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カルテNo.1 約四百歳、女性、エルフ、金髪。全身擦過傷、栄養失調
⑦
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「生贄?」
「そうじゃ。我が住んでいた森があってな。昔から、その森は我らエルフの住処だったんじゃが……その森を勝手に管理下に置いている国があった。まあ、我も害がなければ、と思い気にもしていなかったのじゃが、最近その国全体が大飢饉に襲われての……」
ゆっくりと話し始めたエルフの話に三人は静かに耳を傾けていた。
「困ったことに、その原因が、古くから森にすむ我が原因じゃと、そう申してきてな。当然我は何もやっておらん。じゃが、占い師とかいう胡散臭い輩が我の仕業じゃと決めつけおった。国が総出で我を探しにきての。結局捕まり、生贄の儀式とやらをやっていたらいつのまにか知らない場所にいたというわけじゃ。どこにいるのかわからなかったからの。とりあえず、近くに感じた魔力をたどって助けを求めた、それが事の顛末じゃ」
エルフは淡々と話すが、その内容は目を背けたくなるようなものだった。
悠馬も奈緒もリファエルも悲痛な顔をしていたが、そんな三人を気遣うかのようにエルフはぎこちなく微笑む。
「そう静かになるでない。とりあえず命はあってこうして助けられた。それならば、そう悲観するものでもないじゃろ?」
憔悴しながらも、どこか達観した物言いをするエルフに、悠馬は強さを感じた。
その強さは積み上げてきた年月のなせるものか。それとも、このエルフが特別芯が通っているのか、それはわからない。
だが、悠馬には、そんなエルフの持つ強さにとても惹かれていた。
――かならず助けたい。
そう思うほどに。
「それでも、そう言い切るにはつらすぎることです……大変だったんですね」
そういってリファエルはそっとエルフの手を取った。
銀髪のリファエルと金髪のエルフ。その二人が並んでいる姿などまさにファンタジー。実に神秘的であり、思わず悠馬と奈緒は見とれていた。が、すぐさまそんな場合ではないと、奈緒は力強く立ち上がり声を上げた。
「エルフさん。大変だったと思うけど、きっと悠馬もリファエルさんも力になってくれるから……。とりあえず、元気を出すためにご飯でもどう!? ね、悠馬、大丈夫だよね?」
「あ、ああ。嚥下も消化器系も問題ないとは思うけど」
「決まり! なら、あとでうちにきて! 今日は朝ごはんまだだから大丈夫だし! 私、準備してくる!」
そう宣言すると、慌ただしく外に出て行ってしまった――と思ったらひょいとドアの横から顔を出して、捨て台詞を吐いた。
「悠馬! 後でちゃんと説明してよね!」
そのまま奈緒はバタバタと慌ただしく診療所から出て行った。残された悠馬は、おもわずきょとんと眼を見開いている。
「さすがに流してはくれないのな」
「それはそうですよ。目の前で治癒魔法を使ってしまったんですからね」
「しょうがなかったじゃないか。そうしないと、信じてもらえなそうになかったんだから」
苦笑いを浮かべる悠馬と微笑むリファエル。その横では、手を強く握られているエルフがどこか居心地悪そうにしていた。
「そろそろ離してほしいんじゃがのぉ」
その言葉にリファエルは慌てて手をほどいた。
「あら、すみませんでした。エルフさん、とてもきれいだから、つい、ね?」
そんなことを言いながら、リファエルは妖艶な笑みをエルフへ向ける。悠馬は横目でリファエルをみて、呆れ顔だ。
いつも、こうした悪ふざけを悠馬にもしてくるが、初対面の人にはどうなのだろうか。
誤解され警戒されても面倒だとばかりに、悠馬はリファエルの頭を軽く小突いた。
「ふざけるのもそれくらいにしておけよ? で、君はご飯は食べれそうか? 食欲ないなら何か考えるけど」
「だ、大丈夫じゃが」
あっさりとしたその態度にリファエルは不満げだったが、こだわっていても仕方ないと思ったのだろうか。気を取り直したように会話に加わる。
「いいんじゃありませんか? 奈緒さんはとてもやる気だったみたいですし。なによりも、ご飯を食べてみんな幸せ、って考えるところが奈緒さんらしいじゃないですか。私たちもお腹すきましたしね」
リファエルがそういってエルフに顔を向けると、タイミングよく地響きのような音が診察室に鳴り響いた。
それは、エルフのお腹の音であり、少しだけ顔を赤らめているのをみると恥ずかしかったのだろう。老練な口調とは裏腹に、どこか初心な様子を見せるエルフの表情が可愛らしい。
「お腹が減るってことはいいことだ。少なくとも、腸蠕動はあるってことだからな」
「ユーマ様。それはなんだか違う気がしますよ?」
くすくすと笑うリファエルにつられて悠馬も声を上げて笑った。
「ああ、そういえば」
立ち上がり、まさに奈緒の家に向かおうという矢先、悠馬はエルフへと向き直り慌てて問いかける。
「君の名前を聞いてなかったね。名前、教えてもらえるかな?」
「ミロルじゃ。ミロル・リーネルト。真名を教える必要はあるまいな?」
