれなら気胸を疑う。ならこの丸いものが腫瘍かなにかか? だが、心臓の圧迫を阻害するにしては小さすぎる……なんだ? なにが違う? 何が普通とちがう……なにが……ナニガ……」
悠馬は固まる。何かが見えそうで、その考えを必至でほじくりだすかのように固まる。固まる。固まる。固まる。
きょとんとした奈緒の疑問を後目に、悠馬とリファエルはすぐさま疑念を確信に変えるべく行動にうつる。
「リファエル! さっき片付けたエコー持ってきてくれ! 急いで!」
「はい!」
リファエルが部屋から慌てて出て行ったのを背中で見送り、悠馬は突然ミロルの胸元に手を伸ばした。
「ゆ、悠馬!?」
悠馬は奈緒が見ているのもはばからず、すぐさまミロルの服のボタンに手をかけた。一つ、二つとボタンが外され、ゆっくりとミロルの肌が外気へと触れていく。
全てのボタンをはずすと、そこにはミロルの豊満な双丘が姿を現した。その胸元にジェル状の消毒薬を垂らすと、リファエルが持ってきた機械の硬い棒を、ぐりぐりと胸に押し付けた。
「ん……んぁ、あ……」
突然の冷たさと刺激に、ミロルの口から思わず声が漏れる。
「ごめんな、ミロル。すぐ終わるからさ」
「な、なんじゃ? あっ……我の身体に欲情してしまったか、の? 命を助けてくれたからの、相手をしてやってもよいぞ? ん……」
「そんだけ馬鹿言えるならまだ大丈夫だ」
そう言いながら、悠馬はリファエルが持ってきたエコー検査の画面を見つめながら手元の棒をぐりぐりと動かしている。ちょうど、左胸の上あたりから中央、そして乳房の下の方を万遍なく棒を押し付けて行った。
動かす度に画像は変化し、そして、その画像に悠馬は釘づけだ。そして、だんだんとその表情が険しくなっていく。
「ユーマ様、どうですか?」
「たしかに、心タンポナーデだ。タンポなんだが……なんだよこれ」
「どうしたんですか?」
リファエルから問われるも、悠馬は動揺しているのか愕然としたままエコー画面から視線を逸らさない。
そして、どうにも釈然としない、といった様子でリファエルを見た。
「出血していない」
「どういうことです? 普通、心タンポの原因は心嚢内の液体貯留。原因としては出血が普通なんじゃ――」
「そうなんだけどさ……その液体の変わりに左心室のあたりが空洞になってるんだ。その空洞に押されるように心臓の動きが悪くなってる。そしてな、ありえないことに……」
「ことに?」
「その空洞の中心に、なんだか丸いものがあるんだが……」
「え?」
その言葉とともに悠馬は画面に視線を戻した。リファエルもエコーの画面を覗き込む。
すると、黒い影の中に白い丸い玉のようなものが浮かんでいた。見る限り、空洞の中に。
「なんだよこれ……。心タンポじゃないのか? でも、だとしたらこの空洞が説明できない! なんなんだよこれ!」
「ユーマ様、落ち着いてください」
思わず手元に力が入っていた悠馬は、リファエルの言葉で力を抜く。そして、再び眉間にしわをよせ考え込んでいる。
「なんだ? 症状は心タンポだ。だが何が違う? 待て。一から考えろ。心タンポはそもそも心嚢に液体がたまって心臓を動きを妨げることで動きを阻害する疾患だ。だが、本来、心臓の動きを止める液体が気体になっている? いや、気体であるならば心臓の動きは阻害されない。それに少なからず皮下気腫になって現れるし、むしろそれなら気胸を疑う。ならこの丸いものが腫瘍かなにかか? だが、心臓の圧迫を阻害するにしては小さすぎる……なんだ? なにが違う? 何が普通とちがう……なにが……ナニガ……」
悠馬は固まる。何かが見えそうで、その考えを必至でほじくりだすかのように固まる。固まる。固まる。固まる。
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