「それでいいよ。じゃあ、ミロル。いこうか」
それにこたえるように、ミロルは二人の後について行った。
「そうじゃ。我が住んでいた森があってな。昔から、その森は我らエルフの住処だったんじゃが……その森を勝手に管理下に置いている国があった。まあ、我も害がなければ、と思い気にもしていなかったのじゃが、最近その国全体が大飢饉に襲われての……」
ゆっくりと話し始めたエルフの話に三人は静かに耳を傾けていた。
「困ったことに、その原因が、古くから森にすむ我が原因じゃと、そう申してきてな。当然我は何もやっておらん。じゃが、占い師とかいう胡散臭い輩が我の仕業じゃと決めつけおった。国が総出で我を探しにきての。結局捕まり、生贄の儀式とやらをやっていたらいつのまにか知らない場所にいたというわけじゃ。どこにいるのかわからなかったからの。とりあえず、近くに感じた魔力をたどって助けを求めた、それが事の顛末じゃ」
エルフは淡々と話すが、その内容は目を背けたくなるようなものだった。
悠馬も奈緒もリファエルも悲痛な顔をしていたが、そんな三人を気遣うかのようにエルフはぎこちなく微笑む。
「そう静かになるでない。とりあえず命はあってこうして助けられた。それならば、そう悲観するものでもないじゃろ?」
憔悴しながらも、どこか達観した物言いをするエルフに、悠馬は強さを感じた。
その強さは積み上げてきた年月のなせるものか。それとも、このエルフが特別芯が通っているのか、それはわからない。
だが、悠馬には、そんなエルフの持つ強さにとても惹かれていた。
――かならず助けたい。
そう思うほどに。
「それでも、そう言い切るにはつらすぎることです……大変だったんですね」
そういってリファエルはそっとエルフの手を取った。
銀髪のリファエルと金髪のエルフ。その二人が並んでいる姿などまさにファンタジー。実に神秘的であり、思わず悠馬と奈緒は見とれていた。が、すぐさまそんな場合ではないと、奈緒は力強く立ち上がり声を上げた。
「エルフさん。大変だったと思うけど、きっと悠馬もリファエルさんも力になってくれるから……。とりあえず、元気を出すためにご飯でもどう!? ね、悠馬、大丈夫だよね?」
「あ、ああ。嚥下も消化器系も問題ないとは思うけど」
「決まり! なら、あとでうちにきて! 今日は朝ごはんまだだから大丈夫だし! 私、準備してくる!」
そう宣言すると、慌ただしく外に出て行ってしまった――と思ったらひょいとドアの横から顔を出して、捨て台詞を吐いた。
「悠馬! 後でちゃんと説明してよね!」
そのまま奈緒はバタバタと慌ただしく診療所から出て行った。残された悠馬は、おもわずきょとんと眼を見開いている。
「さすがに流してはくれないのな」
「それはそうですよ。目の前で治癒魔法を使ってしまったんですからね」
「しょうがなかったじゃないか。そうしないと、信じてもらえなそうになかったんだから」
苦笑いを浮かべる悠馬と微笑むリファエル。その横では、手を強く握られているエルフがどこか居心地悪そうにしていた。
「そろそろ離してほしいんじゃがのぉ」
その言葉にリファエルは慌てて手をほどいた。
「あら、すみませんでした。エルフさん、とてもきれいだから、つい、ね?」
そんなことを言いながら、リファエルは妖艶な笑みをエルフへ向ける。悠馬は横目でリファエルをみて、呆れ顔だ。
いつも、こうした悪ふざけを悠馬にもしてくるが、初対面の人にはどうなのだろうか。
誤解され警戒されても面倒だとばかりに、悠馬はリファエルの頭を軽く小突いた。
「ふざけるのもそれくらいにしておけよ? で、君はご飯は食べれそうか? 食欲ないなら何か考えるけど」
「だ、大丈夫じゃが」
あっさりとしたその態度にリファエルは不満げだったが、こだわっていても仕方ないと思ったのだろうか。気を取り直したように会話に加わる。
「いいんじゃありませんか? 奈緒さんはとてもやる気だったみたいですし。なによりも、ご飯を食べてみんな幸せ、って考えるところが奈緒さんらしいじゃないですか。私たちもお腹すきましたしね」
リファエルがそういってエルフに顔を向けると、タイミングよく地響きのような音が診察室に鳴り響いた。
それは、エルフのお腹の音であり、少しだけ顔を赤らめているのをみると恥ずかしかったのだろう。老練な口調とは裏腹に、どこか初心な様子を見せるエルフの表情が可愛らしい。
「お腹が減るってことはいいことだ。少なくとも、腸蠕動はあるってことだからな」
「ユーマ様。それはなんだか違う気がしますよ?」
くすくすと笑うリファエルにつられて悠馬も声を上げて笑った。
「ああ、そういえば」
立ち上がり、まさに奈緒の家に向かおうという矢先、悠馬はエルフへと向き直り慌てて問いかける。
「君の名前を聞いてなかったね。名前、教えてもらえるかな?」
「ミロルじゃ。ミロル・リーネルト。真名を教える必要はあるまいな?」
「それでいいよ。じゃあ、ミロル。いこうか」
それにこたえるように、ミロルは二人の後について行った。
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